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ガソリン価格の上昇 例の特例税制はどうなっているのか

最近、ガソリン価格が上がってきて問題になっている。
政府はこの対策として、全国の小売価格がリットルあたり170円以上となったら、石油元売会社に補助金を出して小売価格の低下を促すという。ちょっと待ってよ。それで本当にガソリン価格が下がるのか。

というのは、石油元売会社が小売価格をコントロールしているわけではないからだ。石油元売はガソリンスタンドにガソリンを卸す。その時の卸価格を仕切値という。この仕切値は多分、元売各社が原油価格や為替などを考慮した一定の計算式によって決めているのだろう。政府が例えば1円の補助金を出してくれれば、石油元売は1円下げた仕切値でガソリンを卸すことになる。だから卸し段階では、政府の目論見通りに値段は下がるだろう。

しかし、ガソリンスタンドはこの仕切値に様々な経費や利益を上乗せして小売価格を決めている。小売価格はガソリンスタンドの経営者が決めることだから、仕切値が下がったからと言って小売価格を下げるとは限らない。例えスタンドがエネオスや出光、コスモなどの看板を掲げていたとしても、小売価格まで元売りが口出しすることは許されない。独占禁止法違反となるからだ。だから、仕切値が下がった分だけ、小売価格を下げずにスタンドが自分の儲けにしてしまう可能性もある。

じゃあ、政府の補助金は全く効果がないのかというと、一定の効果はあるだろう。
例えばあるスタンドが171円で売れば、地域の顧客から政府の補助金を受け取りながら値下げしないと非難されることになる。だから、結局170円が上限ということになるだろう。ただし、ガソリンは地域的に高いところも安いところもある。もともと小売価格が安い地域では、本当は169円でもいいところを、170円まで上げても顧客は気が付かない。また、逆に原油価格が下がり出したとき、170円から下げないというガソリンスタンドも出てくるかもしれない。

一番いいのは、1ℓあたり53.8円もかかっている揮発油税を下げることだと思うが如何だろうか。揮発油税が下がれば、その分小売価格も当然下がる。
実は従来、160円を3か月以上にわたって超えた場合、揮発油税は28.7円まで下げることになっていた。記憶されている方もいらっしゃるだろう。ところがこの特例税制は東日本大震災のどさくさに紛れて、別に法律で定める日までフリーズ状態となっているのだ。そして「別に法律で定める日」はまだ決められていない。そうするうちに170円近くまで上がってしまったということだ。これは国会の怠慢ではないのか。

自動車のEV化 余ったガソリンはどうするのか

COP26が閉幕。気温上昇を1.5℃以内に抑えるという目標が設定され、これから気候変動対策がさらに進められることになるだろう。
我が国の第6次エネルギー基本計画でも、2035年以降発売される乗用車は全て電動車に代わる計画だ。日本の場合、バイブリッド車やプラグインハイブリッド車の販売は認められるが、純ガソリン車の新規販売は禁止になるだろう。

2035年以降、当然、ガソリンの販売量はどんどん少なくなっていくはずである。需要がなくなったガソリンはどうなるのだろうか。こんな質問がQuoraやYahoo知恵袋でよく見かけるようになった。「原油を精製すると灯油や軽油のほかにガソリンが必ず一定量できてしまい、調整が効かない。だからそのガソリンの需要がなくなったら、どうするのか」という質問である。

この質問にはふたつの誤解がある。
まず、石油を精製して灯軽油を作ろうとすると必ずガソリンが一定量できてしまい、ガソリンだけを減らすことができないという誤解である。実際は石油を精製するとできてくる重油の需要がガソリンや灯軽油に比べてはるかに小さいので、その余剰の重油からガソリンや灯軽油を作っている。つまり、石油製品の割合は一定ではなくて、需要に合わせて調整されているのだ。特に市販のガソリンには、その半分くらいは重油から作られたものがブレンドされている。だから、ガソリン車が少なくなってガソリン需要が減少すれば、重油から作るガソリンの量を減らして、その分、灯軽油の量を増やせばいいことになる。

