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ブログの記事がオルタナとYahooニュースに紹介されました

ブログの記事「EV(電気自動車)はエコじゃない? ネット知識は間違いだらけ」がオルタナ誌とYahooニュースで紹介されました。

オルタナ)

ヤフー)https://news.yahoo.co.jp/articles/8b5e6cc9b0cb7b1a85d7d224630ac520730948dc

水素は危険なのか? 爆発して町半分吹っ飛んだという話は本当か

再生可能エネルギーを使用して作られるグリーン水素や、生成時に発生したCO2を地中に閉じ込めたブルー水素などを使って脱炭素を進めようという話が進められている。

ところがユーチューブを見ていると、水素は大変危険なので普及しないと話をしている人を見かけた。そのユーチューバーによると、ヨーロッパでは水素ステーションが爆発して町半分くらい吹っ飛んだという。だから水素は大変危険なので使ってはいけないというのだ。

このユーチューバーの解説はとても歯切れがよくて、面白いので好きなのだけれど、水素が爆発して町半分が吹っ飛んだって話は聞いたことがない。ということで調べてみた。

Wikipedia(英語版)の「hydrogen safety(水素の安全)」の項には水素爆発に関する重大事故事例が23件、リストアップされている。1937年に起こった、あの有名なヒンデンブルク号の火災爆発事故から始まり、2011年の福島第一原発の水素爆発事故も含まれる。そして最新の事例として2023年7月に起こった燃料電池バスが水素チャージ中に爆発した事故までが記録されている。しかし、ヨーロッパで水素ステーションが爆発して町半分が吹っ飛んだという事故は載っていない。

飛行船ヒンデンブルク号の火災事故

Wikiのリストにはもっと小さな事故も含まれているのに、こんな大きな事故が記載漏れになっているとも思えない。Wiki以外にもネットでいろいろ検索したが、それらしい記事はまったくヒットしなかった。ということで、町の半分が吹っ飛んだという話はガセネタだろう。そのユーチューバーは何か別の事故を勘違いしたんじゃないだろうか。

しかし、Wikiのリストには、それに多少近いような、当たらずといえども近からず(遠からずではなく)という記事を見つけたので紹介したい。

2018年2月12日 アメリカ カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のダイヤモンドバレー

圧縮水素タンク24本を積んだトラックが水素ステーションに向かう途中、道路上で火災が発生した。火災は午後1時20分頃ころ発生し、午後4時前に消火されたが、この間、爆発の危険があるとして、ダイヤモンドバレーの半径1マイル(800m)の地域の住民が避難することになった。

この事故はかなり広い範囲の住民が避難することになったが、実際に爆発が起こったわけではない。水素ステーションの事故でもないし、場所もヨーロッパではなくてアメリカだ。

2019年6月10日 ノルウェー サンドヴィカ

ノルウェーのUno-X社の水素ステーションで爆発事故がおこった。この事故を受けて、Uno-X社のほかの水素ステーションも一時閉鎖された。Wikiの記事ではこの事故の被害状況が記載されていなかったので、他のサイトの情報によると以下のとおりである。

  • 爆発音が数マイル離れたところでも聞こえ、近くの道路が閉鎖され、交通が混乱した
  • 路上にいた車両のエアバックが衝撃によって作動し、2名が緊急治療室で検査を受けた
  • 犬が4階から飛び降り、オフィスビルの窓ガラスが破損した

この事故はヨーロッパであり、水素ステーションの爆発事故であったが、町半分が吹っ飛んだということもなく、負傷者もいないようだ(4階から飛び降りた犬は無事だったのだろうか)

2020年4月7日 アメリカノースカロライナ州ロングビュー

OneH2社の水素燃料プラントで爆発が発生した。爆発は数マイル離れたところでも感じられ、約60軒の家屋に被害が出た。爆発による負傷者はいなかった。
この事故は60軒もの家屋に被害が及んだことからかなり規模の大きな事故であったが、爆発したのは水素プラントであり、水素ステーションではない。負傷者もおらず、町半分が吹っ飛んだという話ではない。

確かに水素に関する事故はいくつか起っている。だが、水素だから特に危険というほどでもない。水素だけで火災爆発が起こることはなく、水素という①燃える物が空気中の②酸素と混じり合い、何らかの③着火源があるという3つの条件が重なったときだけ火災や爆発が起こる。

水素はニトログリセリンのように衝撃や圧力だけで爆発するというものではなく、ガソリンと同じように3つの条件が必要だ。むしろ、ガソリンは容器から漏洩すると床に溜まって、濃度の濃い蒸気を作って空気と混ざりあうから爆発しやすくなる。京都アニメーションで犯人が事務所にガソリンを撒いて放火した事件がこれだ。

これに対して水素は非常に軽い気体だから、容器から漏れれば、どんどん上に登って行き、拡散してすぐに薄まってしまうから、着火しにくい。容器から漏洩した場合の危険性は、水素の方がガソリンより、むしろ安全かもしれないのだ。

水素は絶対安全とはいわないが、それなりの注意を払えば、ガソリンやLPGなどと危険度は同じか、むしろ小さいくらいだ。むやみに恐れる必要はない。

2023年10月20日

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米研究所でレーザー核融合の「点火」に成功? これで核融合発電の実用化が実現とはならない理由

