永久機関は本当に不可能なのか・・・水素社会は永久機関ではないけれど

永久機関とは

永久機関とは、その名前のとおり永久に運動する機械のことですが、ただ永久に運動しているだけでなく、その運動によって仕事をすることのできる機械のことをいいます。

たとえば、月は地球の周りを永久に回り続けていますが、これは永久機関とはいいません。仕事をしているわけではないからです。つまり仕事もせずに、ただぶらぶらと回っているだけ。もし地球を回っている月に何らかの仕事をさせると公転速度が遅くなり、次第に地球に近づいて行ってやがて地球に衝突してしまうでしょう。

永久機関とは、勝手に永遠に動き続けて、どんどん仕事をしていく機械のことを言います。給料ももらってないのに、いろいろと仕事をしてくれる仕事好きな従業員みたいなもんですね。そんな永久機関が発明されれば、どんなにいいでしょう。

永久機関が可能になれば、燃料を補給せずにいつまでも走り続ける自動車や、放っておいても勝手に電気を作ってくれる発電機、家の中を一年中ギンギンに冷暖房しても電気会社からの請求書を気にしなくて済むエアコン、そんなものが可能になって、私たちの生活は超豊かなものになるでしょう。

さらにはエネルギー枯渇の問題や地球温暖化問題はたちまち解決。石油を取り合って起こる国際紛争もなくなり世界が平和になるでしょう。ただし、石油メジャーや電力会社、アラブの石油王、エネルギー会社に多大な投資をしている銀行や投資家などは窮地に陥ることになるでしょうけど。

永久機関への挑戦

このような永久機関を作ろうと、いままで多くの人たちが挑戦してきました。もしあなたが永久機関を発明し、大々的に売り出せば大金持ちになれるでしょう。それだけではありません。永久機関は今までの科学の常識を完全に覆す大発明ですから、ノーベル賞は確実。地位や名誉もあなたの物になるのです。

ただし、残念ながら今までだれも成功していません。

例えば、Wikipediaには次のような永久機関?が載っています。

永久機関の失敗例:右側の球は、左側の球に比べて支点より遠くにあるので、てこの原理で下に向く力が大きくなる(シーソーでは、なるべく端に座った子の方に傾くのと同じ)。そのためこの機械では永久に右に回り続けると考えられました。しかし、左側の球の数が右側の球の数より多いことに注目してください。てこの原理は左側の球の重さによって打ち消されてしまいまい、この機械は動きません。

こんな簡単な発明品?だけでなく、もっと大掛かりで複雑なものもありますが、結局永久機関は作れなかったのです。

例えば水で走る自動車を発明したと称する人がいます。( 水や空気で走る車がすでに実用化されている?  参照)多くの場合、その作動原理として、水を触媒やら何やらの装置を使って水素と酸素に分解し、その水素を燃やすことによって走行すると説明されています。しかし、これも永久機関です。実際には走らせることはできません。

なぜなら、確かに水素を燃料とするなら、水素は燃えて熱を発生し、その熱でエンジンは動きます。しかし、水から水素を取り出すときには熱を吸収してしまいます。燃やした時に出る熱の量と水素を取り出すときに吸収する熱の量は同じ量になるので(ヘスの法則)、打ち消し合って熱の発生はゼロになり、したがってエンジンは動きません。

結局、永久機関はどんなことをしても不可能だと言われています。
もしあなたが永久機関を発明して特許を申請しても、残念ですが特許庁はこれを特許として認めてくれないでしょう。なぜなら、特許法では自然法則を応用したものでなければ特許は取れないと規定されており、永久機関は自然法則に反しているとみなされるからです(事実そういう特許拒絶判例があります)。

なぜ永久機関はできないのか

このように、永久機関は不可能だと一般には認められていますし、多くの人たちがそう思っています。永久機関が不可能なことは科学的に証明されているという人もいます。

しかしながら、実は永久機関が不可能なことは、科学的には証明されていない

のです。ただ、だれも永久機関を見たことがない。そういう理由で永久機関は不可能だといわれるだけで、科学的に証明されているわけではありません。意外でしょ?

だから、世界のどこかで、あるいは広い宇宙の片隅で、ひっそりと永久機関が動いているなんて可能性はないわけではありません。(多分ないだろうけど)

永久機関ができない理由としては、こんな説明がされることがあります。
「仕事をする能力、すなわちエネルギーは一定であって、増えたり減ったりすることはない。」これは、熱力学第一法則といいます。

だから、何らかの機関を動かそうとすれば、外部からエネルギーを加えてやらなければなりません。逆に永久機関のように勝手に動いて、外部に仕事をするなら、それはエネルギーが増えたことになるわけですから、それは不可能ということになります。

自然界はボランティアでは仕事をしないのです。必ず対価(つまりエネルギー)を要求します。

しかし、では「なぜエネルギーが一定で、増えたり減ったりしないのか。」と質問すれば、これはだれも答えることはできません。

ただ、私たちはエネルギーが勝手に増えるという現象を見たことがありません。エネルギーが一定であるということは、自然界はそうなっているとしか言いようがないのです。

本当にエネルギーは増えないのか

熱力学第一法則では、エネルギーは増えたり減ったりしないと言っています。これが正しいなら(実際、正しいですが)、全宇宙のすべてのエネルギーを全部足し合わせた総エネルギー量も一定であり、増えも減りもせず、変化しないということです。

