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ホルムズ海峡封鎖 なぜ日本は6月に詰まなかったのか

今年2月、アメリカとイスラエルが突如イランの首都を爆撃したことから始まった中東での紛争。イランは対抗として3月にホルムズ海峡を封鎖。この封鎖はまだ続いている状態にある。

日本は国内で精製される原油の93%と輸入ナフサの約半分がホルムズ海峡を通過するから、ここが封鎖されると日本にとって正に存亡の危機である。あるマスコミは6月に日本は詰むとまで報道した。

しかし、実際に6月に日本は詰むことはなかった。これはどうしてだろうか。経済産業省や石油連盟の統計を見ると、ホルムズ海峡封鎖という事態に対して、日本がどのように対応したのかが解ってくる。

■ナフサ不足で6月に日本は詰む?

まずナフサである。ナフサには原油のような戦略的な備蓄もないことから、日本にある輸入ナフサの流通在庫を使い果たせば、すぐにナフサ不足の影響がでてくる可能性があった。

ナフサは日本に輸入されたあと、国内に12か所あるエチレンセンターに送られて、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品となり、これを原料としてプラスチックや合成ゴム、合成繊維、塗料、溶剤など様々な石油化学製品が作られる。

ナフサが何かは知らなくても、ナフサから作られるプラスチックや合成繊維、塗料などを知らない人はいないだろう。これらのナフサから作られた製品はもちろんわれわれの生活になくてはならないものであるが、さらに日本の主要産業である自動車や機械類、電気製品、建築その他の工業製品の材料や部品としても、これらのナフサから作られた製品が多く使われている。

したがってナフサが不足して工業生産用部品の供給が止まれば、日本の製造業の多くが停止してしまうことになる。それは流通在庫を使い果たす6月ころになると一部のマスコミが予想し、6月に日本は詰むと報道したわけである。

ナフサは原油を蒸留して作られる。原油を蒸留すると原油のだいたい10%くらいの割合でナフサが取り出せる。しかし、日本の石油化学産業は規模が大きいので、国内で生産されたナフサだけでは足りず、不足分はナフサ自体を輸入している。というか、むしろ輸入品の方が国内で生産されるナフサより多く、国内で使用されるナフサの約6割が輸入品である(2025年実績)。

図1はホルムズ閉鎖前(2月)のナフサ輸入先の割合を示したものである。

図1 ホルムズ海峡封鎖前の日本のナフサ輸入先

このうち、上位3か国、カタール、クウェートおよびアラブ首長国連邦(UAE)がホルムズ海峡経由で輸入されている。だから海峡が封鎖されると、この3か国からの輸入ができないことになる。

さらに4番目のナフサ輸入先である韓国だが、この国も日本と同様に中東から原油を輸入してナフサを生産している。このため、ホルムズ海峡が封鎖されると韓国でもナフサが生産できなくなり、ナフサの輸出余力もなくなってしまう。

これら上位4か国を合わせると、わが国はナフサ輸入先のうち、4分の3を失うことになる。では日本はこの危機にどう対応したのだろうか。

■日本はナフサ輸入減にどのように対応したか

図2は経済産業省が公開している貿易統計をグラフにしたもの。ナフサの輸入国の推移を示している。これから分かるように、ホルムズ海峡封鎖の影響が現れる4月は、日本の主なナフサ輸入先であった中東と韓国からの輸入が大幅に減っていることがわかる。

しかし、日本が輸入するナフサの総量を見てみると、これはそれほど大きくは減ってない。それどころか5月になると総輸入量は増え始め、むしろ海峡封鎖前を超えるくらいの輸入量となっている。

図2 わが国のナフサ輸入先の推移

これは、確かにこれまでの主要輸入先であった中東、韓国からの輸入量は減ったが、それ以外の国々からの輸入が増えたからである。4月以降の輸入先で多いのは、アメリカ、アルジェリア、欧州、その他アジア諸国である。このうち、欧州についてはイタリア、スペイン、ノルウェー、ポルトガルなど、その他アジア諸国についてはインド、マレーシア、タイ、シンガポールなどが含まれる。

つまり、3月にホルムズ海峡が封鎖されたあと、日本は様々な国々からナフサをかき集めたのであり。そしてその効果は4月には早々と現れて、5月以降も続いてきたというわけである。これによって6月に日本は詰むという説は回避されたことになる。

では今後どうなるのだろうか。興味深いのは7月である。7月になるとナフサの輸入先として再び中東が増え、その代わりアメリカと欧州からの輸入がゼロとなっている。

7月に中東からのナフサ輸入が復活したのはもともとホルムズ海峡の外にあるオマーンからの輸入が増えたこともあるが、クウェートやUAEのような、日本が従来からナフサを輸入してきた国々からの輸入量も増えてきている。これは海峡封鎖が完全なものではなく、かなり緩んできているからだと考えられる。

7月6日付のダウ・ジョーンズの記事によると、日本へ向かうナフサタンカーの予約が海運契約書に現れ始めているという。また、クウェート石油公社は大型船がホルムズ海峡を通ることは危険と考え、小型タンカーでホルムズ海峡を通り、海峡を抜けたあと大型タンカーにナフサを積み替える作業を行っているといわれる。

ホルムズ海峡封鎖とはいいながら、実際には一部のタンカーは封鎖を破って航行しているわけで、これが常態化すればナフサの輸入は従来の形に少しずつ戻って行く可能性がある。

■原油輸入減に対して日本はどのように対応したのか

以上はナフサ輸入についての状況である。ではナフサと同様にホルムズ海峡経由で輸入されてきた原油についてはどうなのだろうか。その対応はナフサの場合とは少し異なっている。

次の図は今年1月から7月にかけてのわが国の原油の輸入状況を示したものである。

図3 わが国の原油輸入量と処理量の推移

海峡封鎖前の1、2月、わが国の原油輸入はその95%を中東に頼っていた。その中東からの輸入が海峡封鎖によって止まってしまったわけだから、当然、輸入量は大幅に減少する。ホルムズ海峡が閉鎖されたのが3月であり、実際にその影響が及ぶ4月にはわが国の原油輸入量は封鎖前の約3分の1まで低下している。

しかし、5月以降はナフサの場合と同様に原油の輸入量も増え始め、7月には海峡封鎖前の水準まで戻っている。これは、中東からの輸入が再び増え始めたこととアメリカからの輸入量が急激に増えたことの二つの要因がある。

7月に輸入された原油の輸入先は、中東産としてはUAE、サウジアラビアおよびオマーンの3か国である。オマーンはそもそもホルムズ海峡の外側に位置する国であるから、海峡封鎖の影響を受けない。

