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次に経済発展するのはアフリカ諸国? 各国の人口の多い国ベストテンのグラフから

国連の世界人口予測

昨年11月に発表された国連の人口予測(World Population Prospects 2022)の中で興味あるグラフを見つけた。世界の国別人口の多い国ベストテンである。世界の国の中で人口の多い国、1990年、2020年の上位10か国の実績と2050年の予想を図示したものである。

世界でもっとも人口の多い国は昨年まで中国であった。しかし、その人口は減りつつあり、2022年時点で14億2,600万人だったが、2050年には13億人台まで減少すると見込まれている。一方、インドは同じ時期に14億1,600万人から16億6,800万人まで増加すると予想されている。実際に今年、中国はインドに抜かれて第2位になっている。

3位はアメリカで、1990年から2050年まで一貫して、その順位は変わらない。4位のインドネシアは人口は増加しているもののナイジェリアに抜かれて2050年には6位に下がる。

ウクライナで悲惨な戦争を行っているロシアは少しずつ人口が減少しており、1990年に6位だったが、2022年には9位に、2050年には14位まで後退する。わが日本はというと、すっかり忘れていたが1990年代には実は第7位で、世界の人口ベストテンに入っていた。しかし、2022年には11位とベストテンから転落しており、2050年にはこのグラフでは完全に無視され、いったいどこまで落ちたのか分からないほどである。

大陸別でみると1990年にベストテンに入っていたのはアジアが6か国で最も多く、その他は中南米、北米、ロシア、アフリカがそれぞれ1か国ずつであった。それが2022年になるとアジアが5か国に減り(日本が脱落したため)、代わりにメキシコがベストテンに入っている。

そして2050年の予測であるが、アジアは5か国で変わらず、ロシアとメキシコがベストテンから転落。一方、躍進が著しいのはアフリカ勢で3か国に増える。これは、2022年にすでにベストテン入りしていたナイジェリアのほかにコンゴ民主共和国とエチオピアがベストテン入りするからだ。そのほかは北米1(アメリカ)、中南米1(ブラジル)である。

特にコンゴ民主共和国は2022年時点で1億人以下(9,700万人)だった人口が2050年には2億1,500万人と2.2倍になる。ナイジェリアとエチオピアもそれぞれ1.7倍になると予想されている。中国、ロシア、メキシコが人口減になるのと対照的だ。

人口が増えた分だけその国のGDPが増える

この国連の報告書では、これから2050年にかけて人口が増加するのは、インド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピアなど貧しい人が多い国ばかりだ。貧しい人々の住む国の人口が増え、豊かな人たちが減って行く。そういう未来となるのだろうか。

しかし、人口が増えることは経済にとっては悪いことではない。一人当たりのGDP、つまり一人当たりの稼ぎが変わらないとすれば、人口が増えれば単純に考えて、その分だけ国のGDPが増えることになる。

例えば、コンゴ民主共和国は人口が2.2倍になるのだからGDPも今の少なくとも2.2倍になるはずである。1国の国力、経済力としてみた場合、人口が増えればそれだけ、国力や世界での影響力が増えていくことになるだろう。

逆に日本のように人口が減っていくと、一人当たりのGDPが変わらないとすれば、人口減に伴ってGDPは減少していく。日本は今のところ世界第3位の経済大国であるが、やがてすぐに、その地位を他国に奪われることになるだろう。中国も人口減少に伴ってその経済力の伸びは鈍化していくか、日本のようにマイナス成長に転じるかもしれない。

人口ボーナスでもアフリカ勢は有利

人口ボーナスという考え方もある。人口ボーナスとは生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(14歳以下の年少人口と65歳以上の老年人口の合計)の比率が小さくなることにより、経済が活性化することである。つまり、働き手が多くなり、働かない子供や老人の比率が少なくなることによって、生活に余裕ができて、個人消費が活発になり、経済が潤うことになる。

女性ひとりが生涯に産む子供の数を特殊出生率というが、この数字は世界的に低下してきており、これはアフリカも例外ではない。アフリカでは、最近生まれた子供が生産年齢に達するころには、出生率が低下し、育てなければならない子供が少なくなる。一方、人口膨張期以前に生まれた人たちは老人となるが、それほど比率は高くない。その結果、アフリカ諸国は人口ボーナスという点でも有利になるだろう。

人口が増えれば市場も大きくなる

人口が増えれば、当然、消費も大きくなり、市場としての規模も大きくなる。中国が経済的に発展した理由のひとつが、その市場規模であり、外国資本がその市場を狙って大挙して進出してきた。それと同じで、今後、人口が増えてくるアフリカ諸国にも海外資本が入り込み、また安い労働力を使って様々な工業製品を作り出す。そんな好循環-日本も韓国も、台湾も、そして中国も辿った道-がアフリカで生み出されるかもしれない。

先日、岸田首相がアフリカを歴訪してきた。日本はアフリカとはあまり密接な関係を築いてこなかったが、今後はアフリカとは良い関係を作っておく必要があるだろう。

日本の新しいバイオ燃料政策により、米国産バイオエタノールの対日輸入が増加?

