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京王線の刺傷放火事件 ライターオイルはガソリンと同じ

10月31日。京王線の電車内で男がナイフを振り回して乗客にけがを負わせたうえ、電車内にライター用のオイルを撒いて火を着けるという事件が起こりました。これにより16人が負傷。ひとりが意識不明の重体となっています。

ここで思い出されるのが、2019 年7月に起こった京都アニメーション放火事件です。このときは容疑者が事務所の建物内にガソリンを撒いて火を着けたため、35人が死亡するという大惨事となりました。(京アニ放火事件被害拡大のなぞ
今回は火災によって死亡する人が出なかったことは幸いでした。別のブログ記事でも指摘しているようにガソリンは取り扱いを誤ると非常に危険です。(ガソリンにマッチの火を近づけても火はつかない?ウソ)一歩誤ると、京アニ事件以上の惨事になったかもしれません。

犯人が撒いたライター用のオイルですが、例えばZippoの純正オイルとすれば、従来は重質ナフサでしたが、2006年から合成イソパラフィン系炭化水素に切り替わったといいます。他のメーカーのものでも成分に違いはないでしょう。
重質ナフサとはガソリンのことです。合成イソパラフィンというのは石油を原料として合成された炭化水素で、ガソリンの成分の一つでもありますが、ガソリンほどにおいがきつくありません。ただ、引火性であることや燃えた時の熱量はガソリンとほとんど同じです。

今回の事件では、撒いたオイルの量が比較的少なかったこと。気温が低かったこと。オイルを撒いてから犯人が火を着けるまでの時間が短かったことが幸いしたと思われます。
ガソリンの量については、今回はペットボトル1本分と、京アニ事件のようにバケツ2杯分よりもかなり少なかったことが幸いしました。
また、京アニ事件が起こった7月に比べれば、気温が低く、このためオイルの蒸発量が少なかったでしょう。ガソリンは一旦蒸発して空気と混ざりあい、爆発混合気という状態になってから燃焼します。多分、今回は気温が低く、シートなどに一部がしみ込んだりしたこともあり、蒸発量が少なかったでしょう。
また、犯人はオイルを撒いてすぐに火を着けたと思われます。オイルが十分蒸発して、車両内に充満した状態で火を着けたら犯人自体も大火傷を負ったかもしれません。

走行中の電車の中で大火災になっていたら、と思うと背筋が寒くなりますが、京アニ事件を受けてガソリンを容器で買うことが規制されるようになっています。とにかく、ガソリンのような引火性の高い危険物は、大量に入手できないようにすることが大切だと思います。

2021年11月1日

【関連記事】
ガソリン火災から身を守る方法 ガソリン火災は燃えたあとも怖い

衆議院選挙各政党のエネルギー政策をまとめてみた  自民党公約の不思議

衆議院選挙の投票日が近付いてきた。ということで、主な政党(自民、立憲、公明、維新、共産)の選挙公約からエネルギー関連についてまとめてみた。
なお、自民党には政策パンフレットと政策バンクという二つの政策が掲げられている。政策パンフレットは政策バンクの概要版という位置づけなのだろうが、かなり違いがあるので両方を取り上げている。

カーボンニュートラル

まず政府が公約している2050年のカーボンニュートラル目標について、これに反対している政党はない。違いは2030年の中間目標を46%削減とするか、それ以上とするかの違い。

原発新増設

ほぼ各党が認めないとしており、自民党の詳細版も可能な限り原子力依存度を下げると書いている。それにも拘わらず、概要版では小型モジュール炉の地下立地という聞きなれない話が盛り込まれている。

原発再稼働

ほとんどの政党で原発の再稼働については、安全を確認した上で認めるとしているが、共産党は全く認めないとしている。立憲民主党には原発再稼働についての記述がないが、多分、党内でも意見が分かれているのだろう。ただし、小さな字で再稼働しなくても電力が不足することはありませんと記載されている。

再生可能エネルギー

どの政党も概ね、積極的に導入、将来の主要電源とするとしている。ただし、自民党の概要版には不思議なことに再エネについては、まったく触れられていない。

まとめ

全体的に、2050年のカーボンニュートラル目標は支持。原子力については新増設は認めないが、再稼働については安全が確認されれば認める。再エネについては、将来の主力電源とするということでほぼ一致している。