もうひとつの誤解は、気候変動対策で需要が減るのはガソリンだけだというものである。
2050年に温室効果ガス排出量ゼロを目指すのなら、ガソリンだけを減らしても仕方がない。灯油も軽油も重油も減らさなければならないことになる。部屋の暖房は灯油ではなくてエアコンで、トラックやバス、船舶の燃料は水素やバイオ燃料、合成燃料に替わるだろう。

その結果、今後、原油から作られるのはプラスチックなどの石油化学製品や潤滑油、アスファルトのような燃料として燃やすもの以外のものとなっていく。ちなみに石油化学の原料には現在はナフサやガソリンが使われているが、軽油や重油も分解してナフサやガソリンすれば、石油化学の原料にしていくことができる。

これから石油精製はこのような流れになるので、ガソリン車が販売禁止になってもガソリンの需要だけが下がるわけではなく、日本で使われる石油が全体的に減って行くことになる。それに合わせて製油所も分解装置の増強などが必要だけれど、少しずつ変わっていくだろう。

2021年11月18日

韓国で尿素水不足が問題化 尿素を韓国内で作ればCO2削減になるのか

尿素はアンモニアから アンモニアは石炭から作られる

中国から輸入していた尿素水が輸入できなくなったことから、韓国では尿素水の不足が問題になっている。尿素はアンモニアから作られており、中国はこのアンモニアを石炭から作る。世界最大のアンモニア生産国でもある。中国はその石炭をオーストラリアから輸入していたが、これが途絶えたことから、まわりまわって韓国の尿素水が不足となっているわけである。
尿素水はトラックなどディーゼル車の排ガスを浄化するために使われるから、尿素水がなければ韓国のトラックは動かせない。トラックが止まれば物流も止まり、市民生活にも大きな影響を与えることになる。

尿素水の原料のアンモニアはCO2を出さない燃料として日本では盛んに喧伝されているが、この事件からも分かるようにアンモニアは石炭から作られるから、製造過程で大量のCO2を排出する。アンモニアを燃料として使ってもCO2の削減にはならない。むしろかえってCO2排出量は増えてしまうことになる。
今回の韓国の尿素不足は如何にアンモニアが石炭に依存しているかを図らずも示したことになった。

尿素製造はCO2削減になるか

この件に関して、韓国では尿素を国内で作るべきだと議論されている。尿素はアンモニアにCO2を化合させて作られる。

  2NH3    +   CO2    → (NH2)2CO + H2O
アンモニア 二酸化炭素     尿素   水

ここで使うCO2に工場などから回収したものを使えば、CO2の削減になると報道されている。しかし、これは全くのお笑い草である。なぜなら尿素をディーゼル車で使うと、製造した時に使ったのと全く同じ量のCO2が排出されてしまうからである。

ディーゼル排ガスに含まれる有害な窒素酸化物をアンモニアによって還元して、窒素と水という無害なものに変えるのが排ガス浄化装置である。アンモニアは取り扱いが難しいのでCO2と化合させて尿素にしてから水に溶かして尿素水として使う。排ガス浄化装置では尿素が分解して元のアンモニアに戻って還元剤として働くわけだ。
そして尿素がアンモニアに戻るときにCO2を排出する。この量は当然ながらアンモニアから尿素を作るときに使ったCO2と同じになるから、CO2の削減にはならない。

排ガス浄化装置の仕組み

こんなことも分からないのかと韓国を馬鹿にしてはならない。日本だってアンモニアをCO2の出ない燃料だと報道しているが、そのアンモニアを安直に中国などから輸入して使うなら、日本で削減した以上のCO2が輸出国で発生することになる。

2021年11月10日

COP26 岸田演説なぜ化石賞か アンモニア、水素で世界は騙されない

COP26で岸田総理が演説。これに対して11月2日、気候行動ネットワーク(CAN)が名誉ある化石賞を与えると発表した。岸田総理の演説。いったい何が問題だったのだろうか。
総理の演説は1300字程度の非常に短いものであるが、その中で問題なのは次の部分だろう。
(全文はhttps://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1102cop26.html