UAEはホルムズ海峡の外側まで続くパイプラインを持っているので、これを使って輸出したものであろう。サウジアラビアも同様にパイプラインを持っているが、これは紅海側まで続いているもので、紅海からバブ・エル・マンデブ海峡を通って日本まで輸送することができる。

ただし、これらのパイプライン輸送については量的な限界があり、サウジアラビアからの輸入量は海峡封鎖前の約半分、UAEについては15%減となっている。また、このようなパイプラインを持たないクウェートやカタールについては、7月の原油輸入量は相変わらずゼロのままである。

このような中東からの原油輸入量の減少を埋めたのが、アメリカである。アメリカからの輸入は海峡封鎖前から行われていたのだが、海峡封鎖以降に急激に増加しており、7月には封鎖前に比べて10倍近くまで増加したのである。

では、わが国の国内で精製される原油の量はどうかというと、原油輸入量が4月に大幅に減少したにも拘わらず、ほとんど変わっていない。

これは備蓄原油の放出によって対処したからである。備蓄原油を使うことによって国内精製量はほとんど変わっていないので、ガソリンや灯油、軽油などの燃料製品は従来どおり安定的に国内に供給されることになり、その結果、目立った混乱は起こらなかった。

ではわが国の原油備蓄量はどうなったかというと、1月時点で248日分あった備蓄量が原油の放出によって、5月時点で204日まで減少した。しかしその後、原油輸入量が増えてきたため備蓄の放出は行われなくなり、7月時点では5月とほぼ同じ200日程度を維持している。

 ■価格の問題

海峡封鎖の影響によって、わが国に入ってくるナフサや原油の量は減少したが、4月を底に回復している。これは中東からの輸入が復活してきたこともあるが、世界各国からナフサや原油を求めたことにも大きい。つまり中東のナフサや原油が手に入らなくてもお金さえ出せば中東以外の国々から調達が可能だったということである。

しかしながら、これによってわが国が輸入するナフサや原油の価格は大幅に上昇することになった。図4でみるように、輸入価格は海峡封鎖前はナフサも原油もほぼ同じで、1キロリットルあたり6万円台(CIF単価)であった。しかし海峡封鎖後は高騰し、約2倍の12万円ていどまで跳ね上がっている。

これは原油やナフサそのものの単価が上昇したことだけでなく、遠隔地から運ぶための輸送コストの増加や保険料金が上昇したことも含まれる。

図4 原油とナフサの輸入価格の推移

■今後どうなる

ナフサについては輸入先の多様化によって海峡封鎖の影響を回避。原油についても中東からの輸入不足分を、現在はアメリカからの輸入で補っている形となっている。また、ホルムズ海峡封鎖は現在、かなり緩んでおり、一部のタンカーの通行も行われているし、パイプラインを使ってホルムズ海峡を通らずに輸送するルートもある。

しかしながら、緩んでいると言ってもイランは海峡封鎖の旗を降ろしているわけではない。パイプラインについてもポンプステーションが爆撃されて、輸送が停止するという事態も起こっている。

また紅海からの出口であるバブ・エル・マンデブ海峡についても親イラン勢力であるフーシ派が海峡沿岸に進出しており、この海峡の封鎖も懸念されている。つまり、必ずしも安心できる状態ではないということだ。だから今後も中東以外の国からの輸入を準備しておく必要があるだろう。

一方、原油の場合、ナフサと違って中東からの減少をほぼアメリカ1国で補完した形になっているわけであるが、アメリカからの輸入はこのまま継続していけるのだろうか。

アメリカは世界最大の原油産出国であり、米国エネルギー情報局(EIA)によると米国の原油生産量は今後も増加していく見込みである。したがって量的な不足によってアメリカからの輸出が止まる可能性は小さいだあろう。

また、アメリカ産原油を日本で処理するのは困難だという一部のマスコミ報道を目にする。しかし、アメリカから輸入している原油の大半はWTIミッドランドとよばれる軽質のスィート原油に分類される種類であり、この原油の性状を見る限り日本で処理する上で大きな問題はないであろう。むしろ硫黄分が少ない分だけ脱硫装置の負荷を下げることができる。

問題は輸送距離である。アメリカの原油積出港はメキシコ湾に面したヒューストン付近である。原油船のような大型船はパナマ海峡を通ることができないから、アメリカ産原油はアフリカの喜望峰回りで日本まで運ばれており、大変な遠回りとなっている。

一方、同じアメリカ産でもアラスカ原油なら輸送距離も短いし、ホルムズ海峡やマラッカ海峡のようなチョークポイントもない。7月にはアラスカ産原油も少量ながら日本に輸入されているから、今後はアラスカか原油の輸入増加が期待される。

中東からのナフサや原油の輸入は少しずつ持ち直している状況にあるが、まだ不安定な状況であるし、また紛争が再燃しないとも限らない。今後、原油やナフサは中東に頼らず輸入先の多極化を進めるべきであろう。

また、将来的には国内エネルギー資源である太陽光や風力、地熱などにシフトして、石油への依存度を下げていくべきであろう。これが今回のホルムズ海峡封鎖という事態によって日本に課された宿題である。

2026年9月22日

EV向け充電ステーションビジネスはうまい話なのだろうか 三方一両得のビジネスを提案

いまのところ日本では、あまり電気自動車(EV)が普及しているわけではないが、世界ではEV化が着実に進んでいる。昨年(2025年)、世界で売られた新車(乗用車)の4台に1台がEVだったという。

今後、EUはCO2排出量規制をさらに厳しくする予定であるし、今や世界一の自動車販売国となった中国も政策的にEV化を進めている。また中国から輸出されるEVも増えている。ということで今後、世界の乗用車のEV比率は更に高まるだろうし、その影響は日本にも波及するだろう。

EVの動力源はもちろん電気であり、ガソリンではない。であれば日本でもEVが普及すればガソリンスタンドが閉鎖され、これに代わって充電ステーションなるものが建設されるのだろうか。とすれば新たに建設される充電ステーションは新しいビジネスになるかもしれない。と考えてみた。

かつて、高度成長期には日本各地でガソリンスタンドが次々に建設されていった。城山三郎の小説「うまい話あり」ではガソリンスタンドを開設した事業者の姿が描かれている。確かに、当時はガソリンスタンド経営が「うまい話」だったのかもしれない。であれば、今後EVが普及するのなら充電ステーションも「うまい話」、つまりビジネスチャンスになるかもしれない。