先月末の3月31日。米国通商代表部のホームページに「日本の新しいバイオ燃料政策により、米国製エタノールの輸入が増加」という記事が掲載された。

これによると、日本がバイオ燃料政策を変更したことによって、米国の対日バイオエタノール輸出が年間8000万ガロン(約30万キロリットル)以上増加し、毎年1億5,000万ドルから2億ドル(195億円から260億円)の輸出額になる可能性があるという。

この日本の政策変更は通商代表部、米国農務省および在日米国大使館の働きによって実現したもので、日本政府が二国間貿易関係を強化するための新たな一歩を踏み出したと述べている。

また、米国再生可能燃料協会(RFA)や米国穀物協会などの民間団体もこれを歓迎する声明を発表している。

しかし、これに対して日本側の報道はほとんど見当たらない。一体、日本側はどんな政策変更をしたのか。今回の通商代表部の記事は何の話をしているのか。まったく理解できない人も多いのではないだろうか。これについては少し説明が必要である。

意外に知らない人が多いと思われるが、実は日本はかなりの量のバイオエタノールを海外から輸入して、ガソリンに混ぜて使っている。これはエネルギー供給構造高度化法という法律に基づく告示の形で決められていることであるが、日本の石油会社は原油換算で年間50万キロリットルのバイオエタノールをガソリンに混合して販売することが義務付けられているのである。

実際には、日本の石油会社はバイオエタノールを一旦ETBEというものに転換して、このETBEをガソリンに混合している。このETBEは通常のガソリンとほとんど同じ性質を持っているから、多く消費者はそれと気づかずに使っているであろう。

燃料用バイオエタノールは国内では作られていないので、この年間50万キロリットル原油相当のバイオエタノールは全て輸入である。主な輸入先はブラジルと米国だ。ただし、輸入には条件があってバイオエタノールを使ったときのCO2排出量がガソリンに比べて55%以上削減されていなければならない。このような条件を判断基準という。

バイオエタノールが燃えた時に出てくるCO2は明らかにカーボンニュートラルだから、排出量はゼロと考えることができる。しかし、バイオエタノールを製造する際に、電力や熱源として天然ガスが使われるし、輸送するときにも石油が使われる。また、肥料の製造時には大量の化石燃料が使われる。

つまり、バイオエタノールはカーボンニュートラルといわれるが、これらの間接的なCO2排出量を勘定に入れると、完全にはCO2排出量はゼロではない。この間接的なCO2排出量をLCGHGという。

このような製造や輸送も含めたCO2排出量をガソリンと比較すると、CO2削減量はブラジル産の場合62%、米国産の場合は51%削減と計算されていた。この削減率を判断基準である55%削減と比較すると、ブラジル産はOKだが、米国産はNGということになる。

では米国産バイオエタノールはまったく輸入できないかというと、そうではない。ブラジル産と米国産をどちらも輸入して、それぞれのCO2排出量の加重平均で55%以上削減となればいいと決められている。米国産だけを輸入することはできないが、ブラジル産との抱き合わせで輸入すればいいのだ。

さて、これらの決まりは2022年度で終了するので、年間50万キロリットルのバイオエタノール輸入の義務はなくなってしまう。そのため、経済産業省は年度末の3月31日に告示の改訂を行って、年間50万キロリットルのバイオエタノール導入義務を2027年まで延長することとした。

このときの改訂に伴ってCO2排出量つまりLCGHGについても新たなデータをもとに計算が行われた。その結果、ブラジル産はガソリンに比べてCO2排出量が68%削減、米国産は58%削減となった。ここで、米国産バイオエタノールも晴れて判断基準の55%削減をクリアすることになったわけである。(我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第10回)

ということは、今まで行われてきたブラジル産バイオエタノールとの抱き合わせ輸入が不要となり、米国産だけの輸入が可能となったということだ。

米国ではバイオエタノールがガソリンに10%混合(E10)して売られている

米国通商代表部は、日本のバイオエタノール輸入量の総量は変わらないものの、ブラジル産を押しのけて米国産を買ってくれると期待して米国産の輸入が増えると読んでいるわけだ。

いろいろと分かりにくい話だが、要は、米国産バイオエタノールのCO2排出量LCGHGを計算しなおしてみたら、判断基準に合格したので、大手を振って米国産バイオエタノールが輸入できるようになったということである。

もちろん、LCGHGは単に数字上クリアしたというだけでなく、バイオエタノール製造時の熱源の電化、輸送時の燃費の向上、肥料製造時のCO2削減など脱炭素化に向けた米国内の動きがあったわけである。もちろんバイオエタノール輸出を増やしたい米国政府の圧力もあったであろうし、今後も輸入量を増やすように圧力をかけてくるだろう。

かつて、日本の首相はトランジスタ(ラジオ)のセールスマンと言われた。そのころ日本は外貨が不足しており、できるだけ輸入を増やして外貨を稼ぎたいと、官民挙げて活動していたものである。同様に米国も輸出に力を入れ、輸出が増えれば、それが各省庁の手柄となる。

近年、わが国は輸出を増やそうという努力が余り見えない。ここ数年、日本は貿易赤字がかさんでいるのだから、日本の優秀な脱炭素技術を中心に輸出の売り込みをかけたらどうだろうか。それが国の活性化につながり、世界の脱炭素化にも貢献することになるだろう。

Jアラートは正しかった? 北朝鮮のミサイルが本当に北海道に着弾した可能性も

13日午前7時26分。防衛相は北朝鮮から弾道ミサイルが発射されたと発表。その30分後の午前7時55分、政府はJアラートやエムネットを通じて、ミサイルが北海道周辺に落下するとみられるとして、避難を呼びかけた。そして8時16分、当該ミサイルは北海道周辺に落下する恐れはなくなったと発表した。

このアラートを受けて、札幌市内では通勤客などが一時避難し、JRや地下鉄、路面電車が全線で運転を見合わせ。JRの28本の列車が運休や部分運休となったほか、最大40分の遅れが出た。このほか、道内のすべての高速道路がおよそ1時間に渡って通行止めとなっている。

Jアラートは以前にも、ミサイルにほとんど関係のない地域で発令されるなどのミスがあった。今回も結果的に日本領内への落下が起きなかったため、お粗末なアラームシステムとか、もっと確実な情報を出すべきとか、信用を失って「おおかみ少年」になってはいけないなどの批判が相次いでいる。

ミサイル探知システム

実は、今回のミサイルであるが、Jアラート発令前にレーダーから消失している。政府は消失前のミサイルの軌道から、わが国の北海道周辺に落下する恐れがあると判断してアラートを発令したもの。

北朝鮮がミサイルを発射すると、まず米国の偵察衛星が発射時に発生する赤外線を感知。その通報を受けて、自衛隊のイージス艦のレーダーで追跡し、軌道を計算してわが国の領土内に着弾すると判断されれば、警報を発令する。ここまでは自衛隊のミサイル探知システムに何らかのミスや不備があったという話ではないようだ。

