今後、石油が枯渇したら、飛行機はどうするのか。飛べなくなるのか。という質問を受けることがあります。実際にはシェールオイルという新たな石油資源の採掘が行われるようになったことから、石油が枯渇するのはずっとずっと先のことになるでしょう。( 石油はあと40年で枯渇する? 石油はいったいいつなくなるのか 参照)
しかしながら、石油が枯渇しなくても、石油は使えなくなる可能性があります。それはもちろん、石油から作られたジェット燃料は温室効果ガスを排出するからです。
今、世界は、温室効果ガス排出ゼロを目標に動き始めていて、我が国でも先日、菅総理大臣が発表したように、2050年を目標に温室効果ガスを実質ゼロにするという方針に舵を切りました。
あのシェールオイルの大産出国であるアメリカでさえ、バイデン氏が大統領に就任すれば、脱石油へ向かい出すだろうと予想されています。
温室効果ガスゼロとは、言い換えれば脱化石燃料、脱石油に世界が進み始めたということですから、石油が枯渇しなくても、やがてジェット機の燃料として石油が使えなくなるということになると考えられるのです。
自動車なら電気自動車や燃料電池車という手もありますが、ジェット機となると、それは難しい。 (2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ…あなたが次に買う未来の自動車はこうなる参照) なぜなら、電気で空を飛ぼうとすれば、当然モーターを使うからプロペラ機になるし、現在の蓄電池技術では航続距離が随分と短くなってしまいます。
現在のジェット機のように、数百人の乗客を乗せて、時速1,000㎞で1万mの高度を数千㎞ノンストップで飛行することは、電気では不可能なのです。
実は、1970年代、石油が枯渇すると本気で考えられていた時期から、多くの企業や研究所で、石油に替わる燃料がいろいろと考えられてきました。この努力は、石油の枯渇が遠い未来に移ったとしても、これから起きるであろう温室効果ゼロ時代には無駄にはならないと思われます。
この記事では、石油に代わるジェット機の燃料について、どのような技術が考えられてきたか。そして、これからどのような燃料が実現するかについて紹介したいと思います。
ジェットエンジンの構造と燃料
まず、ジェットエンジンは以下の図のような構造をしています。
空気取り入れ口から空気を取り入れ、圧縮機でその空気を圧縮し、燃焼室で圧縮された空気と燃料がて燃やされる。燃料が燃やされて高温になった排気ガスが後部から噴出されるので、この力でジェット機は空を飛ぶ。
また、排気口にタービン(風車のようなもの)が設置されていて、この排気ガスの噴出によって、このタービンが回転し、その回転が1本の軸によって、前方の圧縮機に伝えられて、また空気が圧縮される。うまい仕組みを考えたものだと感心させられます。
ジェットエンジンは吸気口で空気を「吸入」し、圧縮機で空気を「圧縮」し、燃焼室で燃料が「爆発」的に燃焼し、排気口から「排気」される。つまり、ジェットエンジンもガソリンエンジンやディーゼルエンジンと同様に、吸入、圧縮、爆発、排気の工程があります。ただし、ピストンのような往復運動をする部分がなく、すべて回転運動になっているところが違います。
ジェットエンジンはこういう構造ですから、流体(液体や気体)で燃えるものなら、大体なんでも燃料にできる可能性がありますが、いろいろ理由があって航空機用ジェットエンジンの燃料としては灯油が使われています。(軍用ジェット機に用いられるジェット燃料はガソリンがブレンドされているものがあった)
え!灯油?と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、ガソリンスタンドで売られている石油ストーブに使われる、あの灯油。英語ではケロシンといいます。
日本の一般向け灯油は世界的にみても非常に精製度が高く、この市販灯油で実はジェット機を飛ばすことも可能なのです※。といっても石油ストーブはジェットエンジンとは構造が違うので、ジェット機のように飛び出すわけではありませんのでご心配なく。
※実際にジェット機に使う場合は、安全性を高めるため 灯油よりも試験検査項目が多く、また、帯電防止剤や酸化防止剤などの添加物が添加されていてますが、ベースとなるのは灯油です。
ジェット燃料の化学構造とドロップイン燃料