しかし、よく考えてみれば話はそれほどうまくはないことが分かる。なぜならEVが普及すれば、充電ステーションがガソリンスタンドにとって代わるというほど単純な話ではないからだ。ガソリン車ならその燃料となるガソリンを補給するために定期的にガソリンスタンドを訪れなければならない。だが、EVも同じように充電ステーションに通わなければならないかというと、そうはならないからだ。

なぜなら乗用車型のEVなら自宅で充電できる。また、電動バスや電動トラックのような業務用EVならバスやトラック置場がどこかあるはずで、ここで充電できる。わざわざ充電ステーションに行く必要はないである。

マンションのような集合住宅に住んでいる人はどうするのかというと、車を購入した人はEVに限らず、必ずマンション敷地内か月極駐車場などに駐車場を確保しているはずである。道端や空き地に勝手に駐車しておくというのは許されない。

このようなマンション敷地内の駐車場や月極駐車場などでも将来は充電可能となると予想される。そうしなければ、だれもそんな駐車場を借りなくなるからだ。つまりEVの場合は原則として自宅あるいは事業場所で充電することになる。

では充電ステーションはどんな使い方をされるかというと、旅行や運送などで自宅や事業所から遠く離れたところまで移動した場合に使われることになるだろう。従って、充電ステーションはガソリンスタンドのように近隣の客がひっきりなしに訪れるという施設ではない。つまり集客数が限られることになる。

費用の面からみると、ガソリンスタンドの建設には多大な費用がかかる。地下タンクや販売室、キャノピーなどを建設しなければならないし、従業員を雇う必要がある。そもそもガソリンスタンドを設置する広い土地を確保しなければならない。ガソリンスタンドを1か所建設するには数千万円から億単位の資金が必要となるだろう。

では充電ステーションどうかというと、ガソリンスタンドのような大掛かりな設備は必要なく、基本的に充電器と課金のためのカード読み取り機があればいい。土地も車が1台停車できる広さを確保できればいい。

顧客は自分で充電器からコードを引っ張ってきてEVにコネクターを繋いで充電ボタンを押せばいい。もちろんその前に支払い用のカードを読み取らせる必要があるのだが。充電は顧客が自ら行うから従業員を雇う必要はない。充電ステーションは電気の自動販売機のようなものと考えていいだろう。

充電ステーションは電気の自動販売機のようなもの

充電ステーションの設置費用については普通充電器なら40万から70万円、急速充電器の場合は約600~700万円以上となっている(EVStartBizのHPより)。急速充電器は少々お高いが、それでもガソリンスタンドに比べれば、格段に安い。

つまり、ガソリンスタンドは一定数の来客が確保できるが、その建設費用が高いし維持費も高い。一方、充電ステーションはガソリンスタンドほどの来客は望めないが、その設置費用はすこぶる安い。

ガソリンスタンドは費用が掛かるから、過疎化によって顧客が減ってしまえば廃業せざるを得ないが、充電ステーションはそもそも設置費用が格段に安いので、一旦設置してしまえば、思ったように収益が上がらなくても、そのまま放っておくことになるかもしれない。

ということで、充電ステーションは現在日本中ですでに29,000か所もあるという。ガソリンスタンドの数が27,000軒だから、すでに数の上では充電ステーションの方が多いし、さらにガソリンスタンドの数は現在、減りつつある。

ただし、充電ステーションの中には無料で充電させるものも多い。これは役所や公園などに設置されてEVの普及効果を狙ったものや、EVディーラーが顧客サービスとして行っているものなどがあり、充電ステーション自体での収益を狙ったものではない。このような充電ステーションは今のところビジネスというより便利施設と言った方がいいのかもしれない。

ただ、今後日本でもEVが普及していくのなら、充電ステーションがビジネスとなる可能性はある。例えばホテルなどの宿泊施設では宿泊客用の駐車場を持っているところが多いが、今後はホテル駐車場で充電ステーションを設置するところが増えてくるだろう。そうしなければ宿泊客を呼べないからだ。

そういう所に充電ステーションを設置させてもらい、宿泊客を相手に電気を売る。そんなビジネスがあるのではないだろうか。ホテル側としても助かるし、EVで旅行する宿泊客も助かる。ビジネスをする側も一定数の利用客を確保できるし、駐車スペースを負担する必要もない。三方一両得のビジネスとなる。

これは、例えば、ショッピングセンターやコンビニなどでも成立する。というより一般向けの駐車場を持っているところならどこでも成り立つビジネスモデルである。

日本でEVが普及しない理由として、充電ステーションがないことを挙げる人も多いが、まず、EVは自宅で充電するのが原則であるから買い物や通勤など近場の利用なら充電ステーションはいらない。

充電ステーションは遠くに行くときに必要となるが、あまり目立たないものの、すでに多数の充電ステーションが設置されている。さらに、今後は一般の駐車場には充電ステーションがほぼ必ずあるといる状態になっていくのではないだろうか。

2026年9月17日

日本ゼオンがバイオエタノールから合成ゴム原料を製造するベンチプラントを完成

今年(2026年)7月31日。日本ゼオンはバイオエタノールを原料として高効率でブタジエンを製造するベンチプラント(試験装置)を竣工したと発表した。これは日本ゼオンと横浜ゴムとが共同で行っているNEDOの技術開発テーマとして行われたものである。

NEDOのテーマは二つあり、ひとつはバイオエタノールからブタジエンを高効率で製造する方法の開発。もうひとつは植物資源からブタジエンやイソプレンを製造する方法の開発である。前者は触媒技術、後者はバイオ技術を活用するものであるが、今回のベンチプラントは前者のものである。

これから、日本ゼオンはこのベンチプラントで製造されたブタジエンを使って合成ゴムの一種であるポリブタジエンゴム(ブタジエンゴム)を試作し、横浜ゴムはそのブタジエンゴムを使用してタイヤを試作し、走行テストを行って、大規模実証に向けたデータ収集を行うことになっている。
本プラントは2027年1月より本格稼働を開始し、 2034年の事業化を目指す。

現在、合成ゴムは日本の場合、原油から取り出されるナフサが原料である。ナフサはナフサクラッカーと呼ばれる装置で分解され、これによってエチレンやプロピレンなど様々な基礎化学品が製造されるが、その中のひとつがブタジエンである。

我が国で生産される石油化学品のうち、最も多いのがポリエチレンやポリプロピレンといった合成樹脂であるが、それについで多いのが合成ゴムである。

合成ゴムの用途は自動車用のタイヤをはじめとして、ゴムベルト、ホース、パッキン、防水材など産業に欠かせない。さらにゴルフボールや卓球のラケットなど民生用にも広く使われる重要な物資である。

