ドリーム燃料は永久機関だと発明者が明言 そもそも永久機関とは

ドリーム燃料は永久機関だと今中忠行博士が明言

最近、ドリーム燃料というものが話題になっている。空気中のCO2と水だけで人工的に石油を作り出すことができるという。京都大学名誉教授の今中忠行博士が考案したもので、この話自体はもう数年前からあったのだが、そのときはそれほど話題にもならなかった。

ところが、このドリーム燃料、仙台に本社を構えるサステナブル・エネルギー開発(株)という会社が設備を作り、これを大阪市や大阪府、大阪商工会議所が支援して大阪市内の公園で公開試験を行ったことから、俄然話題が広がって行った。(ただし、大阪市、大阪府、大阪商工会議所はその後、ドリーム燃料については関与しないとしている)

ドリーム燃料製造装置に投入されるエネルギーは800wの電球用の電力だけ。この電球の光を使って、空気中のCO2と水だけから120リットルもの石油が作り出せるという。値段に換算すると1リットルあたりわずか14円。ネット上ではこれで日本は産油国になれるとか、エネルギー問題は一挙解決とか騒がれている。

しかしながら、生成した人工石油を燃やせば、当然、大量の熱エネルギーが得られることになる。つまり、わずかな電気エネルギーで大量の熱エネルギーが得られることになる。このように、投入したエネルギーよりも多くのエネルギーが得られる機関を永久機関と言うが、永久機関は不可能だというのが科学の常識である。このことは筆者の他の記事でも述べている。

ところが、ドリーム燃料製造装置を発明した今中博士は、この装置は永久機関だとはっきり言いきっているのだ。これは明らかに科学の常識に反している。ではドリーム燃料製造装置は本当に永久機関なのだろうか。永久機関は不可能だと言われているが、どうして不可能なのか。そもそも永久機関は本当に不可能なのかについて解説したい。

永久機関とはなにか

永久機関とは、その名のとおり永久に運動する機械のことだが、ただ永久に運動しているだけでなく、その運動によって仕事をすることのできる機械のことをいう。

たとえば、月は地球の周りを永久に回り続けているが、これは永久機関とはいわない。なぜなら仕事をしているわけではないからだ。つまり仕事もせずに、ただぶらぶらと回っているだけだ。もし地球を回っている月に何か仕事をさせると公転速度が遅くなって、次第に地球に近づいて行ってやがて地球に衝突してしまうことになるだろう。つまり、永久機関とは、永遠に動き続けるだけでなく、仕事をしていく機械のことだ。

仕事をする能力がエネルギーだから、永久機関とは投入されたエネルギー以上にエネルギーを生み出す機械ということになる。

永久機関が可能になれば、燃料を補給せずにいつまでも走り続ける自動車や、放っておいても勝手に電気を作ってくれる発電機、家の中を一年中ギンギンに冷暖房しても電気会社からなんの請求書も送られてこないエアコン、そんなものが可能になって、私たちの生活は超豊かなものになるだろう。

さらにはエネルギー資源の問題や地球温暖化問題はたちまち解決。石油を取り合って起こる国際紛争もなくなり世界が平和になる。ただし、石油メジャーや電力会社、アラブの石油王、エネルギー会社に多大な投資をしている銀行や投資家などは窮地に陥ることになるかもしれない。

永久機関への挑戦

このような永久機関を作ろうと、いままで多くの人たちが挑戦してきた。もしあなたが永久機関を発明し、大々的に売り出せば大金持ちになれるし、ノーベル賞は確実。地位や名誉もあなたの物になるのだ。ただし、残念ながら今までだれも成功していない。
例えば、Wikipediaには次のような永久機関?が載っている。

右側の球は、左側の球に比べて支点より遠くにあるので、てこの原理で下に向く力が大きくなる(シーソーでは、なるべく端に座った子の方に傾くのと同じ)。そのためこの機械は永久に右に回り続けると考えられる。しかし、左側の球の数が右側の球の数より多いことに注目してほしい。てこの原理は左側の球の重さによって打ち消されてしまいまい、この機械は動かない。

このような簡単な発明品?だけでなく、もっと大掛かりで複雑なものもあるが、結局永久機関と称するものでうまく行ったためしはない。例えば水で走る自動車を発明したと称する人がときどき現れるが、これも永久機関だ。なぜなら、水というエネルギーのないものを使って、自動車を動かすエネルギーができると言っているわけだから、これは永久機関だ。