ではジェット燃料、すなわち灯油は化学的にはどのようなものかというと、炭素(C)と水素(H)からできた炭化水素と呼ばれる物質で、その化学構造は至って簡単。炭素がだいたい9個から15個、鎖のようにつながり、その炭素原子1個につき水素が2個から3個結合した形をしています。
分子式としては CnH2n+2のように書きます。nは炭素の数で、これがジェット燃料の場合は9から15の範囲にあるわけです。
だから、炭素を鎖状に結合して、その周りに水素を配置すれば、人工的にジェット燃料は作れるのです。あるいは、似たような化学構造を持つ物質を探してきて、その構造を少し変形してやればいい。
ただし、このようにして作られた合成ジェット燃料は、現在の石油から作られたジェット燃料とほぼ同じ性状でなければなりません。なぜなら、現在のジェットエンジンは石油ジェット燃料を使うように設計されているため、それ以外の燃料では安全性が保障されないからです。
つまり、「ジェットエンジン側は何ら調整をしないので、燃料の方でエンジンに合わせてくれ。よろしくな」ということでなのです。なんとわがままな。と思うのですが、安全性を考えれば仕方がないのでしょう。
このような、現在使われているジェットエンジンに何ら変更を加えることなく、いままでの燃料とまったく同じに使える燃料をドロップイン燃料と言っています。
では、合成ジェット燃料を作る方法をリストアップしてみたいと思います。
石炭から作る(CTL)
まず、石炭からジェット燃料を作ると言う方法がある。
石炭といえば、真黒いカタマリ。ですよね。そんなものがどうやったら液体のジェット燃料になるののでしょう。
石炭から液体燃料を作る方法は、第二次大戦中、連合国から石油の輸入を止められたドイツで開発されました。ドイツでは石油は採れませんが、石炭は比較的たくさん採れます。
発明したのはフィッシャーとトロプシュというふたりの人物。かれらが発明した方法はフィッシャー・トロプシュ合成法と言いいますが、ちょっと長たらしいのでFT法と呼ぶことにしましょう。
FT法は、まず石炭(主成分は炭素C)を高温で水蒸気(H2O)と反応させて一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主成分とする合成ガスというものを作ります。
C + H2O → CO + H2
この合成ガスを鉄やコバルトを触媒として高温、高圧で処理すると石油と同じ炭化水素(CnH2n+2)になります。
(2n + 1)H2 + nCO → CnH2n+2 + nH2O
あとは石油と同じ方法でガソリンやジェット燃料を作ることができるというわけです。
しかし、第二次世界大戦が終わると、中東で大油田の採掘が本格化したため、FT法は廃棄されることになりました。石油が大量にあるのにわざわざ石炭から石油を作る必要はないですからね。
ところが、戦後も石炭から液体燃料を営々と作り続けていた企業がありました。南アフリカ共和国(南ア共和国)のサソール社です。
南ア共和国は、人種隔離政策をとっていたため制裁として石油の輸入が禁止されており、そのためサソールは国内で豊富に産出し、価格も安い石炭を使って液体燃料を作ることにしたのです。(燃料だけでなく、サソール社は石油化学製品も石炭から作っています。 石油が枯渇するとプラスチックは作れないというウソ 参照)
現在は、南ア共和国は人種隔離政策をやめ、石油の輸入禁止も解かれので、石炭の液化は採算が取れなくなると思われていました。ではサソールはどうなったか。実はサソールでは今も石炭から液体燃料の製造が続けられているのです。
実は石油の輸入が禁止されていた数十年の間にサソールの石炭から石油を作る技術は非常に洗練されたものとなっており、十分に中東の安い石油に対抗できるようになっていたというわけ。アフリカの企業といっても馬鹿にはできません。
南ア共和国では、一般にガソリンスタンドで売られているガソリンも、空港で旅客機に給油されるジェット燃料も、石炭から作られたものが普通に使われているといいます。
昔、筆者も南ア共和国を訪問したことがあります。帰りはキャセイパシフィック航空機でヨハネスブルグから香港までフライトしたわけですが、多分、ヨハネスブルグで積み込んだジェット燃料は石炭から作ったものだったでしょう。