自民党の公約の不思議

ただ、ここで気になるのが自民党の概要版(政策パンフレット)と詳細版(政策バンク)の内容が違っているということ。詳細版は再エネを最大限導入し、主力電源化する。可能な限り原発依存度を低減する。としている。
これに対して、概要版についてはそもそも再生可能エネルギーという言葉すら出てこないうえ、詳細版にはない小型モジュール炉が取り上げられ、さらには「核融合開発を国を挙げて推進する」などおバカなことが書かれていている。(核融合発電は「クリーンで無尽蔵で安全」ではない  参照)
詳細版は昨日閣議決定されたエネルギー基本計画を踏襲しているのに対し、概要版は、自民党内の誰かが自分の思い入れでこれを修正したのだろう。しかし、これでは自民党はエネルギー政策をどうやっていくのか分からない。筆者は別に反自民というわけではないが、これはいただけない。

2021年10月23日

アンモニア発電の問題点 まだ解決すべき問題も山積

アンモニアを燃料として発電所で燃やそうという話題を聞くようになってきた。例えば、記事「二酸化炭素の排出量減らす 新たな発電技術を公開 JERA 碧南火力発電所」は石炭の一部をアンモニアに置き換えることによってCO2発生量を2割減らすとしている。
アンモニア(NH3)は炭素Cを含まないので、燃やしてもCO2は出てこない。だから、アンモニアを輸入してCO2の出ない燃料として石炭火力発電所などで使おうという話になっている。

しかしながら、アンモニアは燃やすときにはCO2が出ないが、作るときに大量のCO2が発生していることを忘れてはいけない。アンモニアの窒素分Nは空気から取り出せるが、水素分Hはアンモニア製造工場では天然ガスや石炭から作っている。このとき大量のCO2が発生する。
さらに、窒素と水素を化合させてアンモニアを作るときに大量の熱を消費するが、この熱を得るために天然ガスや石炭が燃やされるので、この時にもCO2が発生する。
アンモニアを燃料として使用した場合、製造工程でのCO2排出量を考慮すると、天然ガスをそのまま燃やした場合に比べて2.3倍のCO2が排出されることになる

また、アンモニアは窒素分を含むので、燃やせば当然ながら窒素酸化物が出てくる。窒素酸化物はCO2よりも強力な温室効果ガスであったり、猛毒であったりする。火力発電所で直接アンモニアを燃やすなら、この窒素酸化物を如何に出さないようにするか常に課題となる。アンモニアを石炭に混合して使ったときうまくいっても、100%で使って大丈夫だとは言えないだろう。

さらにもうひとつ、アンモニアに含まれる窒素分は空気から採られる。ということは海外のアンモニアを日本に運ぶというのは、その大半は空気を運んでいるということになる(アンモニアの重量の82%が窒素分)。だからアンモニアの発熱量は非常に低い。これで採算が取れるのだろうか。

CO2を発生させないアンモニア製造方法に切り替えればいいのだが、アンモニア発電だけが先行している。このままいけば、確かに日本のCO2排出量は削減されるかもしれないが、その削減量以上にアンモニア輸出国のCO2排出量を増やすことになる。

このようにアンモニア発電は、世間ではまるで脱炭素の救世主のような扱いであるが、まだ解決すべきいろいろな問題があるのだが

2021年10月19日

ユーグレナ社の次世代バイオディーゼルJR貨物で使用 実用化の可能性はあるか?

ユーグレナ社は、今月13日、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」の使用をJR貨物越谷貨物ターミナルにおいて開始したと発表した。使用量は年間2,388ℓで、最初は構内移送用トラックの燃料として使用し、将来はフォークリフトや機関車への拡張も検討しているとのこと。