その後、実際にはミサイルはレーダーから消えていしまったわけではあるが、このままミサイルが飛び続けているとすれば、北海道周辺に着弾する可能性が高いため、アラートが発令された。しかし、実際にはミサイルがわが国領土内に落下してくることはなかった。だから、騒ぎ過ぎだとか、オオカミ少年だとか非難されているわけである。

しかし、ここで疑問がある。なぜ、ミサイルがレーダーから消えたのか。もしレーダーから消えていなかったらどうなっていたのか。

レーダーから消えたのは自爆したから

弾道ミサイルのロケットモーターが作動している時間は、実はほんの数分しかないということはご存知だろうか。ロケットモーターはほんの数分だけ作動し、燃料が燃え尽きると、あとは慣性力だけでミサイルは飛んでいく。つまり大砲の弾と同じである。大砲の炸薬が一瞬で燃え尽きるのに対して、弾道ミサイルは燃料が数分間燃え続けるという違いしかない。

この数分間でミサイルは軌道が修正されて、目標に向かって飛んでいくことになるが、それを過ぎれば軌道を修正することはできない。まさに大砲の弾と同じ状態になる。だから、燃料が燃え尽きたあと、ミサイルがどこに落下するかはこの時点で決まってしまう。

自衛隊がこの軌道を計算し、それが北海道周辺に落下すると予想したとすれば、これはほぼ正しく北海道周辺に落下することになるだろう。

最近、北朝鮮はミサイルを非常に高い高度まで打ち上げるロフテッド軌道を採用している。そうしなければ飛行距離が長すぎて日本を通り越して、実際にアメリカまで飛んで行ってしまうからだ。

ロフテッド軌道で打ち上げる場合、高度は6000㎞に達する。ちなみに旅客機の高度は10㎞である。そして、この高度まで打ち上げた後、ミサイルは日本海に落下することになるが、日本海の幅は800㎞程度しかない。

だから北朝鮮のミサイルはほぼ真上に打ち上げて、あとはそのまま落ちてくるという感じになる。ここで、もし打ち上げ角度がわずかにでも狂えば、ミサイルは簡単に日本海を飛び越えてしまう。あるいは自国の領土内に落下する可能性もある。

もし、軌道が狂ってしまったらどうするのか。おそらく北のミサイルにも自爆装置が組み込まれているだろうから、このときには、地上から指令電波を送って自爆させることになる。先日、日本でもH3ロケットが打ち上げに失敗したが、このときも自爆させている。

今回の北朝鮮のミサイルも軌道が狂ったので自爆させたのではないだろうか。レーダーから突然消えたのは自爆したためと考えれば納得がいく。もちろん、自衛隊のレーダーが単にミサイルを見失っただけなのかもしれないのだが。

レーダーから消えてなかったらどうなるのか

ではもし、ミサイルがレーダーから消えなかったら、つまり軌道が外れたにも拘わらず北朝鮮が自爆させなかったらどうなるのか。それまでの軌道計算が正しければ、ほぼ間違いなくミサイルは北海道周辺に落下することになる。ミサイルがレーダーから消えたとしても、自爆したわけではなく単にレーダーが見失っただけかもしれない。だからやはりアラートを出して警戒しておくべきだろう。

ただし、実験用のミサイルなら、日本に着弾しても山林や畑のような人口密度の低い地域に落下する可能性が高い。だからそれほど恐れる必要はないのだが、しかし、ミサイルに核爆弾が積まれている場合は、甚大な被害が発生することになる。

自衛隊のレーダーは軌道を確定することはできるが、ミサイルに何が積まれているのかまでは分からない。核爆弾でなくても通常の爆薬や毒ガスが積まれている可能性がないとは言い切れないのだ。

このまま北朝鮮のミサイルがわが国の領土に落下するのならば、自衛隊の迎撃ミサイルSM3で撃墜していたかもしれない。しかし、公海上で外国のミサイルを撃ち落とすことは、国際法上の問題を引き起こすかもしれない。あるいは迎撃ミサイルを打っても外れていたかもしれないが、これはこれで問題である。

北朝鮮は今回のミサイル打ち上げについて、成功したと大々的に報道している。しかし、3段ロケットのうち1段目と2段目は順調に作動したが、3段目については言及がないという。3段目が軌道から逸れてしまったのではないだろうか。

EU 2035年からCO2排出車の新車販売禁止を決定 どうする日本

2月14日、欧州議会は2035年以降、新規に販売される乗用車と小型商用車(バン)について、CO2排出量を100%削減するという目標を承認した。つまり、2035年以降、EUではCO2を排出する乗用車と小型商用車が販売できなくなる。(年間1,000台未満の新車を販売するメーカーは除外)

では、EUと同様に2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという目標を掲げるわが国はどうするのか。実は、2021年に策定された第6次エネルギー基本計画(以下「基本計画」)には、この欧州議会の決定と同じような表現が含まれている。

基本計画のその部分を抜き書きしてみよう。

「乗用車については、2035年までに新車販売で電動車100%を実現できるよう・・・・包括的な措置を講じる。」
「8t以下の商用車については、2035年までに、新車販売で電動車20~30%、2040年までに、新車販売で電動車と合成燃料等の脱炭素燃料の利用に適した車両を合わせて100%を目指す。」

街の充電スタンド 最近よく見かけるようになってきた

乗用車は2035年に、8t以下の商用車はそれより5年遅いが、いずれもCO2削減対策として新車販売の規制が行われることがうかがえる、しかし、わが国の基本計画はEUの決定と似ているように見えて、よく見るとかなり違っている。

まず、EUの規制はCO2ゼロという目標がはっきりしており、その目標を達成するために2035年にCO2を排出する自動車の新規販売を禁止するという内容である。車の寿命が15年くらいであるから、2050年にCO2排出量をゼロにするためには、その15年前の2035年からCO2排出車の販売を禁止しなければ間に合わないという理屈である。