【この記事は、オルタナ誌、Yahooニュースで紹介されました】

米ローレンス・リバモア国立研究所は8月6日、核融合の実験で、投入量を上回るエネルギーを得ることに再び成功したと発表した。昨年12月5日の同実験で、2.05メガジュールのレーザーエネルギーを燃料カプセルに投入した結果、3.15メガジュールの出力を得て、エネルギーの「純増」に成功したと発表していた。今回の実験の結果は12月のときよりエネルギー収量が大きかったという。

この実験結果を受けて、ついに核融合の点火に成功したとする報道もあり、これで核融合発電が現実味を帯びてきたとか、実用化がもう目前であるかのように報道する向きもある。

そうだろうか。もう核融合発電の実用化は目前なのだろうか。実際に核融合が「点火」したというのは正しいのだろうか。ここではそんなことはない。核融合発電が点火したとか、実用化間近なんて話は嘘っぱちだという話をしたい。

今回の核融合実験の意味

今回の核融合実験の成果について、焚火で考えてみよう。
寒いので焚火をしようと考えた。薪を集めてライターで火をつけたが、なかなか火が着かない。ようやく着火したと思っても、その火の大きさはライターの火よりも小さいし、ライターを消すと薪の火も消えてしまう。これなら焚火をするより、ライターの炎で温まった方がいいくらいだ。というのが今までの成果だった。

今回の成果は、薪に火が着き、さらにその炎がライターの炎よりも大きくなったということである。焚火の場合は、ライターの炎より大きな炎ができたことには意味がある。その炎が新たな着火源となって他の薪を燃やすことになるからだ。ライターで薪に火が着くのなら、その火より大きな炎ができれば、それが着火源となって次々に燃え広がって行くことになる。これが焚火に点火したということである。

同じような現象に核分裂がある。原子炉では核燃料に含まれるウラン235という原子が焚火の燃料にあたる。ウラン235に中性子が当たると、分裂して熱が発生するとともに新たな中性子を2~3個放出する。この中性子は消滅してしまう場合もあるし、他のウラン235にあたる場合もある。後者の場合は中性子が当たったウラン235も核分裂を起こして、再び2~3個の中性子を放出することになる。

このようにして核分裂するウラン235の数が増えて、消滅する中性子と同じ数になった状態を臨界という。この臨界を越えれば燃料は放っておいても核分裂を継続することになる。これは焚火が放っておいても薪がなくなるまで燃え続けるのと同じである。原子炉の場合の点火といっていいだろう。

では、今回のローレンス・リバモアの結果は、この焚火の点火、あるいは原子炉の臨界にあたるのだろうか。残念ながらそうではない。核融合によって得られたエネルギーが他の燃料の核融合の原因となって、核融合が継続するかというとそうではないからである。

あくまでも核融合によって放出されたエネルギーが核融合を起こさせるために使ったレーザーのエネルギーを上回ったという計算上の結果である。電卓をたたいて計算したらそうなったというだけに過ぎないし、それ以上の意味はない。

焚火の例で言えば、ライターよりも大きな炎ができたが、ライターを消してしまえば焚火も消えてしまうという関係なのだ。核融合のエネルギーがその核融合を起こすレーザー光のエネルギーが大きくなったといって、核融合が自動的に継続するわけではない。いったい何を騒いでいるのだろうか。

核融合発電の実用化は近づいたのか

今回の成果は、とりあえず核融合を狙って、きちんと起こすことができたという意味ではそれなりに評価できるだろう。その時の必要エネルギーが発生したエネルギーを上回っていたかどうかは単に計算上の問題に過ぎない。仕入れ価格より、売値の方が上回ったという会計上の意味はあるだろうが、物理的な意味はない。

ちなみに、今回のレーザー出力を実現するために、実はその200倍の電力が投入されている。つまり、同じレーザーを駆動するための電力を200分の1にするか、核融合によって発生するエネルギーを200倍にするかしてようやく、エネルギー的にはブレークイーブンになる。ここまで達するにはまだまだ先が長い。さらにエネルギー的に黒字になったからといって核融合発電が実現するわけでもない。

核融合発電を行うためには、継続的に核融合を起こす必要があるが、今回の実験で核融合が起こった時間はなんと10億分の1秒単位に過ぎない。もちろん10億分の1秒でも、これを繰り返せばいいわけであるが、同研究所の設備の能力では一日に数回しかレーザー照射ができないという。そして1回の核融合で生み出されるエネルギーは3.15メガジュール、ガソリンに換算して0.1リットル分に過ぎないのだ。

一方、これだけの核融合エネルギーを生み出すために使われた設備は、巨大な192本の高出力レーザー装置で、そのサイズはフットボール場3面分もある。この巨大な設備をつくるためには膨大な費用がかかっただろうが、それで生み出されるエネルギーがガソリン0.1リットル分というわけだ。

この設備をそのままスケールアップして核融合発電に持っていくとしたら、膨大な設置面積と、膨大な費用がかかるだろうし、核融合で得られたエネルギー(高速中性子線のエネルギー)を電力に変える設備も別に必要となる。