バイオディーゼルは軽油の代替としてディーゼルエンジンで使用される燃料である。原料は主に大豆油やパーム油のような植物油であるから、使用しても空気中のCO2を増やさない脱炭素燃料である。ユーグレナ社はこのバイオディーゼルやバイオジェット燃料(SAF)をミドリムシから抽出した油分を使って製造する技術を開発しており、今回はディーゼルの方の使用にこぎつけたということである。
一般に微細藻類は太陽エネルギーを効率的に油脂に転換することができることから、単位面積あたりの油脂生産量が非常に大きく、大豆油などと比較して30倍から300倍であるといわれている。また、海や湖沼、休耕農地なども活用できるため、食糧生産と競合せず、自然林を破壊することがない。

バイオディーゼルには第1世代第2世代があるが、サステオはHVOとよばれる第2世代に相当する。写真を見ると直接、車両に供給しているように見えることから、従来の軽油の代わりにそのまま使える、いわゆるドロップイン型を達成しているのだろう。品質的にはかなり進んだバイオ燃料である。

ユーグレナ社プレスリリースより

しかし、疑問もある。実はサステオはミドリムシ油だけが原料ではなく、使用済み食用油(廃食用油)が混合して使われているのである。廃食用油を使った第二世代バイオディーゼルは欧州では既に多くの実績があるから、もしサステオの原料のほとんどが廃食用油だというなら、これは新しい技術ではない。ミドリムシ油100%にしないのは、何か技術的な問題があるからだろう。
また、廃食用油は廃棄物を減らすという意味もあるが、資源量が限られる。ミドリムシ油を原料として使わなければ大量生産はできないのである。今回、JR貨物で使われるサステオの使用量は年間2,388ℓ(1日あたり6~7ℓ)と極少量なのも、このあたりの理由があるのだろう。
微細藻類を使ったバイオ燃料は脱炭素燃料として将来が望まれる燃料であり、実用化を期待したいところであるが、ミドリムシ油の大量生産技術や採算性の問題がまだ解決されていないとすれば、実用化はまだ先の話である。

ガソリンが値上がりしても石油会社が非難されなくなった理由

最近、ガソリンの価格が高くなっている。ニュースでは7年ぶりに162円を超えたと報じられている。値上がりの原因は原油価格の上昇だ。原油価格はWTIやブレントのような基準原油の先物取引で決まる価格であるが、新型コロナが収束して経済の回復が期待されるなか、産油国が増産に慎重になっているためで、これに円安という要因が加わる。
ところで、従来はガソリン価格が上昇すると石油会社が非難されていた。不当に儲けているのではないかと。
ではガソリンの価格の内訳はどうなっているかというと、以下の通りである。(ちょっと古いが2011年の調査)

  原油コスト                     38%
  精製費                    12%
  流通費                    9%
  揮発油税、消費税       41%

このうち、揮発油税と消費税はほぼ一定である。また、精製費と流通費はほとんど調整の余地がない。結局、ガソリン小売価格は原油価格と密接に連動することになる。ガソリン価格が上がっても、石油会社が不当に儲けているわけではない。この関係が理解されたのか、最近ではガソリンの値段が上がっても石油会社が非難されることはあまりなくなった。
しかしながら、過去にはガソリン価格が上がっても、あるいは下がっても、石油会社が非難される時期があった。
1970年代に起こった石油危機以降、原油価格は高いままだったが、1986年に安値に転じた。このとき、原油価格が下がったのに、ガソリン価格が下がらないのはおかしいと、石油会社が非難された。当時、石油会社は90日分の備蓄が義務化されていたから、原油価格が下がっても高いときに買った原油が残っているので、急にガソリンの値段は下げられないのだ。そのため、政府が石油各社を指導して会計基準を従来の総平均法から後入れ先出し法に変更させた。これによって、原油の価格の変動がすぐさまガソリンの価格に結び付くようになった。
ところが1990年8月に湾岸戦争が始まると、今度は逆に原油価格が高騰することになった。当然ながらガソリン価格もすぐに上がる。それを見た当時の大臣が、まだ備蓄が90日もあるのにガソリン価格がすぐに上がるのはケシカランと言い出した。
これにはさすがに石油業界も反発。そのまま後入れ先出方式を維持した。その時々の都合によって会計方式をコロコロ変えるのは禁止されているから当然のことだ。これによって、原油価格が上がったときも下がった時も、すぐにガソリン価格に反映されるシステムが出来上がったのである。
このあとも、しばらくはガソリンの値段が上がると石油会社が非難されることもあったが、最近は原油価格の上下とガソリン価格の上下がリンクしていることが理解されたのであろう。石油会社が非難されることはなくなってきている。
なお、現在は、石油各社の財務会計は国際会計基準に合わせて総平均法に移行しているが、ガソリンの卸価格は従来どおり原油価格に連動して決められているようである。

