軽油はどうやって作られるのか 軽油の品質と作り方

ガソリンスタンドではガソリン(ハイオクとレギュラー)と軽油、それに灯油が売られている。ガソリンは主に乗用車用、灯油は家庭用ストーブ用の燃料であり、軽油はディーゼルエンジンの燃料として使われる。

欧州ではディーゼル乗用車のシェアが高いので軽油も乗用車燃料として使われていたりするが、わが国ではトラックやバス、重機械、漁船や農機などのディーゼル機関に使われる。

ちなみに、軽自動車に軽油を間違えて給油してしまうというトラブルがたまにおこるようだが、軽自動車のエンジンはガソリンエンジンなので燃料はガソリンだ。軽自動車と軽油は同じ軽という字がつくが、間違ってはいけない。

では軽油はどうやって作っているのか。ネットを検索すると原油を蒸留して作っていると書かれている記事が多いが、それだけで軽油ができるわけではない。軽油をディーゼルエンジン用の燃料として使うためには様々な要求品質を満たさなければならないのだが、単に原油を蒸留しただけで、その要求に適合することは困難だ。

では軽油はどのような品質が要求され、その要求を満たすために、どのようにして軽油がつくられているのか。その概要は以下の図のようになる。以下に少々詳しい作り方を解説したい。

沸点範囲の調整

日本では軽油の原料となる原油はほとんどが輸入されている。輸入された原油は、まず常圧蒸留装置で処理される。この装置では原油を350℃程度に加熱したあと、高さ50m、直径数mある巨大な鋼鉄製の円筒型の塔に送られる。

この塔の中は何段もの棚に仕切られており、原油はこの段の中で沸騰と凝縮を繰り返す。この段は上に行くほど温度が低くなるように調製されているから、原油に含まれる成分は、上の段にいくほど沸点の低い物が溜まって行くことになる。このそれぞれの棚に溜まった石油の成分を留分とよんでいる

この留分のうち、沸点が240℃から350℃の範囲のものが軽油となる成分として取り出される。これが直留軽油といわれるものだ。これより沸点が低いと引火しやすくなって危険性が高くなる。

また、これより沸点が高いと粘度が高くなって、ディーゼルエンジンで燃料として燃やした時、不完全燃焼を起こすことになる。

硫黄分の除去

日本が輸入する原油の多くは中東産で、ここの原油は硫黄分が多いことで知られる。硫黄分を含んだままの直留軽油を燃やすと硫黄分が有毒な亜硫酸ガスになって大気汚染の原因となる。

またディーゼルエンジンの燃料として燃やした時には粒子状物質(PM)というものができやすくなる。たまに整備の悪いディーゼル車の排気口から黒煙が出ていることがあるが、これがPMだ。

従来、軽油に含まれる硫黄分は1.2%まで認められていたが、1976年から0.5%以下、1992年から0.2%以下、1997年から0.05%以下、2003年か0.005%(50ppm)以下という具合に段階的に規制されるようになっていき、2005年からはついに0.001%(10ppm)以下まで規制されることになった。

この0.001%以下という数値は通常の分析方法では検知できないほどの少量であるから、一般にサルファ-フリー軽油(無硫黄軽油)と呼ばれている。

ではどうやって硫黄分を取り除くのか。これには専ら水素化脱硫という技術が使われる。この方法は直留軽油に水素を混ぜて、5.5MPaから7.0MPaに昇圧。340℃から380℃まで加熱して、ニッケルやコバルト、モリブデンなどを使った触媒に接触させる。

これによって直留軽油中の硫黄分は硫化水素というものになる。硫化水素は常温で気体であるから、液体の軽油とは容易に分離することができる。こうやって硫黄分が取り除かれた軽油は脱硫軽油といわれる。特にサルファ-フリーといわれるまで硫黄分を徹底的に取り除くことを深度脱硫と言っている。

