能登半島地震
今年1月1日、16時10分頃、非常に大きな地震が能登半島を襲った。最大震度は7。被害状況はまだ確認されていない部分があるが、この記事を書いている1月25日時点のまとめでは死者223名、負傷者1,284名、住宅の全壊、半壊合わせて16,000棟以上に及ぶ激甚災害であった。
このような災害が起こったとき、まず家屋の倒壊や津波、地崩れ、火災などの直接的な被害のほか、被災者の避難や損害の復旧、生活の再建が必要となる。
ここで重要となるのがライフラインの早期復旧である。災害が発生すると普段あるのが当たり前と思っていた水道や電気、ガス、石油が災害によって使えなくなる。これによって災害復旧作業にも大きな障害となる。避難した被災者にも不便を強いることになり、最悪の場合、災害関連死の要因ともなる。
ライフラインの状況
そのライフラインの復旧状況であるが、断水は最大75,300戸。このうち1月24日時点で45,380戸がまだ復旧していない。電力については最大40,500戸が停電し、24日現在、約4,700戸が復旧していない状態と報告されている。
一方、ガソリンや軽油、灯油を供給するガソリンスタンド(SS)については、震災直後に営業停止となったところが65軒。営業可能なのは207軒。状況確認中が259軒となっていた。しかし、24日時点では13軒が営業停止中と報告されており、それ以外のほとんどのSSは復旧して営業中と思われる。
また、石油製品を貯蔵しておく油槽所についても、地震直後に一部で配管に損傷があったため出荷停止となったものの、近隣油槽所からの応援配送により大きな影響はなかったと報告されている。そして24日の現時点では順調にローリー出荷中という。
石油は防災の最後の砦
ライフラインのうち、もちろん水も電気も重要であるが、石油は災害時には特に重要な役割を果たす。消防、救急、警察それに自衛隊用車両の燃料として欠かせないし、病院などの自家発電用にも使用される。一般家庭や避難所に芯式の石油ストーブがあれば、停電していても暖房ができるし、煮炊きもできる。
自宅が倒壊あるいは余震で崩壊する恐れがあるため、自家用車内で生活する人もいるが、車内暖房のためにもガソリンが必要である。
このように石油は災害時に電気や都市ガスの不通を補う重要な役割を担うことができるし、石油は備蓄ができるという利点もある。
第6次エネルギー基本計画でも
「石油は、エネルギー密度が高く、最終需要者への供給体制及び備蓄制度が整備されており、可搬性、貯蔵の容易性や災害直後から被災地への燃料供給に対応できるという機動性に利点がある」とされており、石油は災害時にはエネルギー供給の「最後の砦」となると、その役割が強調されている。
意外に強靭 石油の供給体制
既に述べたように、今回の能登半島地震ではSSの被害は比較的少なく、またその復旧は電気や水道に比べてかなり早く、比較的早期に石油製品の提供を開始している。これは、実はSS側で従来の災害を教訓として、様々な取り組みを行ってきたからである。
SSはもちろん、ガソリンのような大量の危険物を取り扱う施設であるから、付近住民から不安視されることもある。実際、SSの建設計画が持ち上がると近隣住民の間で反対運動が起こることも珍しくなかった。
その認識を変えたのが、1995年に発生した阪神淡路大震災である。このとき、神戸市内で大規模な火災が発生し、付近一面が焼け野原になった地域もあった。にもかかわらず、SSで火災が発生したという例はなく、むしろSSだけが火災からまぬがれポツンと残っていたという例がいくつも見られたのである。
これはSSが法令によって決められた厳格な安全設計で建設されているからで、特に火災が発生したとき、付近の建物への延焼を防ぐために高さ2m以上の防火壁で周囲を囲うことが決められている。この防火壁のお陰で逆にSS内部が火災から守られたのである。
これを契機として、SSは危険な設備ではなく、逆に災害に強い施設であると見直されることになり、逆に災害時の防災拠点として整備が進められてきたという経緯がある。
具体的には全国のSSの中から約2,000か所が中核SSとして整備されている。中核SSは災害時には緊急車両への優先給油を行うため、自家発電設備や大型タンクが整備された。
また、中核SSほどではないが、自家発電設備を備え、災害時に地域住民の石油製品の供給拠点となる役割を持つ住民拠点SSが14,500か所整備されている。これは全国の総SSの内の半数以上に相当する。
中核SSや住民拠点SSは、自家発電装置や緊急設備の定期的な稼働確認が義務付けられており、また、災害時に対応する研修や訓練を行っている。今回、能登半島地震でもSSがいち早く復旧したのは、このような日ごろの備えが生きたのではないだろうか。
今後どうなる
このように、災害発生時にはSSが防災拠点のひとつとなって大きな働きをすることが期待されている。しかし、近年、ガソリンや灯油の消費量が減ってきており、このためSSの数も減少し始めている。
さらに、地球温暖化対策として、今後EVが普及が予想されており、SSの数は今後も減り続けることになる。そうなると将来的には災害時に石油の供給ができなくなる可能性もある。
気候変動対策としてEVの普及は必要であるが、緊急車両までEV化してしまうと災害時に活動できなくなる恐れがある。今後EV社会が実現した場合、災害対策をどうするのか、課題として捉えておく必要があるだろう。
2024年1月28日