多くの場合、その作動原理として、水を触媒やら何やらの装置を使って水素と酸素に分解し、その水素を燃やすことによって走行すると説明されている。しかし、水から水素を取り出すときにはエネルギーを吸収してしまうことが分かっている。

水素を燃やした時に出るエネルギーの量と水素を取り出すときに吸収するエネルギーの量は同じ量になるので(高校化学でヘスの法則として習ったはず)、打ち消し合ってエネルギーの発生はゼロになり、したがって水でエンジンは動かない。

結局、永久機関はどんなことをしても不可能だというのが常識となっているのだ。
もしあなたが永久機関を発明して特許を申請しても、残念ながら特許庁はこれを特許として認めてくれないだろう。なぜなら、特許は自然法則を利用したものに限るという規定があり、永久機関は自然法則に反しているとみなされるからだ(事実そういう特許拒絶判例がある)。

なぜ永久機関はできないのか

このように、永久機関は不可能だと一般には認められている。多くの人たちがそう思っているし、永久機関が不可能なことは科学的に証明されているという人もいる。
しかしながら、実はちょっと驚くべきことなのだが、永久機関が不可能だとは科学的には証明されていないのだ!
ただ、だれも永久機関を見たことがない。そういう理由で永久機関は不可能だといわれるだけで、実は科学的に証明されているわけではない。

一般には永久機関が不可能であるという理由としては、次のような説明がされる。
「仕事をする能力、すなわちエネルギーは一定であって、増えたり減ったりすることはない。」これを熱力学第一法則という。あるいは、エネルギーが増えも減りもしないことをエネルギー保存則と言ったりする。

エネルギー保存則が成り立つのなら、何らかの機関を動かそうとすれば、外部からエネルギーを加えてやらなければならない。永久機関のように勝手に動いて、外部に仕事をするなら、それはエネルギーが増えたことになるわけだから、それは不可能ということになる。

つまり、熱力学第一法則は自然界はボランティアでは仕事をしない。必ず対価(つまりエネルギー)を要求するという分かりやすい理屈なのだ。

しかし、では「なぜエネルギーが一定で、増えたり減ったりしないのか。」と質問すれば、これはだれも答えることができない。ただ、私たちはエネルギーが勝手に増えるという現象を見たことがない。エネルギーが一定であるということは、自然界はそうなっているとしか言いようがないということなのだ。

だから、世界のどこかで、あるいは広い宇宙の片隅で、ひっそりと永久機関が動いているなんて可能性がないわけではない。(多分ないだろうけど)だとすれば、今中博士がドリーム燃料が永久機関だといっても、理屈の上では否定はできないことになる。

ちなみに、熱力学第一法則に反する永久機関を第一種永久機関というが、熱力学には第二法則というものも存在し、この第二法則に反するものを第二種永久機関という。これについてはドリーム燃料とはあまり関係ないので、ここでは説明を省略したい。

E=mC2について

今中博士は、ある雑誌の取材を受けて、世の中にはエネルギー保存則が成り立たない場合があると述べている。それがE=mC2という式で表されるという。これはどういうことなのか。

E=mC2はアインシュタインが発見した非常に有名な式で、Eはエネルギー、mは物質の質量、Cは光の速度を表す。つまり、エネルギーは物質の質量によって生まれるということだ。ある物質の質量mが減少すれば、エネルギーEが生まれる。だからエネルギー保存則は成り立たない。

ただ、誤解しないでほしいのはE=mC2が成立するからといって永久機関が可能ということにはならないのだ。永久機関はエネルギーが勝手に生まれる、あるいはエネルギーが勝手に増えるということなのだが、E=mC2の場合は、m(質量)が減少する(質量欠損という)ことによってE(エネルギー)が生まれる。

つまり勝手にエネルギーが生まれているわけではなく、自然界はエネルギーを産み出す代わりにちゃんと質量欠損という対価を要求してくるのだ。

また、E=mC2で生まれるエネルギーは原子爆弾や核融合などでは考慮すべきであるが、通常の化学反応では非常に小さいので、無視してもよいとされている。例えば、広島形の原子爆弾は爆発により大量のエネルギーを生み出したが、この大爆発でさえ生じた質量欠損はほんの0.7g程度。1円玉1個よりも少ない。通常の化学反応では、質量が減るということは考慮する必要がないとされている。(質量保存の法則)