2021年10月14日

無料レジ袋は本当に無料なのか

最近、またレジ袋が無料配布に戻るのではないかという話を聞くようになった、桜田義孝衆議院議員がレジ袋無料化について新環境相に相談したと明かしている。
レジ袋有料化の旗振り役とみなされていた小泉進次郎氏が環境相を外れ、山口壮氏が新環境相となったことで、今後の動向に注目が集まっていた。といっても環境保護のために始めた政策を環境大臣自らがもとに戻すのか。世界がレジ袋有料化に向かう中、日本だけがまた無料に戻しますというわけにもいかないだろう。

それはともかく、以前レジ袋は無料だったわけであるが、それは本当に無料だったのだろうか。レジ袋無料とはいっても結局その代金は店側で負担していた。顧客にとって無料でも、店側にとっては無料ではない。
レジ袋を無料で配布すれば、その分、店の収益が減ることになる。店の収益が減った分、結局は従業員やアルバイトへの賃金が減らされ、あるいは商品の価格に何らかの形で上乗せされることになる。あるいはレジ袋購入負担が必要経費扱いとなって国に支払う税金が減ることになる。レジ袋が無料とはいっても、結局、まわりまわって国民が何らかの形で負担しているのだ。

相変わらず、ネット上では、レジ袋の原料となるナフサは石油精製時にどうしても出てくる余り物であるかのような論調がまかり通っている。どっかの大学の先生が言うように、ナフサが余れば捨ててしまうようなものであるなら、原料はタダだから無料でもいいじゃないかということになりそうだが、これは事実を見ていない。実際はナフサは捨てるどころか、わざわざお金を出して外国から買っているのだ。

日本は高度成長期にエチレンプラントを次々に建設していった。その結果、一時期深刻なエチレンの過剰生産能力を抱えることになった。そのエチレンの用途のひとつがレジ袋だったわけである。建設したエチレンプラントの稼働率を上げるためにエチレンが大増産され、その原料のナフサが足りなくなって、輸入までするようになり現在は輸入の方が国産品よりもずっと多くなっているというのが実態なのだ。
つまり、余っているのはエチレンでありナフサではない。それをナフサが余っているからエチレンが増産されていると多くの人が勘違いしている。

レジ袋自体は無料ではない。たとえ無料で配布されたとしても、それが回りまわって結局、国民の負担になっていることを忘れてはいけない。物は大事に使おう。タダだからと言って無駄に使えば、それは環境にとっても、経済にとっても、資源にとってもいいことは何もない。

ノーベル賞受賞 真鍋モデルが世界を変えた

今年のノーベル物理学賞に真鍋淑郎博士が選ばれました。大変喜ばしいことです。授賞理由は「地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発」。今、地球温暖化は世界中の注目を浴びるテーマですが、その元をただせば真鍋博士の研究に行きつきます。このことから、博士の研究はノーベル賞に十分値するでしょう。

筆者が学生の頃、担当教授から大気中のCO2が増えてきているという話を聞きました。もう45年も前のことです。当時は環境問題と言えば、亜硫酸ガスや水銀、光化学スモッグなど比較的狭い地域の問題で、その問題も徐々に解決されつつありました。
そんな中、出てきたのがCO2の問題です。CO2自体は毒性が低く※、CO2濃度が増えたからと言ってすぐに健康被害がでるような話ではありません。だけど、これだけ化石燃料を使っているのですから当然CO2濃度は上がって行きます。もっと濃度が上がるとどんなことが起こるのかわからないけど、気味が悪いよね。というのがその時の感覚でした。

化学をやる者なら、CO2が赤外線を吸収することはほとんどの人が知っているでしょう。赤外線分析は有機物の分析をするときに非常によく使われる方法だからです。このときCO2に吸収された赤外線は熱に変わります。

