SAFの原料は廃食用油? クロ現で報道されなかったSAFの本当の原料

2月14日のNHKの報道番組「クローズアップ現代(以下 クロ現)」でSAF(サフ)が取り上げられた。SAFとは持続可能航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)の略で、CO2の排出量を80%削減できるジェット機用の燃料である。

原料はてんぷらなどの揚げ物に使ったあとの食用油で、廃食用油といわれる。従来、厄介者とされてきた廃食用油であるが、SAFの原料となることから一気に需要が増加して海外からも買い付けが殺到。引き取り価格もこの1年あまりで3倍に高騰して、今や争奪戦となっている。


一方で、廃食用油を原料とする家畜用飼料が価格が高騰。最近の鶏卵の価格上昇の原因のひとつともなっている。

しかし、廃食用油の量は多くはない。国内の廃食用油を全て集めてSAFを作っても年間35万キロリットル。一方、航空燃料として必要な量は1,300万キロリットルだから、廃食用油だけではとても航空燃料の需要をまかないきれない。

そこで、廃食用油以外の原料として、生ごみや廃プラスチック、藻類、CO2を活用する研究が進んでいる。クロ現の放送は、そういう内容であった。

しかしながら、これでは視聴者は大きな誤解をすることになる。実はSAFの主要原料は廃食用油ではない。生ごみや廃プラスチックなどでももちろんない。

SAFの主原料は植物油。つまりてんぷらなどの揚げ物をする前の植物油。大豆油、ナタネ油、パーム油といった植物油なのである。

番組でも取り上げられていたように、シンガポールには巨大なSAF製造プラントがあるが、その所有者はフィンランドの企業、ネステ社である。この北欧の企業がなぜ東南アジアのシンガポールにプラントを建設したのか。

それは、原料のパーム油が手に入りやすいからである。パーム油はシンガポールの隣国、インドネシアとマレーシアが大産地。この両国のパーム油生産量を合わせるとなんと世界全体の87%を占める。それほどのパーム油の大生産地帯なのである。

ミドリムシ油を原料としてSAFを製造している日本のユーグレナ社も最近、マレーシアに工場建設を検討していると報道された。これもおそらくパーム油を原料として考えているのだろう。

今後、わが国でもSAFの生産プラントが建設されていくであろうが、生産が本格化すれば国内で得られる廃食用油では到底足りないだろう。やはりパーム油などの植物油に頼らざるを得なくなる。

植物油のような食料を燃料の原料として使うのはケシカランという意見もあるが、食料を作るだけが農業ではない。例えば綿花や天然ゴムは食料ではないが、これも農業である。パーム油だって、食料以外に石鹸やシャンプーなどの原料として従来から使われてきた。だから食料を作るのではなく、エネルギーを作る農業があってもいい。ただ、対象とする作物が綿花やゴムの木と違って食料として使われてきた作物であったという話である。

今後、SAFを製造する企業はその原料をどう確保するかが問題となるだろう。自前で植物油の生産まで手掛ける。例えば世界に広がる荒れ地や休耕地、耕作放棄地などを開墾して、油を取れる植物、ナタネ、大豆、パームだけでなくカメリナやジャトロファなど、SAFに特化した油脂植物を育てる。そんなビジネスが展開していくかもしれない。

2023年2月16日

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