もし、ドリーム燃料の製造過程で質量欠損が起こっていたとしても、大量の熱が出るとか、高速中性子線が出るとかいうのならわかるが、なぜ石油が生み出されることにつながるのか。今中博士はまったく説明していない。

おそらく、今中博士は、それを実験で確かめたわけではなく、世の中にはE=mC2という例があると一般論を述べたのに過ぎないのだろう。

永久機関が不可能だから科学が進歩した

話を永久機関に戻そう。永久機関は不可能であることは科学的に証明されていないと述べた。しかし、まだ人類は永久機関という物を目にしていないから、不可能だと言っているだけなのである。

しかし、証明はされていないが、永久機関は不可能であるということ。言い換えればエネルギーは一定不変であると断定することによって、科学は大きく発展したのも事実である。すべての運動はエネルギー保存則に従っているのだから、このことを使って様々な機械を作り出すことができ、自然の法則についても理解を深めることができたのである。

また、物理学だけでなく、化学や生物学、地質学、天文学、気象学など、あらゆる分野でエネルギーは一定不変であるという原則によって様々な現象を説明したり、予測したりすることが可能となってきた。つまり、現代の科学は、永久機関は不可能だということを大前提として成り立っており、これによって大きな成果を上げてきたのである。

科学は不可能な事を可能にしたように見えるが、実はそうではなく、むしろ不可能なことを知ることによって、逆に可能なことが明らかになってきた。それによって科学は進歩してきたのである。

まとめ

以上の議論をまとめると以下のようになる。

  • 投入したエネルギーより多くのエネルギーを生み出す機械を永久機関という。
  • エネルギーの総量は増えも減りもしないので、永久機関(第一種)は不可能と言われているが、なぜエネルギーの総量が増えも減りもしないのかは分からない
  • しかし、今までだれも永久機関を作り出した人はいないので、現在の科学は不可能と断定している
  • 現在の科学は、永久機関が不可能であることを前提として成り立っており、大きな成功を収めている

つまり、永久機関が不可能であるという証拠はないが、いままで誰も成功していない。ただ言えるのは、永久機関は存在しないと仮定することによって、世の中の動きがうまく説明できてきたのだ。

だからだれかが永久機関を作り出す可能性が絶対ないとはいえない。しかし、永久機関の発明は単なる発明ではなく、現在の科学を全面的に覆すことになる。今までの科学は全て否定され、見直しを迫られることになる。そのくらいの重みがあるのだ。

今中博士のドリーム燃料製造装置は、永久機関が不可能であるという常識を、世界で初めて破るものなのだろうか。

それとも大変残念ではあるが、今まで永久機関を発明したと主張する多くの人々と同様に、単なる思い込みや実験の不備で永久機関を発明したかのように見えただけなのだろうか。読者の皆さんはどちらか信じたい方を信じればいいと思う。

結果は数年すればわかる。もしドリーム燃料が本当の永久機関なら世界は変わる。そうでなければ世間から消え去っていく。ただ、筆者は今中博士のドリーム燃料の実験を見る限り、200年以上に渡って営々と築かれてきた科学の根本原理を一挙に覆すほどの証拠を出しているとはとても思えないのだ。

2023年11月18日

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ドリーム燃料は永久機関だと発明者が明言 そもそも永久機関とは」への2件のフィードバック

  1. 鍛冶屋。

    いつも興味深い話題・記事を楽しみにさせて頂いております。

    件の動画、アップ主の意識高い系チューバさんに加え、まさかの青汁王子の参戦で一気に色物臭が強まりましたね。これからも著名(?)な方々の参加が予定されているとアナウンスされていますので、いやはや成り行きが楽しみです。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      鍛冶屋。さん 楽しみにしていただいているとのこと、ありがとうございます。励みになります。
      こういう発明物は町の発明家が水で走る自動車を開発したとか、永久機関を発明したとかいうのと同じで、一時期話題になっても、すぐに下火になってしまうと思っていたのですが、今回はユーチューブを中心に話題が広がってしまいましたね。今後の成り行きですが、サステナブルエネルギー開発の方はサブスク延期とのことですので、結局、うやむやになってしまうと個人的には予想しています。あとは今中先生が孤軍奮闘でしょうか。

      返信

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