これに対して、わが国の基本計画ではまずCO2排出量ゼロという目標を明確には掲げていない。そして、乗用車について電動車100%導入というCO2削減手段が目標となっている。ここで注意が必要なのは「電動車」の意味である、基本計画では特に説明もなくサラッと書いてあるが、電動車は電気自動車とは違う。

ここでいう電動車とは、電動モーターで走る車という意味であろう。そうであれば、電動車は電気自動車(EV)だけでなく、バイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)なども含まれることになるが、このうちHVとPHVはガソリンエンジンを積んでいるいるから、CO2排出量をゼロにすることはできない。

一方、電動車ではないが、水素エンジン車や合成燃料車、バイオ燃料車はCO2排出量をゼロに出来る可能性があるにもかかわらず、こちらは2035年以降は販売禁止ということになってしまう。

8t以下の商用車については、乗用車と違って電動車だけでなく合成燃料等の脱炭素燃料の利用も認めるということになっている。電動車以外の手段を認めるのはいいとしても、HVやPHVの使用も認めるというのなら、これもCO2排出量はゼロにはならない。そもそもなぜ乗用車だけ電動車100%にこだわるのだろうか。

わが国の基本計画は、どうもストーリーに一貫性がない。2050年のカーボンニュートラルを達成するのなら、化石燃料を使用した車、つまりHVやPHVの使用は認められないはずだろう。逆に、化石燃料を使わない車なら電動車に限ることはなく、どんな方法でもいいはずである。

それを電動車というCO2を排出する車も排出しない車も一緒くたしてにして100%を目指し、それ以外は認めないという。いったい何をやりたいんだと思ってしまう。

わが国もいずれはEUと同様に化石燃料を使用する車(ガソリン車、ディーゼル車)の規制が必要となるだろう。そうしなければ2050年のカーボンニュートラル目標は達成できないからである。ところが今の基本計画では電動車というあいまいな言葉でお茶を濁しているように見える。

エネルギー基本計画は3年ごとに見直すことになっているから、次回の改定時には、2050年のカーボンニュートラル達成の道筋をきちんと見据えた計画を立ててほしい。

2023年3月2日

【】

H3ロケットの打ち上げ中止は失敗ではない

2月17日に打ち上げ予定であったH3ロケット初号機が直前になって打ち上げが停止した。これについては、打ち上げ中止と報じている報道機関が多いが、一部では中止ではなく、失敗だとする論調もある。

H3ロケットはH2A/Bの後継となる我が国の主力ロケットであり、JXSAと三菱重工業によって開発が進められてきた。今回はその初号機である。打ち上げは当初、今月12日に予定されていたが、準備作業の不具合から13日に変更されたあと、ロケットのシステムに問題が見つかり15日に延期。さらに天候不良が予想されるとして17日に延期されていたものである。

17日当日は、順調に準備が進み、新しく開発されたメインエンジンLE-9が予定どおり打ち上げ6.3秒前に点火され、正常に立ち上がったようである。しかし、その後、補助ロケットが点火される直前(0.4秒前)に異常が検知されたため、補助ロケットへの点火が行われずに、ロケットは打ち上がらなかった。

これについて、ロケットを開発したJAXAは、今回の打ち上げは失敗ではなく、中止と発表している。ところが、記者会見の席上で、ある記者がこれは中止ではなく、失敗だと発言したため、物議を醸している。

この時の、記者会見の質疑応答の概要はだいたい次のようであった。

記者  意図して止めるのを中止という。意図しない中止は失敗ではないのか。
JAXA このような事例では今まで失敗と言ったことはない。ロケットは安全に止まるように設計されている。今回は想定している中での中止なので失敗ではない。
記者 それを失敗と言うのではないか。
JAXA  どのような解釈をするのかは受け止め方の問題であるが、設計の範囲の中で止まっている。安全に止まるように設計されている。
記者 システムで対応できる範囲の異常だったんだけども、起るとは考えてはなかった異常がおきて打ち上げが止まったということか。
JAXA  そのとおりで、健全に止まっているという状態である。
記者 それを一般に失敗と言います。

この記者の発言について、礼を失すると非難する意見が多いが、やはりこれは失敗とすべきだという意見もある。失敗を中止と表現するのは、敗戦を終戦と言い換えるようなもの。誤魔化しだというのである。

もちろん失敗を中止だと誤魔化してはいけないことだ。しかし、今回は誤魔化すために中止と言い張っているわけではなく、どうみても中止というべきであろう。JAXAの技術者としても、これはそもそも失敗の範疇に入らない。失敗じゃないかと言われても、逆に「え?なぜ」と聞き返すような事象だろう。

例えば、線路上に異物があり、それを検知した電車が自動的に急ブレーキをかけて止まったとする。これは失敗だろうか。確かに定時運行ができなくなったので失敗という言い方もできるかもしれないが、一般には失敗とは言わない。むしろシステムが正常に働いて、大きな事故を防いだと評価されるだろう。

今回のH3ロケットの場合もこれと同じである。打ち上げに際しては、ひとつひとつ問題がないか厳重にチェックしていく。そのチェックの過程で問題が見つかれば、カウントダウンを止めて、問題を取り除く。その問題が取り除かれれば、またカウントダウンを継続する。問題が見つかったからと言って、いちいちこれを失敗とは言わない。

ではなぜ直前になって問題が見つかったのか。前もって問題を取り除けばいいじゃないかという反論もあるかもしれないが、直前にならなければ見つからない問題もある。

例えば、H3ロケットの燃料となる液体水素はマイナス253℃、液体酸素はマイナス183℃の超低温である。これを何日も前からロケットに注入しておくわけにはいかないから、打ち上げ数時間前に注入する。

そうすると、ロケット各部の温度が徐々に下がって行って、機器が収縮してひずみやズレが出てくる。もちろん、そのひずみやズレも計算の上でロケットは設計されているが、人間がやることなので、すべてを予測することは不可能である。だから、打ち上げ直前まで問題がないかチェックを行うことになる。