この合成ゴムの原料であるブタジエンをバイオエタノールから作ろうというのが、この研究開発の目標である。

実は、バイオエタノールから合成樹脂の原料であるエチレンを作る技術は既にある。エチレン分子は炭素原子が2個含まれる。一方、バイオエタノールは1個の分子に炭素2個、酸素1個を含んでいる。だから酸素を1個分取り除いてやればエチレンを作ることができる。水の形で酸素が取り除かれるので脱水反応という。

一方、ブタジエンは炭素数が4個であるから、エチレンの製造よりちょっと難しい。酸素を取り除いたあと、バイオエタノール2個分をつなぎ合わせなければならない。日本ゼオンはこのような反応を効率的に行える触媒を開発したということだろう。

ではこの技術。どのような意味、つまり、なぜナフサではなくバイオエタノールを原料とするのだろうか。その意味は二つある。

ひとつは脱石油である。ナフサは原油を蒸留して作られるが、我が国は原油の約95%を中東からの輸入に頼ってきた。さらに輸入してきた原油を蒸留して国内で作られるナフサは国内需要の3分の1しか満たせないので、不足分はナフサそのものを輸入してきた。この輸入ナフサも大半は中東からのものである。

今年、ホルムズ海峡が封鎖され、原油やナフサの輸入が止まったことから、ナフサの供給不安が一気に高まっている。

一方、バイオエタノールは中東ではなく、主な生産国は米国やブラジルであり、中東のような政情不安定な地域ではないから、安定的に輸入することが可能である。東南アジアでも、あるいは国内でも作れるかもしれない。

もうひとつの意味は、気候変動対策である。ナフサと違ってバイオエタノールに含まれる炭素分は大気中から吸収されたものであるため、これを燃やしても発生したCO2はもともと大気中にあった炭素分が大気に戻るだけなので、大気中のCO2を増やさない。

合成ゴムは使用されたあとは廃棄され、その多くは焼却されるが、バイオエタノールが原料であれば、焼却によってCO2が発生しても大気中の濃度を増やさないから、気候変動対策となる。

現在、バイオエタノールからエチレンを作る技術は確立しており、ナフサを原料としたときと同じ品質を持ったポリエチレンを作ることができるし、実際に我が国はバイオエタノールから作られたポリエチレンを輸入して、石油から作られたポリエチレンに混合してレジ袋などに使っている。

しかし、ナフサを原料としたときのようにプロピレンやブタジエン、BTXのような重要な基礎化学品は今のところバイオエタノールから作ることができない。

それが将来、化学産業が脱石油化を目指すときのネックのひとつとなる。日本ゼオンの技術はバイオエタノールからエチレンだけでなく、そのほかの基礎化学品をつくるための道筋の一つとなり、バイオエタノールから様々な化学製品を作るバイオリファイナリーを構築するための道を切り拓く要素技術の一つとなると期待される。

2026年8月6日

ドローンを使って台風の強風から風力エネルギーを回収することは可能か

Quoraという知識共有サイト(つまり、ユーザーが質問をして、それに他のユーザーが答えるサイト)で興味ある質問を見つけました。その質問は

「ハリケーンの周囲を制御飛行する、小型風力タービンを搭載したドローンの群れを開発し、強風からエネルギーを回収することは技術的に可能でしょうか?」

というものです。台風やハリケーンは大変大きなエネルギーを持っています。このエネルギーを回収して活用できないのか。最近、発展が著しいドローンを使って、それができないのかという、大変夢のある質問です。しかし、これは無理。不可能です。

風というものは地面に対する空気の流れです。地面に踏ん張ってないと風は感じられません。風と同じ速さで移動していれば(つまり風に流されていれば)無風状態となります。風力発電は地面に固定した風車によって発電します。ドローンのように空中を飛んでいると地面に踏ん張ることができず、風に流されてしまい、風とドローンの移動速度が同じになるので無風状態となって発電できません。

強い風の中でドローンを飛ばそうとすると、多分、地上から浮き上がったとたんに風で吹き飛ばされて、風と同じ速度で飛んで行ってしまうでしょう。風と同じ速度で飛ばされるわけですからドローンに付けられた風車は回らず、発電もできません。

ドローンを、流されている風の向きと反対方向に動かせば発電できますが、これは自分で風を作っているのと同じことです。ドローンを動かすときのエネルギーは、ドローンが持つ風車で発電するよりも必ず大きなエネルギーを消費します。発電できないことはありませんが、ドローンの飛行にはそれ以上のエネルギーが消費されるので意味がないということになります。

下の図は飛行機に風力発電用の風車を取り付けた場合の想像図ですが、風車にあたる風の速度は飛行機が大気中を飛ぶ速度(対地上ではなく大気中の速度)と同じです。その速度を稼ぐために飛行機はエンジンを動かしているわけで、エンジンを動かすエネルギーは当然、その速度によって得られる風のエネルギーよりも大きくなります。

たとえ、ドローンによって発電できたとしてもその電力をどうやって地上に持ってくるのかという問題もあります。

台風やハリケーンの巨大なエネルギーを活用できれば、それは理想的です。しかし台風やハリケーンは位置が変化するので、いつも発電できるとは限らない。これをドローンで追いかけて発電しようというのが質問の発想なのでしょう。面白いと思いますが、ちょっと無理だと思います。

化学屋から見たEV対エンジン車論争

大学の工学部にはいろいろな学科がある。主なところでは、機械工学科、電気工学科、電子工学科、土木・建築学科などであろう。筆者が卒業した化学系学科はどちらかといえば地味な存在だ。ただし、地味ではあるが実は技術革新は化学系の成果から生まれることも多い。

例えば、強力な磁石によって効率的なモーターが開発されたが、それにはレアアース金属の精製技術が不可欠だ。また、近年の航空機は軽量で頑丈なCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が多用されて柔軟な機体デザインが可能となっている。しかし、工学部でもっともポピュラーなのはやはり機械工学科と電気工学科だろう。

いまこの二つ学科がガチで勝負している分野がある。電気自動車(EV)対エンジン車である。モーター対エンジンの戦いといってもいいだろう。

だいたい工学系を卒業した人達は自分の専門領域をひいきにする傾向があるから、機械工学系を専攻したエンジニアは当然、エンジン車びいきになる。自動車評論家といわれる人たちも機械工学を学んだか、あるいは自動車会社に勤務経験のある人や元レーサーだった人などエンジン環境で育った人が多い。

