日本は何位? SDGs達成度世界ランキング なにがよくて、どこが悪いのか

最近、SDGsという言葉をよく聞くようになった。SDGsとはSustainable Development Goalsの略で、持続可能な開発目標と訳される。人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき17の目標のことだ。

SDGsは世界各国が取り組む目標であるが、実際どの国がどれだけ目標に近づいたかという成果が点数付けられて、世界ランキングが発表されている。日本は何位だろうか。そして、どのような点が評価され、どのような点に問題ありとされているのだろうか。

SDGsの17の目標

SDGsは2015年の国連総会で採択され、17の目標と169の達成基準が示されている。その17の目標であるが、これもいろいろなところで見かけるが復習すれば以下のとおりである。

SDGsってなんだろう(https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/about/)から転載

ただし、このSDGs、各国にはそれを実施する義務や罰則があるわけではない。各国が自国の政策として行うことになっている。でも、それではSDGsは単に目標の言い放しになってしまって、実効性はないということになるかもしれない。

では、この17の目標に対して、実際に各国がどれくらい達成したかのだろうか。これについては、Jeffrey D. Sachs(コロンビア大学地球研究所長)らによって非常に細かく分析され、国別に点数が付けられて、持続可能な開発報告書(Sustainable development Report)として公表されているのだ。

評価の方法

点数の付け方であるが、17の目標それぞれにいくつかの指標を設定し、その指標の達成目標値と下限値を決め、その間の何パーセントに達したかで、SDGs目標達成度をスコアとして数値化している。対象は163か国だ。

例えば、目標4の「質の高い教育をみんなに」では、評価指標は初等教育就学率や識字率、高等教育進学率など8項目である。そしてその中で、例えば識字率については、目標達成値が100%、下限値を45.2%とし、スコアは実際のその国の識字率がこの範囲の中でどの位置にあるかを数字で示したものである。これらの指標のスコアをすべて平均して、各国のスコアとしている。

ランキング

では、いよいよ各国のスコアについてみてみよう。上位1位から20位までのランキングは以下のとおりである。

順位        国名                   スコア
 1.    フィンランド    86.5
 2.    デンマーク   85.6
 3.    スウェーデン        85.2
 4.    ノルウェー             82.3
 5.    オーストリア        82.3
 6.    ドイツ                     82.2
 7.    フランス                 81.2
 8.    スイス                     80.8
 9.    アイルランド        80.7
10.    エストニア             80.6
11.    イギリス                 80.6
12.    ポーランド             80.5
13.    チェコ                     80.5
14.    ラトビア                 80.3
15.    スロベニア             80.0
16.    スペイン                 79.9
17.    オランダ                 79.9
18.    ベルギー                 79.7
19.    日本                         79.6
20.    ポルトガル             79.2

この順位から分かるように、1位から4位までを北欧の4か国が占める。さらにその次には欧州各国が続く。そして、欧州以外の国として初めて顔を出すのが19番目にランクアップされた日本である。

その他の主な国の順位を拾ってみると、イタリア25位、韓国27位、カナダ29位、オーストラリア38位、米国41位、ブラジル53位、中国56位などとなっている。意外に米国は低い。

一方、下位には南スーダン163位、中央アフリカ共和国162位、チャド161位などとアフリカ諸国が並ぶ。

なお、今回のスコアにはウクライナとロシアの戦争の影響は含まれていない。ウクライナは37位、ロシアは45位であるが、戦争の影響を含めると多分順位はもっと下がってしまうだろう。

日本の成績表

さらに、この報告書では、SDGsの17の目標ごとに達成度を、グリーン(目標達成)、イエロー(課題が残っている)、オレンジ(課題あり)、レッド(大きな問題あり)に色分けして、分かりやすく表現している。これはつまり各国の成績表あるいは通信簿のようなものである。グリーンが「大変よくできました」、レッドが「頑張りましょう」というところだろうか。

さて、日本の場合の通信簿は以下のようになる。

Jeffrey D. Sachs他「Sustainable development Report」より

日本がグリーン(目標を達成)として評価されているのは、SDGsの17の目標のうち、4.「質の高い教育をみんなに」、9.「産業と技術革新の基盤をつくろう」、16.「平和と公正をすべての人に」の3目標であった。これらの目標のそれぞれの評価項目はすべてグリーンである。

一方、レッド(大きな問題あり)に分類されているのは、5.「ジェンダー平等を実現しよう」、12.「作る責任 使う責任」、13.「気候変動に具体的な対策を」、14.「海の豊かさを守ろう」、15.「陸の豊かさも守ろう」、17.「パートナーシップで目標を達成しよう」の6目標であった。では、これらの何が問題とされたのだろうか。