そして問題が発生すれば、カウントダウンを止めて、問題を取り除く。これは失敗とは言わない。人間がやることなので、すべてを完全に設計することなどできはしない。必ず想定外のことが起こる。だからチェックを行って問題が起これば止める。

逆にすべて完全です。間違いは起こりませんと技術者が言ったのなら、その技術者を信用すべきではない。必ず人間はミスをする。だからチェックを行って、問題があれば安全な方向、つまり、今回の場合は打ち上げ中止という方向に進むようにシーケンスが組まれている。フェイルセーフという考え方である。

メインエンジンは点火しても、止めることができるが、補助エンジンは一旦点火してしまえば、止めることができない。だから、補助エンジンに点火する前に安全に止めたのである。ちゃんと理屈は通っている。

記者はそれを失敗だと主張したが、それは予定どおりの打ち上げができなかったら失敗だと言っているのだろう。しかし、打ち上げは見世物ではない。ロケットの目的は衛星を軌道に乗せることだ。時間どおりに打ち上げられなかったから失敗ということではない。

目的を達成するために、少しでも懸念があれば躊躇なくカウントダウンを止めて原因を追究すべきであり、その積み重ねが技術開発である。異常が見つかったのに時間どおりを優先して異常を無視して、打ち上げに成功しても、それは単に運がよかったということで、技術開発にはつながらない。

今回、メインエンジンは点火したものの、安全に作動が停止している状態である。このエンジンは再使用が可能なように設計されているという。原因を究明して対策が取れれば、3月中に再び打ち上げることができるというが、今回は初号機であるから、いろいろな問題が当然起こるだろう。記者から失敗だといわれたからといって焦る必要はない。

2023年2月19日

SAFの原料は廃食用油? クロ現で報道されなかったSAFの本当の原料

2月14日のNHKの報道番組「クローズアップ現代(以下 クロ現)」でSAF(サフ)が取り上げられた。SAFとは持続可能航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)の略で、CO2の排出量を80%削減できるジェット機用の燃料である。

原料はてんぷらなどの揚げ物に使ったあとの食用油で、廃食用油といわれる。従来、厄介者とされてきた廃食用油であるが、SAFの原料となることから一気に需要が増加して海外からも買い付けが殺到。引き取り価格もこの1年あまりで3倍に高騰して、今や争奪戦となっている。


一方で、廃食用油を原料とする家畜用飼料が価格が高騰。最近の鶏卵の価格上昇の原因のひとつともなっている。

しかし、廃食用油の量は多くはない。国内の廃食用油を全て集めてSAFを作っても年間35万キロリットル。一方、航空燃料として必要な量は1,300万キロリットルだから、廃食用油だけではとても航空燃料の需要をまかないきれない。

そこで、廃食用油以外の原料として、生ごみや廃プラスチック、藻類、CO2を活用する研究が進んでいる。クロ現の放送は、そういう内容であった。

しかしながら、これでは視聴者は大きな誤解をすることになる。実はSAFの主要原料は廃食用油ではない。生ごみや廃プラスチックなどでももちろんない。

SAFの主原料は植物油。つまりてんぷらなどの揚げ物をする前の植物油。大豆油、ナタネ油、パーム油といった植物油なのである。

番組でも取り上げられていたように、シンガポールには巨大なSAF製造プラントがあるが、その所有者はフィンランドの企業、ネステ社である。この北欧の企業がなぜ東南アジアのシンガポールにプラントを建設したのか。

それは、原料のパーム油が手に入りやすいからである。パーム油はシンガポールの隣国、インドネシアとマレーシアが大産地。この両国のパーム油生産量を合わせるとなんと世界全体の87%を占める。それほどのパーム油の大生産地帯なのである。

ミドリムシ油を原料としてSAFを製造している日本のユーグレナ社も最近、マレーシアに工場建設を検討していると報道された。これもおそらくパーム油を原料として考えているのだろう。

今後、わが国でもSAFの生産プラントが建設されていくであろうが、生産が本格化すれば国内で得られる廃食用油では到底足りないだろう。やはりパーム油などの植物油に頼らざるを得なくなる。

植物油のような食料を燃料の原料として使うのはケシカランという意見もあるが、食料を作るだけが農業ではない。例えば綿花や天然ゴムは食料ではないが、これも農業である。パーム油だって、食料以外に石鹸やシャンプーなどの原料として従来から使われてきた。だから食料を作るのではなく、エネルギーを作る農業があってもいい。ただ、対象とする作物が綿花やゴムの木と違って食料として使われてきた作物であったという話である。

今後、SAFを製造する企業はその原料をどう確保するかが問題となるだろう。自前で植物油の生産まで手掛ける。例えば世界に広がる荒れ地や休耕地、耕作放棄地などを開墾して、油を取れる植物、ナタネ、大豆、パームだけでなくカメリナやジャトロファなど、SAFに特化した油脂植物を育てる。そんなビジネスが展開していくかもしれない。

2023年2月16日

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カーメーカーのホンダが開発に乗り出したSAF 簡単には賛同できない3つの疑問

2月6日、カーメーカーのホンダがSAFの製造に乗り出すと新聞で報じられた。
SAFとは、持続可能航空燃料のこと。石油から作られるジェット燃料とほぼ同じ性状や性能を持ちながら、温室効果ガスの排出量を大幅に抑えることができる燃料である。航空業界は2020年以降、温室効果ガスの排出量を増やしてはいけないとの目標がある。この目標達成のためにSAFは非常に有力な手段とみられている。

温室効果ガスの削減ができない場合、その航空会社は他国への乗り入れを拒否される可能性がある。あるいは市場から炭素排出量を購入しなければならなくなる。このことから今後、SAFの需要は拡大することが約束されている。