だから自動車評論家はどうしてもエンジンびいきになってしまう。彼らに言わせれば、やれ電気はだめだ、やはりトヨタは正しかった、売れているのはハイブリッドだなどなど。

日本はガラパゴス化しているから販売台数のほとんどはエンジン車を搭載した車(ハイブリッドを含む)が占め、 EVの販売台数は非常に少ないからそう見えてしまう。しかし、世界を見渡すとEVの販売は伸びており、全自動車販売台数のだいたい3割程度を占めるまでになっている。

これから日本でもEVが増えてくれば電気出身の自動車評論家が現れてきてもおかしくないだろう。かれらは「このメーカーのEVは何kWhの蓄電能力があり、モーターは何kWのものを搭載。加速性能はどうのこうの、充電時間はどうのこう」などと評論し始めるだろう。

そうなると今までエンジンで育った機械屋の評論家は話についていけなくなる。そうなりたくなければ機械屋さんも電気の勉強を始めなければならない。

では筆者のような化学屋はどう考えるのか。EV派なのかエンジン派なのか。
近年になってEVの開発が進められた理由は、地球温暖化対策としてCO2排出量を制限する動きが出てきたことだ。それまでも窒素酸化物や炭化水素、一酸化炭素などの有害排ガスを制限する動きがあったが、それはEVでなくてもエンジン車で対応が可能であった。

しかし、CO2はどうだろう。CO2の排出量を減らすだけならガソリン車でもできるが、ゼロにしなければならいといわれたらどうか。それはEVしかできないのだから化学屋はEV派かといえば、それは早合点である。

なぜならエンジン車でもCO2ゼロは可能である。水素やアンモニアを燃料とすればCO2は出てこない。e-fuelやバイオエタノール、バイオディーゼルを燃料として使えば車からCO2は排出されるが、燃料を作るときの原料として大気中のCO2が使われているわけだから、燃やしても大気中のCO2を増やさない。

だからCO2を出していないのと同じことだ。へ理屈のように聞こえるかもしれないが、これが化学屋の考え方だ。つまり化学屋の目から見れば、CO2を出さない車イコールEVとは限らない。

機械屋さんも電気屋さんもエンジンだ、モーターだと主張しているが、 CO2を出さない車と考えればエンジンでもモーターでも関係ないと、化学屋はつまりそう考えるわけだ。

かつてトヨタ自動車の豊田社長(現会長)は「敵は炭素、内燃機関(エンジン)ではない」と繰り返し訴えてきた。豊田会長の出身は法学部だから、機械屋でも電気屋でもないが、これは化学屋的発想ということになるだろう。

また、EUは2035年にエンジン車を全廃するなどと日本では報道されているが、 EUが全廃を目指しているのはCO2を排出する車だ。エンジン車を廃止し、EVにしますとは言ってはいない。CO2の排出量をゼロにすることが目的なのだから、EUは化学屋的発想だ。

EUは今年になってCO2を排出する車でも燃料としてe-fuelやバイオ燃料を使った場合はCO2を排出しない車であることを認めると発表している。この決定受けて日本の自動車評論家の中には、EUがEVでは無理だとわかったので方向転換した。つまり「エンジンがEVに勝った」とおっしゃる方もいる。しかし、これは機械屋的発想である。

CO2を出さなければいいという化学屋の発想であれば方向転換でもなんでもないということになる。そもそもEUはCO2をゼロにしろというのが目的なわけで、EVにしなさいとかエンジン車廃止とか言っているわけではないのだ。

白猫でも黒猫でもネズミを捕ってくる猫はいい猫だという言葉があるが、エンジン車でもEVでも関係ない、CO2を出さない車はいい車だというのが化学屋の見方である。

2026年6月27日

シンナー不足対策 トルエンのガソリンルートとは

ホルムズ海峡封鎖から既に3か月が過ぎた。原油は備蓄があるものの、同じようにホルムズ海峡を通過する輸入ナフサは備蓄がない。政府は中東以外からナフサを確保したと言っているが、それでも6月は必要量の85%にしかならないという。

残りは流通在庫(政府は川中在庫といっているが)で賄うことになるが、必ずしもすべての製品に潤沢な流通在庫があるわけではないだろうから、品物によっては品薄状態となっているだろう。いま特に問題となっているのがシンナーや溶剤類の不足だ。

そこで、政府は石油化学メーカーではなく石油元売会社の製油所から直接シンナー製造会社に原料となるトルエンを供給することを検討しているという。

これはどういうことなのか。石油元売からのトルエンの直接供給について解説したい。

ナフサルート

シンナーや溶剤類の原料となるトルエンは一般にナフサを分解して作られると説明されることが多い。しかし、あまり知られていないことであるが、トルエンの生産はナフサだけでなくガソリンから作るルートもあり、実際かなりの量のトルエンがガソリンから生産されている。

日本に輸入された原油はまず製油所で常圧蒸留という操作が行われて沸点の低いほうから順に、LPG、軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油、粗軽油、重質軽油および常圧残油に分けられる。このうち軽質ナフサが日本では一般にナフサと呼ばれる成分である。一方重質ナフサは主にガソリンの原料となるもので直留ガソリンともいわれる。

ナフサつまり軽質ナフサは製油所から石油化学工場に送られてナフサクラッカーという装置で熱分解され、エチレンやプロピレンといったオレフィン系とベンゼン、トルエン、キシレンといったアロマ系の製品が作られる。今、問題となっているのは、このアロマ系に含まれるトルエンが足りないという話だ。

ガソリンルート

一方、直留ガソリンすなわち重質ナフサは改質装置で処理される。これはオクタン価を上げて、自動車用ガソリンとして適切な品質を持つものを製造することが目的であるが、これによって直留ガソリン中のベンゼン、トルエン、キシレンといったアロマ系成分が増えることが知られている。

製油所によっては、このアロマ系の成分を溶剤で抽出してナフサルートと同様に製品として販売している。これがガソリンルートだ。

この方法で抽出されるアロマ系製品は、ベンゼンとトルエンとキシレンが一緒に生産される。このうち、ベンゼンはナイロンほか様々な化学品の基本原料となる。キシレンはペットボトルでお馴染みのPET樹脂の原料となる。だからベンゼンとキシレンは需要が大きい。

一方、トルエンはあまり需要がないから余る。製油所では余ったトルエンをガソリンに混ぜ戻している。そもそもトルエンはガソリンから取り出したものだから、余ればガソリンに戻すのは自然な成り行きだろう。幸いトルエンはオクタン価が高く、ガソリンとしては好ましい成分だ。

ところが、今はナフサルートのトルエンが不足している。だったら、ガソリンルートで作られる余剰のトルエンをシンナーとして活用しようというのが今回の対策だ。これは良い考えである。