なお、軽油から分離された硫化水素はクラウス法という方法で純度の高い硫黄となり、これも石油から製造された製品として出荷される。

低温流動性の改善

軽油は低温で凍るということはご存知だろうか。冬季あるいは標高の高い場所では気温が下がって軽油が凍ってしまうことがある。そうするとディーゼル車が始動できないというトラブルが発生する。

実際には水が0℃で凍って氷になるというように、ある温度でカチンと凍ってしまうということはない。軽油は様々な分子が混ざった混合物であるから、分子の種類によって氷る温度が違う。だからある温度では凍っている分子もあれば、ある分子はまだ凍っていないという状態を経て、少しずつ流動しなくなる。

また、軽油に含まれるノルマルパラフィンという成分は低温で互いにくっつきあって結晶を作る。これがワックスである。これができると、軽油はシャーベット状になり、流動性はあるのに燃料フィルターを詰まらせてしまうという現象が起こる。

このため、軽油には流動点とCFPP(目詰まり点)という二つの規格が定められている。
製造された軽油はある決められた容器に入れて一定の割合で温度を下げていく。そして、ときどき容器を傾けて流れるかどうかを目で見て確認する。流れなくなったときの温度が流動点だ。この方法は全く原始的だが、実際にはこれが一番実際の軽油の使用条件に近い確実な測定方法なのだ。

ところが、流動点より高い温度なのに軽油がエンジンの供給されなくなってエンジンがかからなくなってしまうというクレームが出ることがある。これは軽油の中で結晶化したワックスが燃料フィルターを詰まらせるために起こる現象だ。

このため、CFPPという規格が新たに作られた。これも実際に冷却した軽油をフィルターに通して、何℃でフィルターを詰まらせるかという試験である。


上の表は軽油のJIS規格の一部である。JIS規格では特1号から特3号までの5種類の種類が定められている。この違いは主に流動点とCFPPの違いである。何℃まで冷えたら流れなくなるか、何℃でフィルターを詰まらせるかの違いということである。石油会社は軽油を製造する季節や出荷する場所に応じてこの5種類の製品を作り分けるという意外に細かい作業をしているのだ。

ではどうやって軽油の流動点や目詰まり点を改善しているのだろうか。
流動点を改善する方法のひとつは灯油を混ぜることである。灯油は流動点が低いからこれを混ぜれば流動点は下がる。ただし、この灯油も硫黄分まで極限まで取り除いたサルファ-フリー灯油でなければならない。

灯油を混ぜれば脱税じゃないかという人もいるかもしれないが、製油所や油槽所で石油会社が灯油を混ぜることは脱税ではない。なぜなら、軽油にかかる税金(軽油引取税)はガソリンスタンドで販売するときに課せられるからである。

つまり、スタンドで販売するときに混ぜた灯油の分まで税金が支払われるから脱税じゃないということだ。しかし、消費者の方が、ガソリンスタンドで軽油と灯油を別々に買って自分で混ぜ合わせて、その燃料でディーゼル車を走らせると脱税になるから、これはやめていただきたい。

CFPPについては灯油を混ぜることによっても改善されるが、もうひとつの方法は流動性向上剤という薬剤を添加することである。エチレン―酢酸ビニル共重合体のようなある種のポリマーはワックスの結晶化を阻害する働きがある。このような薬剤を添加することによってCFPPは改善される。


潤滑性の改善

軽油中の硫黄分を徹底的に取り除くようになってから新たに問題になったのが軽油の潤滑性だ。ディーゼルエンジンはシリンダーにまず空気を取り込んだあと、ピストンで圧縮して、高温高圧にし、これに軽油を噴射して自然発火によって燃焼させる方式だ。

シリンダー内は高圧になっているから、この高圧に打ち勝って軽油をシリンダー内に噴射させるには、強力なポンプが必要となる。さらに近年は排気ガスをクリーンにするため、均一で細かい粒子となるよう軽油を噴射する必要がある。このためにも、ポンプももっと強力なものが使われるようになってきた。