地球は太陽から熱を受け、それと同じ熱量を赤外線として外部に放出することによって冷却されています(放射冷却現象)。その赤外線の一部がCO2によって吸収されて熱に変わるわけですから、地球の温度が上がります。これが温室効果で、赤外線を吸収する物質を温室効果ガス(GHG)と言ったりします。
真鍋博士は、このような気候モデル(真鍋モデル)を、まだ幼稚な段階にあったコンピューターを駆使してシミュレーションしていきました。また、博士が始めたこの方法は多くの科学者たちによってブラッシュアップされていき、やがて地球の気候と大気組成の関係がよく分かるようになっていきました。

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このシミュレーションがなければ、地球温暖化のみならず、最近の台風の大型化や、豪雨、夏場の猛暑など、さまざまな現象の原因が分からず、単に異常気象と言われるだけだったかもしれません。そして、現在、世界では脱炭素化に向けての大きな流れができ、産業構造や私たちの生活様式さえ変えようとしています。
気候モデルは、もともとは純粋に科学研究として始まったものが、脱炭素化という世界の大きな流れを作って行ったというすごい結果を生んだ例だと言えるでしょう。

※ 空気中のCO2濃度が3~4%以上になると二酸化炭素中毒が起こります。

地球温暖化による海面上昇は海水の熱膨張などの原因で起こる アルキメデスの原理は関係ない

最近、地球温暖化はウソだとか、人間が放出したCO2が原因ではないとかネット上で主張する人や書籍をよく目にするようになってきました。もちろん、地球温暖化については自由に議論していくべきだと思いますが、中にはもう少しきちんとした話をしろよと思うこともあります。
例えば、アルキメデスの法則があるから北極の氷が融けても海面は上昇しない。とか、ここのところ気温上昇はわずかだから、ほとんど影響がない。とか、いかにもそれらしい(が間違っている)理屈をつけて地球温暖化がウソだと決めつけている論調があります。
海面上昇についてい言えば、確かに北極の氷が融けてもアルキメデスの原理によって海面上昇は起こりません。ウイスキーグラスの中に入れた氷が融けても、ウイスキーがグラスからこぼれ出さないのはアルキメデスの原理です。
しかし、国連から委託を受けて地球温暖化について調査を行っているIPCCが言う海面上昇は、北極の氷が融けることによって起こるとは言っていないのです。
海面上昇は海水の温度が上がることによる熱膨張と、グリーンランドなどの陸地の氷河などが融けることによって起こります。熱膨張など大したことはないだろうと思われるかもしれません。私も初めはそう思っていました。それでちょっと計算してみました。

水の熱膨張率は0.021%/℃、海の平均水深が3,800mです。単純に計算して
0.021×3800÷100=0.798

つまり、海水の温度が1℃上がると熱膨張によって海面は約80㎝上昇することになりす。これにグリーランドなど陸地の氷河が融けて海に流れ込む水が加わります。
ちなみに、IPCCによると、海面上昇の原因は、熱膨張:約 50% 、氷河の減少:約 22% 氷床の減少:約 20%、陸水の貯留量の変化:約 8% となっています。

IPCC AR6/WG1 報告書 SPM暫定訳より

私も気象の専門家ではないので、IPCCの報告書の内容を完全に理解しているわけではありませんが、IPCCの結論を否定するのなら、それなりにきちんとした根拠を持って行うべきだろうと思います。

エネルギー基本計画 2035年ガソリン車の販売禁止が明文化

第6次エネルギー基本計画案が発表され、現在パブリックコメントの募集段階にある。国の今後のエネルギー政策のよりどころになるのがこの基本計画。その基本計画の中で石油がどのように位置付けられているのか、現在、筆者は斜め読みしているところである。
我が国は2050年までに実質的に温室効果ガス排出量をゼロにすることを宣言している。今回の基本計画は、その2050年に向けての助走期間という位置づけのようで、中間目標として温室効果ガス排出量を2013年度比で45%削減する計画になっている。