なお、ナフサルートでもガソリンルートでも製造されたトルエンの品質は同じである。ちなみに溶剤として使われるトルエンの量はガソリンの巨大な生産量に比べればわずかな量にすぎないから、トルエンをガソリンに戻さなくてもガソリンが不足してしまうという心配はない。

まとめると、シンナーの原料となるトルエンはナフサからもガソリンからも作られているが、ガソリンルートのトルエンは余剰だったのでガソリンに混ぜ戻していた。しかし、ホルムズ海峡が封鎖されたため、輸入ナフサが不足して、ナフサルートのトルエンが不足している。

一方、ガソリンルートならまだ余裕のある備蓄原油から作ることができる。だったら、ガソリンルートで作られるトルエンをシンナーや溶剤として使おうというのが、今回の対策である。

政府は、ナフサは十分ある。現場の不足は流通過程での目詰まりにすぎないという態度だが、これは国民がパニックになって買いだめや売り惜しみすることを恐れているのだろう。しかし、みんなで議論すれば、今回のガソリンルートのように、いろいろな不足対策も出てくるものだ。

こんなものまでナフサから作られていた エンジンオイルも品切れに

2月28日米国・イスラエルがイランの首都テヘランを爆撃して指導者を殺害したことから始まった対イラン戦争。イランはホルムズ海峡を封鎖。これによってペルシャ湾岸諸国から原油やナフサの輸入がほぼ止まった状態になっている。

政府はナフサの必要量は確保されているというが、ナフサから作られるものは多種多様であり、塗料や溶剤など実際の現場では品切れするものがある。品切れになって初めて、ああこんなものまでナフサが原料になっていたのかと驚かされる。その一つがエンジンオイルに代表される潤滑油だ。

潤滑油は一般に重油から製造される。なぜナフサが不足するとエンジンオイルが品切れになるのだろうか。それは、エンジンオイルの性能を上げるために合成潤滑油が使われるようになっているからだ。

合成潤滑油はー40℃でもさらさらのものもある

潤滑油の作り方

潤滑油には鉱油系と合成系があるが、量的に多いのが重油から作られる鉱油系である。原油は日本に輸入されると、まず常圧蒸留という操作が行われる。これは原油を350℃程度まで加熱して蒸発させ、沸点の差によっていくつかの成分に分ける操作である。

原油が蒸発した成分は沸点の低い方からLPG、軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油、粗軽油であり、このうち軽質ナフサが一般にナフサといわれるものだ。一方、この蒸留操作では蒸発しない成分もあり、これは常圧蒸留塔の下部に溜まってくる。この蒸発しない成分を常圧残油(AR)といい、一般には重油として使われる部分だ。鉱油系の潤滑油はこのARが原料となる。

潤滑油というのは、ねばねば、どろどろして機械にまとわりつく性質が必要で、これにはARが適している。一方、品不足が問題となっているナフサは、原油から採れる成分のうち、常温常圧で液体のものとしては最も沸点の低い成分で、最も沸点の高いARとは対極にある。ナフサは水のようにさらさらしていて、しかも簡単に蒸発してしまうから、そのままでは潤滑油になることはない。

ただし、ARもそのままで潤滑油になるわけではない。まずARにはアスファルト分が含まれる。これは道路舗装に使われることからわかるように固まってしまう成分なので、減圧蒸留や溶剤脱歴という方法によって取り除く。

さらに使用する温度が変わっても、粘度があまり変わらないようにするため、芳香族という成分を溶剤で取り除く。また硫黄分や窒素分は劣化の原因となるから、これは水素化精製という方法で取り除く。さらに、ARに含まれるワックス分は低温で固まってしまうから、これも脱ろう装置という設備で取り除く。という具合にARのうち潤滑油としてふさわしくない成分をどんどん取り除いていって、最後に残る油が潤滑油基油(ベースオイル)といわれるものである。

最終的にはこのベースオイルを何種類かブレンドしたり、酸化防止剤や清浄分散剤、流動点降下剤などといった添加剤を加えたりして製品とする。これが一般的な潤滑油の作り方だ。

合成潤滑油

このように、一般的な潤滑油はARという原油の中の一番重い成分を原料にして、この中から潤滑油としてふさわしくない成分を取り除くことによって潤滑油の元となる油、つまりベースオイルが作られる。

そうであれば、逆に潤滑油としてふさわしい成分だけを人工的に作り出してベースオイルにすればいいじゃないかという発想で作り出されたのが合成潤滑油だ。合成潤滑油にはさまざまな種類があり、原料もいろいろなものが使われるが、代表的なものがポリαオレフィン(PAO)と呼ばれるものだ。そしてこれがナフサから作られるのだ。

PAOはナフサを熱分解して得らえるエチレンを原料にして、まずαオレフィンというものを合成し、これを重合させて作られる。PAOは合成品だから、潤滑油として望ましい性質をもった分子だけからできており、それ以外の成分、つまり不純物を含まない。

潤滑油は温度が上がるとサラサラに、下がるとねばねばしてくるものだが、 PAOは温度によって、粘度が変わりにくい。また、ごく低温まで凍らない。さらに蒸発しにくく、酸化劣化しにくいからオイルの交換頻度を下げることができる。などなど、潤滑油として理想的な特徴を備えている。

-40℃といえば、凍ったバナナで釘が打てるほどの低温だが、こんな過酷な環境でもエンジンオイルがさらさらと流れる。そんなテレビコマーシャルを見たことのある人も多いだろう。このエンジンオイルにはPAOが100%使用されていたのだ。 (現在は若干配合が変わっているようであるが)

ナフサが不足すると潤滑油がつくれないわけ

潤滑油には様々な鉱油系や合成系のベースオイルや添加剤が、その用途と値段にふさわしい割合で含まれていて、この配合比率は厳密に管理されている。合成潤滑油は価格が高いから、大量に配合するわけにはいかないが、近年の高性能エンジンオイルにはかなりの割合で含まれている。

潤滑油はこれらの様々な成分をブレンドして作られるが、その成分のなかのひとつでも入手できなければ、それ以外の成分が全部そろっていたとしても、その製品が必要とする性能が得られない。つまりその製品は作れないということになる。

特に合成潤滑油は潤滑油の性能を決定するキーとなる成分であり、ナフサが不足すれば作れなくなる。この結果、潤滑油全体が不足するということになる。

潤滑油製品に合成潤滑油を配合すれば、劣化しにくくなるから交換頻度を減らせて、その結果廃油の量が減る。また、低温でも高温でも機械の動きを円滑にするから振動や加熱を防ぎ、省エネにもなる。