ところが、実はこのポンプの潤滑は軽油の中に含まれる硫黄分で行われていたのだ。軽油の硫黄分が亜硫酸ガスやPMの発生源となるため、低硫黄化が進んでいることは既に述べた。その結果、軽油の潤滑性が失われ燃料ポンプが壊れる可能性が出てきたのだ。それで、現在の軽油には潤滑性向上剤という添加剤をいれることによって対応している。

たまに脱税目的で軽油に灯油を混入させる人がいるが、これは違法なだけでなく灯油は潤滑性が低いことから燃料供給ポンプが摩耗して壊れる可能性がある。ディーゼルエンジン用の燃料ポンプは非常に高価な部品なので、これが壊れると高額な修理代を請求されることを覚悟しなければならない。

セタン価の向上

ガソリンにはオクタン価と呼ばれる指標がある。これはノッキングのしにくさの指標で、これが高いほどノッキングしにくい。つまり良いガソリンだと言われる。同様に軽油にはセタン価(あるいはセタン指数)という指標がある。

これもノッキングのしにくさの指標であり、これが高いほど良い軽油だということになるのだが、原油を蒸留して脱硫しただけの直留軽油でも比較的セタン価が高く、このままでもセタン価が問題になることはない。

しかし、欧州では軽油需要が多いため、ガソリンを作るときに副生するライトサイクルオイルという油を加えている場合がある。このライトサイクルオイルはセタン価が低いので、大量にブレンドするとセタン価が規格から外れることがあるので対策が必要となる。

ただ、わが国ではこのようなセタン価の低い油種を添加することはほとんどないので、セタン価を向上させるような必要はないだろう。

【付録】軽油は何色?

ガソリンスタンドで売られている石油製品のうち、ガソリンと灯油はもともと無色透明であるが、ガソリンは灯油との間違い防止のためオレンジ色に着色して出荷されている。このことは「揮発油等の品質確保の法律」によって義務付けられている。

では軽油は何色なのか。ネット上では黄色とか、透明だとか、エメラルドグリーンだとか様々な記述がみられる。本当の軽油の色は何色なのだろうか。

原油から蒸留されてでてくる直留軽油の色は淡黄色であり、基本的に製品軽油も淡黄色である。これは着色されているわけではなく、軽油本来の色である。多分、軽油に含まれる多環芳香族の色であろう。

ただ、ネット上では法律によって軽油はエメラルドグリーンに着色されていると記述され、実際にエメラルドグリーンの軽油の写真が掲載されているものがある。しかしながら、JISにも揮発油等の品質確保の法律にもそんな決まりはない。

軽油に着色している製油所があるかどうか調べたわけではないが、わざわざ着色する必要はないし、少なくとも筆者が製油所に勤務していたときに軽油に着色した経験はない。

直留軽油は淡黄色であるが、前述のように深度脱硫が行われるときに能力の低い脱硫装置で強度の脱硫を行うと軽油に緑がかった蛍光色が付くことがある。これがエメラルドグリーンの原因なのではないだろうか。

軽油の色は基本的に淡黄色なので、灯油やガソリンとの区別はできるから特に着色する必要はない。ただ強度脱硫を行っている製油所では緑色の蛍光色がついている場合があるし、冬場の流動点対策として多めの灯油をブレンドした場合は透明に近くなっている。いずれにしろ、軽油としての品質規格に合格していればどんな色であろうと使用上の問題はない。

まとめ

最後に軽油の作り方をまとめると以下のようになる。

  1. 輸入された原油から蒸留によって沸点が240℃から350℃のものが取り出される(直留軽油)
  2. 直留軽油は水素化脱硫装置で硫黄分が取り除かれて脱硫軽油になる
  3. この脱硫軽油に季節や出荷地に応じて灯油や流動性向上剤が添加される
  4. 潤滑性を持たせるために規定量の潤滑性向上剤が添加される
  5. 最後に品質が確認されて出荷される

2024年3月17日

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