米研究所でレーザー核融合の「点火」に成功? これで核融合発電の実用化が実現とはならない理由

【この記事は、オルタナ誌、Yahooニュースで紹介されました】

米ローレンス・リバモア国立研究所は8月6日、核融合の実験で、投入量を上回るエネルギーを得ることに再び成功したと発表した。昨年12月5日の同実験で、2.05メガジュールのレーザーエネルギーを燃料カプセルに投入した結果、3.15メガジュールの出力を得て、エネルギーの「純増」に成功したと発表していた。今回の実験の結果は12月のときよりエネルギー収量が大きかったという。

この実験結果を受けて、ついに核融合の点火に成功したとする報道もあり、これで核融合発電が現実味を帯びてきたとか、実用化がもう目前であるかのように報道する向きもある。

そうだろうか。もう核融合発電の実用化は目前なのだろうか。実際に核融合が「点火」したというのは正しいのだろうか。ここではそんなことはない。核融合発電が点火したとか、実用化間近なんて話は嘘っぱちだという話をしたい。

今回の核融合実験の意味

今回の核融合実験の成果について、焚火で考えてみよう。
寒いので焚火をしようと考えた。薪を集めてライターで火をつけたが、なかなか火が着かない。ようやく着火したと思っても、その火の大きさはライターの火よりも小さいし、ライターを消すと薪の火も消えてしまう。これなら焚火をするより、ライターの炎で温まった方がいいくらいだ。というのが今までの成果だった。

今回の成果は、薪に火が着き、さらにその炎がライターの炎よりも大きくなったということである。焚火の場合は、ライターの炎より大きな炎ができたことには意味がある。その炎が新たな着火源となって他の薪を燃やすことになるからだ。ライターで薪に火が着くのなら、その火より大きな炎ができれば、それが着火源となって次々に燃え広がって行くことになる。これが焚火に点火したということである。

同じような現象に核分裂がある。原子炉では核燃料に含まれるウラン235という原子が焚火の燃料にあたる。ウラン235に中性子が当たると、分裂して熱が発生するとともに新たな中性子を2~3個放出する。この中性子は消滅してしまう場合もあるし、他のウラン235にあたる場合もある。後者の場合は中性子が当たったウラン235も核分裂を起こして、再び2~3個の中性子を放出することになる。

このようにして核分裂するウラン235の数が増えて、消滅する中性子と同じ数になった状態を臨界という。この臨界を越えれば燃料は放っておいても核分裂を継続することになる。これは焚火が放っておいても薪がなくなるまで燃え続けるのと同じである。原子炉の場合の点火といっていいだろう。

では、今回のローレンス・リバモアの結果は、この焚火の点火、あるいは原子炉の臨界にあたるのだろうか。残念ながらそうではない。核融合によって得られたエネルギーが他の燃料の核融合の原因となって、核融合が継続するかというとそうではないからである。

あくまでも核融合によって放出されたエネルギーが核融合を起こさせるために使ったレーザーのエネルギーを上回ったという計算上の結果である。電卓をたたいて計算したらそうなったというだけに過ぎないし、それ以上の意味はない。

焚火の例で言えば、ライターよりも大きな炎ができたが、ライターを消してしまえば焚火も消えてしまうという関係なのだ。核融合のエネルギーがその核融合を起こすレーザー光のエネルギーが大きくなったといって、核融合が自動的に継続するわけではない。いったい何を騒いでいるのだろうか。

核融合発電の実用化は近づいたのか

今回の成果は、とりあえず核融合を狙って、きちんと起こすことができたという意味ではそれなりに評価できるだろう。その時の必要エネルギーが発生したエネルギーを上回っていたかどうかは単に計算上の問題に過ぎない。仕入れ価格より、売値の方が上回ったという会計上の意味はあるだろうが、物理的な意味はない。

ちなみに、今回のレーザー出力を実現するために、実はその200倍の電力が投入されている。つまり、同じレーザーを駆動するための電力を200分の1にするか、核融合によって発生するエネルギーを200倍にするかしてようやく、エネルギー的にはブレークイーブンになる。ここまで達するにはまだまだ先が長い。さらにエネルギー的に黒字になったからといって核融合発電が実現するわけでもない。

核融合発電を行うためには、継続的に核融合を起こす必要があるが、今回の実験で核融合が起こった時間はなんと10億分の1秒単位に過ぎない。もちろん10億分の1秒でも、これを繰り返せばいいわけであるが、同研究所の設備の能力では一日に数回しかレーザー照射ができないという。そして1回の核融合で生み出されるエネルギーは3.15メガジュール、ガソリンに換算して0.1リットル分に過ぎないのだ。

一方、これだけの核融合エネルギーを生み出すために使われた設備は、巨大な192本の高出力レーザー装置で、そのサイズはフットボール場3面分もある。この巨大な設備をつくるためには膨大な費用がかかっただろうが、それで生み出されるエネルギーがガソリン0.1リットル分というわけだ。

この設備をそのままスケールアップして核融合発電に持っていくとしたら、膨大な設置面積と、膨大な費用がかかるだろうし、核融合で得られたエネルギー(高速中性子線のエネルギー)を電力に変える設備も別に必要となる。

あくまでも、今回の成果はフットボール場3面分もある巨大な実験室で、ごく短時間(10億分の1秒単位)、ごく少量(直径数ミリ程度)の燃料で核融合が起こったということであり、あくまでも巨大な実験室の成果に過ぎない。その設備をそのままスケールアップして核融合発電所が実現するという話ではない。

核融合発電は可能なのか

核融合が実験室で成功したからといって、核融合反応を商業発電に持っていくためには、越えなければならない多くの問題がある。

まず、核融合に使う燃料としてトリチウムが使われる。トリチウムは地球上にはほとんど存在しないから、どうやって手に入れるのか。アイデアはいろいろあるが目途がついているわけではない。また、トリチウムは、それ自体が放射性物質であり、取り扱いが難しい物質である。

核融合で発生するエネルギーの多くは高速中性子の形で放出される。高速中性子はすこぶる危険であり、人体に対してももちろんだが、様々な材料を簡単に劣化させるという性質がある。ローレンス・リバモア研究所で用いられるような、巨大で高価な設備も数年で劣化して使用できなくなる。

また、発電所とするためには、この高速中性子からエネルギーを電力として安全に取り出さなければならないが、その技術はまだ確立していない。
これらの未解決の問題はそう簡単には解決できないだろう。

これらが技術的に解決できたとしても、さらに厄介な問題が待ち構えている。それは経済性という問題である。核融合を発電に利用するためには、巨大な設備が必要となり、設備自体が精密機械であるから非常に高価なものとなる。その高価な設備が2~3年で取替えとなると、固定費負担は膨大なものとなる。さらに、燃料となるトリチウムの製造コストがどうなるのか見当もつかない。

一方で、太陽光や風力の発電コストは飛躍的に低下しつつある。太陽光の発電コストは、2030年には1kWhあたり10円程度まで下がっていき、さらにもっと下がるといわれている。

核融合発電は30年後に実現すると、ずっと前からいわれ続けてきたがまだ実現していない。例え物理的に実現しても、そのコストが太陽光発電のコストまで下げられなければ、何十年かかっても実用化はしないということになる。

2013年8月24日