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電力不足には原子力も再生可能エネルギーも解決にならない 貯電技術が今後のカギ

9月5日、テレビ朝日系「モーニングショー」で、コメンテーターの玉川徹氏と石原良純氏がエネルギー問題を巡って激論を繰り広げた。

石原は「再生可能エネルギーで日本のエネルギーを賄えるわけがない!」
玉川は「原発の話をしたいと思うんだが、そんなものやったって、日本の中で火山や地震がこんなにある国で安全なんか担保できない」

この二人に限らず、エネルギー問題について、日本の世論は原子力派と再エネ派に分かれているようだ。

今年の夏、電力不足が問題になった。その原因についてある論客は再エネが不足しているからだと言い、ある人は原子力を再稼働すべきだという。岸田総理も今後、原子力発電所を再稼働させるだけでなく、新設についても進めたいと言及している。

しかしながら、みなさん誤解していることだが、原子力や再エネでは、この電力不足は解消できないのだ。

原子力の問題点は出力の調整がほとんどできないということだ。夏場、電力不足が起こったからといって、そのときだけ出力を上げるとか、需要が減ったから出力を下げるとか、そういう操作がほとんどできない。原子力はあくまでもベース電源であって、その発電能力は送電対象地域の一番需要量が少ない時期の量が上限となる。

一方、再エネだが、こちらも調整が効かないという点では原子力と同じである。太陽光なら昼間だけ、風力なら風が吹いている時だけしか発電できないから、これも夏場や冬場の電力不足に細かく対応することができない。

では、需要の増減に対して、実際にはどのように対応しているのか、それは火力発電である。原子力は一定出力で発電し、再エネの発電量は大きく変動する。その発電量と実際の需要のギャップは火力発電の出力増減で調整している。

だから、原子力を増やしても、再エネを増やしても、今夏のような一時的な電力不足には対応できない。調整機能をもった火力発電を充実する必要があるのだ。

この図は日本より再エネ導入が進んでいる米国カリフォルニア州の4月のある日の、発電量推移を電源別に示している。太陽光発電は日の出とともに増加していき、日没とともにゼロとなる。原子力は常に一定の発電量でビクとも動かない。その発電量と需要量の調整を行っているのが天然ガス火力発電で、昼間はできるだけ出力を絞り、太陽光発電がなくなる夜間に出力を増やして対応する。日本でも再エネ導入が進めば、このような発電パターンになって行くだろう。

ところが、火力発電は発電コストが高いという問題がある。従来、再エネこそ高いというイメージであったが、近年は再エネのコストも急激に下がっており、原子力発電並みとなっている。一方、火力については燃料代の高騰によって発電コストが急上昇したため、電力会社としてはできるだけ火力には頼りたくない。その結果、火力がおざなりになっていた。今夏の電力不足はこれが原因だったのだ。

では、今後どうすべきか。火力発電はコストが高いという問題もあるが、政府が2050年を目途に目標を掲げているカーボンニュートラルを達成するためには、いずれ火力発電は縮小していく必要がある。そうなったとき、発電量と需要のギャップをどのように調整していくのかが問題となる。

モーニングショーで玉川氏も指摘していたことだが、電気を貯めておくシステムが必要となるだろう。需給ギャップを埋める役割を担ってきた火力が、今後どんどん縮小していくならば、蓄電あるいは何か別の手段でエネルギーを蓄える機能の充実が必須となる。

断っておくが、再エネを導入した時だけが蓄電機能を必要としているわけではない。原子力を導入した場合でも需要に合わせて出力調整が効かないのだから同様なのだ。

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ウクライナ ザポリージャ原発の本当の恐ろしさ

私の書いた記事がオルタナ誌やヤフーで公開されるようになり、この記事を読まれた方々からコメントや質問をいただくようになりました。これらのコメントや質問は大変役に立つ、ありがたい物ですが、中には私の記事がよく理解されていないのではないかと思われるものもあり、これも私の表現力の拙さであると反省しています。