また、SAFは基本的に灯油や軽油の代わりに使うことができる。SAFが実用化すれば、トラックやバスなど電気自動車化が困難なディーゼルエンジン車への需要も見込むことができる。ホンダがSAFの開発に乗り出したのはこのような思惑があるからだろう。

もちろん、SAFの開発を進めているのはホンダだけではない。世界中で開発がすすめられており、その原料を何にするか、どうやって製造するかについて、さまざまな方法が提案されている。

では、ホンダの方法はというと、まず、①工場等から排出されるCO2を使って藻を栽培する。②この藻を乾燥させて粉末状にし、③そこからブドウ糖を抽出して、④そのブドウ糖からSAFを製造する。 というものである。

ホンダが開発するSAFの製造工程

しかし、今回の報道については、すんなり受け入れられない、いくつかの疑問がある。この点について紹介したい。

疑問1.本当にカーボンニュートラルなのか
原料となる藻は成長する過程でCO2を吸収しているから、その藻から作られたSAFを燃料として使っても、空気中のCO2を増加させないという理屈である。この関係はカーボンニュートラルといわれている。空気中からCO2を回収することをDAC(Direct Air Capture)というが藻は一種のDACと言えるかもしれない。

しかし、ホンダの方法は空気中のCO2ではなく、工場などで発生したCO2を使うとしている。多分、その方が藻の成長が速いからだろう。しかし、工場から発生したCO2は化石燃料起源である。それを使って製造したSAFはカーボンニュートラルとは認められないかもしれない。

疑問2.乾燥に大きなエネルギーを必要とする
藻は成長が速いので、バイオ燃料の原料として以前から有望視されてきた。しかし、現在まで藻を原料とした燃料が本格的に普及しているとは言い難い。その理由のひとつが乾燥工程で大きなエネルギーを消費することである。その結果、SAFの製造コストが非常に大きなものとなって、実用的でなくなってしまう可能性がある。

疑問3.藻からブドウ糖を抽出できるのか
アメリカにはASTMという規格があり、藻を使った燃料もSAFとして認められている。しかし、この場合、藻から取り出すのは油脂であり、ブドウ糖ではない。ブドウ糖を産出する藻をホンダが独自に開発したのだろうか。

あるいは藻からセルロースを取り出し、これを分解してブドウ糖とすることは可能である。セルロースからブドウ糖を作る技術はアメリカでさんざん研究され、商業プラントまで建設されたが、結局失敗して撤退している。かなり難しい技術なのだ。

もちろん、ここで挙げた疑問のもとは単に新聞から得られた情報だけである。もっと詳しい情報が得られれば、これらの疑問は解消してしまうかもしれないし、そう願っている。ホンダファンのひとりとして、できればホンダにもこの分野で有望な技術を開発していただきたい。

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大阪で公開実験が行われたCO2と水から人工石油を作るという話(ドリーム燃料装置)は本物か

大阪の公園で行われたCO2と水から石油を作るという実験が話題になっています。これは仙台市に本社があるサステナブルエネルギー開発(株)という会社が開発し、ドリーム燃料装置と名付けられたもので、大阪市などの支援を受けて鶴見公園で行われました。

主催者側の説明によると、このプロセスは水とCO2を混合して、特殊な光触媒を使い、少量の紫外線を照射することによってラジカル水というものを作る。このラジカル水に種油と称する石油(軽油など)を混合すると、人工石油ができるといいます。

人工石油は種油と混ざったエマルジョン状態で産出されますが、これを油分と水に分離すると油分が元の種油よりも増えていることから、同社は増えたぶんだけ人工石油ができたと主張しているわけです。

CO2と水から人工石油を作る実験の概要(大阪市のHPより)

鶴見公園の実験では、生成した人工石油を使ってエンジン発電機で発電を行い、その電力で電気自動車を動かすというデモンストレーションを行っています。この実験はマスコミでも報道され、これを見た人からは、「素晴らしい発明」、「地球温暖化防止に貢献する技術だ」、「すぐに実用化してほしい」などの意見が見られました。

この実験については、私のブログ記事とも関連するところがあり、さまざまな方からコメントや意見、問い合わせをいただきました。ここで、大阪で行われた実験について、私の考えを述べたいと思います。

まず、結論から言わせてもらえば、このような方法でCO2と水から石油を作ることはできません。それは科学の大前提から外れてしまうからです。

私たち人類は石油を燃やしてエネルギーを得ています。そのときCO2と水(水蒸気)が出てきます。決してCO2を出したいと思って石油を燃やしているわけではありません。私たちが欲しいのはエネルギーであり、CO2と水は副産物に過ぎません。

この副産物のCO2と水を使って人工石油ができるとすれば、それを燃やしてエネルギーを得ることができるはずです。そして人工石油を燃やせば再びCO2と水が出てきます。それなら、出てきたCO2と水を使って、また人工石油を作ることができるということになるはずです。

これを繰り返せば、私たち人類は無限のエネルギーを手に入れることができることになります。これが本当なら本当に素晴らしいことです。

しかしながら、科学の世界にはエネルギーは増えも減りもしないという大前提があります。これをエネルギー保存則とか熱力学第一法則といいます。つまりエネルギーは勝手に増えたり減ったりはしない、つまり無から有は生じないのです。もし、人工石油でどんどんエネルギーが取り出せるとすれば、そのエネルギーはどこから来るか説明がつきません。

このようにエネルギーがどんどん増えていくシステムを永久機関といい、永久機関は不可能というのが、科学の掟なのです。人工石油のシステムを発明したと称する人たちは、実は自分たちが永久機関を作ろうとしていることに気づいていないのではないでしょうか。

今回の大阪の実験内容については、いろいろな疑問点がありますが、ここでは省略させていただきます。しかし、このような、水から石油を作るという話は昔から出ては消え、消えてはまた出てきますが、いずれも成功したことはありません。

