化学屋から見たEV対エンジン車論争

大学の工学部にはいろいろな学科がある。主なところでは、機械工学科、電気工学科、電子工学科、土木・建築学科などであろう。筆者が卒業した化学系学科はどちらかといえば地味な存在だ。ただし、地味ではあるが実は技術革新は化学系の成果から生まれることも多い。

例えば、強力な磁石によって効率的なモーターが開発されたが、それにはレアアース金属の精製技術が不可欠だ。また、近年の航空機は軽量で頑丈なCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が多用されて柔軟な機体デザインが可能となっている。しかし、工学部でもっともポピュラーなのはやはり機械工学科と電気工学科だろう。

いまこの二つ学科がガチで勝負している分野がある。電気自動車(EV)対エンジン車である。モーター対エンジンの戦いといってもいいだろう。

だいたい工学系を卒業した人達は自分の専門領域をひいきにする傾向があるから、機械工学系を専攻したエンジニアは当然、エンジン車びいきになる。自動車評論家といわれる人たちも機械工学を学んだか、あるいは自動車会社に勤務経験のある人や元レーサーだった人などエンジン環境で育った人が多い。

だから自動車評論家はどうしてもエンジンびいきになってしまう。彼らに言わせれば、やれ電気はだめだ、やはりトヨタは正しかった、売れているのはハイブリッドだなどなど。

日本はガラパゴス化しているから販売台数のほとんどはエンジン車を搭載した車(ハイブリッドを含む)が占め、 EVの販売台数は非常に少ないからそう見えてしまう。しかし、世界を見渡すとEVの販売は伸びており、全自動車販売台数のだいたい3割程度を占めるまでになっている。

これから日本でもEVが増えてくれば電気出身の自動車評論家が現れてきてもおかしくないだろう。かれらは「このメーカーのEVは何kWhの蓄電能力があり、モーターは何kWのものを搭載。加速性能はどうのこうの、充電時間はどうのこう」などと評論し始めるだろう。

そうなると今までエンジンで育った機械屋の評論家は話についていけなくなる。そうなりたくなければ機械屋さんも電気の勉強を始めなければならない。

では筆者のような化学屋はどう考えるのか。EV派なのかエンジン派なのか。
近年になってEVの開発が進められた理由は、地球温暖化対策としてCO2排出量を制限する動きが出てきたことだ。それまでも窒素酸化物や炭化水素、一酸化炭素などの有害排ガスを制限する動きがあったが、それはEVでなくてもエンジン車で対応が可能であった。

しかし、CO2はどうだろう。CO2の排出量を減らすだけならガソリン車でもできるが、ゼロにしなければならいといわれたらどうか。それはEVしかできないのだから化学屋はEV派かといえば、それは早合点である。

なぜならエンジン車でもCO2ゼロは可能である。水素やアンモニアを燃料とすればCO2は出てこない。e-fuelやバイオエタノール、バイオディーゼルを燃料として使えば車からCO2は排出されるが、燃料を作るときの原料として大気中のCO2が使われているわけだから、燃やしても大気中のCO2を増やさない。

だからCO2を出していないのと同じことだ。へ理屈のように聞こえるかもしれないが、これが化学屋の考え方だ。つまり化学屋の目から見れば、CO2を出さない車イコールEVとは限らない。

機械屋さんも電気屋さんもエンジンだ、モーターだと主張しているが、 CO2を出さない車と考えればエンジンでもモーターでも関係ないと、化学屋はつまりそう考えるわけだ。

かつてトヨタ自動車の豊田社長(現会長)は「敵は炭素、内燃機関(エンジン)ではない」と繰り返し訴えてきた。豊田会長の出身は法学部だから、機械屋でも電気屋でもないが、これは化学屋的発想ということになるだろう。

また、EUは2035年にエンジン車を全廃するなどと日本では報道されているが、 EUが全廃を目指しているのはCO2を排出する車だ。エンジン車を廃止し、EVにしますとは言ってはいない。CO2の排出量をゼロにすることが目的なのだから、EUは化学屋的発想だ。

EUは今年になってCO2を排出する車でも燃料としてe-fuelやバイオ燃料を使った場合はCO2を排出しない車であることを認めると発表している。この決定受けて日本の自動車評論家の中には、EUがEVでは無理だとわかったので方向転換した。つまり「エンジンがEVに勝った」とおっしゃる方もいる。しかし、これは機械屋的発想である。

CO2を出さなければいいという化学屋の発想であれば方向転換でもなんでもないということになる。そもそもEUはCO2をゼロにしろというのが目的なわけで、EVにしなさいとかエンジン車廃止とか言っているわけではないのだ。

白猫でも黒猫でもネズミを捕ってくる猫はいい猫だという言葉があるが、エンジン車でもEVでも関係ない、CO2を出さない車はいい車だというのが化学屋の見方である。

2026年6月27日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です