だから合成潤滑油を配合すれば、潤滑性能が向上するだけでなく、環境に優しい潤滑油ができる。そういう利点があるから、今後も合成潤滑油の使用も増えてくることになるだろうが、その製造にナフサという供給に不安のある原料を使っているという点が盲点だったようだ。

2026年6月5日

ドリーム燃料ついに終了 サステナブルエネルギー社が経緯を説明

5月24日、ドリーム燃料(SUSENE合成燃料)の事業化を目指していたサステナブルエネルギー社(以下「サステナブル社」)が自社のホームページで当燃料の事業化は行わない方針であることを明らかにした。

(「ドリーム燃料」は発明者の京都大学のI 名誉教授が名付けた名称であり、これと同等のものをサステナブル社が「SUSENE合成燃料」と名付けて事業化を試みていたが、ここでは「ドリーム燃料」で統一する)

ドリーム燃料は以前から指摘しているように、非常に疑わしい技術で、いわゆる疑似科学の一種だと筆者は考えている。このような疑似科学はときどき現れ、一時的に注目されるものの、やがていつのまにか話題に上らなくなって消えていく。

だれも失敗したことは話したがらないので、どのように消えていったかはあまり分からないものなのだが、ドリーム燃料についてはサステナブル社がきちんと今後の方針を明らかにしており、企業として説明責任を果たしている稀有な例だろう。

ではドリーム燃料とはどのようなものだったのだろうか、振り返ってみたい。
ドリーム燃料は元京都大学教授のI名誉教授が発明したという人工石油である。このプロセスは、まず水とCO2を混合して攪拌し、特殊な光触媒存在下で少量の紫外線を照射すると、I 名誉教授がラジカル水名付けた活性の高い水ができる。このラジカル水に種油と称する石油(軽油など)を混合し、激しく攪拌すると、人工石油ができるという。

人工石油は種油と混ざったエマルジョン状態で産出されるが、これをしばらく静置して油分と水に分離すると油分が元の種油よりも増えていることから、I名誉教授は増えたぶんだけ人工石油ができたと主張しているわけである。

I 名誉教授が発明したというこのドリーム燃料については、東北に本社を構えるサステナブル社がサポートする形で事業化を行う計画であった。さらに、2023年1月には大阪市などが協力して大阪の鶴見緑地で公開実験を行ったことからマスコミでも取り上げられ、水とCO2から安価に石油が作れる、日本独自の技術として注目を浴びることとなった。

しかし、その後、I 名誉教授率いるアイティ―技研とサステナブル社は分裂(喧嘩別れ?)したようで、別の道を歩き始めた。サステナブル社はドリーム燃料をSUSENE合成燃料と名付けて2023年4月からサブスク形式で販売すると発表。サブスク料金や、生産能力、必要な原料の量などが公開されていた。

しかしながら、その後、サステナブル社はこれから更にデータを蓄積する必要があるという理由で販売を延期。このとき発表された予定では2025年度の下期から販売を開始するとされていた。

一方、I 名誉教授はサステナブル社というスポンサーを失ったため、クラファンで事業化資金を調達しようとしていた。ところがクラファン主催者が資金集めのための講演会を開催しようとすると、体調不良とのことで急遽別の人が講演をすることになり、さらにその代理の人も講演会3日前にドタキャンしてしまうという不祥事となった。これによってクラファンも中止。主催者は集めた資金もすべて返却。講演会の料金等はクラファン主催者が個人で負担したとのことである。

また、実験に協力した大阪市は、当初は大々的に宣伝していたものの、結局「場所を貸しただけで、実証試験の内容は知らない。サステナブル社に聞いてくれ」という態度に変わっていった。

話をまとめると、サステナブル社のサブスクは延期、大阪市は関係ないという態度、アイティー技研のクラファンは中止となった。ということでドリーム燃料の事業化はサステナブル社が予告した2025年度の下期からのサブスク形式の販売待ちという状況となっていた。

2025年度下期といえば、2026年3月までであるから、サステナブル社はその翌月の4月に、ドリーム燃料開発の中止を発表したということになる。

そもそも、ドリーム燃料は怪しい技術である。他の記事にも書いたので詳しくは述べないが、このような方法でCO2と水に含まれる水素から人工石油ができるのなら、その人工石油の持つエネルギー以上のエネルギーをどこかから持ってこなければならないのに、その形跡がないこと。

さらに、CO2と水から石油ができるのなら、そのCO2の分だけ重量が増えていなければならないのに、使用されたCO2の量も、人工石油と称するものの増加量もきちんと測定されていないこと。

つまりマテリアルバランスもエネルギーバランスも確認されていない杜撰な実験であるにもかかわらず、単に目で見て種油の量が増えた(ように見えた)というただそれだけのことで、空気中のCO2と水に含まれる水素が結合して人工石油ができたと何の根拠もなく結論付けているのである。

おそらく、ラジカル水と称する水と種油を強度に攪拌したため、細かな水滴が種油に混ざり、その結果、種油の量が増えたように見えただけに過ぎないのだろう。I 名誉教授の論文によれば、種油から分離した人工石油(つまりドリーム燃料)は、これをまた種油として使えば何度でも人工石油を作っていけると述べているが、実際にそれを実験でやって確認したわけでもない。

種油の量が増えた部分は単に細かい水滴が溶け込んだだけだとすれば、繰り返してそれを種油として使えば、溶け込んでいる水の割合が増えていき、やがて水と油が分離しなくなるだろう。

サステナブル社の説明では、単発的な運転したときにはうまくいったものの、連続的に行うと安定して再現できないと述べている。これはまさに種油に含まれる水滴の量が増えていき、水と油が分離しなくなっていったという話だろう。予想されたことではあるが。

一方、サステナブル社と袂を分けたアイティー技研であるが、クラファン中止以降、特に目立った動きは聞こえてこない。同社のホームページのトピックス欄を見ても、2023年に行われた鶴見緑地での公開実験を最後に新しい記事は掲載されていない。

水で走る自動車を開発したとか、水をガソリンに変える方法を発明したとか、過去にも様々な事例があるが、いずれも消え去って行った。確かに水とガソリンは似ているからガソリンではなく水で車が走ればどんなにいいだろうと誰しも思うが、水とガソリンは見かけは似ているが、全く違うものである。

水とCO2からガソリンのような燃料を作ることは可能であるが、製造された燃料の持つエネルギー以上のエネルギーが必要となる。そのようなエネルギーを使わずにガソリンが作れれば、それは結局、永久機関になってしまうから不可能である。