そのような記事のひとつ「ブレーキが2つでも暴走、原発は根本的に「危険」と断言する理由」として紹介された記事について、つぎのようなコメントをいただきました。

「記事では冷却水をブレーキといっているが、冷却水の働きで中性子を減速して核反応を起こりやすくしているのだからブレーキではなくアクセルである。冷却水がなくなれば核反応は起こりにくくなり、核反応は止まってブレーキとして働く」

お前はそんなことも知らないのかと言わんばかりのコメントでしたが、いえいえそんなことは知っています。確かに、水は中性子を減速して核反応を起こさせるのでアクセルです。しかし、このアクセルを使って実際に原子力発電所をコントロールしているかといえば、そうではありません。

核燃料は冷却水の中に完全に浸かっていて、その冷却水が中性子を減速する働きをしていますが、その量を増減させて核反応をコントロールしているわけではありません。いわば、アクセルを踏みっぱなしの状態なのです。

で、そのままでは原子炉は暴走してしまいますから、制御棒で中性子の量をコントロールし、発生した熱を冷却水で運び去っているわけです。コメントのように冷却水は核反応を抑えるブレーキとして働いているわけではありませんが、発電所というシステムが暴走しないように実質的にブレーキとして働いているということをこの記事の中では指摘しているわけです。

火力発電所なら、燃やす燃料の量によって、出力をコントロールすることができるわけですが、原子力発電所の場合は、燃料と減速材が余剰に充填されていて、その量を調整することをしていません。

だから、その出力は減速材で調整し、さらに発生した熱で原子炉が過熱しないように冷却水で冷却しているのです。つまり、アクセルをいっぱいに踏みながら、同時にブレーキを踏んで速度をコントロールする仕組みになっているわけです。

原子力発電所の放射能漏れや核廃棄物の処分の問題についてはいろいろと議論されていますが、原子力発電所の運転特性について解説したものはあまりみかけません。

この記事では核反応そのものではなく、核反応で発生したエネルギーを発電に結びつける原子力発電所の制御について、常に暴走の危険があり、誰かが常にブレーキを踏んでいなければならないという特殊な制御を行っているという危険性を指摘しているのです。

数日前から、欧州最大といわれるウクライナのザポリージャ原発に砲撃やミサイル攻撃か行われていると報道されています。これが火力や水力発電所なら、運転員はさっさと退去して発電所は放棄してしまえばいいこと。発電所は勝手に止まってくれるでしょう。

しかし、原子力発電所はそうではありません。常に誰がブレーキをかけていなければならないのです。特に冷却水を喪失すれば核反応自体は停止に向かいますが、核燃料内の放射性崩壊によって熱が発生し続けます。その結果、炉内が熱で溶解し、また水素爆発を起こして、放射性物質を広範囲にまき散らしてしまうでしょう。

そうなれば、おそらく半径数10km、下手すれば100㎞以内にはロシア軍も、ウクライナ軍も、住民もだれも立ち入ることができなくなる可能性があるのです。

原子力発電所の最大の問題点はこのような大災害につながる危険性をはらみながら、常に誰かがブレーキを踏み続けなければ暴走してしまうという運転方法を取っているということです。

その結果、ザポリージャ発電所は、そこが戦場になってしまったにも拘らず、運転員は避難することができません。命をかけて操業を維持しなければ、大災害に結び付いてしまうのです。これがザポリージャ発電所の置かれた状況なのです。

2022年8月18日

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西部バスが再生可能ディーゼル燃料を導入 EVとは違うもうひとつの道

西部バスが再生可能ディーゼル燃料を導入し、7月14日より営業運行を開始すると発表した。CO2の排出量を約9割削減できるという。今回は、この燃料について解説したい。

西武バスが導入するのはフィンランドのネステ社が開発したNeste MY Renewable Diesel®と呼ばれるバイオ燃料である。伊藤忠商事がネステ社と日本向け輸入契約を締結、伊藤忠エネクスが国内の輸送および給油を担当する。