あくまでも、今回の成果はフットボール場3面分もある巨大な実験室で、ごく短時間(10億分の1秒単位)、ごく少量(直径数ミリ程度)の燃料で核融合が起こったということであり、あくまでも巨大な実験室の成果に過ぎない。その設備をそのままスケールアップして核融合発電所が実現するという話ではない。

核融合発電は可能なのか

核融合が実験室で成功したからといって、核融合反応を商業発電に持っていくためには、越えなければならない多くの問題がある。

まず、核融合に使う燃料としてトリチウムが使われる。トリチウムは地球上にはほとんど存在しないから、どうやって手に入れるのか。アイデアはいろいろあるが目途がついているわけではない。また、トリチウムは、それ自体が放射性物質であり、取り扱いが難しい物質である。

核融合で発生するエネルギーの多くは高速中性子の形で放出される。高速中性子はすこぶる危険であり、人体に対してももちろんだが、様々な材料を簡単に劣化させるという性質がある。ローレンス・リバモア研究所で用いられるような、巨大で高価な設備も数年で劣化して使用できなくなる。

また、発電所とするためには、この高速中性子からエネルギーを電力として安全に取り出さなければならないが、その技術はまだ確立していない。
これらの未解決の問題はそう簡単には解決できないだろう。

これらが技術的に解決できたとしても、さらに厄介な問題が待ち構えている。それは経済性という問題である。核融合を発電に利用するためには、巨大な設備が必要となり、設備自体が精密機械であるから非常に高価なものとなる。その高価な設備が2~3年で取替えとなると、固定費負担は膨大なものとなる。さらに、燃料となるトリチウムの製造コストがどうなるのか見当もつかない。

一方で、太陽光や風力の発電コストは飛躍的に低下しつつある。太陽光の発電コストは、2030年には1kWhあたり10円程度まで下がっていき、さらにもっと下がるといわれている。

核融合発電は30年後に実現すると、ずっと前からいわれ続けてきたがまだ実現していない。例え物理的に実現しても、そのコストが太陽光発電のコストまで下げられなければ、何十年かかっても実用化はしないということになる。

2013年8月24日

次に経済発展するのはアフリカ諸国? 各国の人口の多い国ベストテンのグラフから

国連の世界人口予測

昨年11月に発表された国連の人口予測(World Population Prospects 2022)の中で興味あるグラフを見つけた。世界の国別人口の多い国ベストテンである。世界の国の中で人口の多い国、1990年、2020年の上位10か国の実績と2050年の予想を図示したものである。

世界でもっとも人口の多い国は昨年まで中国であった。しかし、その人口は減りつつあり、2022年時点で14億2,600万人だったが、2050年には13億人台まで減少すると見込まれている。一方、インドは同じ時期に14億1,600万人から16億6,800万人まで増加すると予想されている。実際に今年、中国はインドに抜かれて第2位になっている。

3位はアメリカで、1990年から2050年まで一貫して、その順位は変わらない。4位のインドネシアは人口は増加しているもののナイジェリアに抜かれて2050年には6位に下がる。

ウクライナで悲惨な戦争を行っているロシアは少しずつ人口が減少しており、1990年に6位だったが、2022年には9位に、2050年には14位まで後退する。わが日本はというと、すっかり忘れていたが1990年代には実は第7位で、世界の人口ベストテンに入っていた。しかし、2022年には11位とベストテンから転落しており、2050年にはこのグラフでは完全に無視され、いったいどこまで落ちたのか分からないほどである。

大陸別でみると1990年にベストテンに入っていたのはアジアが6か国で最も多く、その他は中南米、北米、ロシア、アフリカがそれぞれ1か国ずつであった。それが2022年になるとアジアが5か国に減り(日本が脱落したため)、代わりにメキシコがベストテンに入っている。

そして2050年の予測であるが、アジアは5か国で変わらず、ロシアとメキシコがベストテンから転落。一方、躍進が著しいのはアフリカ勢で3か国に増える。これは、2022年にすでにベストテン入りしていたナイジェリアのほかにコンゴ民主共和国とエチオピアがベストテン入りするからだ。そのほかは北米1(アメリカ)、中南米1(ブラジル)である。

特にコンゴ民主共和国は2022年時点で1億人以下(9,700万人)だった人口が2050年には2億1,500万人と2.2倍になる。ナイジェリアとエチオピアもそれぞれ1.7倍になると予想されている。中国、ロシア、メキシコが人口減になるのと対照的だ。

人口が増えた分だけその国のGDPが増える

この国連の報告書では、これから2050年にかけて人口が増加するのは、インド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピアなど貧しい人が多い国ばかりだ。貧しい人々の住む国の人口が増え、豊かな人たちが減って行く。そういう未来となるのだろうか。

しかし、人口が増えることは経済にとっては悪いことではない。一人当たりのGDP、つまり一人当たりの稼ぎが変わらないとすれば、人口が増えれば単純に考えて、その分だけ国のGDPが増えることになる。

例えば、コンゴ民主共和国は人口が2.2倍になるのだからGDPも今の少なくとも2.2倍になるはずである。1国の国力、経済力としてみた場合、人口が増えればそれだけ、国力や世界での影響力が増えていくことになるだろう。