しかし、そのような関係を理解していない人も多数いるわけで、ときどき水から石油を作りましたと称する人が出てくることになる。ちなみにI 名誉教授もオルタナ誌の取材でドリーム燃料が永久機関になってしまうことを指摘されて初めてそのことを知った節がある。

本人に悪気はないのだろうが、周りの人たちを巻き込み、迷惑をかけることになるわけである。しかし、今後も同じような疑似科学は出てくるのだろうと思う。

2026年6月3日

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ひろゆき氏が指摘するアメリカ産ナフサは質が問題とはどういうことか

ひろゆき氏がユーチューブで“ナフサ不足”でアメリカから供給も「質が…」問題。「誰も断言できてない」と発言したという。

現在、ホルムズ海峡封鎖によって、原油だけでなくナフサの輸入も大幅に減っている。原油は備蓄があるので当面は問題ないが、需要の約6割を輸入に頼っているナフサは戦略的な備蓄がないので、末端では溶剤やプラスチック、潤滑油などの品不足が目立ち始めている。

そこでアメリカからのナフサ輸入が大幅に増えているという話だが、ゆきひろ氏はアメリカ産のナフサはその品質が問題だと指摘しているわけである。

もちろん、氏は専門家ではないのでアメリカ産ナフサは軽質なので重油が作れない。そのため重油が足りなくなる。そのあたりは誰も断言できないなどと、ちょっと意味不明の発言をしているが、確かにアメリカ産ナフサは軽質だという可能性はある。断っておくが、ナフサから重油を作ることはないので、ナフサが軽質になったから重油が足りなくなるということはない。

製油所によって多少の違いはあるが一般に石油精製ではまず原油を蒸留してLPG、軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油、粗軽油、重質軽油、残油に分ける。このうち軽質ナフサが日本ではナフサとよばれ、重質ナフサが主にガソリンの原料になる。しかし、軽質ナフサと重質ナフサの沸点範囲を調整することによって軽質ナフサと重質ナフサの製造割合は調整することができる。

日本ではガソリン需要が多いので、なるべく重質ナフサをたくさん取りたい。そのため軽質ナフサはより軽質になる傾向がある。一方、重質ナフサをたくさん採ったために軽質ナフサが不足するが、これは輸入すればいいという形になっている。

一方、日本がナフサを輸入している中東の製油所は輸出型製油所とよばれ、自国需要のために石油精製を行っているわけではなく日本などに輸出するために石油を精製している。だから、売れる軽質ナフサをたくさん作りたい。よって中東産ナフサはより重質になる。

一方、アメリカも日本と同じようにガソリン需要が多い国で、しかも天然ガスからも石油化学製品を作っているので、ナフサは日本よりもっと軽質だろう。さらに、アメリカではシェールガスが豊富に採れる。シェールガスに随伴して天然ナフサも産出するが、このナフサも軽質である。ということでアメリカから輸入されるナフサはかなり軽質だろうと想像できる。

では、ナフサが軽質になるとどんな影響がでるのだろうか。ナフサはまずナフサクラッカーとよばれる装置で処理される。この装置でナフサは分解されてエチレンやプロピレン、ブタジエンなどを生成し、あとにエチレンボトムという液体が残る。このエチレンボトムからはBTXなどが抽出される。

これらの生成物の主な用途は、エチレンはポリエチレン、プロピレンはポリプロピレン、ブタジエンは合成ゴムである。また、BTXからはPET樹脂や塗料、溶剤などが製造される。

ナフサが軽質になると、ナフサクラッカーで処理した時に生成するもののうち、エチレンやプロピレンの割合が増え、ブタジエンやBTXの割合が減ってくるということになる。

製品でいうとポリエチレンやポリプロピレンの割合が増え、溶剤や染料、PET樹脂の割合が減るということになる。つまり、ナフサが重質か軽質かという品質の差は生産される製品の割合に影響することになる。

ただし、それがそれほど問題かというと製造割合が少し変わるだけなので、それほど問題になるとは思えない。品質が悪いので、製品の品質も悪いとか、製品を製造できないということではない。

むしろナフサ自体が手に入らない方が問題は大きい。また、PET樹脂などの原料となるBTXについては、ナフサではなくガソリンの方からもかなりの割合で抽出されているから、それほど影響はないだろう。

ホルムズ海峡封鎖から3か月が経とうとしている。政府は頑なに認めようとしないが、輸入が止まっている以上、ナフサの不足は起こるはずであり、実際にナフサクラッカーの稼働率が大幅に低下していることからもそれが分かる。

ただし、ナフサは国際商品であるから、必ず中東から輸入しなければならないというものではなく、そのほかの国々からも輸入は可能であり、その中にアメリカも含まれる。アメリカ産ナフサは軽質といっても、それほど影響が大きいとは思えない。

商社や石油会社、化学会社が世界中からナフサの輸入を手配しているだろうから、来月からはナフサ不足も緩和されると予想したい。輸入ナフサが軽質か重質かよりまず、ナフサの量の確保の方が重要であろう。

2026年5月24日

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「E10ガソリンの基礎知識 2030年日本のガソリンが変わる」を出版しました。

わが国にE10ガソリンという新たなガソリンが導入されようとしている。E10ガソリンとはバイオエタノールを10%含んだガソリンのことだ。その主な目的は気候変動対策とエネルギーセキュリティ。これを達成するために、日本で売られるガソリンが全てE10に変わってしまうことになるかもしれない。

2024年秋に開催された政府主催の委員会でE10ガソリン導入計画が示され、これを受けて政府と業界が共同でタスクフォースを作って具体的な検討が開始されている。予定では2028年度から沖縄本島でE10ガソリンの先行販売を開始、2030年度にはこれを全国に広げる。さらに将来のE20ガソリンの導入も視野に、わが国で販売される車はすべてE20ガソリン対応車とすることになっている。

つまり、消費者の好むと好まざるにかかわらず、日本で売られる全てのガソリンがバイオエタノール入りに変わってしまう可能性がある。しかし、そんなことをやって自動車には影響がないのかと心配する人もいるだろうし、あるいはこれをビジネスチャンスととらえる人もいるだろう。そもそも本当に気候変動対策になるのかと疑う人もいるだろう。

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なお、本書は基礎編とQ&A編に分けている。基礎編ではE10ガソリンの目的や作り方、問題点とその対策等について解説。Q&A編ではE10ガソリンに関する様々な疑問、例えば以前問題になったガイアックスとの違い、食料との関係、税金や価格はどうなるのかなどについて答える。