原料は植物油である。植物は成長過程で空気中からCO2を吸収しているから、この燃料を使っても、発生したCO2は植物が吸収したCO2の範囲内である。よって空気中のCO2濃度を増やさない。ネステ社によれば、石油から作られたディーゼル軽油と比較してCO2の発生量を75%から95%抑えることができるという。

植物油を使ったディーゼル燃料は従来から製造、販売されてきた。その製法は植物油にメタノールを反応させるもので、FAME(脂肪酸メチルエステル)とよばれる。これは第一世代のバイオディーゼルだ。

これに対してネステ社の燃料は水素を使って植物油を分解したものでHVO(水素処理植物油)と呼ばれる。これは第二世代である。

FAMEにしてもHVOにしても従来のディーゼル軽油の代替として使われるわけであるが、一般に代替品というのはもともとの製品に比べて品質が劣るという印象があるだろう。しかしHVOに限ってはそうではない。むしろHVOは本家を凌駕する品質を誇っているのだ。

下の表に、HVO、FAME、一般軽油の品質を比較してまとめてみた。〇は良好、◎優れている、△はやや劣る、×は劣るということを意味している。


現在、使われている一般軽油はもちろんJIS規格には合格しているのだが、硫黄分や芳香族分がやや多く、これが黒煙やPMの原因となる。石油系軽油の欠点のひとつである。

FAMEについては、酸化安定性が低いのが最大の弱点。貯蔵中に変質してしまうのだ。さらに原料として天然ガスから作られたメタノールを使っているので、必ずしも完全な再生可能な燃料とは言えないし、酸素を含むので燃費が悪いという欠点もある。

これに対してHVOはこの表に掲げたすべての品質項目が良好であるうえ、特にディーゼル燃料として重要なセタン価が現行の軽油よりかなり高い。また、硫黄分や芳香族分が少ないから、排ガスの改善も期待される。

試乗会に出席した記者によると、軽油特有のツンとした匂いが軽減され、排ガスも軽油と比べて不快な匂いが少ないと言うが、これは硫黄分や芳香族分が少ないから当然のことであろう。

政府は、2035年までに新規販売される乗用車については全て電動にする方針を打ち出しているが、バスやトラックについては、まだそこまで踏み込んでいない。これは大型車については電動化が難しいからだろう。ではどうするか。バスやトラックの脱炭素化については、EVではなく、HVOのようなクリーンなバイオ燃料が今後の有力な候補になるかもしれない。

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朝日新聞デジタル SDGs Action にバイオ燃料に関する記事が掲載されました 

朝日新聞のウェブ版である朝日デジタルのSDGs Actionコーナーに記事「脱炭素化に向けて注目のバイオ燃料 原料や問題点、作り方などを解説」が掲載されました。主に自動車用バイオ燃料の基本的な解説をしました。

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脱炭素化に向けて注目のバイオ燃料 原料や問題点、作り方などを解説:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル (asahi.com)

「イタリアで実用化「CO2バッテリー」の可能性は」がオルタナに掲載されました

「イタリアで実用化「CO2バッテリー」の可能性は」と題する記事がオルタナに掲載されました。再生可能電力のシェアが増えるにしたがって、不安定な電力を貯蔵して平準化する技術の開発が進められています。そのひとつがイタリアのスタートアップ企業で進められているCO2バッテリー。この記事ではCO2バッテリーについて紹介しています。

記事はここ

食料生産に欠かせない肥料の価格が高騰 原因はウクライナ戦争だけではない

最近、肥料の価格が上昇している。この価格上昇の原因について、多くのマスコミはウクライナ戦争の影響だと報じているが、本当に戦争の影響なのだろうか。

肥料には様々な種類があるが、一般に窒素、リン、カリウムという三つの元素を含むものが用いられる。この三元素は植物の成長にとって必要であるが、不足がちなため外部から補ってやることによって成長が促進され、農作物の収穫量を増大させることができる。その肥料の価格が最近、急上昇していることから食料生産に影響を与えるのではないかと懸念されている。

