2月28日米国・イスラエルがイランの首都テヘランを爆撃して指導者を殺害したことから始まった対イラン戦争。イランはホルムズ海峡を封鎖。これによってペルシャ湾岸諸国から原油やナフサの輸入がほぼ止まった状態になっている。
政府はナフサの必要量は確保されているというが、ナフサから作られるものは多種多様であり、塗料や溶剤など実際の現場では品切れするものがある。品切れになって初めて、ああこんなものまでナフサが原料になっていたのかと驚かされる。その一つがエンジンオイルに代表される潤滑油だ。
潤滑油は一般に重油から製造される。なぜナフサが不足するとエンジンオイルが品切れになるのだろうか。それは、エンジンオイルの性能を上げるために合成潤滑油が使われるようになっているからだ。

合成潤滑油はー40℃でもさらさらのものもある
潤滑油の作り方
潤滑油には鉱油系と合成系があるが、量的に多いのが重油から作られる鉱油系である。原油は日本に輸入されると、まず常圧蒸留という操作が行われる。これは原油を350℃程度まで加熱して蒸発させ、沸点の差によっていくつかの成分に分ける操作である。
原油が蒸発した成分は沸点の低い方からLPG、軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油、粗軽油であり、このうち軽質ナフサが一般にナフサといわれるものだ。一方、この蒸留操作では蒸発しない成分もあり、これは常圧蒸留塔の下部に溜まってくる。この蒸発しない成分を常圧残油(AR)といい、一般には重油として使われる部分だ。鉱油系の潤滑油はこのARが原料となる。
潤滑油というのは、ねばねば、どろどろして機械にまとわりつく性質が必要で、これにはARが適している。一方、品不足が問題となっているナフサは、原油から採れる成分のうち、常温常圧で液体のものとしては最も沸点の低い成分で、最も沸点の高いARとは対極にある。ナフサは水のようにさらさらしていて、しかも簡単に蒸発してしまうから、そのままでは潤滑油になることはない。
ただし、ARもそのままで潤滑油になるわけではない。まずARにはアスファルト分が含まれる。これは道路舗装に使われることからわかるように固まってしまう成分なので、減圧蒸留や溶剤脱歴という方法によって取り除く。
さらに使用する温度が変わっても、粘度があまり変わらないようにするため、芳香族という成分を溶剤で取り除く。また硫黄分や窒素分は劣化の原因となるから、これは水素化精製という方法で取り除く。さらに、ARに含まれるワックス分は低温で固まってしまうから、これも脱ろう装置という設備で取り除く。という具合にARのうち潤滑油としてふさわしくない成分をどんどん取り除いていって、最後に残る油が潤滑油基油(ベースオイル)といわれるものである。
最終的にはこのベースオイルを何種類かブレンドしたり、酸化防止剤や清浄分散剤、流動点降下剤などといった添加剤を加えたりして製品とする。これが一般的な潤滑油の作り方だ。
合成潤滑油
このように、一般的な潤滑油はARという原油の中の一番重い成分を原料にして、この中から潤滑油としてふさわしくない成分を取り除くことによって潤滑油の元となる油、つまりベースオイルが作られる。
そうであれば、逆に潤滑油としてふさわしい成分だけを人工的に作り出してベースオイルにすればいいじゃないかという発想で作り出されたのが合成潤滑油だ。合成潤滑油にはさまざまな種類があり、原料もいろいろなものが使われるが、代表的なものがポリαオレフィン(PAO)と呼ばれるものだ。そしてこれがナフサから作られるのだ。
PAOはナフサを熱分解して得らえるエチレンを原料にして、まずαオレフィンというものを合成し、これを重合させて作られる。PAOは合成品だから、潤滑油として望ましい性質をもった分子だけからできており、それ以外の成分、つまり不純物を含まない。
潤滑油は温度が上がるとサラサラに、下がるとねばねばしてくるものだが、 PAOは温度によって、粘度が変わりにくい。また、ごく低温まで凍らない。さらに蒸発しにくく、酸化劣化しにくいからオイルの交換頻度を下げることができる。などなど、潤滑油として理想的な特徴を備えている。
-40℃といえば、凍ったバナナで釘が打てるほどの低温だが、こんな過酷な環境でもエンジンオイルがさらさらと流れる。そんなテレビコマーシャルを見たことのある人も多いだろう。このエンジンオイルにはPAOが100%使用されていたのだ。 (現在は若干配合が変わっているようであるが)
ナフサが不足すると潤滑油がつくれないわけ
潤滑油には様々な鉱油系や合成系のベースオイルや添加剤が、その用途と値段にふさわしい割合で含まれていて、この配合比率は厳密に管理されている。合成潤滑油は価格が高いから、大量に配合するわけにはいかないが、近年の高性能エンジンオイルにはかなりの割合で含まれている。
潤滑油はこれらの様々な成分をブレンドして作られるが、その成分のなかのひとつでも入手できなければ、それ以外の成分が全部そろっていたとしても、その製品が必要とする性能が得られない。つまりその製品は作れないということになる。
特に合成潤滑油は潤滑油の性能を決定するキーとなる成分であり、ナフサが不足すれば作れなくなる。この結果、潤滑油全体が不足するということになる。
潤滑油製品に合成潤滑油を配合すれば、劣化しにくくなるから交換頻度を減らせて、その結果廃油の量が減る。また、低温でも高温でも機械の動きを円滑にするから振動や加熱を防ぎ、省エネにもなる。
だから合成潤滑油を配合すれば、潤滑性能が向上するだけでなく、環境に優しい潤滑油ができる。そういう利点があるから、今後も合成潤滑油の使用も増えてくることになるだろうが、その製造にナフサという供給に不安のある原料を使っているという点が盲点だったようだ。
2026年6月5日