「アジアにおける再エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要です。日本は、・・・アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開します。」

まず気が付いたのは「再エネ導入に伴って発生する周波数変動を抑えるための支援」という点である。えらく狭いところを突いて来たなという感じである。次に、その周波数変動を抑えるために既存の火力発電所で、アンモニア・水素を使うという。周波数変動を抑えるのなら蓄電池でもいいじゃないかと思うが、なぜアンモニア・水素なのか。
それは、日本はアンモニア・水素という世界でも画期的な対策を取るんだということを強調したいのだろう。そのためにわざわざアジアの周波数という隅っこの話題を突っついてきた。つまりアンモニア・水素という我田に引水するためにアジアをダシに使ったということだ。

それはいい。アジアも1億ドルは欲しいだろう。しかし、もっと問題なのは、アンモニア・水素ではまったく温室効果ガス削減にならないということである。
今のところ水素もアンモニアも化石燃料から作られているから、そのまま使えば製造過程で大量のCO2が発生する。それなら、原料の化石燃料をそのまま発電に使った方がまだCO2の発生量は少ないのだ。

もちろん、まず、CO2を発生させないアンモニアや水素の製造技術を確立し、その上で既存の火力発電所を改造してアンモニアや水素だけで発電するというのならいい。アジアの周波数変動などを持ち出す必要もない。
しかし、実際には現在CO2を発生させない水素はほとんどないし、アンモニアは製造の目途も立っていない。CANは岸田総理が「アンモニアや水素を『ゼロエミッション火力』だと妄信している」と批判している。つまり、アンモニアや水素と言っても、どうせ石炭から作るんだろうと言っているわけだ。

一方、日本は600億ドル規模の支援に加え、新たに最大100億ドルの追加支援を行う用意があることも表明している。これはアンモニア・水素支援の1億ドルより、はるかに大きい。むしろこっちの方を強調すべきだっただろう。

日本ではアンモニアや水素を使いさえすれば脱炭素になるというような安易な議論が目立つ。COPでもアンモニア・水素をぶち上げれば、それで世界が感心するとでも思ったのだろうか。日本国内ならともかく、世界はそんなことでは騙されない。

2021年11月4日

京王線の刺傷放火事件 ライターオイルはガソリンと同じ

10月31日。京王線の電車内で男がナイフを振り回して乗客にけがを負わせたうえ、電車内にライター用のオイルを撒いて火を着けるという事件が起こりました。これにより16人が負傷。ひとりが意識不明の重体となっています。

ここで思い出されるのが、2019 年7月に起こった京都アニメーション放火事件です。このときは容疑者が事務所の建物内にガソリンを撒いて火を着けたため、35人が死亡するという大惨事となりました。(京アニ放火事件被害拡大のなぞ
今回は火災によって死亡する人が出なかったことは幸いでした。別のブログ記事でも指摘しているようにガソリンは取り扱いを誤ると非常に危険です。(ガソリンにマッチの火を近づけても火はつかない?ウソ)一歩誤ると、京アニ事件以上の惨事になったかもしれません。

犯人が撒いたライター用のオイルですが、例えばZippoの純正オイルとすれば、従来は重質ナフサでしたが、2006年から合成イソパラフィン系炭化水素に切り替わったといいます。他のメーカーのものでも成分に違いはないでしょう。
重質ナフサとはガソリンのことです。合成イソパラフィンというのは石油を原料として合成された炭化水素で、ガソリンの成分の一つでもありますが、ガソリンほどにおいがきつくありません。ただ、引火性であることや燃えた時の熱量はガソリンとほとんど同じです。

