無添加石鹸は本当に無添加?添加剤が入った「無添加」もある 

先日、ドラッグストアで何気なく液体石鹸のボトルを見ていたら、ちょっと変なことに気が付きました。無添加と書かれているのに、成分表をみると様々な成分が記載されているのです。

これがその写真。確かに「無添加・無着色」と書かれていますよね。でもその下の方に小さい字で様々な成分が含まれていることが記載されているのです。数えてみたら35種類もありました。

これって本当に無添加なのでしょうか。

一方、こっちの写真は同じくパッケージに「無添加」と書かれた石鹸の成分表の写真です。

こちらの方の成分は「石鹸素地(オリーブオイル90%、ローレルオイル10%)」と1種類だけ。実に簡単なものです。

同じように「無添加」と記載された石鹸なのに、どうしてこのように違っているのでしょうか。そもそも、無添加石鹸って本当に無添加なのでしょうか。

この疑問を解くために、タカギチ暮らしな化学研究所(って研究所あったっけ?)が調査を開始しました。その調査報告が以下のとおりです。

石鹸の化学構造

石鹸って、顔を洗ったり、手を洗ったり、お風呂で体を洗ったり、とても身近な存在です。スーパーでも、ドラッグストアでも、ネットでも売られていますが、その種類は膨大な数になります。値段についても安いものは1個100円以下から、高いものになると1万円を超えるものも。

石鹸には固形のものと液体のもの、身体を洗うためのものもあれば、洗濯用や工業用のものなどと様々な種類があります。ここでは身体を洗う石鹸、つまりフツーに手や身体を洗うのに使う固形や液体のものに絞って、お話ししたいと思います。

※身体を洗う石鹸のうち、固形のもの(つまり私たちがいつも使っているフツーの石鹸)は化粧石鹸と呼ばれることがあります。化粧石鹸といっても、お化粧をするものではありません。普段は化粧をしない男性が使っても、もちろんかまいません。

では石鹸とはなにか。石鹸の化学構造はこんな形です。

石鹸の化学構造は3つの部分に分かれます。左側の緑色の点線で囲った部分は炭素(C)が鎖のようにつながっていて、その周りに水素(H)がくっついている形をしています。炭素と水素が鎖のように連なっているので炭化水素鎖と呼ぶことにしましょう。

真ん中の赤い点線で囲った部分は炭素と酸素(O)からできていて、これはカルボキシル基と言います。一番右側はナトリウム(Na)という金属原子がくっついています。ただし、ナトリウムの代わりにカリウム(K)か使われた石鹸もあって、この場合はNaの部分がKに代わります。

このうち左側の炭化水素鎖の部分ですが、つながっている炭素の数は石鹸を作るときに、どんな原料を使うかによって違ってきます。炭素の数は、だいたい12個から18個。枝分かれせずに直線状につながっていて、面白いことに炭素の数は必ず偶数です。また、二重結合がある場合とない場合があります。

この炭化水素鎖の炭素の数がいくつかということや、二重結合があるかないかによっても、石鹸の性質は変わってきます。

この炭化水素鎖の部分はいちいち書いていると面倒臭いのでRと書くことにしましょう。そうすると、石鹸の化学構造は次のように簡単になります。

これでずいぶん簡単になりましたが、さらにもっと簡略に書いてしまえということで、次のように表記することがあります。

簡単ですね。ちなみに、緑の点線で囲ったR-COOの部分は脂肪酸といいます。(ふつうはNaの代わりにHがくっついていて、R-COOHという形になっています)ですから、石鹸とは化学的に言えば、脂肪酸のナトリウム塩あるいは脂肪酸ナトリウムというものです。

ちなみに健康食品としてDHAとかEPAとかオメガ3とか聞かれることがあると思いますが、これらも脂肪酸の仲間です。ダイエットに効果があると話題になっている短鎖脂肪酸は、R(炭化水素鎖)部分の炭素数が少ない脂肪酸のことです。このあたりの話もいつか解説してみたいと思います。

