30日午後6時頃、三沢基地の米国空軍F-16戦闘機が飛行中に異常を起こし、青森空港に緊急着陸した。この緊急着陸に先立って燃料タンクを空中で投棄したが、そのタンクが青森県深浦町の歩道付近に落ち、一歩間違えば人命にもかかわると問題になっている。
航空機は機体内に燃料タンクを持っているが、このタンクの容量を大きくすると重くなって機敏な行動ができない。逆に小さくすると飛行距離が伸びない。この矛盾を解決する方法が外部に取り付ける燃料タンク、いわゆる増槽という物だ。
長距離飛ぶときは、この増槽を取り付けて燃料の積載量を増やす。空中で会敵した場合は、この増槽を落として身軽になってから戦闘に臨むことになる。
今回は空中戦ではないが、エンジンに異常が起き、緊急に着陸することになった。このときもできるだけ身軽になっておく必要があるため、増槽を落としたのだろう。
この外部タンク、1基で2000リットルの燃料を積めるという。これはドラム缶10本分。このタンクを2基搭載している。このタンクに充填される燃料はJP-8と言われるジェット燃料である。成分はほとんど灯油で、これに少量の酸化防止剤や静電除去剤が加えられている。
(ジェット燃料って灯油なの? JP-1からJP-10、ジェットAからジェットB まで 参照)
この燃料、以前使われていたJP-4よりも引火性が低く、マッチやライターでも簡単には火が着かない比較的安全な燃料だ。ただし、高温になったり、噴霧状態になったり、布などにしみ込ませたりすると着火するようになる。燃えだせば大きな火力をもつ。肌に付着すればかぶれるし、飲み込めば当然、毒性がある。
もう一つの危険性は、その重さである。満タンにすればジェット燃料だけで1.6トンほど。これにタンク自体の重さを加えれば2トン程度になるだろう。これが高空から落ちてくる。人や車に当たれば人命にかかわるし、人家に落ちれば屋根を突き破り、燃料をまき散らし、火気があれば火災にもなる。
いつも思うことなのだが、例え空中戦に臨む、あるいは緊急事態だからと言って外部タンクを落下させれば、そのタンクが地上の住民に被害を及ぼすことは十分予想できる。命がけの戦闘、緊急事態とはいえ、地上のことも考えずに空中から2トンもの重さのあるものを落下させて当たり前、それが増槽というものだという考え方はあまりにも無責任ではないか。それは、タンクを設計したエンジニア、そしてそれを運用する軍の責任である。
外部タンクの中の燃料を空中に放出できるような仕組みを作っておけば、緊急事態には、飛行中にタンクを空にすることができる。そうすればタンクを装着したまま着陸しても問題ないのではないだろうか。
人の頭の上を飛ぶ者の責任として、そのくらいの配慮はすべきだろう。