逆に日本のように人口が減っていくと、一人当たりのGDPが変わらないとすれば、人口減に伴ってGDPは減少していく。日本は今のところ世界第3位の経済大国であるが、やがてすぐに、その地位を他国に奪われることになるだろう。中国も人口減少に伴ってその経済力の伸びは鈍化していくか、日本のようにマイナス成長に転じるかもしれない。

人口ボーナスでもアフリカ勢は有利

人口ボーナスという考え方もある。人口ボーナスとは生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(14歳以下の年少人口と65歳以上の老年人口の合計)の比率が小さくなることにより、経済が活性化することである。つまり、働き手が多くなり、働かない子供や老人の比率が少なくなることによって、生活に余裕ができて、個人消費が活発になり、経済が潤うことになる。

女性ひとりが生涯に産む子供の数を特殊出生率というが、この数字は世界的に低下してきており、これはアフリカも例外ではない。アフリカでは、最近生まれた子供が生産年齢に達するころには、出生率が低下し、育てなければならない子供が少なくなる。一方、人口膨張期以前に生まれた人たちは老人となるが、それほど比率は高くない。その結果、アフリカ諸国は人口ボーナスという点でも有利になるだろう。

人口が増えれば市場も大きくなる

人口が増えれば、当然、消費も大きくなり、市場としての規模も大きくなる。中国が経済的に発展した理由のひとつが、その市場規模であり、外国資本がその市場を狙って大挙して進出してきた。それと同じで、今後、人口が増えてくるアフリカ諸国にも海外資本が入り込み、また安い労働力を使って様々な工業製品を作り出す。そんな好循環-日本も韓国も、台湾も、そして中国も辿った道-がアフリカで生み出されるかもしれない。

先日、岸田首相がアフリカを歴訪してきた。日本はアフリカとはあまり密接な関係を築いてこなかったが、今後はアフリカとは良い関係を作っておく必要があるだろう。

日本の新しいバイオ燃料政策により、米国産バイオエタノールの対日輸入が増加?

先月末の3月31日。米国通商代表部のホームページに「日本の新しいバイオ燃料政策により、米国製エタノールの輸入が増加」という記事が掲載された。

これによると、日本がバイオ燃料政策を変更したことによって、米国の対日バイオエタノール輸出が年間8000万ガロン(約30万キロリットル)以上増加し、毎年1億5,000万ドルから2億ドル(195億円から260億円)の輸出額になる可能性があるという。

この日本の政策変更は通商代表部、米国農務省および在日米国大使館の働きによって実現したもので、日本政府が二国間貿易関係を強化するための新たな一歩を踏み出したと述べている。

また、米国再生可能燃料協会(RFA)や米国穀物協会などの民間団体もこれを歓迎する声明を発表している。

しかし、これに対して日本側の報道はほとんど見当たらない。一体、日本側はどんな政策変更をしたのか。今回の通商代表部の記事は何の話をしているのか。まったく理解できない人も多いのではないだろうか。これについては少し説明が必要である。

意外に知らない人が多いと思われるが、実は日本はかなりの量のバイオエタノールを海外から輸入して、ガソリンに混ぜて使っている。これはエネルギー供給構造高度化法という法律に基づく告示の形で決められていることであるが、日本の石油会社は原油換算で年間50万キロリットルのバイオエタノールをガソリンに混合して販売することが義務付けられているのである。

実際には、日本の石油会社はバイオエタノールを一旦ETBEというものに転換して、このETBEをガソリンに混合している。このETBEは通常のガソリンとほとんど同じ性質を持っているから、多く消費者はそれと気づかずに使っているであろう。

燃料用バイオエタノールは国内では作られていないので、この年間50万キロリットル原油相当のバイオエタノールは全て輸入である。主な輸入先はブラジルと米国だ。ただし、輸入には条件があってバイオエタノールを使ったときのCO2排出量がガソリンに比べて55%以上削減されていなければならない。このような条件を判断基準という。

バイオエタノールが燃えた時に出てくるCO2は明らかにカーボンニュートラルだから、排出量はゼロと考えることができる。しかし、バイオエタノールを製造する際に、電力や熱源として天然ガスが使われるし、輸送するときにも石油が使われる。また、肥料の製造時には大量の化石燃料が使われる。

つまり、バイオエタノールはカーボンニュートラルといわれるが、これらの間接的なCO2排出量を勘定に入れると、完全にはCO2排出量はゼロではない。この間接的なCO2排出量をLCGHGという。

このような製造や輸送も含めたCO2排出量をガソリンと比較すると、CO2削減量はブラジル産の場合62%、米国産の場合は51%削減と計算されていた。この削減率を判断基準である55%削減と比較すると、ブラジル産はOKだが、米国産はNGということになる。

では米国産バイオエタノールはまったく輸入できないかというと、そうではない。ブラジル産と米国産をどちらも輸入して、それぞれのCO2排出量の加重平均で55%以上削減となればいいと決められている。米国産だけを輸入することはできないが、ブラジル産との抱き合わせで輸入すればいいのだ。

