今年2月28日、突如米国・イスラエルがイランを爆撃、最高指導者ハメネイ師を殺害したことから始まった対イラン戦争。イランは対抗手段としてホルムズ海峡を封鎖。その結果、湾岸諸国から輸送される原油の流れが止まった。
わが国には約8か月分の石油備蓄があるが、その備蓄を使い果たす前に原油から精製されるナフサの不足が深刻となっている。ナフサはなぜ原油より先に不足し始めているのか。さらにナフサが入手できなくなるとどのような問題が起こってくるのか。そもそもナフサは石油精製によって必ず出てくる余り物ではなかったのか等について解説する。
■ナフサは石油製品需要の4分の1を占める
わが国で消費される石油製品のうち、最も需要の多いのがガソリンでこれが全石油製品の32%を占めるが、次に多いのがナフサで約25%を占める。
ガソリンもナフサも原油を蒸留して作られるが、この方法ではある特定の製品だけを優先的に作ることができず、各石油製品が一定の割合で生成してくるという特徴がある。これを連産品という。
原油を蒸留して出てくる石油製品の割合は原油の種類や蒸留方法によって多少違うが、だいたいガソリンが15%、ナフサが10%程度、そして需要が最も少ない重油が30~50%もできてしまう。この数字を見て気づかれた方も多いと思うが、原油を蒸留して生産されるガソリンやナフサ、重油の割合と実際の石油製品の需要との問には大きなギャップがある。
ガソリンについてみると、原油の蒸留で得られた割合だけでは大幅に不足する。そこで、製油所では需要の少ない重油を原料としてこれを分解装置で分解してガソリンを作っている。日本で消費されているガソリンの約半分が実は重油を分解して作られているのだ。
ではガソリンと同様に需要の多いナフサはどうするのか。重油を分解して作る方法もないわけではないが、実際には輸入に頼っているのが現状だ。つまりガソリンは不足分については重油を分解することによって補うことができるが、ナフサの不足分はそれができないので輸入に頼っているということになる。
2024年の統計によると、ナフサの国内需要は3,483万KL。これに対して輸入は2,336万KLだから、なんと国内で消費されるナフサ3分の2は輸入品なのである。
「ナフサは原油を蒸留すると必ずできてくるが、使い道のない余り物で、仕方がないのでこれでレジ袋を作って無料で配っている。そうしなければ石油会社はナフサを捨ててしまうことになる。」そんな話を聞いたことのある人もいるかもしれないが、この話は事実と異なるフェイクである。
ナフサは余り物どころか、国内生産だけではまったく足らず、大量の輸入によって不足分を補っているのが現状だ。
■原油の備蓄はあってもナフサの備蓄はない
ではどこからナフサを輸入しているかというと、その多くはUAE、クウェート、カタールの中東諸国とお隣の韓国で、この4か国で輸入量の8割を占める。

ホルムズ海峡が封鎖され、原油だけでなくナフサ運搬船もここを通過できなくなった。当然、ナフサの輸入先である中東諸国からの輸入も途絶えている。韓国からの輸入船はホルムズ海峡を通らないが、そもそも韓国の原油輸入先の70%が中東であるから、中東からの原油が途絶えれば、ナフサも生産できなくなり、日本への輸出も止まっている。
原油の輸入が止まっても8か月分の備蓄があるから、日本の製油所はその期間は石油製品の生産を継続し、ナフサも生産されるだろう。しかし、既に述べたように国産ナフサは需要量の3分の1しかない。輸入ナフサの備蓄義務はないから、輸入ナフサが止まれば、すぐにナフサ不足となる。ホルムズ海峡封鎖の影響はガソリンや軽油の不足より、ナフサ不足の方がずっと早く訪れることになる。
■ナフサは何に使われているのか
ではナフサが不足するとどのような事態になるのだろうか。
ナフサを実際に目で見た人は多くないであろう。ナフサは水のような無色透明の液体で水より軽く、水よりもっとさらさらしている。蒸発しやすく、石油臭がし、火気を近づけると簡単に着火して燃え尽きるまで燃え続ける危険物である。
日本の製油所に輸入された原油はまず蒸留装置で原油に含まれる成分が、沸点の差によって分離される。最も沸点の低いのがプロパンやブタンで、これは圧力をかけて液体にしてLPGとしてボンベに詰めて一般に市販されている。その次に沸点の低い留分がナフサ。その次に沸点の低い留分がガソリンである。つまりナフサはLPGとガソリンの間の性質を持つ物質である。
製造されたナフサはほとんど石油化学工場に送られて様々な石油化学製品の原料となる。
石油化学工場に送られたナフサは800~900℃という高熱に加熱することによって分解され、エチレン、プロピレン、ブタジエン、 BTXなどが生成する。このようにナフサを分解してエチレンなどを製造する工場がエチレンセンターで、エチレンセンターは現在日本に8か所ある。
エチレンセンターで生産されたエチレンなどは、ちょうどレゴブロックのように、組み合わせて、様々な製品を製造することができる便利な物質だ。例えばエチレンを数万個も繋ぎ合わせるとポリエチレンになる。これはレジ袋としておなじみの素材である。プロピレンの場合はポリプロピレンに、ブタジェンは合成ゴムになる。そのほか、合成繊維や塗料、溶剤など様々な製品が作られる。
こうやって作られたプラスチック類は顆粒状で出荷され、比較的小規模な工場で型にはめて成型、あるいはシート状に加工され、様々な用途に使われることになる。われわれが日常目にするペットボトルのような容器類、皿やスプーンなどのような日用品、商品の包装材、衣類、様々な機械部品や建材あるいは医療機器など様々な製品となって私たちの暮らしを支えている。
■ナフサが不足するとどうなるのか
ナフサが不足すると、当然、これらの製品が製造できなくなる。エチレンセンターではエチレンやプロピレンなどの生産量が激減し、それらを原料とするプラスチックや合成ゴム、合成繊維などが生産できなくなり、さらにその影響は日用品や容器、包装材、機械部品など一連のサプライチェーンに沿って、順次生産の縮小が余儀なくされていく。
影響が大きいのが自動車や家電製品、その他の製造業であろう。プラスチックが部品として使われている機械・電気製品は多い。この部品がひとつないだけで、機械の生産ラインが全体が止まってしまうことになる。
ナフサは、ガソリンや軽油、灯油のように一般に目につくことの少ない石油製品であるが、プラスチックや合成繊維などさまざまに形を変えてわれわれの生活や産業活動に大きく溶け込んでいる。だからナフサが止まれば、われわれの生活や日本の経済活動に多大な影響を及ぼすことになる。
政府は、中東以外のナフサの調達先を探しているようであるが、ナフサの元となる原油の20%がホルムズ海峡で止められている状況で、ナフサを入手できたとしても、価格は大きく跳ね上がってしまうだろう。
ホルムズ海峡の封鎖が早期に解除されることを願うが、今後はナフサの調達先の多角化やナフサに依存しない化学製品の開発などに取り組むべきだろう。
2026年4月2日


