ウクライナ軍善戦の理由 ランチェスターの法則を使って考えてみた

2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して、すでに10日が経っている。ロシアは世界第二位と言われるほど圧倒的な軍事力を持っているから、ウクライナはすぐに制圧されるだろうとの予測が大半である。しかし、実際にはロシア軍はまだウクライナの一部を制圧しただけで、首都キエフの陥落もできていない。
つまり、ウクライナは予想以上の善戦をしている。その理由についてはいろいろ挙げられるが、ここでは、ランチェスターの法則を使ってウクライナ善戦の理由を考えてみたい。

ランチェスターの法則は今日ではマーケティング手法として、例えば中小企業が大企業に勝つ方法などとしてよく知られているが、もともとは戦場で、犠牲者がどれだけ出るかを数理モデルによって算出する技法である。基本的には軍事力の弱い方が犠牲者が増えていく。つまり強い方が勝つという理論である。

この表はロシア軍とウクライナ軍の戦力を比較したものであるが、この数値を見る限りロシア軍が圧倒的に強力である。ならばランチェスターの法則に従ってロシア軍が勝利するのだろうか。実はランチェスターの法則には戦力の劣る方が勝つ、弱者の戦略も用意されているのだ。

ウクライナとロシアの戦力比較 BBCニュースより

ランチェスターの法則が成り立つのは、実際に戦闘が行われている地域に限られる。いくらロシア軍が全体として強力だと言っても、実際に戦闘が行われる地域にどれだけ戦力を投入できるかは別問題である。つまり局地戦の戦力でみて、ウクライナ軍がロシア軍より勝っていればウクライナ軍が勝つのである。
また、ランチェスターの法則には第一法則と第二法則がある。第一法則は一対一での戦いであり、犠牲者数は戦力の差に比例する。第二法則は総力対総力の戦いであり、これは戦力の差に対して二乗で効いてくる。

ウクライナ軍の取るべき戦略としては局地戦に持ち込み、かつ、正面攻撃ではなく側面から一対一の攻撃を挑むということになる。これが弱者の戦略である。

ジャベリン対戦車ミサイル 戦車隊対戦車隊の戦いではなく、ウクライナ軍は戦車対歩兵で戦っている

対する強者の戦略ではできるだけ大軍でまとまって相手の軍勢を一気にたたくという方法がとられる。例えば、湾岸戦争では、アメリカ軍は砂漠の中を戦車を横一列に並べて進軍し、散らばって戦うイラク軍を駆逐していった。これは明らかな強者の戦略である。

これに対してウクライナ戦争では、まったく逆の展開となっている。ウクライナは非常に平坦な土地で、広大な農地が広がり、ところどころに森や林がある。ここに道路が何本か直線状に走っているだけだから、ロシア軍はこの道路を一列縦隊で進まざるを得ない。

ウクライナ軍は、この縦に長く伸びたロシア軍の先頭勢力とだけ戦えばいい。つまり、いくらロシアが大軍を送り込んだとしても実際に戦うのは先頭だけ。つまり局地戦となり、大軍の意味がないのである。実際、キエフに向かう道路にはロシア軍の車両が数珠つなぎになったまま、戦闘に参加せず何日も動いていない。

このまま時間が経てば、ロシア側の燃料や食料が不足してくるが、自国の大軍が道を塞いでしまっているので補給できないという皮肉な状況になるだろう。そして、やがて春になり、雪が融けてくるとウクライナの豊かな畑が泥沼化するから、ロシア軍の車両は道路から外れて動くこともできなくなる。

しかし、戦局が長引くほど犠牲者が増えてくる。ウクライナだけでなく、ロシア兵の被害も増える。ロシアにとってもこの戦争で失うものは多い。ロシアがウクライナをつなぎ留めたいのなら他にも方法があるはず。それにはまず、プーチンが「打ち方止め」と命令することだ。

2022年3月6日

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