今回の事件では、撒いたオイルの量が比較的少なかったこと。気温が低かったこと。オイルを撒いてから犯人が火を着けるまでの時間が短かったことが幸いしたと思われます。
ガソリンの量については、今回はペットボトル1本分と、京アニ事件のようにバケツ2杯分よりもかなり少なかったことが幸いしました。
また、京アニ事件が起こった7月に比べれば、気温が低く、このためオイルの蒸発量が少なかったでしょう。ガソリンは一旦蒸発して空気と混ざりあい、爆発混合気という状態になってから燃焼します。多分、今回は気温が低く、シートなどに一部がしみ込んだりしたこともあり、蒸発量が少なかったでしょう。
また、犯人はオイルを撒いてすぐに火を着けたと思われます。オイルが十分蒸発して、車両内に充満した状態で火を着けたら犯人自体も大火傷を負ったかもしれません。

走行中の電車の中で大火災になっていたら、と思うと背筋が寒くなりますが、京アニ事件を受けてガソリンを容器で買うことが規制されるようになっています。とにかく、ガソリンのような引火性の高い危険物は、大量に入手できないようにすることが大切だと思います。

2021年11月1日

【関連記事】
ガソリン火災から身を守る方法 ガソリン火災は燃えたあとも怖い

衆議院選挙各政党のエネルギー政策をまとめてみた  自民党公約の不思議

衆議院選挙の投票日が近付いてきた。ということで、主な政党(自民、立憲、公明、維新、共産)の選挙公約からエネルギー関連についてまとめてみた。
なお、自民党には政策パンフレットと政策バンクという二つの政策が掲げられている。政策パンフレットは政策バンクの概要版という位置づけなのだろうが、かなり違いがあるので両方を取り上げている。

カーボンニュートラル

まず政府が公約している2050年のカーボンニュートラル目標について、これに反対している政党はない。違いは2030年の中間目標を46%削減とするか、それ以上とするかの違い。

原発新増設

ほぼ各党が認めないとしており、自民党の詳細版も可能な限り原子力依存度を下げると書いている。それにも拘わらず、概要版では小型モジュール炉の地下立地という聞きなれない話が盛り込まれている。

原発再稼働

ほとんどの政党で原発の再稼働については、安全を確認した上で認めるとしているが、共産党は全く認めないとしている。立憲民主党には原発再稼働についての記述がないが、多分、党内でも意見が分かれているのだろう。ただし、小さな字で再稼働しなくても電力が不足することはありませんと記載されている。

再生可能エネルギー

どの政党も概ね、積極的に導入、将来の主要電源とするとしている。ただし、自民党の概要版には不思議なことに再エネについては、まったく触れられていない。

まとめ

全体的に、2050年のカーボンニュートラル目標は支持。原子力については新増設は認めないが、再稼働については安全が確認されれば認める。再エネについては、将来の主力電源とするということでほぼ一致している。

自民党の公約の不思議

ただ、ここで気になるのが自民党の概要版(政策パンフレット)と詳細版(政策バンク)の内容が違っているということ。詳細版は再エネを最大限導入し、主力電源化する。可能な限り原発依存度を低減する。としている。
これに対して、概要版についてはそもそも再生可能エネルギーという言葉すら出てこないうえ、詳細版にはない小型モジュール炉が取り上げられ、さらには「核融合開発を国を挙げて推進する」などおバカなことが書かれていている。(核融合発電は「クリーンで無尽蔵で安全」ではない  参照)
詳細版は昨日閣議決定されたエネルギー基本計画を踏襲しているのに対し、概要版は、自民党内の誰かが自分の思い入れでこれを修正したのだろう。しかし、これでは自民党はエネルギー政策をどうやっていくのか分からない。筆者は別に反自民というわけではないが、これはいただけない。

2021年10月23日

アンモニア発電の問題点 まだ解決すべき問題も山積

アンモニアを燃料として発電所で燃やそうという話題を聞くようになってきた。例えば、記事「二酸化炭素の排出量減らす 新たな発電技術を公開 JERA 碧南火力発電所」は石炭の一部をアンモニアに置き換えることによってCO2発生量を2割減らすとしている。
アンモニア(NH3)は炭素Cを含まないので、燃やしてもCO2は出てこない。だから、アンモニアを輸入してCO2の出ない燃料として石炭火力発電所などで使おうという話になっている。

