韓国が日本への石油製品輸出規制を行った場合の影響

12日、韓国政府は輸出管理で優遇措置を取る対象国から日本を除外する制度改正案を発表しました。日本政府が輸出管理で優遇措置を取る「ホワイト国」から韓国除外を決めたことへの事実上の対抗措置と考えられています。今後、意見公募や審査を経て9月中に施行される見通しだそうです。
このような措置が取られた場合、日本が韓国から輸入している石油製品が影響を受けることが考えられます。その影響について考察してみました。

結論

  • 韓国が日本への石油製品輸出規制をしても、国内需要に比べて輸入量は非常に少ないので、日本にはほとんど影響がない
  • 日本には石油製品の増産余力があり、また、韓国以外の国からの輸入も行える

現状はどうなっているのか

韓国内のある報道機関からの報道によりますと、日本が輸入している品目のうち、石油類と金属鉱については韓国からの比率が70%以上あるといいます。このことから「これらの品目に対日輸出規制措置が取られれば、日本は一時的にでも燃料不足や製造原料不足に陥る可能性がある。」と指摘しているそうです。(Record China 2019年7月4日(木))

そのようなことが起こりうるのでしょうか。外務省アジア大洋州局 日韓経済室の資料によりますと、2015年の日本が韓国から輸入している品目(合計約3.2兆円)のうち、電子機器が21.1%、石油製品等が14.4%、化学製品+プラスチックが14.3%、卑金属が13.3% 等となっています。石油製品や化学品、プラスチックのような石油・石油化学関連の製品の割合が大きくなっていることが分かります。

では、韓国が石油製品の輸出を規制した場合、どのような影響がでるのでしょうか。石油連盟がまとめている、石油に関する統計をまとめてみました。(元データは経済産業省生産動態統計)
これが以下の表です。

我が国石油製品輸入に関する韓国の割合(2018年度)

この表に見られるように、確かに輸入品の中で韓国品の占める割合はかなり高くなっています。特に軽油やA重油は全量、ガソリンは87.5%を韓国から輸入しています。
ナフサについては、韓国からの輸入は12.5%で、割合いはあまり高くはないですが、量的にみると輸入量が300万キロリットル以上あり、2番目のガソリンの輸入量の2倍近くを韓国から輸入しており、その割合は石油製品の中で断トツになっています。

ただ、ナフサは燃料油ではありませんので、別に議論するとして、ナフサ除き(つまり燃料油の部分)を考えれば、輸入された石油製品の7割近くが韓国産ということになります。

では、やはり韓国が輸出規制をした時の影響は大きいのでしょうか。いいえ、それは違います。この表の右半分を見ていただければわかりますが、そもそも、日本が輸入している石油製品は、国内販売量1億2,400万キロリットルのわずかに5%しかありません(ナフサ除く)。さらに、この輸入品の約7割が韓国産ですが、それにしても、その全販売量に占める割合は3.4%しかないというのが現状です。

つまり、日本が輸入している石油製品のうち韓国産が占める割合は確かに大きいが、輸入そのものが少ないので、日本国内全体でみれば韓国の輸出規制の影響はほとんどないということです。

国内増産、輸入の可能性

一方、日本国内の製油所稼働率については一時期70%代まで落ち込んでいましたが、最近は中小製油所の閉鎖などが進み、稼働率は90%まで増加しています。とはいえ稼働率を100%に上げれば、単純に計算してあと1,640万キロリットルほどが増産可能です。

実は稼働率90%というのは、かなり製油能力の上限に近いのですが、それでも韓国からの製品輸入量は420万キロリットルですから、それがまったく途絶えたとしても、若干の増強工事が必要になるかもしれませんが、国内製油所で十分増産可能でしょう。あるいは、中国やシンガポールなどから石油製品を輸入することも可能です。

日本は戦後、消費地精製主義をとってきました。石油製品を輸入するのではなく、原油を輸入して、国内で製品にするという政策です。石油製品を輸入するにしても、石油会社しか認可されないという制度でした。
1997年に石油製品の輸入が自由化され、現在では石油製品を輸入することは、だれでも自由に行えるようになっています。しかし、石油製品を輸入するためにはタンカー受け入れ設備や貯蔵タンク、出荷設備などの大規模な施設が必要となるため、石油製品輸入は石油会社以外では限られてしまいます。

ただ、韓国は地理的に日本に近いこと、大規模な製油所を持っていること、品質的にも問題が少ないことなどから、輸入品に対する韓国の割合は大きなものとなっています。

ちなみに、日本には日本海側の製油所がありませんが、韓国の製油所はほとんどが日本海側に設置されています(黄海側は遠浅のため大型の原油タンカーを着さんさせることができない)。このことから、日本海側の消費地には韓国から運んだ方が都合がよいこともあるのだと思いますが、あくまでも補完的な関係でしかありません。

ナフサの輸入について

先ほど、話を先送りしたナフサについていわせてもらいます。
日本は従来から大量のナフサを輸入しており、ナフサ輸入量は国内生産量の約1.5倍に達しています。そして、その1割ちょいの部分が韓国からの輸入ということです。

ナフサは、ほとんどがプラスチックなどの石油化学原料として使われますので、燃料ではありません。いわゆる戦略物資ではありません。もし韓国がナフサの輸出を止めたとしても、車が動かなくなるとか、工場のボイラが止まってしまうとかいうことはありません。

また、ナフサは世界市場でさまざまな国から調達が可能です。実際、2018年度に日本は、カタールから504万キロリットル、クウェートから203万キロリットル、サウジアラビアから157万キロリットルなど、世界20か国からナフサを輸入していますので、韓国から輸入しなくても、その他の国々から少しばかり輸入量を増やせば済むことです。

 

まとめ

日本の石油製品の輸入量のうち、韓国産の占める割合は確かに大きいですが、韓国産でなければならないということではなく、韓国産がなければ需給に支障をきたすということもあまりないでしょう。ただ、距離的に近い国なので、互いに石油製品を融通し合えば、双方ともメリットがあるという関係だと思います。

今のところ、文政権になってから日韓はまるで子供の喧嘩みたいなことを繰り返していますが、基本お隣同士なので、協力し合えば互いにメリットのあることはたくさんあると思います。残念です。

2019年8月13日

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