ですが、石油から作ったジェット燃料と何の違いも感じず、インド洋上数千キロの距離を順調に飛行して香港に到着しました。もちろん、私以外の乗客は今乗っている飛行機の燃料が実は石炭から作られたものだとは、だれも知らなかったでしょう。
天然ガスから作る(GTL)
これも、南ア共和国のサソール社で行われてきた方法。原理的にはCTLとほとんど同じで、ただ原料として石炭ではなく天然ガスを使う方法です。まず天然ガス(主成分はメタンCH4)を合成ガスに転換したあと、FT合成法によって液体燃料にします。
CH4 + H2O → CO + 3H2
(2n + 1)H2 + nCO → CnH2n+2 + nH2O
この技術は南ア共和国だけでなく、現在はマレーシアやカタール、ナイジェリアなど天然ガス資源の豊富な国で行われていて、この中にはサソールが技術を提供しているところもあります。
なお、ガスから液体燃料を作る方法としてはFT合成だけではなく、ランザテック社は合成ガスを酢酸生成菌によって発酵させて、エタノールまたはブタノールという液体のアルコール類を製造する技術を開発しています。
またあとで述べますが、エタノールやブタノールからは脱酸素反応や重合反応によってジェット燃料を作ることができます。
なお、ランザテックの技術は水素がいらないので、合成ガスだけでなく様々なガス状の炭化水素を原料とすることができるという特徴があります。
以上のようにCTLやGTLは既に一部の国ではプラントが建設されて、実際に液体燃料が生産されています。もし何らかの理由によって石油が使えなくなったら、ジェット燃料代替として、まず候補に上るのがCTLとGTLと思われます。
ただし、石炭や天然ガスを原料とした場合は、石油の代替とはなりますが、温室効果ガス排出量をゼロとすることはできません。
二酸化炭素から作る(CCU)
最近注目を集めているのが、二酸化炭素(CO2)から液体燃料を作ると言う話。もともと、火力発電所など出てくる二酸化炭素を捕まえて、地下や深海に捨ててしまおうという考えから始まりました。(CCS=Carbon Capture and Storageという)
火力発電所は二酸化炭素を大量に排出するので、地球温暖化の元凶のように言われています。ならば発生した二酸化炭素を捕まえて捨ててしまえばいいじゃないかという発想です。
そうやって捕まえた二酸化炭素ですが、そのまま捨ててしまうのはもったいない。何かに使えないかというのが、最近研究されているCCU(Carbon Capture and Utilization)という考え方です。
二酸化炭素から酸素を一つ引き抜くと一酸化炭素(CO)になる。その一酸化炭素と水素を組み合わせて例のFT合成法を使えば、ジェット燃料ができるというストーリーですね。なかなかいい考えのようにも見えます。
でもね、火力発電所から排出された二酸化炭素を回収し、それを使ってジェット燃料を作るわけで、そのジェット燃料をジェット機で燃やしてしまえば、また二酸化炭素を大気中に放出してしまうことになります。
ということは、地球温暖化防止のためせっかく捕まえた二酸化炭素をまた空気中に出してしまうわけだから、地球温暖化防止にはならない。
また、FT合成を行うための水素は天然ガスや石炭から作るのが現在の主流で、水素を作るときに大量の二酸化炭素を排出する。これでは、かえって二酸化炭素の排出量が増えてしまいます。
そのため、太陽光や風力などの再生可能電力で水を電気分解して作られた水素(グリーン水素)を使おうというのが、CCUの開発計画ですが、この方法はエネルギー効率が悪く、再生可能電力の15%くらいしかジェット燃料として活用できないという計算もあります。 (グリーン水素でなければ意味がない―環境省の水素ステーションは地球に優しくなかった参照)
そう考えると、筆者の感想としては、CCUでジェット燃料を作るというのは、あまり筋の良い技術ではないように思えます。
バイオマスから作る(バイオジェット)
これが今のところ本命でしょう。
植物は成長するときに空気中の二酸化炭素を吸収します。新たに植えられて成長した植物を燃料として燃やせば、そのとき発生した二酸化炭素の量は成長時に吸収したのと原理的に同じ量になるので、空気中の二酸化炭素を増やしません。例のカーボンニュートラルという考え方が適用できるわけです。