ちなみに、このような科学的にあり得ない話を大阪市のような公共団体が支援をするというのは、いかがなものでしょうか。じつは、大阪市だけでなく、他の自治体でもときどき「こりゃあありえない」と思われる事業を大々的に支援して、結局成果が上がらず、いつの間にかうやむやにされているというような例がいくつもあります。支援するまえに、専門家にちょっと相談すればわかる話だと思います。

※大阪市はHPへの問い合わせで実証の内容には関わっておらず、資金面での支援も行っておりません。と回答している。

ちなみに太平洋戦争中に、水からガソリンを作るという話が持ち上がり、山本五十六海軍大将もだまされたという話があったそうです。今回の大阪の実験を契機に教えていただきました。
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20170814-OYT8T50132/

【追記】
この装置は光エネルギーが使われているので、永久機関ではないというコメントをいただきました。本文中にはあまりエネルギーの面から説明しなかったので、誤解を生んだかもしれません。以下に説明しますが、結論から先に言えば、この装置で使われる光エネルギーは非常に僅かなので、石油を5%も10%も生み出すには全然足りないということです。

ドリーム装置内にはUV(40w)とブラックライト(40w)の2本のランプが設置されており、30分間照射してラジカル水を作るとされています。この光エネルギーは40whになり、換算すると0.144MJです。

一方、投入した灯油10リットルに対して5から10%の灯油が増えたということですから、5%増えたとすると、増えた分の灯油のエネルギーは23MJ(46.5MJ/ℓで計算)になります。

つまり、0.144MJの光エネルギーで23MJの石油ができたことになります。光エネルギーを使ったとしても、その100倍以上ものエネルギーを産み出したと言う計算になるわけで、そんなことはありえないということです。

では、ドリーム燃料製造装置の発明者はウソをついているのかということですが、そうではないと思います。ただ、実験には誤差がありますから、もっと精密な実験を行うべきです。さらに完全に独立した機関が全く同じ実験をやって同じ結果がでるかどうかの検証が必要だと思います。

なお、ドリーム燃料はポルシェやENEOSなど世界中で研究されている合成燃料(e-fuel)とは全く別のものです。(2023年8月24日追記)

【追記2】
最近、発明者の大学名誉教授へのインタビューがユーチューブで公開されていましたが、この中で、驚いたことにドリーム燃料製造装置は永久機関だと、発明者がはっきり言っていました。ここまで言い切られると何とも言えません。とても信じられませんが、信じたい人はどうぞ。
参考記事:
ドリーム燃料は永久機関だと発明者が明言 そもそも永久機関とは
どんなに科学が進んでも絶対できない3つのこと 永久機関、超光速移動、タイムマシン、エントロピー   (2023年11月12日追記)

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水道水にベンゼン混入 ENEOSガソリン漏出 ベンゼンってどんなもの?

水道水にベンゼンが混入

昨年(2022年)8月、室蘭市内の住民から水道水に油のにおいがすると通報があり、市が調査したところ、国の水質基準を上回る発がん物質のベンゼンが検出されたという事件が起こった。

その原因について調査したところ、市内のガソリンスタンドから推定2,100ℓのガソリンが漏洩し、水道に混入したことが判明。今年1月、このガソリンスタンドを運営する北海道エネルギー社と元売り会社のENEOSが住民に謝罪と説明会を行った。

この事件で問題となったベンゼンとはどういうものか。また、どうして水道水に混入したのかについて説明したい。

ベンゼンとはなにか

ベンゼンは高校の化学の時間でも習う基本的な有機化学物質のうちの一つである。炭素数は6で、この6個の炭素が環状につながって六角形を形成している。この構造はベンゼン環、いわゆる亀の甲といわれるものだ。

ベンゼンの化学構造

ベンゼン自体が有機溶剤としてつかわれるほか、様々な化学製品の原料となる。例えば、PETボトルや発泡スチロールなどもベンゼンが原料である。ベンゼンは化学業界では、かなりありふれたものなのだ。

ベンゼンは無色透明の液体で、水には溶けない。揮発性があり、引火性があるので、マッチの火を近づけただけで燃える。しかし、特にベンゼンが問題視されるのは、それが人体に非常に有害なものだからだ。

ベンゼンは発がん性があり、遺伝性疾患の原因ともなる。経口で摂取した場合だけでなく、皮膚に着いただけでも体内に吸収されるし、あるいは揮発性があるので蒸気を吸引すれば体内に入ってくる。

体内に入ると、ベンゼンには麻酔作用があるので眠気やめまいを催し、長期に吸引し続けると中枢神経系、造血系に障害を起こす。白血病の原因ともなる。IARC発がん性対象一覧表ではグループⅠ「ヒトに対する発がん性が認めれる」に分類されており、日本の法律では特定化学物質に分類され、取り扱いには様々な制約が設けられている。

と恐ろしげなことを書いたが、実は筆者自身が学生時代には、かなり安直にベンゼンを取り扱っていた経験がある。ベンゼンはさまざまな有機物質を溶解する性質がある。例えば手についたアスファルトは石鹸でもなかなかとれないため、当時筆者はベンゼンで手を洗っていた。そうすると実に簡単にアスファルトが取れるのである。

今から考えると、ずいぶん乱暴なことをしたと思うが、それから50年近く経っても、今のところ幸いにも健康被害はない。ベンゼンは確かに危険な物質であるが、ちょっと手についたから、少し蒸気を吸ったからといって、すぐにがんになるとか、倒れてしまうとか言う物ではない。といってもこのような取り扱いは行うべきではないのはもちろんのことである。

ちなみにベンゼン環を含む化合物は芳香族と言われるが、ベンゼンそのものはよい香りどころか、実に嫌な刺激臭を持っている(ベンゼン環を含むものにはよい香りのものもあり、例えばニトロベンゼンはバニラのような甘い香りを持っている)。

ベンゼンとは以上のような物質である。ではなぜ、こんな危険なものが水道水に混入したのだろうか。

なぜベンゼンが水道水に混入したのか

ベンゼンが問題となったのは、今回だけではない。東京都の築地市場移転でも、移転先の敷地からベンゼンなどの有害物質が検出されて問題となっている。この場合は、移転先が東京ガスの工場跡地であったことが原因だろう。都市ガスは従来は石炭から作られていた。石炭をガス化するときにタールが副製し、この中に高濃度のベンゼンが含まれるからだ。