何が問題なのだろうか

では、問題ありとされた6つの目標をやや詳しくみていこう。

5.「ジェンダー平等を実現しよう」
ここで問題とされているのは、国会で女性が占める議席の割合と男女賃金格差である。確かにこれは問題かもしれない。日本の人口の半分が女性なのだから、国民を代表する議会の議席も半分が女性であるべきである。しかし、実際の女性議員の数は1割以下でしかない。また、賃金についても女性は男性よりもかなり低い。一方、女性と男性の間の教育期間の差や就業人口の比率については目標達成レベルとされている。

12.「作る責任 使う責任」
ここで課題とされるのは、生産と消費が環境へおよぼす影響である。我が国において製造時に排出される硫黄化合物と窒素化合物の量、およびリサイクル率については目標達成とされている。しかし、問題は消費に伴う廃棄である。電気・電子機器の廃棄物の量と輸出されるプラスチック廃棄物の量がレッド評価とされている。特にプラスチック廃棄物を海外に輸出していることは大きな問題とされている。

13.「気候変動に具体的な対策を」
ここで問題とされたのは、化石燃料の燃焼とセメント製造に伴うCO2排出量、輸入に伴うCO2排出量およびカーボンプライシングスコアである。つまり、CO2の排出量が多いということであるが、この気候変動の目標については日本だけでなく、先進国はほとんどの国でレッドとなっている。なお、国内で発生するCO2だけでなく、製品を海外から輸入するときに海外の製造元で排出されるCO2の量も問題となる。

14.「海の豊かさを守ろう」
この目標には評価項目が6個あるが、我が国はその6つ評価項目の内、ひとつもグリーンがない。特に問題とされたのが、海洋健康指数、魚類の乱獲、輸入による海洋生物多様性への脅威、輸入による海洋生物種への脅威である。なお、海洋健康指数というのは、領海の海水が、化学物質、過剰な栄養素 (富栄養化)、人間の病原体、ゴミによってどの程度汚染されているかを評価したものである。

15.「陸の豊かさも守ろう」
5つの評価項目のうち、我が国が目標を達成しているのは恒久的な森林破壊だけである。特に問題とされているのは、生物多様性にとって重要な淡水域の保護および種の生存のレッドリストインデックスである。ちなみに、「陸の豊かさも守ろう」という目標に対しては海外でも達成度が低い。世界中でグリーン評価になっているのはバルト3国とポーランドの4か国だけである。

17.「パートナーシップで目標を達成しよう」
この目標に対しては7つの評価項目があるが、我が国はこのうち4つがグリーン、2つがレッドとなっている。レッドとなったのは、国民総所得 (GNI) に対する政府開発援助 (ODA) の割合および金融機密スコアである。

ところで、このランキングは本当に妥当なのか

以上のように、各国のSDGs達成度の数値とランキングを見てきたわけであるが、このランキングは本当に妥当なのだろうか。

このランキングを取りまとめたのはJeffrey D. Sachs、Guillaume Lafortune、Christian Kroll、Grayson Fullerおよび Finn Woelmという5人の人物である。いずれもSDGsに造詣が深く、その推進に大きな貢献をしてきた人たちであるが、このメンバーが本当に妥当なのだろうか。

というのは、これらの5人の居住地は欧州4名、米国1名と偏っていること。さらに人種では欧州系4名、アフリカ系1名、アジア系はゼロ。性別に至っては全員が男性であり、女性は一人もいない。(確かSDGsでは「ジェンダー平等を実現しよう」が目標の一つになっていたと思うのだが)

このように欧州、白人、男性に偏った人たちが評価を行っているわけで、当然、その評価基準も彼らの偏った価値観に支配されるだろう。例えば、気候変動の評価基準にカーボンプライシングが入っているが、これは欧州各国ではおしなべて採用されているものの、欧州以外ではほとんど用いられていない非常にローカルなものである。これを評価基準とすれば当然、欧州各国のスコアは高く、それ以外の国は低くなる。

また、「気候変動に具体的な対策を」の3つの評価基準は全てCO2排出量に関するものであるが、一方「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」でも、発電におけるCO2発生量や再生可能エネルギー使用率が評価基準とされている。評価基準がCO2対策に偏り過ぎているのではないか。

それより、気候変動に対する具体的な対策については、気候変動によって発生する災害に対する備えを評価基準として挙げるべきであろう。例えば洪水や干ばつ、高潮、大型化した台風等への備えである。特に洪水や台風対策が評価基準に入るなら、日本のスコアはもっと上がるはずである。

とはいえ、SDGsという範囲の広い分野の達成度評価を公平に行うのは非常に難しい。このランキングは完全ではないが、SDGsの進捗度を評価する一定の目安とはなるだろう。

2022年11月3日

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