石鹸はどうやって作るか

石鹸の作り方はとっても簡単で(形や硬さ、泡立ちなどにこだわらなければということですが・・・)、自宅でも作れます。

原料は油とアルカリだけです。石鹸は原始時代に既にあったと言われています。獣の肉を焼いて、滴り落ちた獣脂(油)が灰(アルカリ)と混ざってできたと言われています。石鹸はそれくらい簡単にできるのです。

原料の油は油といっても石油ではありません。動物や植物からとれる油。ラードやヘットのような動物性のものと、ナタネ油やヤシ油のように植物性のものを合わせて油脂といいます。普通は食べられる油です。一方、アルカリとしては水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)が使われます。

油脂の化学式はこんな形をしています。

油脂にはいろいろな種類があり、ご存知の通り常温で固形のものも液体のものもあり、また風味も少しずつ違います。でも、基本的な化学構造はみんな、この化学式で示されるように同じなのです。

ここでR、R’、R’’は、この記事の最初の方で述べた炭化水素鎖を示します。原料となる油脂の種類によって、それぞれの炭化水素鎖の炭素の数と二重結合の数が少しずつ違っているので、R、R’、R’’と区別して書いていますが、いずれも炭化水素鎖です。

この油脂の化学式のなかで―O-という部分がありますが、ここは切れやすくて、加熱したり、アルカリを加えたり、あるいは酵素(リパーゼ)の働きによって、簡単に切れてしまいます。その結果、R-COOが3個と残りの部分の4つに分離します。

そして水(H2O)がHとHOに分離して、切れたところに入ります。その結果R-COOHになったところが脂肪酸。残りがグリセリンという物質です。つまり油脂が分解されると、3個の脂肪酸と1個のグリセリンができます。

脂肪酸は酸という名前がついていることから分かるように、酸性の物質ですので、これにアルカリである水酸化ナトリウムNaOH(あるいは水酸化カリウムKOH)を添加すると中和されて、脂肪酸は脂肪酸ナトリウムになります。これが石鹸というわけです。


石鹸の製造方法

つぎに石鹸の製造方法です。すみません、「無添加石鹸は本当に無添加?」という題名からどんどん遠ざかっていくようですが、製造方法まで遡らないと無添加の意味が分からないので、我慢してください。

手作り法

一番簡単に石鹸を作るには、食用油を水酸化ナトリウムと混ぜ合わせて、40~50℃の温度でかき混ぜる。それだけでできます。(コールドプロセス)

石鹸を作ると、脂肪酸とグリセリンに分解することをお話ししました。石鹸になるのは脂肪酸の部分で、これが水酸化ナトリウムで中和されたものが石鹸です。グリセリンは石鹸ではありません。

手作りの石鹸では分離したグリセリンがそのまま残ります。また、反応しなかった油脂や水分が残っていたりします。

ただ、グリセリンは害があるものではなく、むしろ保湿効果があるので石鹸の中に残っていても問題はありません。ただし、グリセリンや水分が大量に残っている場合は泡立ちが悪かったり、柔らかすぎたりします。

水分は時間をかけて乾燥させれば飛んで行ってしまい、石鹸は段々硬くなります。
未反応の油脂が残っていると、乾燥しても飛んで行きません。少量残っているのならしっとりした感じになりますが、多すぎるとべたべたしたり、崩れやすくなったりします。

釜炊き法 

手作り法と同じように、油脂と水酸化ナトリウムを使って石鹸を作ったあと、食塩を加えてしばらく静置する方法です。こうするとグリセリンが沈殿してくるので、グリセリンを取り除くことができます(塩析法)。

これによって、大半のグリセリンは除去することができますが、若干のグリセリンは残ります。つまり、釜炊き法で作られた石鹸は、手作り石鹸と似ていますが、手作りよりグリセリンや未反応油脂などが少なくなります。

中和法 

まず油脂を5~6MPaの圧力で、250℃くらいに加熱します。すると油脂が脂肪酸とグリセリンに分解します。このあと加熱してグリセリンを蒸発、除去してから水酸化ナトリウムで中和して、脂肪酸ナトリウム、すなわち石鹸にする方法です。