しかしながら、アンモニアは燃やすときにはCO2が出ないが、作るときに大量のCO2が発生していることを忘れてはいけない。アンモニアの窒素分Nは空気から取り出せるが、水素分Hはアンモニア製造工場では天然ガスや石炭から作っている。このとき大量のCO2が発生する。
さらに、窒素と水素を化合させてアンモニアを作るときに大量の熱を消費するが、この熱を得るために天然ガスや石炭が燃やされるので、この時にもCO2が発生する。
アンモニアを燃料として使用した場合、製造工程でのCO2排出量を考慮すると、天然ガスをそのまま燃やした場合に比べて2.3倍のCO2が排出されることになる

また、アンモニアは窒素分を含むので、燃やせば当然ながら窒素酸化物が出てくる。窒素酸化物はCO2よりも強力な温室効果ガスであったり、猛毒であったりする。火力発電所で直接アンモニアを燃やすなら、この窒素酸化物を如何に出さないようにするか常に課題となる。アンモニアを石炭に混合して使ったときうまくいっても、100%で使って大丈夫だとは言えないだろう。

さらにもうひとつ、アンモニアに含まれる窒素分は空気から採られる。ということは海外のアンモニアを日本に運ぶというのは、その大半は空気を運んでいるということになる(アンモニアの重量の82%が窒素分)。だからアンモニアの発熱量は非常に低い。これで採算が取れるのだろうか。

CO2を発生させないアンモニア製造方法に切り替えればいいのだが、アンモニア発電だけが先行している。このままいけば、確かに日本のCO2排出量は削減されるかもしれないが、その削減量以上にアンモニア輸出国のCO2排出量を増やすことになる。

このようにアンモニア発電は、世間ではまるで脱炭素の救世主のような扱いであるが、まだ解決すべきいろいろな問題があるのだが

2021年10月19日

ユーグレナ社の次世代バイオディーゼルJR貨物で使用 実用化の可能性はあるか?

ユーグレナ社は、今月13日、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」の使用をJR貨物越谷貨物ターミナルにおいて開始したと発表した。使用量は年間2,388ℓで、最初は構内移送用トラックの燃料として使用し、将来はフォークリフトや機関車への拡張も検討しているとのこと。

バイオディーゼルは軽油の代替としてディーゼルエンジンで使用される燃料である。原料は主に大豆油やパーム油のような植物油であるから、使用しても空気中のCO2を増やさない脱炭素燃料である。ユーグレナ社はこのバイオディーゼルやバイオジェット燃料(SAF)をミドリムシから抽出した油分を使って製造する技術を開発しており、今回はディーゼルの方の使用にこぎつけたということである。
一般に微細藻類は太陽エネルギーを効率的に油脂に転換することができることから、単位面積あたりの油脂生産量が非常に大きく、大豆油などと比較して30倍から300倍であるといわれている。また、海や湖沼、休耕農地なども活用できるため、食糧生産と競合せず、自然林を破壊することがない。

バイオディーゼルには第1世代第2世代があるが、サステオはHVOとよばれる第2世代に相当する。写真を見ると直接、車両に供給しているように見えることから、従来の軽油の代わりにそのまま使える、いわゆるドロップイン型を達成しているのだろう。品質的にはかなり進んだバイオ燃料である。

ユーグレナ社プレスリリースより

しかし、疑問もある。実はサステオはミドリムシ油だけが原料ではなく、使用済み食用油(廃食用油)が混合して使われているのである。廃食用油を使った第二世代バイオディーゼルは欧州では既に多くの実績があるから、もしサステオの原料のほとんどが廃食用油だというなら、これは新しい技術ではない。ミドリムシ油100%にしないのは、何か技術的な問題があるからだろう。
また、廃食用油は廃棄物を減らすという意味もあるが、資源量が限られる。ミドリムシ油を原料として使わなければ大量生産はできないのである。今回、JR貨物で使われるサステオの使用量は年間2,388ℓ(1日あたり6~7ℓ)と極少量なのも、このあたりの理由があるのだろう。
微細藻類を使ったバイオ燃料は脱炭素燃料として将来が望まれる燃料であり、実用化を期待したいところであるが、ミドリムシ油の大量生産技術や採算性の問題がまだ解決されていないとすれば、実用化はまだ先の話である。