肥料価格が上昇している原因について、日本のマスコミの多くは今年2月に勃発したウクライナ戦争の影響と報じている。(例えば、時事通信社6月2日、NHK6月1日、共同通信社5月31日など)しかし、肥料価格の高騰は本当にウクライナ戦争が原因なのだろうか。

肥料の国際価格の推移

上の図は肥料の国際的な価格推移を示したものである。リン、カリウム、窒素それぞれについての代表的な供給形態であるリン酸アンモニウム、塩化カリウム、尿素について示している。

この図からは、肥料価格が全般的に上昇しているのが分かる。しかしながら戦争が始まったのは今年2月24日である。確かに塩化カリウムについては、開戦時に大幅な価格の上昇を記録しているが、それ以外は実は戦争が始まった時期よりかなり以前から価格の上昇が始まっていたのだ。

リン酸アンモニウムの原料はリン鉱石とアンモニアであるが、リン鉱石を最も採掘しているのは中国で、続いてアメリカである。ロシアも産出するが、その量は中国の10分の1程度に過ぎない。価格については確かにウクライナ戦争の影響はあるが、価格の上昇はそれ以前から始まっていたのである。

ちなみに、日本が輸入するリン酸アンモニウムは9割近くが中国産で、1割がアメリカ産。ロシアからの輸入はほとんどない。

塩化カリウムについては、その原料はカリウム鉱山から産出する。生産国はカナダ、ロシア、ベラルーシ、ドイツなどである。その価格は明らかに今回の戦争が原因で上昇している。これは今回の戦争で戦場となった黒海が塩化カリウムの積み出し港であることが大きい。

日本の塩化カリウム輸入については、63%がカナダからであるが、ロシアとベラルーシからも合計で25%ほどを輸入しているから、影響は少なくないであろう。

最後に、尿素であるが、この尿素の需要量が三元素の中で最も大きい。その原料はアンモニアである。カリウムやリンが鉱物資源であるのに対して、アンモニアの原料は窒素と水素である。窒素は空気中からいくらでも取り出すことができるし、水素は天然ガスや石炭などから取り出すことができるから、世界中どこでも生産することができる。

実際、我が国でも宇部興産、三井化学、昭和電工、日産化学などで生産されており、我が国で使用されるアンモニアの77%が国産である。

世界的にはアンモニアの主な生産国は中国、ロシア、アメリカ、インドである。尿素の価格もウクライナ戦争の影響を受けてはいるが、その前、特に2021年後半から上昇が始まっている。実はこの価格高騰の理由ははっきりしている。それは中国である。

世界最大のアンモニア生産国である中国は石炭を使って水素を作り、その水素と空気中の窒素からアンモニアを作っている。中国はその石炭をオーストラリアから輸入していのだが、オーストラリアと中国との関係悪化によって、石炭の輸入が止まった。

その結果、中国国内でアンモニアを原料とする尿素が不足。このため、2021年10月から尿素の輸出を制限している。これが、尿素価格高騰の理由のひとつである。

そのほか、リン酸アンモニウムと尿素については、原油価格高騰の影響も大きいと思われる。下の図で示すように原油(WTI)価格は2020年4月を底にして、それ以降、上昇を続けている。これによって石炭や天然ガスの価格も上昇し、これを原料とするアンモニア価格が上昇。アンモニアを原料とする尿素やリン酸アンモニウムの価格も上昇しているのだろう。

原油(WTI)価格の推移

結局、ロシアが世界第2位の生産国となっているカリウムについては、確かにウクライナ戦争の影響が強くみられるが、窒素とリンについては、むしろ原油価格の影響が大きい。

最近、日本国内ではいろいろな物の値段が上がっている。その理由としてウクライナ戦争の影響と報じられることが多いが、実際は原油価格上昇の影響がジワジワと現れてきているというのが実際なのではないだろうか。