さて、これらの決まりは2022年度で終了するので、年間50万キロリットルのバイオエタノール輸入の義務はなくなってしまう。そのため、経済産業省は年度末の3月31日に告示の改訂を行って、年間50万キロリットルのバイオエタノール導入義務を2027年まで延長することとした。

このときの改訂に伴ってCO2排出量つまりLCGHGについても新たなデータをもとに計算が行われた。その結果、ブラジル産はガソリンに比べてCO2排出量が68%削減、米国産は58%削減となった。ここで、米国産バイオエタノールも晴れて判断基準の55%削減をクリアすることになったわけである。(我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第10回)

ということは、今まで行われてきたブラジル産バイオエタノールとの抱き合わせ輸入が不要となり、米国産だけの輸入が可能となったということだ。

米国ではバイオエタノールがガソリンに10%混合(E10)して売られている

米国通商代表部は、日本のバイオエタノール輸入量の総量は変わらないものの、ブラジル産を押しのけて米国産を買ってくれると期待して米国産の輸入が増えると読んでいるわけだ。

いろいろと分かりにくい話だが、要は、米国産バイオエタノールのCO2排出量LCGHGを計算しなおしてみたら、判断基準に合格したので、大手を振って米国産バイオエタノールが輸入できるようになったということである。

もちろん、LCGHGは単に数字上クリアしたというだけでなく、バイオエタノール製造時の熱源の電化、輸送時の燃費の向上、肥料製造時のCO2削減など脱炭素化に向けた米国内の動きがあったわけである。もちろんバイオエタノール輸出を増やしたい米国政府の圧力もあったであろうし、今後も輸入量を増やすように圧力をかけてくるだろう。

かつて、日本の首相はトランジスタ(ラジオ)のセールスマンと言われた。そのころ日本は外貨が不足しており、できるだけ輸入を増やして外貨を稼ぎたいと、官民挙げて活動していたものである。同様に米国も輸出に力を入れ、輸出が増えれば、それが各省庁の手柄となる。

近年、わが国は輸出を増やそうという努力が余り見えない。ここ数年、日本は貿易赤字がかさんでいるのだから、日本の優秀な脱炭素技術を中心に輸出の売り込みをかけたらどうだろうか。それが国の活性化につながり、世界の脱炭素化にも貢献することになるだろう。

Jアラートは正しかった? 北朝鮮のミサイルが本当に北海道に着弾した可能性も

13日午前7時26分。防衛相は北朝鮮から弾道ミサイルが発射されたと発表。その30分後の午前7時55分、政府はJアラートやエムネットを通じて、ミサイルが北海道周辺に落下するとみられるとして、避難を呼びかけた。そして8時16分、当該ミサイルは北海道周辺に落下する恐れはなくなったと発表した。

このアラートを受けて、札幌市内では通勤客などが一時避難し、JRや地下鉄、路面電車が全線で運転を見合わせ。JRの28本の列車が運休や部分運休となったほか、最大40分の遅れが出た。このほか、道内のすべての高速道路がおよそ1時間に渡って通行止めとなっている。

Jアラートは以前にも、ミサイルにほとんど関係のない地域で発令されるなどのミスがあった。今回も結果的に日本領内への落下が起きなかったため、お粗末なアラームシステムとか、もっと確実な情報を出すべきとか、信用を失って「おおかみ少年」になってはいけないなどの批判が相次いでいる。

ミサイル探知システム

実は、今回のミサイルであるが、Jアラート発令前にレーダーから消失している。政府は消失前のミサイルの軌道から、わが国の北海道周辺に落下する恐れがあると判断してアラートを発令したもの。

北朝鮮がミサイルを発射すると、まず米国の偵察衛星が発射時に発生する赤外線を感知。その通報を受けて、自衛隊のイージス艦のレーダーで追跡し、軌道を計算してわが国の領土内に着弾すると判断されれば、警報を発令する。ここまでは自衛隊のミサイル探知システムに何らかのミスや不備があったという話ではないようだ。

その後、実際にはミサイルはレーダーから消えていしまったわけではあるが、このままミサイルが飛び続けているとすれば、北海道周辺に着弾する可能性が高いため、アラートが発令された。しかし、実際にはミサイルがわが国領土内に落下してくることはなかった。だから、騒ぎ過ぎだとか、オオカミ少年だとか非難されているわけである。

しかし、ここで疑問がある。なぜ、ミサイルがレーダーから消えたのか。もしレーダーから消えていなかったらどうなっていたのか。

レーダーから消えたのは自爆したから

弾道ミサイルのロケットモーターが作動している時間は、実はほんの数分しかないということはご存知だろうか。ロケットモーターはほんの数分だけ作動し、燃料が燃え尽きると、あとは慣性力だけでミサイルは飛んでいく。つまり大砲の弾と同じである。大砲の炸薬が一瞬で燃え尽きるのに対して、弾道ミサイルは燃料が数分間燃え続けるという違いしかない。

この数分間でミサイルは軌道が修正されて、目標に向かって飛んでいくことになるが、それを過ぎれば軌道を修正することはできない。まさに大砲の弾と同じ状態になる。だから、燃料が燃え尽きたあと、ミサイルがどこに落下するかはこの時点で決まってしまう。