エネルギー起源のCO2排出量推移

この計画の中で気になるのが自動車の電動化だ。いろいろうわさによると、2035年にガソリン車の販売が禁止され、すべて電動車にするという話が出ていた。この基本計画では、うわさどおりガソリン車の販売禁止が国の方針として、はっきりと示されることになりそうだ。
日本の運輸部門のCO2排出量は2013年度には224百万トン。これを2030年には146百万トンまで、つまり運輸部門で35%を減らす計画だ。
基本計画では、この目標を達成するために「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講ずる。」としている。ただし、ここでいう電動車はEVだけでなく、ハイブリッド車や燃料電池車も含まれるようである。
では、トラックやバスはどうなるのか。基本計画では、8t以下の商用車については「2030年までに、新車販売で電動車20~30%、2040年までに、新車販売で、電動車と合成燃料等の脱炭素燃料に利用に適した車両で合わせて100%を目指し…」としている。
多分、トラックの中でも小型のものは電動車を導入するが、それより大型のものは脱炭素燃料等ということになるのではないだろうか。脱炭素燃料等としては、合成燃料のほかにバイオ燃料が考えられる。
8t超の大型の車については「電動車の開発・使用促進に向けた技術実証を進めつつ、2020年代に5,000台の先行導入を目指すとともに、水素や合成燃料等の価格低減に向けた技術開発・普及の取り組みの進捗も踏まえ、2030年までに、2040年の電動車の普及目標と設定する。」としてる。
ちょっと分かりにくい記述内容であるが、大型トラックやバスについても現在、電動車の開発が行われているので、5,000台くらいは試験的に導入しよう。でもちょっと電動車では無理かもしれないので、水素や合成燃料等の開発状況を見据えて、2030年までに普及目標を作って行こう。ということらしい。
いずれにしろ、小型乗用車は電動化するが、トラックやバスなど大型車はバイオ燃料や合成燃料を使うということになり、エンジンを使った車は残りそうである。

中国でCO2からデンプンを合成。すごいけど何の役に立つの

中国の中国科学院天津工業生物技術研究所では、CO2からデンプンを合成したと発表しました。デンプンは三大栄養素といわれる炭水化物、タンパク質、脂肪のうち代表的な炭水化物です。つまり、デンプンは我々の栄養源のひとつ。米や麦やイモ類といった主食の成分です。

デンプンの化学構造は次のとおり。

デンプンの化学構造

デンプンは炭素Cと酸素Oと水素Hからできているので、これをCO2と水素H2から作ることは理屈から言えば可能です。このような簡単な物質から、複雑な構造を持つデンプンを作るのはかなり難しかったでしょう。

ある記事によると、この成果は、「世界の常識をひっくり返すほどの影響力を持つ」とか、「典型的な0から1へのブレイクスルー」とかべたほめなのです。ですが、CO2からデンプンを作って何の役に立つのでしょうか。

まず考え付くのが食料を作るのことです。できないことはないでしょうが、それほど人類は食料不足に陥っていませんし、むしろ各国の農業従事者はどちらかというと収入が低い。なぜなら、食料は低価格でしか売れないからです。にも拘らず、世界には飢餓で苦しむ人がいるじゃないかと言われるかもしれませんが、それはその低価格の農作物でさえも買えない貧しい人たちがいるからです。つまり、単なる食料の生産は儲からないのです。

もし人工的に食用デンプンを作りたいのなら、食料にならない草や木くずを原料にしてブドウ糖を作り、このブドウ糖からデンプンを作る方が安価にできるでしょう。原料としてわざわざ合成が難しいCO2を使う意味がないのです。

もうひとつの目的として考えられるのは地球温暖化対策です。火力発電所などから排出されたCO2から有用な物質を作るCCUは、今世界中で研究されています。しかし、回収したCO2でデンプンを作り、これを食料とした場合、デンプンは体の中で消費されて、最終的には同じ量のCO2になって呼気として排出されるので、CO2の削減にはなりません。

ただ、CO2をメタノールのようなC1化合物に転換したあと、いろいろな化学製品を作ること(C1化学といいます)が、最近注目を浴びていて、この中国の研究もC1化学の一環として行われたということではないでしょうか。

今回、食料ともなるデンプンを作ったというので、話題になりましたが、デンプンのような複雑なものが作れるのなら、もっといろいろな役に立つもの-医薬品とか生分解性プラスチックとか-が作れそうです。実はこっちの方が注目に値すると思います。