この方法は大量生産に向いているので、市販の石鹸の多くはこの方法で作られています。この方法では、最初にグリセリンを蒸発させて除去するので、こうやって作られた石鹸にはグリセリンはほぼ含まれません。

以上のように、いろいろな方法で石鹸は作られますが、作られた石鹸は石鹸素地といわれます。ただし、石鹸素地とは言っても石鹸の成分である脂肪酸ナトリウム(または脂肪酸カリウム)純度は100%ではなく、グリセリンや未反応の油脂や水などを含んでいて、その割合は製造方法によって違ってきます。

無添加石鹸とはなに?

このようにして作られた石鹸素地に何も加えず、ただ乾燥させて成型したものが、本来の無添加石鹸といえるでしょう。

成分表に石鹸素地と書かれていなくても〇〇酸ナトリウム(Na)や脂肪酸ナトリウム(Na)、脂肪酸カリウムなどと書かれている場合がありますが、これは石鹸成分ですから、ほかの添加剤が加えられてなければ、無添加石鹸と言えるでしょう。

また、成分表にグリセリンや脂肪酸、ヤシ油、塩化ナトリウム(食塩)などと書かれている場合がありますが、これらの成分は石鹸の製造過程で含まれるもので、あとで添加したものではありません。

このように、石鹸を製造する過程でできるものであれば、成分表に石鹸(脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウム)以外の成分が書かれていても添加剤ではないでしょう。成分表に、これら以外のものが含まれる場合は、石鹸を製造したあと添加した、いわゆる添加剤と考えられます。

無添加石鹸の性質の違い

では無添加石鹸はどれも同じ品質なのでしょうか。同じ無添加石鹸でも品質は同じではありません。

まず、原料の油脂として何を使うかによって石鹸の性質は違ってきます。
よく使われる油脂としては牛脂、パーム果実油、パーム核油、オリーブ油、ココナッツ油、ごま油、米油などがありますが、その油脂に含まれる脂肪酸の種類が少しずつ違うため、石鹸の性質も違ってきます。

一般に脂肪酸に含まれる炭化水素鎖(R-)の炭素の数が多いほど洗浄力が大きく、皮膚への刺激性は少ない傾向があります。また、二重結合の数が多いと酸化されやすく、水に溶けやすくなります。

例えばパーム核油に多く含まれるラウリン酸(炭素数12、二重結合なし)と牛脂に含まれるステアリン酸(炭素数18、二重結合なし)を比較すると、ステアリン酸の方が洗浄力が大きく、皮膚への刺激も小さい石鹸になります。

同じくラウリン酸とオリーブ油などに含まれるオレイン酸(炭素数18、二重結合1)を比較すると、オレイン酸の方が洗浄力が大きく、皮膚刺激性は小さいですが、やや酸化されやすいという具合です。

また、石鹸製造工程で副生するグリセリンについても、中和法のように、これを完全に取り除いたものもあれば、釜炊き法のようにかなりの量が残されている物もあります。また、石鹸にならなかった原料の油脂がそのまま残っていたり、塩析のときに使われる食塩が若干残っている場合もあります。

無添加石鹸は本当に無添加?

ここでこの記事の本来のテーマに戻りましょう。無添加石鹸は本当に無添加なのでしょうか。

繰り返しになりますが、成分表を見て、石鹸素地とだけ書かれている物は本当に無添加と考えていいと思います。石鹸素地と書かれていなくても、脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウムと記載されている場合は石鹸の成分ですから問題ありません。また、グリセリン、脂肪酸、油脂など石鹸の原料や副生物だけが書かれている物は無添加と考えていいと思います。

一方で、冒頭に掲げた例のように、成分表に何種類もの成分が記載されているにも拘わらず、無添加と書いてあるのは、多分メーカーが独自の判断で、ある特定の成分を含まないことを無添加と言おうと決めて表記しているのではないでしょうか。

