東京ガスがe-メタンについてのCMを放映している。このCMの主人公を演じるのは俳優の町田啓太さん。主人公がうたたねをしていて、ふと目が覚めると、そこは地球温暖化が進んですっかり砂漠化した世界。そこにたむろする人々は暑さに耐えかねている。そこで主人公がCO2を排出しないe-メタンの説明をする。これで地球温暖化は解消。みんな喜んで踊りだすという筋書きだ。
ここで筆者が納得できないのはCMで表示されたこの図だ。
この図では、発電所から排出されたCO2が回収され、水素と反応してe-メタンになる。 e-メタンは都市ガスとして各家庭で使われる。このときCO2を出すが、そのCO2も回収され再びe-メタンとなって循環する。このCMではCO2がこんな三角形の循環が行われるように書かれている。
こんなふうにCO2がリサイクルされれば、地球大気のCO2を増やさない。そうすれば、地球温暖化は防ぐことができる。画面のコメントでも、 「回収したCO2を使うことで、大気中のCO2を実質的に増やさないことを意味します」と書かれている。
ところがだ、問題はこの理想的な図と東京ガスが実際にやろうとしていることは違うということだ。
どこが違っているのか説明しよう。
まず発電所だが、これはCO2を排出するのだから、当然石炭や天然ガスのような化石燃料を燃やして発電している。にも関わらず、この図には化石燃料を使っていることが示されていない。これがまず問題。
次に、 CO2と水素から製造されたe-メタンを家庭で使えば当然CO2が発生する。この家庭で出てくるCO2まで東ガスは回収することを考えていない。だからCO2は大気中に放出される。なのに、この図では発電所と同様に回収されるように描かれている。
つまり、このCMでは発電所や家庭で排出されたCO2は回収されてe-メタンとなって、家庭で燃やされ、再びCO2となって回収されるというCO2が完全に循環使用されているように描かれているのだが、このような完全なCO2のリサイクルを東京ガスがやろうとしているわけではない。つまり嘘だということだ。
実際には、発電所で回収されるCO2は化石燃料を燃やして出てきたCO2だ。これを回収してe-メタンにして、家庭に供給するが、家庭で燃やされて出てきたCO2は回収されるわけではなく大気中に排出される。
つまり次のような図が正しい。
化石燃料は発電所で燃やされてCO2となり、CO2が排出される。そのCO2を回収してメタネーションでe-メタンを作り、都市ガスとして家庭で燃やされ、再びCO2となって大気に放出される。つまり化石燃料を燃やして出てくるCO2は最終的に大気の排出されるわけだ。
その結果、発電所で化石燃料を使った分だけ、大気中のCO2は増えてしまうことになる。決してカーボンニュートラルではない。
もし東ガスがカーボンニュートラルだと謳いたいのなら、 CO2を火力発電所から回収するのではなく、大気中から回収する(DACという)。あるいはバイオマス発電所から回収する(BECCUという)。そうすれば大気中のCO2濃度を増やさない。CO2を増やさないと主張するのなら、そこまでやってくれよということである。
断っておくが、筆者はメタネーションやe-メタンそのものを否定しているわけではない。必要な技術のひとつだと思うが、東ガスのやろうとしていることは、水素を使っている分だけCO2の削減にはなるが、結果として空気中のCO2を増やしますよということをちゃんと視聴者にもわかるように伝えてほしいと思う。
2024年9月12日