自衛隊がこの軌道を計算し、それが北海道周辺に落下すると予想したとすれば、これはほぼ正しく北海道周辺に落下することになるだろう。

最近、北朝鮮はミサイルを非常に高い高度まで打ち上げるロフテッド軌道を採用している。そうしなければ飛行距離が長すぎて日本を通り越して、実際にアメリカまで飛んで行ってしまうからだ。

ロフテッド軌道で打ち上げる場合、高度は6000㎞に達する。ちなみに旅客機の高度は10㎞である。そして、この高度まで打ち上げた後、ミサイルは日本海に落下することになるが、日本海の幅は800㎞程度しかない。

だから北朝鮮のミサイルはほぼ真上に打ち上げて、あとはそのまま落ちてくるという感じになる。ここで、もし打ち上げ角度がわずかにでも狂えば、ミサイルは簡単に日本海を飛び越えてしまう。あるいは自国の領土内に落下する可能性もある。

もし、軌道が狂ってしまったらどうするのか。おそらく北のミサイルにも自爆装置が組み込まれているだろうから、このときには、地上から指令電波を送って自爆させることになる。先日、日本でもH3ロケットが打ち上げに失敗したが、このときも自爆させている。

今回の北朝鮮のミサイルも軌道が狂ったので自爆させたのではないだろうか。レーダーから突然消えたのは自爆したためと考えれば納得がいく。もちろん、自衛隊のレーダーが単にミサイルを見失っただけなのかもしれないのだが。

レーダーから消えてなかったらどうなるのか

ではもし、ミサイルがレーダーから消えなかったら、つまり軌道が外れたにも拘わらず北朝鮮が自爆させなかったらどうなるのか。それまでの軌道計算が正しければ、ほぼ間違いなくミサイルは北海道周辺に落下することになる。ミサイルがレーダーから消えたとしても、自爆したわけではなく単にレーダーが見失っただけかもしれない。だからやはりアラートを出して警戒しておくべきだろう。

ただし、実験用のミサイルなら、日本に着弾しても山林や畑のような人口密度の低い地域に落下する可能性が高い。だからそれほど恐れる必要はないのだが、しかし、ミサイルに核爆弾が積まれている場合は、甚大な被害が発生することになる。

自衛隊のレーダーは軌道を確定することはできるが、ミサイルに何が積まれているのかまでは分からない。核爆弾でなくても通常の爆薬や毒ガスが積まれている可能性がないとは言い切れないのだ。

このまま北朝鮮のミサイルがわが国の領土に落下するのならば、自衛隊の迎撃ミサイルSM3で撃墜していたかもしれない。しかし、公海上で外国のミサイルを撃ち落とすことは、国際法上の問題を引き起こすかもしれない。あるいは迎撃ミサイルを打っても外れていたかもしれないが、これはこれで問題である。

北朝鮮は今回のミサイル打ち上げについて、成功したと大々的に報道している。しかし、3段ロケットのうち1段目と2段目は順調に作動したが、3段目については言及がないという。3段目が軌道から逸れてしまったのではないだろうか。

EU 2035年からCO2排出車の新車販売禁止を決定 どうする日本

2月14日、欧州議会は2035年以降、新規に販売される乗用車と小型商用車(バン)について、CO2排出量を100%削減するという目標を承認した。つまり、2035年以降、EUではCO2を排出する乗用車と小型商用車が販売できなくなる。(年間1,000台未満の新車を販売するメーカーは除外)

では、EUと同様に2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという目標を掲げるわが国はどうするのか。実は、2021年に策定された第6次エネルギー基本計画(以下「基本計画」)には、この欧州議会の決定と同じような表現が含まれている。

基本計画のその部分を抜き書きしてみよう。

「乗用車については、2035年までに新車販売で電動車100%を実現できるよう・・・・包括的な措置を講じる。」
「8t以下の商用車については、2035年までに、新車販売で電動車20~30%、2040年までに、新車販売で電動車と合成燃料等の脱炭素燃料の利用に適した車両を合わせて100%を目指す。」

街の充電スタンド 最近よく見かけるようになってきた

乗用車は2035年に、8t以下の商用車はそれより5年遅いが、いずれもCO2削減対策として新車販売の規制が行われることがうかがえる、しかし、わが国の基本計画はEUの決定と似ているように見えて、よく見るとかなり違っている。

まず、EUの規制はCO2ゼロという目標がはっきりしており、その目標を達成するために2035年にCO2を排出する自動車の新規販売を禁止するという内容である。車の寿命が15年くらいであるから、2050年にCO2排出量をゼロにするためには、その15年前の2035年からCO2排出車の販売を禁止しなければ間に合わないという理屈である。

これに対して、わが国の基本計画ではまずCO2排出量ゼロという目標を明確には掲げていない。そして、乗用車について電動車100%導入というCO2削減手段が目標となっている。ここで注意が必要なのは「電動車」の意味である、基本計画では特に説明もなくサラッと書いてあるが、電動車は電気自動車とは違う。

ここでいう電動車とは、電動モーターで走る車という意味であろう。そうであれば、電動車は電気自動車(EV)だけでなく、バイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)なども含まれることになるが、このうちHVとPHVはガソリンエンジンを積んでいるいるから、CO2排出量をゼロにすることはできない。