たとえば、合成界面活性剤無添加とか、防腐剤無添加とか、ある成分を含んでいないものを無添加石鹸と謳っている可能性があります。

ちなみに冒頭に掲げた成分表の写真ですが、無添加・無着色という表示の下に「サルフェートフリー、パラベンフリー、合成色素フリー、鉱物油フリー、石油系界面活性剤フリー、エタノールフリー」と書かれています。

つまり、この液体石鹸はサルフェート、パラベン、合成色素、鉱物油、石油系界面活性剤及びエタノールについてのみ無添加ですという意味なのでしょう。

なお、サルフェートとは化学的には硫酸塩のことでSO42-という構造を持つ化合物すべての総称で、天然水にも含まれる成分ですが、ここでいうサルフェートとはラウリル硫酸ナトリウム(英語ではソディウム ラウリル サルフェート)のことだと思われます。石鹸と同じ界面活性剤の一種で、シャンプーにはよく使われている成分ですが、石鹸にはあまり使われません。

パラベンは化学的にはパラオキシ安息香酸エステルという化合物のことです。防腐剤の一種で化粧品にはよく使われていますが、あまり石鹸には使われません。

合成色素は着色剤で、様々な種類があります。これも化粧品にはよく使われています。

鉱物油は石油系の油のことで、普通、灯油や潤滑油などを指しますが、ワセリンやパラフィンのように高度に精製したもの以外は肌に触れるものに使われることはありません。

エタノールはハーブなどの有効成分を抽出するときに使われることがあり、抽出後に除去されますが、わずかに残ることがあります。この写真の液体石鹸の場合もハーブの抽出物(エキス)が添加されていますが、成分表にBG(ブチレングリコール)と書かれています。つまり、ハーブエキスの抽出にエタノールは使わなかったがBGを使ったということでしょう。

サルフェートやパラベンなどに抵抗感がある人は、まったくの無添加ではありませんが、このような製品も意義があるでしょう。

このように、無添加石鹸と表示されていても、石鹸を製造したときに含まれる成分以外にまったく添加剤を加えていないものと、ある一部の成分について添加剤を加えていないものがあります。

無添加石鹸の成分表から分かること

ここでは、石鹸を製造した時に含まれる成分以外に一切添加剤を加えていない石鹸について、その成分表などから紹介したいと思います。

シャボン玉石鹸

成分 石鹸素地(牛脂、パーム核油)

代表的な無添加石鹸です。釜炊き法でつくられているため、若干のグリセリンが残っていますが、これは保湿成分なのでかえって肌の乾燥を防ぐ働きをします。

原料の油脂には牛脂とパーム核油が使われていますが、いずれも比較的二重結合の少ない油脂なので、酸化防止剤などの添加剤を加えなくても変質しにくいと思われます。

ミヨシ無添加石鹸泡のボディソープ

成分 水、ラウリン酸K、ミリスチン酸K、パルミチン酸K、ステアリン酸K

〇〇酸Kと書かれている成分は、いずれも石鹸成分の脂肪酸カリウムですので、無添加です。この場合は、液体石鹸ですので、アルカリとしてナトリウムではなく、水に溶けやすいカリウムを使っているのでしょう。

アレッポの石鹸

成分 石鹸素地(オリーブオイル90%、ローレルオイル10%)

オリーブ油とローレル油という植物系油脂だけを原料として釜炊き法で作られた石鹸です。一般に植物油は二重結合が多いので酸化しやすい特徴があります。オリーブ油はその中でも酸化しにくい油ですが、石鹸表面の色が茶色になっているところを見ると、やはり若干の酸化が起こっているのではないでしょうか。ただ、これも酸化防止剤のような添加剤を加えていないという証拠と言えるでしょう。表面は茶色ですが、石鹸内部は美しいオリーブ油の緑色をしています。

2020年8月30日

【関連記事】
化粧品は本当に石油から作られているのか 美の伏魔殿へようこそ
コーヒーフレッシュは石油から作られている? いろいろ悪評があるが…
マーガリンはプラスチックだから食べてはいけない?(顕微鏡で見たらそっくり?)
マーガリンはプラスチックだから食べてはいけない?(ゴキブリも食べない?)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。