バイオマスプラスチックならホルムズ海峡が封鎖されても製造できる

1.プラスチックはナフサでなくても作ることができる

2月28日に始まった米国・イスラエルとイランの戦争はホルムズ海峡の封鎖を招き、話し合いは続いているものの、まだ完全な状態には戻っていない。ホルムズ海峡封鎖によってわが国は原油やナフサの輸入が大幅に減少し、特にナフサから作られるプラスチックや溶剤のような各種の石油化学製品の品切れが大きな問題となった。

2.植物油や穀物などから作るバイオプラスチックに注目

わが国の産業や国民生活が、普段は一般にはあまり目にすることのないナフサというものに大きく依存していることが改めて浮き彫りになった形である。今後、原油やナフサの輸入先を多様化するとともに、エネルギー源やプラスチックなどの脱石油化が進められていくことになるだろう。

ところで、プラスチックはナフサ以外のものでも作ることができることはご存知だろうか。プラスチックは天然ガスや石炭からも作ることができ、実際に作られているのだが、近年、注目されているのが植物油や穀物などから作るバイオプラスチックである。

このバイオプラスチック、大学の研究室で研究中などというものではなく、確立した技術であり、すでに商業生産段階に入っている。しかもわが国にも導入されて次第にその利用範囲が広まりつつあることはあまり知られていない。

この記事では、ナフサに頼らないプラスチックとして期待されるバイオプラスチックについて解説する。

レジ袋に使われているバイオマスプラスチック

3.バイオプラスチックには2種類ある

バイオプラスチックとよばれるプラスチックには2種類ある。ひとつは植物を原料として作られたプラスチックで、原料の植物つまりバイオマスのバイオをとってバイオプラスチックまたはバイオマスプラスチックとよばれる。

もうひとつは生分解性プラスチックというもので、使用後廃棄されたときに環境中で生化学的に分解されてしまうものである。このプラスチックは生分解、つまりバイオデグラデーションのバイオからバイオプラスチックといわれる。

どちらもバイオプラスチックだが、前者は原料としてバイオマスが使われるという製造時の話。後者はバイオの力によって分解されるかどうかという廃棄されたあとの話だ。ここでは前者、つまり原料として石油系ナフサを使わず、バイオマスが使われるプラスマスチックを紹介したい。

4.バイオマスプラスチックの原料と製造方法とは

バイオマスプラスチックの原料は大豆、パーム、ナタネのような油糧作物から抽出される油脂つまり食用油、あるいはトウモロコシやサトウキビなどを発酵して作られるバイオエタノールである。

そのほか、農業廃棄物や森林廃棄物、都市ごみ、藻類のような非作物系の原料についても研究が進められているが、既に実用化されているのは油脂やバイオエタノールを原料とするものだ。

大豆油やパーム油などの油脂を原料とする場合は、油脂をまず水素化分解という方法で分解する。これは石油精製でよく使われるお馴染みの技術だ。この水素化分解によってHVO(水素化植物油)という軽油代替燃料が作られるが、そのとき同時に石油から作られたナフサとほぼ同じものができてくる。

これはバイオナフサとよばれ、石油から作られたナフサと同じ様にナフサクラッカーとよばれる装置で分解されてエチレン、プロピレンなど基礎化学品となり、これを重合(※)することによってポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチックを作ることができる。

※1 重合: 石油などから抽出された小さな分子(モノマー)を数千〜数万個化学結合させ、網の目や鎖のようにつなぎ合わせて巨大な高分子(ポリマー)にする反応のこと

バイオエタノールを原料とする場合は、まずバイオエタノールの脱水反応によっていきなりエチレンが製造される。これはバイオエチレンとよばれるが、石油ナフサから作られたエチレンと化学的な違いはない。このバイオエチレンを重合すればバイオナフサの場合と同じようにポリエチレンなどのプラスチックを作ることができる。

5.バイオマスプラスチックの利点

バイオマスプラスチックにはもちろんよい所と悪いところがある。よいところは石油資源に依存しないことや気候変動対策になることのほかに、現在ある石油化学プラントがそのまま使え、製造されたプラスチックは石油から作られたものと同じ品質を持つということだろう。

① 石油資源に依存しない
バイオマスプラスチックの原料はもちろん石油ではない。原料となるトウモロコシなどの穀物や油糧作物は世界中のさまざまな地域で栽培することができる。主な産地はバイオエタノールの場合は米国やブラジル。植物油の場合も米国やブラジルのほか、カナダや東南アジアなど世界中が産地だ。だから地域紛争などによって原料供給ルートが断たれるという可能性は小さい。