室蘭の場合、水道水から検出されたベンゼンの出どころは、ガソリンスタンドの地下タンクから漏れ出したガソリンである。ベンゼンはもともと原油にも少量含まれているが、ガソリンのオクタン価を上げるために使われる改質工程でベンゼンが生成する。ベンゼン自体がオクタン価の高い物質である。

また、市販されているガソリンには重油を分解した分解ガソリンが半分程度ブレンドされている。この分解ガソリンにもベンゼンが含まれている。

このため、従来、ガソリンには数%のベンゼンが含まれているのが普通であったが、やはり発がん性やその他の毒性の問題から、石油業界は多大の費用をかけて各製油所にベンゼンの除去装置を導入してきたという経緯がある。それでも完全に取り除かれているわけではなく、1%以下ではあるが少量のベンゼンが現在でもガソリンに含まれている。

ガソリンスタンドは地下タンクを二重構造にするなどして、ガソリンの漏洩を防いでいるはずだが、腐食など何らかの原因によってガソリンがタンクから漏れ出し、地下を汚染したのだろう。

漏洩したガソリンが地下水とともにガソリンスタンドから流れだし、一方、水道管についても破損している箇所があって、そこから水道水にガソリンが混入したのではないだろうか。ニュースではベンゼンが検出されたと騒がれているが、ガソリンそのものが水道水に混入し、そのガソリン成分の中でも特に毒性の高いベンゼンが問題とされたのだろう。

ガソリンタンクからなぜガソリンが漏洩したのか、健康被害はどの程度なのかについては、今後調査が進められるであろう。

ユーグレナ社がマレーシアでバイオ燃料の工場建設を検討 ミドリムシはあきらめたのか?

12月14日、ユーグレナ社はマレーシアのペトロナス社およびイタリアのEni社と共同で、バイオ燃料の製造工場をマレーシアに建設することを検討していると発表した。

ユーグレナ社はミドリムシ(英名ユーグレナ)という微細藻類を栽培して、これを健康食品として販売している会社である。近年、このミドリムシから油分を取り出し、ジェット機やディーゼル機関の燃料とする事業に進出して注目されている。

そして、今回、マレーシアに大規模なバイオ燃料工場を作ることを検討しているという。これはいよいよユーグレナ社はミドリムシバイオ燃料を商業的規模で生産し、世界に打って出ようというのだろうか。

しかし、である。ここで疑問が湧く。なぜマレーシアなのか。それは逆にユーグレナ社がミドリムシをあきらめたことを示していると筆者は考える。

ミドリムシに限らず、微細藻類は他の油糧植物に比べて成長が早く、栽培面積当たりの収率も高い。アメリカのメーン州ほどの面積で微細藻類を栽培すれば、世界中で使われている石油と同じ量の油分が得られるという試算もある。

さらに、ミドリムシは光合成を行うので成長するときには空気中のCO2を吸収するから、燃やしても空気中のCO2濃度を増やさない。地球温暖化防止にもなる地球に優しい燃料である。つまり、ミドリムシ油はいいことずくめなのだ。

ユーグレナ社はミドリムシ油を使って製造したバイオ燃料を「サステオ」と名付け2021年から販売を開始している。その後、航空機やディーゼル機関での試験運用も行って、着々と実績を上げてきた。特に航空機用燃料は、今世界中で注目されている持続可能航空燃料(SAF)の一つとして認められている。

(写真はイメージ)

そして今回のマレーシアでのプラント建設計画である。製造能力は最大12,500バレル/日(約72.5万Kℓ/年)というから、これは本格的な商業生産レベルと言っていいだろう。いよいよ、ユーグレナ社がミドリムシ油バイオ燃料の本格生産に乗り出し、世界に打って出るときが来たのだろうか。

と、ここまでは順調であるように見える。しかしながら問題もある。実はサステオはミドリムシ100%のバイオ燃料ではない。割合は公表されていないが、かなりの量の廃食用油由来のバイオ燃料が混合されているのだ。廃食用油とはてんぷらなのどの調理に使った植物油を回収したものである。

なぜ、ユーグレナ社がミドリムシ油100%のバイオ燃料を使わないかは公表されていないが、多分コストの問題だろう。一方、廃食用油の問題は量である。人間が食べた残りの食用油はいくら集めても、ジェット機が一度に使う大量の燃料とは比べものにならないほど少ない。これでは、事業の拡大は難しいだろう。

今回のマレーシアのプロジェクトであるが、年間65万トンの原料を使用するというが、そんなに大量の廃食用油が得られるとは思えない。ではいよいよミドリムシ油を原料にするのかというと、そうではない。同社のプレスリリースによると「将来的には微細藻類由来の藻油などのバイオマス原料」を使うとある。あくまでも「将来的に」である。

おそらく、このプロジェクトが開始されれば、原料としてパーム油が使われることになるだろう。なぜならマレーシアは世界第2位のパーム油生産国であり、なんと世界のパーム油の3分の1を生産している。マレーシアといえば当然、パーム油である。

パーム油は既にバイオ燃料として大量に使用されており、技術的な問題も少ない。おそらくペトロナスもEniもパーム油を使うことを考えて、このプロジェクトに参加しているだろう。

つまり、ユーグレナ社がマレーシアを選んだのは、ミドリムシをあきらめ、パーム油に切り替えたということを意味しているのではないだろうか。ただし、それが悪いことではない。

ユーグレナ社がバイオ燃料の原料としてコストのかかるミドリムシではなくて、パーム油を選択したとすれば、それは現実的な選択と言えるだろう。せっかくミドリムシ油からバイオ燃料を作る技術を開発してきたのに、それを生かせないのは残念であるが、ここはおとなの判断ということだろう。

2022年12月17日