旭化成の火薬工場で大規模爆発事故 なぜひとりで作業していたのか

3月1日。宮崎県延岡市にある旭化成グループのカヤク・ジャパン東海(とうみ)工場で大規模な爆発事故が発生。作業員ひとりが行方不明となり、3人がけがをしている。ロシア軍のウクライナ侵攻に重なったため、マスコミではあまり大きく取り上げられていないが、重大な事故である。

今回の事故では貯蔵されていたニトログリセリン約2千kg他のダイナマイト3万本に相当する爆発物が爆発し、工場は跡形もなく吹き飛んだ。
ニトログリセリンは消防法では第5類危険物(自己反応性物質)に分類されるが、第5類危険物とは要するに爆薬である。火をつけるとか電気火花を飛ばすとかしなくても、加熱や衝撃だけで爆発を起こす大変危険な物質である。

原料はグリセリンで、これは石鹸を作るときに大量に生成する。このグリセリンを硫酸と硝酸を混ぜた混酸で処理するとニトログリセリンができる。製造自体は非常に簡単である。

ニトログリセリンの化学構造式


発明したのはイタリアの化学者、アスカニオ・ソブレロであるが、非常に危険な物質であるため発明から1年以上秘匿していたという。その後、スウェーデンのアルフレッド・ノーベルがこれを硝化綿に混ぜると安定性が増すことを発見した。これがダイナマイトである。

ちなみに、ニトログリセリンを扱った映画に「恐怖の報酬」という作品がある。ベネズエラで発生した油田火災を爆風で吹き消すために、大量にニトログリセリンをトラックに積んでジャングルの中のでこぼこ道を運ぶというストーリーであるが、その危険な運搬にははらはらさせられた。

さて、今回の爆発事故であるが、当時3名の作業員が工場内で作業をしており、この内、現在行方不明になっている従業員が液体の火薬原料の重さを測って金属製の容器に移す作業をしていた。残りの2人は計量された原料を運搬していて、爆発した時は工場から200m離れた位置にいて無事だったという。この3人の作業員とは別の3名が爆風などによりけがをしている。

大学のときに「火薬学」という講義を受講したことがある。細かいことは忘れてしまったが、ニトログリセリンはとにかく危険なので安全に取り扱うために様々なノウハウがある。もちろん、その作業はマニュアル化されているだろうし、慎重に行われるはずである。

また、もうひとつ、講義では作業は必ず2人で行う必要があると言われたのを覚えている。2人で作業を行えば、ひとりが間違いをおこしても、もうひとりが間違いを指摘することができる。2人が同時に同じ間違いをする確率は非常に低くなる。ではなぜ3人ではいけないかというと、事故が起こったとき2人作業なら被害者の数は2人で済むからである。

今回の事故をみると、作業員が3人いたことがまず不可解だが、さらに実際の作業をひとりで行っていたことは問題だろう。このような危険な作業をなぜひとりで行っていたのか。いつもそうなのか。それとも何かの理由があって今回だけ一人で行っていたのか。

もちろん、作業員の数だけが事故の原因ではないだろう。今後、会社は原因究明を確実に行って再発防止に努めてほしい。

2022年3月3日

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