一方、電動車ではないが、水素エンジン車や合成燃料車、バイオ燃料車はCO2排出量をゼロに出来る可能性があるにもかかわらず、こちらは2035年以降は販売禁止ということになってしまう。

8t以下の商用車については、乗用車と違って電動車だけでなく合成燃料等の脱炭素燃料の利用も認めるということになっている。電動車以外の手段を認めるのはいいとしても、HVやPHVの使用も認めるというのなら、これもCO2排出量はゼロにはならない。そもそもなぜ乗用車だけ電動車100%にこだわるのだろうか。

わが国の基本計画は、どうもストーリーに一貫性がない。2050年のカーボンニュートラルを達成するのなら、化石燃料を使用した車、つまりHVやPHVの使用は認められないはずだろう。逆に、化石燃料を使わない車なら電動車に限ることはなく、どんな方法でもいいはずである。

それを電動車というCO2を排出する車も排出しない車も一緒くたしてにして100%を目指し、それ以外は認めないという。いったい何をやりたいんだと思ってしまう。

わが国もいずれはEUと同様に化石燃料を使用する車(ガソリン車、ディーゼル車)の規制が必要となるだろう。そうしなければ2050年のカーボンニュートラル目標は達成できないからである。ところが今の基本計画では電動車というあいまいな言葉でお茶を濁しているように見える。

エネルギー基本計画は3年ごとに見直すことになっているから、次回の改定時には、2050年のカーボンニュートラル達成の道筋をきちんと見据えた計画を立ててほしい。

2023年3月2日

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H3ロケットの打ち上げ中止は失敗ではない

2月17日に打ち上げ予定であったH3ロケット初号機が直前になって打ち上げが停止した。これについては、打ち上げ中止と報じている報道機関が多いが、一部では中止ではなく、失敗だとする論調もある。

H3ロケットはH2A/Bの後継となる我が国の主力ロケットであり、JXSAと三菱重工業によって開発が進められてきた。今回はその初号機である。打ち上げは当初、今月12日に予定されていたが、準備作業の不具合から13日に変更されたあと、ロケットのシステムに問題が見つかり15日に延期。さらに天候不良が予想されるとして17日に延期されていたものである。

17日当日は、順調に準備が進み、新しく開発されたメインエンジンLE-9が予定どおり打ち上げ6.3秒前に点火され、正常に立ち上がったようである。しかし、その後、補助ロケットが点火される直前(0.4秒前)に異常が検知されたため、補助ロケットへの点火が行われずに、ロケットは打ち上がらなかった。

これについて、ロケットを開発したJAXAは、今回の打ち上げは失敗ではなく、中止と発表している。ところが、記者会見の席上で、ある記者がこれは中止ではなく、失敗だと発言したため、物議を醸している。

この時の、記者会見の質疑応答の概要はだいたい次のようであった。

記者  意図して止めるのを中止という。意図しない中止は失敗ではないのか。
JAXA このような事例では今まで失敗と言ったことはない。ロケットは安全に止まるように設計されている。今回は想定している中での中止なので失敗ではない。
記者 それを失敗と言うのではないか。
JAXA  どのような解釈をするのかは受け止め方の問題であるが、設計の範囲の中で止まっている。安全に止まるように設計されている。
記者 システムで対応できる範囲の異常だったんだけども、起るとは考えてはなかった異常がおきて打ち上げが止まったということか。
JAXA  そのとおりで、健全に止まっているという状態である。
記者 それを一般に失敗と言います。

この記者の発言について、礼を失すると非難する意見が多いが、やはりこれは失敗とすべきだという意見もある。失敗を中止と表現するのは、敗戦を終戦と言い換えるようなもの。誤魔化しだというのである。

もちろん失敗を中止だと誤魔化してはいけないことだ。しかし、今回は誤魔化すために中止と言い張っているわけではなく、どうみても中止というべきであろう。JAXAの技術者としても、これはそもそも失敗の範疇に入らない。失敗じゃないかと言われても、逆に「え?なぜ」と聞き返すような事象だろう。

例えば、線路上に異物があり、それを検知した電車が自動的に急ブレーキをかけて止まったとする。これは失敗だろうか。確かに定時運行ができなくなったので失敗という言い方もできるかもしれないが、一般には失敗とは言わない。むしろシステムが正常に働いて、大きな事故を防いだと評価されるだろう。

今回のH3ロケットの場合もこれと同じである。打ち上げに際しては、ひとつひとつ問題がないか厳重にチェックしていく。そのチェックの過程で問題が見つかれば、カウントダウンを止めて、問題を取り除く。その問題が取り除かれれば、またカウントダウンを継続する。問題が見つかったからと言って、いちいちこれを失敗とは言わない。

ではなぜ直前になって問題が見つかったのか。前もって問題を取り除けばいいじゃないかという反論もあるかもしれないが、直前にならなければ見つからない問題もある。

例えば、H3ロケットの燃料となる液体水素はマイナス253℃、液体酸素はマイナス183℃の超低温である。これを何日も前からロケットに注入しておくわけにはいかないから、打ち上げ数時間前に注入する。

