シンナー不足対策 トルエンのガソリンルートとは

ホルムズ海峡封鎖から既に3か月が過ぎた。原油は備蓄があるものの、同じようにホルムズ海峡を通過する輸入ナフサは備蓄がない。政府は中東以外からナフサを確保したと言っているが、それでも6月は必要量の85%にしかならないという。

残りは流通在庫(政府は川中在庫といっているが)で賄うことになるが、必ずしもすべての製品に潤沢な流通在庫があるわけではないだろうから、品物によっては品薄状態となっているだろう。いま特に問題となっているのがシンナーや溶剤類の不足だ。

そこで、政府は石油化学メーカーではなく石油元売会社の製油所から直接シンナー製造会社に原料となるトルエンを供給することを検討しているという。

これはどういうことなのか。石油元売からのトルエンの直接供給について解説したい。

ナフサルート

シンナーや溶剤類の原料となるトルエンは一般にナフサを分解して作られると説明されることが多い。しかし、あまり知られていないことであるが、トルエンの生産はナフサだけでなくガソリンから作るルートもあり、実際かなりの量のトルエンがガソリンから生産されている。

日本に輸入された原油はまず製油所で常圧蒸留という操作が行われて沸点の低いほうから順に、LPG、軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油、粗軽油、重質軽油および常圧残油に分けられる。このうち軽質ナフサが日本では一般にナフサと呼ばれる成分である。一方重質ナフサは主にガソリンの原料となるもので直留ガソリンともいわれる。

ナフサつまり軽質ナフサは製油所から石油化学工場に送られてナフサクラッカーという装置で熱分解され、エチレンやプロピレンといったオレフィン系とベンゼン、トルエン、キシレンといったアロマ系の製品が作られる。今、問題となっているのは、このアロマ系に含まれるトルエンが足りないという話だ。

ガソリンルート

一方、直留ガソリンすなわち重質ナフサは改質装置で処理される。これはオクタン価を上げて、自動車用ガソリンとして適切な品質を持つものを製造することが目的であるが、これによって直留ガソリン中のベンゼン、トルエン、キシレンといったアロマ系成分が増えることが知られている。

製油所によっては、このアロマ系の成分を溶剤で抽出してナフサルートと同様に製品として販売している。これがガソリンルートだ。

この方法で抽出されるアロマ系製品は、ベンゼンとトルエンとキシレンが一緒に生産される。このうち、ベンゼンはナイロンほか様々な化学品の基本原料となる。キシレンはペットボトルでお馴染みのPET樹脂の原料となる。だからベンゼンとキシレンは需要が大きい。

一方、トルエンはあまり需要がないから余る。製油所では余ったトルエンをガソリンに混ぜ戻している。そもそもトルエンはガソリンから取り出したものだから、余ればガソリンに戻すのは自然な成り行きだろう。幸いトルエンはオクタン価が高く、ガソリンとしては好ましい成分だ。

ところが、今はナフサルートのトルエンが不足している。だったら、ガソリンルートで作られる余剰のトルエンをシンナーとして活用しようというのが今回の対策だ。これは良い考えである。

なお、ナフサルートでもガソリンルートでも製造されたトルエンの品質は同じである。ちなみに溶剤として使われるトルエンの量はガソリンの巨大な生産量に比べればわずかな量にすぎないから、トルエンをガソリンに戻さなくてもガソリンが不足してしまうという心配はない。

まとめると、シンナーの原料となるトルエンはナフサからもガソリンからも作られているが、ガソリンルートのトルエンは余剰だったのでガソリンに混ぜ戻していた。しかし、ホルムズ海峡が封鎖されたため、輸入ナフサが不足して、ナフサルートのトルエンが不足している。

一方、ガソリンルートならまだ余裕のある備蓄原油から作ることができる。だったら、ガソリンルートで作られるトルエンをシンナーや溶剤として使おうというのが、今回の対策である。

政府は、ナフサは十分ある。現場の不足は流通過程での目詰まりにすぎないという態度だが、これは国民がパニックになって買いだめや売り惜しみすることを恐れているのだろう。しかし、みんなで議論すれば、今回のガソリンルートのように、いろいろな不足対策も出てくるものだ。

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