② 気候変動対策
原料となるバイオマスは空気中のCO2を吸収することによって成長しているから、少なくともバイオマスプラスチックを燃やしたときに排出されるCO2については全て空気中から吸収したものだ。だから廃棄されたバイオマスプラスチックを焼却しても、排出されるCO2によって大気中のCO2濃度を増やすことはない。

ただし、バイオマスプラスチックを製造したり、輸送したりするときには化石燃料、作物栽培時に化学肥料が使われ、その分だけ大気中のCO2濃度を増やすことになる。しかし、それを考慮しても石油系のナフサを使ったプラスチックよりCO2排出量は大幅に削減できる。

④ 既存の石油化学プラントを使用できる
バイオナフサは石油系のナフサの代替として、またバイオエチレンは石油系ナフサを分解して作られるエチレンの代替として、そのまま使用することができる。だから、既存の石油化学コンビナートのプラントや流通システムを大きく変更する必要がない。このことはバイオマスプラスチックの普及に決定的に重要なことである。

⑤ 石油から作られたプラスチックと同じ品質
バイオマスプラスチックの原料となるバイオナフサやバイオエチレンは石油から作られたナフサやエチレンと化学的に同じである。したがって、これらから作られたプラスチックは石油から作られたプラスチックと品質が同じである。また、バイオマスプラスチックは従来の石油系プラスチックに混ぜて使うこともできる。

6.バイオプラスチックの問題点

バイオプラスチックの問題点としては、原料の生産量が気候や干ばつなどの影響を受けることや、原料作物が食料としての用途もあること、価格が石油系プラスチックより高いことなどであろう。

① 気候などによって生産量が左右される
他の農作物と同様にその年の気温や日射量、降雨量などによって生産量が左右され、これによって価格が上下することになる。

② 原料が食料としての用途もある
現在、バイオプラスチックに使われている原料は植物油や穀物で、これは食料としての用途もあるため、食料不足を助長すると言われることがある。ただし、バイオプラスチックの原料作物は食料需要を供給した上で、余剰部分がバイオプラスチックに回されており、食料不足と直接関係はない。

むしろ、世界の多くの国々で人口は減少に向かっており、従来言われた人口爆発は沈静化しつつある。将来は食料余剰となる可能性もある。

ただプラスチックの価格は原油価格の影響を受けるから、バイオプラスチックの原料となる植物油や穀物の価格も原油価格の影響を受けるようになるだろう。

③ 価格が高い
同じバイオプラスチックでも生分解性プラスチックはかなり高価であるが、バイオマスプラスチックは石油系プラスチックにかなり近づいている。

例えば石油系プラスチック製のレジ袋(100枚入り)は100円程度であるのに対して、バイオマスプラスチックを25%含むレジ袋(100枚入り)は180円程度で販売されている。(モノタロウでの販売価格)

7.バイオプラスチックはすでにわが国にも導入されている

バイオプラスチックはすでにわが国に導入され、レジ袋や食品の包装材など、身の回りで使われ始めているのだが、気がついていない人が多いかもしれない。

バイオナフサについては三井化学が2021年からフィンランドのネステ社から輸入している。輸入されたバイオナフサは石油系ナフサと同様にナフサクラッカーで分解されてエチレンなどの基礎化学品となり、最終的にはポリエチレンなどのプラスチック製品となる。

豊田通商や双日プラネットはブラジルのブラスケム社からバイオマスポリエチレンを輸入している。これはサトウキビを原料に作られたポリエチレンで、日本では石油系プラスチックと混合してレジ袋などに使われている。

スーパーやコンビニでレジ袋を購入すると多くの場合BPマークがついている。これはバイオプラスチックが含まれていることを示している。BPマークの横に書かれている数字がバイオプラスチックが占める割合である。

従来は10%程度のものが多かったが、最近ではバイオプラスチックが50%程度を占めるものも見かけるようになってきている。

ホルムズ危機によって、イランは海峡封鎖というカードをいつでも切ることができるということを世界に示した。今後、わが国は安全保障上石油依存の割合を低下させていくことが望ましい。特に問題となった今回問題となった石油化学製品への影響については、国の政策として少し盲点だったのではないだろうか。

今後、従来は主に気候変動対策として導入が進められたバイオマスプラスチックであるが、新たに石油系プラスチックに代るという役割が付け加えられたということになるだろう。

2026年7月8日

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