例えば、里山では木の枝や幹を切って燃料としますが、木の株は残しておきます。やがてその株から枝が出てくるので、何年か経つとまた、その枝や幹を切って燃料とする。それを繰り返えせば、常に燃料を得ることができて、空気中の二酸化炭素も変化しない。これがカーボンニュートラルの考え方です。
このように植物(バイオマス)から作られたジェット燃料をバイオジェットといいますが、最近ではSAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能航空燃料)という呼び方もするようです。
バイオジェットを製造するには、現在いくつもの方法が検討されています。
アルコールを使う(ATJ)
バイオエタノールやバイオブタノールのようなアルコール類からジェット燃料を作る方法をATJと言います。
バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビから発酵反応によって作られる物質で、ガソリンと似た性質があるため、今世界中でガソリン代替燃料として大量に使われています。( 自動車用バイオ燃料は終わった? そういえばバイオエタノールはどうなった 参照)
このバイオエタノールは炭素(C)が2つしかなく、酸素(O)を含んでいますが、一方、石油から作られたジェット燃料は炭素の数が9個から15個くらいあって、酸素はありません。
C2H5OH バイオエタノール
↓
CnH2n+2ジェット燃料
(nは9から15)
バイオエタノールからジェット燃料を作ろうとすると、まず酸素を取り除き、いくつかのエタノール分子を結合させて炭素数を増やし、さらに水素化によって仕上げるという複雑な工程が必要になります。
なお、バイオエタノールをトウモロコシのような農作物から作るのではなく、藁や葉、廃木材や雑草など、セルロースを成分とする原料から作る方法も近年、実用化されています。
植物油を使う(OTJ)
もう一つの方法はパーム油やナタネ油、大豆油などの植物油を原料とする方法です。あるいはボトリオコッカスやユーグレナなどの藻類から採れる油脂を原料とすることもできます。(油脂からジェット燃料を作る技術をOTJといいます) (藻類で日本は産油国になる? 無理(オーランチオキトリウム) 、バイオジェットとは何か―ユーグレナ社のASTM規格取得 参照)
植物油を使ったバイオ燃料としては従来からバイオディーゼルという燃料があります。これは比較的簡単に作れて、性質的にもバイオエタノールよりジェット燃料に似ています。 (バイオディーゼルはなぜ成功したのか-作り方が石鹸と同じだったから 参照)
しかし、酸化されやすい(そもそもてんぷら油ですから)とか、粘度が高すぎるとか、ジェット燃料にするためにはいろいろと問題があり、かなり大掛かりなリフォームが必要となります。
バイオジェットを作るために使われるのは水素化分解と言う方法です。アルコールの場合は炭素の数を増やしましたが、こっちの方法ではむしろ炭素の数を減らします。
原料となる植物油は上のような化学構造をしていて、グリセリンと呼ばれる部分と、脂肪酸と呼ばれる部分からできています。このうち、脂肪酸の部分はジェット燃料の分子構造とよく似ていることが分かるでしょうか。
この植物油に水素を混ぜて、高温高圧でニッケル系の触媒を通すことによって、水素化分解が起こります。まず、グリセリン部分が分離され、脂肪酸の酸素(O)が水(H2O)となって取り除かれ、さらにこの図には書かれていませんが二重結合部分がジェット燃料と同じ単結合になります。
これによって、ほぼ従来のジェット燃料と同じ性質を持ち、化学的にも安定したジェット燃料を作ることができます。この技術の代表的な企業はフィンランドのネステ社です。
バイオ起源のガスを使う(GTJ)
バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビ、バイオディーゼルはパームやナタネ、大豆、藻類などが原料となりますが、これらの植物のうち、ジェット燃料の原料となるのは、種子や樹液など農作物の一部に過ぎませんし、栽培できる場所も限られます。
種子や樹液だけでなく、農作物の幹や葉が使えれば効率的ですよね。そのほか、廃材や雑草などがそのまま原料にできれば、理想的です。
廃材や雑草などを石炭や天然ガスと同様に合成ガスにしたり、発酵させてメタンガスにしたりして、そのガスからFT合成やランザテック社の細菌を使った合成法などによってジェット燃料を作ることも試みられています。
