カーメーカーのホンダが開発に乗り出したSAF 簡単には賛同できない3つの疑問

2月6日、カーメーカーのホンダがSAFの製造に乗り出すと新聞で報じられた。
SAFとは、持続可能航空燃料のこと。石油から作られるジェット燃料とほぼ同じ性状や性能を持ちながら、温室効果ガスの排出量を大幅に抑えることができる燃料である。航空業界は2020年以降、温室効果ガスの排出量を増やしてはいけないとの目標がある。この目標達成のためにSAFは非常に有力な手段とみられている。

温室効果ガスの削減ができない場合、その航空会社は他国への乗り入れを拒否される可能性がある。あるいは市場から炭素排出量を購入しなければならなくなる。このことから今後、SAFの需要は拡大することが約束されている。

また、SAFは基本的に灯油や軽油の代わりに使うことができる。SAFが実用化すれば、トラックやバスなど電気自動車化が困難なディーゼルエンジン車への需要も見込むことができる。ホンダがSAFの開発に乗り出したのはこのような思惑があるからだろう。

もちろん、SAFの開発を進めているのはホンダだけではない。世界中で開発がすすめられており、その原料を何にするか、どうやって製造するかについて、さまざまな方法が提案されている。

では、ホンダの方法はというと、まず、①工場等から排出されるCO2を使って藻を栽培する。②この藻を乾燥させて粉末状にし、③そこからブドウ糖を抽出して、④そのブドウ糖からSAFを製造する。 というものである。

ホンダが開発するSAFの製造工程

しかし、今回の報道については、すんなり受け入れられない、いくつかの疑問がある。この点について紹介したい。

疑問1.本当にカーボンニュートラルなのか
原料となる藻は成長する過程でCO2を吸収しているから、その藻から作られたSAFを燃料として使っても、空気中のCO2を増加させないという理屈である。この関係はカーボンニュートラルといわれている。空気中からCO2を回収することをDAC(Direct Air Capture)というが藻は一種のDACと言えるかもしれない。

しかし、ホンダの方法は空気中のCO2ではなく、工場などで発生したCO2を使うとしている。多分、その方が藻の成長が速いからだろう。しかし、工場から発生したCO2は化石燃料起源である。それを使って製造したSAFはカーボンニュートラルとは認められないかもしれない。

疑問2.乾燥に大きなエネルギーを必要とする
藻は成長が速いので、バイオ燃料の原料として以前から有望視されてきた。しかし、現在まで藻を原料とした燃料が本格的に普及しているとは言い難い。その理由のひとつが乾燥工程で大きなエネルギーを消費することである。その結果、SAFの製造コストが非常に大きなものとなって、実用的でなくなってしまう可能性がある。

疑問3.藻からブドウ糖を抽出できるのか
アメリカにはASTMという規格があり、藻を使った燃料もSAFとして認められている。しかし、この場合、藻から取り出すのは油脂であり、ブドウ糖ではない。ブドウ糖を産出する藻をホンダが独自に開発したのだろうか。

あるいは藻からセルロースを取り出し、これを分解してブドウ糖とすることは可能である。セルロースからブドウ糖を作る技術はアメリカでさんざん研究され、商業プラントまで建設されたが、結局失敗して撤退している。かなり難しい技術なのだ。

もちろん、ここで挙げた疑問のもとは単に新聞から得られた情報だけである。もっと詳しい情報が得られれば、これらの疑問は解消してしまうかもしれないし、そう願っている。ホンダファンのひとりとして、できればホンダにもこの分野で有望な技術を開発していただきたい。

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