ではその宇宙の総エネルギー量は、そもそもいったい、最初はどこから来たのでしょうか。
総エネルギー量が増えも減りもしないという法則が絶対的に正しければ、それは138億年前の宇宙創成期にまでさかのぼることになるでしょう。

宇宙の全エネルギーは宇宙が作られたときに、一緒に作られ、それがそのままの量で現在まで続いているということになります。

宇宙創成期に作られたエネルギーを我々人類は繰り返し繰り返し、何度もリサイクルしながら使っているというわけなのです。(ただし、実際にはエネルギーをリサイクルすると量は変わりませんが、エネルギーの質は低下していきます。熱力学第二法則といいます)

宇宙は10-36秒後から10-34秒後という超短時間に起こったインフレーションと、そのあとにつづくビッグバンという火の玉によって誕生したと言われますが、宇宙はこのときすでに非常に高密度のエネルギー状態にあったと言います。

では、宇宙誕生以前の宇宙はどうなっていたのでしょうか。それは今のところ誰も答えられないようです。何もない空間が広がっていたのか、いやいや空間そのものがなかったのか。ビッグバン以前にはエネルギーはなかったのか、あるいはエネルギーはあったが宇宙を構成する働きをしなかったのか。

もし、インフレーションやビッグバンの瞬間に全宇宙の全エネルギーが作られたとしたら、人工的にビッグバンを起こしてやればいいと思いませんか。そうすればエネルギーを何もないところから作り出すことができる。

これからインフレーション理論やビッグバンの研究が進み、例えば粒子加速器のような大規模な実験装置の中で人工的に小さなビッグバン、つまり小さな宇宙を作り出すことができるかもしれません。そうすれば、何もないところからエネルギーが出てくるという可能性もないわけではないでしょう。

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粒子加速器の例

ただし、注意することがあります。もし実験室でビッグバンを作り出したとすると、それによって突然大量のエネルギーが生み出され、その結果、銀河系宇宙全体がぶっ飛ぶかもしれません。

すみません。銀河系宇宙全体がぶっ飛ぶというのは、ちょっと言い過ぎかもしれません。ぶっ飛ぶのは、せいぜい宇宙の4分の1くらいに収まるかもしれません。(バックトゥザフューチャーのドクのセリフを引用しました)

宇宙がぶっ飛ばないように制御しながら小さな宇宙を作り出せれば、永久機関を作れるかもしれません。ただし、これはあくまでも想像。まだまだ宇宙創成期の研究は完成途上ですし、宇宙が作られる前の姿もぜんぜん明らかにはなっていないのですから。

やはり今のところ、永久機関は不可能と考えるべき

しかし、永久機関は不可能であるということ。言い換えればエネルギーは一定であるということを知ったことから、科学は大きく発展しました。すべての運動はエネルギー不変の法則に従っているのですから、このことを使って様々な機械を作り出すことができ、自然の法則についても理解を深めることができたのです。

また、物理学だけでなく、化学や生物学などでもエネルギーは一定であるという原則が成り立ち、これによって様々な現象を説明したり、予測したりすることが可能となってきました。

最近、話題になっている水素社会やアンモニア発電も、へたをすると永久機関であるかのように報道されることがあります。(アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点 このままではかえって温室効果ガスが増えてしまう 参照)

水素にしてもアンモニアにしても使うときには確かにエネルギーを発生しますが、作るときにそれと同じ量かそれ以上のエネルギーを消費するということを忘れてはいけません。そうでなければ永久機関になってしまいます。( 水素は海水からとりだせば無尽蔵のエネルギー源になる?  参照)

宇宙創成期に思いをはせ、何もないところからエネルギーを取り出せるかもしれないという夢のような話をしました。
しかし、それは人類が到達できるかどうか、できるとしてもずっと将来の話です。現代の科学は、永久機関は不可能だということを大前提として成り立っており、これによって大きな成果を上げてきたということも事実です。

2021年2月23日

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永久機関は本当に不可能なのか・・・水素社会は永久機関ではないけれど」への4件のフィードバック

    1. takarabe 投稿作成者

      中澤さん 記事を読んでいただいてありがとうございます。
      ブログも興味深く拝読させていただきました。しかし、率直に申し上げて、やはりといいますか、永久機関ではないように思えます。車輪のまわりに多数の軌道と呼ばれる管のようなものが取り付けられており、その中を水が移動して重りになるという形ですね。車輪の右側は水が中心より離れて、左側は水が中心の方に寄る。その結果、梃の原理で右側が左側に比べて大きなモーメントが生じて右回りの力を生じさせるという原理だと思います。
      しかしながら、中心線より右側の重り(水)の数を数えると15。左側を数えると20。つまり、重りになる水の数は左側の方が5個多くあります。これによって逆に左回りのモーメントが発生します。結局、右回りの力と左回りの力が打ち消し合うので、この機械は右回りも左回りもしないということになるかと思います。そう簡単には永久機関はできないのではないでしょうか。私の思い違いだとしたら申し訳ありません。

      返信
      1. 岩瀬

        永久機関の研究をしている一人として、現状の地球全体を考慮した場合には即必須と考えます。

        返信
        1. takarabe 投稿作成者

          岩瀬さん コメントありがとうございます。
          永久機関ができたらどんなにすばらしいことかと思います。しかし、永久機関ができないことを前提に現在の科学の体系ができていますので、永久機関ができたらその代償として、現代の科学は根底から覆され、科学の暗黒時代が来ることになりますね。(笑)

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