このように原料をガス化してジェット燃料を作る技術をGTJといいます。
この方法は樹木、廃木材や森林廃材などの木質系、藁などの農業廃棄物、スイッチグラスなど草本系などが考えられていますが、ほかに、都市下水やし尿、家畜の糞尿なども用いられる可能性があります。 (うんこでジェット機が空を飛ぶ-しかも地球に優しい 参照)
ANAはいよいよ代替ジェット燃料の時代へ
今年11月6日。ANAはバイオジェットを使用して初めての定期便(羽田からヒューストン)を飛ばしました。いよいよバイオジェットも本格活用の時代に入るようです。
ちなみに、その燃料は石油系ジェット燃料に30から40%ネステ社製造のバイオジェットを混合したものでした 。
また、ANAは2022年からランザテック社のバイオジェットを調達することを発表しています。
水素
先日、水素そのものを燃料としてジェット機を飛ばそうという計画がエアバス社から発表されました。
いままで述べてきた石油代替のジェット燃料は原料が違うだけで、品質的には石油から作られたものと基本的に同じでした。いわゆるドロップイン燃料というものです。原料が石油とは違うというだけですから、ジェットエンジンはそのまま、燃料供給設備もそのまま使えます。
しかし、水素そのものを燃料としてジェット機を飛ばそうとすると、エンジンの改良が必要となってきます。また水素を供給するインフラも新しく整備する必要が出てきます。ですから今すぐ水素でジェット機を飛ばすというわけにはいきません。未来の技術です。
水素はいろいろな方法で作ることができますが、今のところ、主流は天然ガスや石油、石炭から作る方法です。そのほか、水を電気分解して作るならその電気は原子力でも太陽光でも風力でも構わないということになります。
だから単に石油代替というなら、天然ガスや石炭から作った水素もありですが、温室効果ガスを出さないという制約がつくのなら、再生可能エネルギーで作られた水素(グリーン水素)でなければならないということになります。( 水素は海水からとりだせば無尽蔵のエネルギー源になる? 参照)
水素をジェット機の燃料とする場合の問題点は、水素を-253℃まで冷やして液体にするか、高い圧力をかけて圧縮して搭載する必要があります。
その結果、低温や高圧を保つために特殊なタンクが必要になり、機体が重くなってしまいます。さらに空港で供給するときも、製造場所から運ぶ時も低温か、高圧にして運ぶ必要があります。
また、現在のジェットエンジンは原理的にはそのままでもいいのですが、水素が使えるように改良する必要があります。航空機は安全が最も重要ですから、エンジンそのものに手を加えた場合は、故障しないように万全を期すことが必要となり、さまざまなテストを繰り返すことが必要になるでしょう。
一方、ジェット燃料を燃やしたときの発熱量が43MJ/kgであるのに対して、水素は121MJ/kgで、水素は同じ重量で比較するとジェット燃料の2.8倍のエネルギーを持っています。このことは、同じ距離を飛行する場合には、燃料そのものの重量を軽くすることができるという利点もあります。
まとめ
現在のジェット燃料は石油から作られていますが、石油が手に入らなくなったとき、例えば第二次世界大戦中のドイツや国連から制裁を受けていた南ア共和国は、石炭や天然ガスから液体燃料を作る技術(CTL、GTL)を開発しました。その技術は今でも実際に使われていますので、もし何らかの理由があって石油が使えなくなった場合は、この技術が有効でしょう。
しかし、CTLやGTLは原料として化石燃料を使うため、製造時に大量の温室効果ガス(二酸化炭素)を発生させます。温室効果ガスを発生させない方法としてバイオマスを原料とする方法があります。
バイオマスを使う方法の中では、植物油を原料とした方法(OTJ)が最も実用化に近く、従来のジェット燃料に混ぜて定期便でも使われるようになってきました。ただし、農作物を栽培するための農地の制約などがあり、農業廃棄物や廃材、し尿、雑草などを使う方法が研究されています。
水素をそのまま燃料として使う方法は、まだ未来の技術と思われます。
2020年11月9日
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