そうすると、ロケット各部の温度が徐々に下がって行って、機器が収縮してひずみやズレが出てくる。もちろん、そのひずみやズレも計算の上でロケットは設計されているが、人間がやることなので、すべてを予測することは不可能である。だから、打ち上げ直前まで問題がないかチェックを行うことになる。

そして問題が発生すれば、カウントダウンを止めて、問題を取り除く。これは失敗とは言わない。人間がやることなので、すべてを完全に設計することなどできはしない。必ず想定外のことが起こる。だからチェックを行って問題が起これば止める。

逆にすべて完全です。間違いは起こりませんと技術者が言ったのなら、その技術者を信用すべきではない。必ず人間はミスをする。だからチェックを行って、問題があれば安全な方向、つまり、今回の場合は打ち上げ中止という方向に進むようにシーケンスが組まれている。フェイルセーフという考え方である。

メインエンジンは点火しても、止めることができるが、補助エンジンは一旦点火してしまえば、止めることができない。だから、補助エンジンに点火する前に安全に止めたのである。ちゃんと理屈は通っている。

記者はそれを失敗だと主張したが、それは予定どおりの打ち上げができなかったら失敗だと言っているのだろう。しかし、打ち上げは見世物ではない。ロケットの目的は衛星を軌道に乗せることだ。時間どおりに打ち上げられなかったから失敗ということではない。

目的を達成するために、少しでも懸念があれば躊躇なくカウントダウンを止めて原因を追究すべきであり、その積み重ねが技術開発である。異常が見つかったのに時間どおりを優先して異常を無視して、打ち上げに成功しても、それは単に運がよかったということで、技術開発にはつながらない。

今回、メインエンジンは点火したものの、安全に作動が停止している状態である。このエンジンは再使用が可能なように設計されているという。原因を究明して対策が取れれば、3月中に再び打ち上げることができるというが、今回は初号機であるから、いろいろな問題が当然起こるだろう。記者から失敗だといわれたからといって焦る必要はない。

2023年2月19日

SAFの原料は廃食用油? クロ現で報道されなかったSAFの本当の原料

2月14日のNHKの報道番組「クローズアップ現代(以下 クロ現)」でSAF(サフ)が取り上げられた。SAFとは持続可能航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)の略で、CO2の排出量を80%削減できるジェット機用の燃料である。

原料はてんぷらなどの揚げ物に使ったあとの食用油で、廃食用油といわれる。従来、厄介者とされてきた廃食用油であるが、SAFの原料となることから一気に需要が増加して海外からも買い付けが殺到。引き取り価格もこの1年あまりで3倍に高騰して、今や争奪戦となっている。


一方で、廃食用油を原料とする家畜用飼料が価格が高騰。最近の鶏卵の価格上昇の原因のひとつともなっている。

しかし、廃食用油の量は多くはない。国内の廃食用油を全て集めてSAFを作っても年間35万キロリットル。一方、航空燃料として必要な量は1,300万キロリットルだから、廃食用油だけではとても航空燃料の需要をまかないきれない。

そこで、廃食用油以外の原料として、生ごみや廃プラスチック、藻類、CO2を活用する研究が進んでいる。クロ現の放送は、そういう内容であった。

しかしながら、これでは視聴者は大きな誤解をすることになる。実はSAFの主要原料は廃食用油ではない。生ごみや廃プラスチックなどでももちろんない。

SAFの主原料は植物油。つまりてんぷらなどの揚げ物をする前の植物油。大豆油、ナタネ油、パーム油といった植物油なのである。

番組でも取り上げられていたように、シンガポールには巨大なSAF製造プラントがあるが、その所有者はフィンランドの企業、ネステ社である。この北欧の企業がなぜ東南アジアのシンガポールにプラントを建設したのか。

それは、原料のパーム油が手に入りやすいからである。パーム油はシンガポールの隣国、インドネシアとマレーシアが大産地。この両国のパーム油生産量を合わせるとなんと世界全体の87%を占める。それほどのパーム油の大生産地帯なのである。

ミドリムシ油を原料としてSAFを製造している日本のユーグレナ社も最近、マレーシアに工場建設を検討していると報道された。これもおそらくパーム油を原料として考えているのだろう。

今後、わが国でもSAFの生産プラントが建設されていくであろうが、生産が本格化すれば国内で得られる廃食用油では到底足りないだろう。やはりパーム油などの植物油に頼らざるを得なくなる。

植物油のような食料を燃料の原料として使うのはケシカランという意見もあるが、食料を作るだけが農業ではない。例えば綿花や天然ゴムは食料ではないが、これも農業である。パーム油だって、食料以外に石鹸やシャンプーなどの原料として従来から使われてきた。だから食料を作るのではなく、エネルギーを作る農業があってもいい。ただ、対象とする作物が綿花やゴムの木と違って食料として使われてきた作物であったという話である。

今後、SAFを製造する企業はその原料をどう確保するかが問題となるだろう。自前で植物油の生産まで手掛ける。例えば世界に広がる荒れ地や休耕地、耕作放棄地などを開墾して、油を取れる植物、ナタネ、大豆、パームだけでなくカメリナやジャトロファなど、SAFに特化した油脂植物を育てる。そんなビジネスが展開していくかもしれない。

2023年2月16日

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