日本の新しいバイオ燃料政策により、米国産バイオエタノールの対日輸入が増加?

先月末の3月31日。米国通商代表部のホームページに「日本の新しいバイオ燃料政策により、米国製エタノールの輸入が増加」という記事が掲載された。

これによると、日本がバイオ燃料政策を変更したことによって、米国の対日バイオエタノール輸出が年間8000万ガロン(約30万キロリットル)以上増加し、毎年1億5,000万ドルから2億ドル(195億円から260億円)の輸出額になる可能性があるという。

この日本の政策変更は通商代表部、米国農務省および在日米国大使館の働きによって実現したもので、日本政府が二国間貿易関係を強化するための新たな一歩を踏み出したと述べている。

また、米国再生可能燃料協会(RFA)や米国穀物協会などの民間団体もこれを歓迎する声明を発表している。

しかし、これに対して日本側の報道はほとんど見当たらない。一体、日本側はどんな政策変更をしたのか。今回の通商代表部の記事は何の話をしているのか。まったく理解できない人も多いのではないだろうか。これについては少し説明が必要である。

意外に知らない人が多いと思われるが、実は日本はかなりの量のバイオエタノールを海外から輸入して、ガソリンに混ぜて使っている。これはエネルギー供給構造高度化法という法律に基づく告示の形で決められていることであるが、日本の石油会社は原油換算で年間50万キロリットルのバイオエタノールをガソリンに混合して販売することが義務付けられているのである。

実際には、日本の石油会社はバイオエタノールを一旦ETBEというものに転換して、このETBEをガソリンに混合している。このETBEは通常のガソリンとほとんど同じ性質を持っているから、多く消費者はそれと気づかずに使っているであろう。

燃料用バイオエタノールは国内では作られていないので、この年間50万キロリットル原油相当のバイオエタノールは全て輸入である。主な輸入先はブラジルと米国だ。ただし、輸入には条件があってバイオエタノールを使ったときのCO2排出量がガソリンに比べて55%以上削減されていなければならない。このような条件を判断基準という。

バイオエタノールが燃えた時に出てくるCO2は明らかにカーボンニュートラルだから、排出量はゼロと考えることができる。しかし、バイオエタノールを製造する際に、電力や熱源として天然ガスが使われるし、輸送するときにも石油が使われる。また、肥料の製造時には大量の化石燃料が使われる。

つまり、バイオエタノールはカーボンニュートラルといわれるが、これらの間接的なCO2排出量を勘定に入れると、完全にはCO2排出量はゼロではない。この間接的なCO2排出量をLCGHGという。

このような製造や輸送も含めたCO2排出量をガソリンと比較すると、CO2削減量はブラジル産の場合62%、米国産の場合は51%削減と計算されていた。この削減率を判断基準である55%削減と比較すると、ブラジル産はOKだが、米国産はNGということになる。

では米国産バイオエタノールはまったく輸入できないかというと、そうではない。ブラジル産と米国産をどちらも輸入して、それぞれのCO2排出量の加重平均で55%以上削減となればいいと決められている。米国産だけを輸入することはできないが、ブラジル産との抱き合わせで輸入すればいいのだ。

さて、これらの決まりは2022年度で終了するので、年間50万キロリットルのバイオエタノール輸入の義務はなくなってしまう。そのため、経済産業省は年度末の3月31日に告示の改訂を行って、年間50万キロリットルのバイオエタノール導入義務を2027年まで延長することとした。

このときの改訂に伴ってCO2排出量つまりLCGHGについても新たなデータをもとに計算が行われた。その結果、ブラジル産はガソリンに比べてCO2排出量が68%削減、米国産は58%削減となった。ここで、米国産バイオエタノールも晴れて判断基準の55%削減をクリアすることになったわけである。(我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第10回)

ということは、今まで行われてきたブラジル産バイオエタノールとの抱き合わせ輸入が不要となり、米国産だけの輸入が可能となったということだ。

米国ではバイオエタノールがガソリンに10%混合(E10)して売られている

米国通商代表部は、日本のバイオエタノール輸入量の総量は変わらないものの、ブラジル産を押しのけて米国産を買ってくれると期待して米国産の輸入が増えると読んでいるわけだ。

いろいろと分かりにくい話だが、要は、米国産バイオエタノールのCO2排出量LCGHGを計算しなおしてみたら、判断基準に合格したので、大手を振って米国産バイオエタノールが輸入できるようになったということである。

もちろん、LCGHGは単に数字上クリアしたというだけでなく、バイオエタノール製造時の熱源の電化、輸送時の燃費の向上、肥料製造時のCO2削減など脱炭素化に向けた米国内の動きがあったわけである。もちろんバイオエタノール輸出を増やしたい米国政府の圧力もあったであろうし、今後も輸入量を増やすように圧力をかけてくるだろう。

かつて、日本の首相はトランジスタ(ラジオ)のセールスマンと言われた。そのころ日本は外貨が不足しており、できるだけ輸入を増やして外貨を稼ぎたいと、官民挙げて活動していたものである。同様に米国も輸出に力を入れ、輸出が増えれば、それが各省庁の手柄となる。

近年、わが国は輸出を増やそうという努力が余り見えない。ここ数年、日本は貿易赤字がかさんでいるのだから、日本の優秀な脱炭素技術を中心に輸出の売り込みをかけたらどうだろうか。それが国の活性化につながり、世界の脱炭素化にも貢献することになるだろう。