ガソリンが値上がりしても石油会社が非難されなくなった理由

最近、ガソリンの価格が高くなっている。ニュースでは7年ぶりに162円を超えたと報じられている。値上がりの原因は原油価格の上昇だ。原油価格はWTIやブレントのような基準原油の先物取引で決まる価格であるが、新型コロナが収束して経済の回復が期待されるなか、産油国が増産に慎重になっているためで、これに円安という要因が加わる。
ところで、従来はガソリン価格が上昇すると石油会社が非難されていた。不当に儲けているのではないかと。
ではガソリンの価格の内訳はどうなっているかというと、以下の通りである。(ちょっと古いが2011年の調査)

  原油コスト                     38%
  精製費                    12%
  流通費                    9%
  揮発油税、消費税       41%

このうち、揮発油税と消費税はほぼ一定である。また、精製費と流通費はほとんど調整の余地がない。結局、ガソリン小売価格は原油価格と密接に連動することになる。ガソリン価格が上がっても、石油会社が不当に儲けているわけではない。この関係が理解されたのか、最近ではガソリンの値段が上がっても石油会社が非難されることはあまりなくなった。
しかしながら、過去にはガソリン価格が上がっても、あるいは下がっても、石油会社が非難される時期があった。
1970年代に起こった石油危機以降、原油価格は高いままだったが、1986年に安値に転じた。このとき、原油価格が下がったのに、ガソリン価格が下がらないのはおかしいと、石油会社が非難された。当時、石油会社は90日分の備蓄が義務化されていたから、原油価格が下がっても高いときに買った原油が残っているので、急にガソリンの値段は下げられないのだ。そのため、政府が石油各社を指導して会計基準を従来の総平均法から後入れ先出し法に変更させた。これによって、原油の価格の変動がすぐさまガソリンの価格に結び付くようになった。
ところが1990年8月に湾岸戦争が始まると、今度は逆に原油価格が高騰することになった。当然ながらガソリン価格もすぐに上がる。それを見た当時の大臣が、まだ備蓄が90日もあるのにガソリン価格がすぐに上がるのはケシカランと言い出した。
これにはさすがに石油業界も反発。そのまま後入れ先出方式を維持した。その時々の都合によって会計方式をコロコロ変えるのは禁止されているから当然のことだ。これによって、原油価格が上がったときも下がった時も、すぐにガソリン価格に反映されるシステムが出来上がったのである。
このあとも、しばらくはガソリンの値段が上がると石油会社が非難されることもあったが、最近は原油価格の上下とガソリン価格の上下がリンクしていることが理解されたのであろう。石油会社が非難されることはなくなってきている。
なお、現在は、石油各社の財務会計は国際会計基準に合わせて総平均法に移行しているが、ガソリンの卸価格は従来どおり原油価格に連動して決められているようである。

2021年10月14日

無料レジ袋は本当に無料なのか

最近、またレジ袋が無料配布に戻るのではないかという話を聞くようになった、桜田義孝衆議院議員がレジ袋無料化について新環境相に相談したと明かしている。
レジ袋有料化の旗振り役とみなされていた小泉進次郎氏が環境相を外れ、山口壮氏が新環境相となったことで、今後の動向に注目が集まっていた。といっても環境保護のために始めた政策を環境大臣自らがもとに戻すのか。世界がレジ袋有料化に向かう中、日本だけがまた無料に戻しますというわけにもいかないだろう。

それはともかく、以前レジ袋は無料だったわけであるが、それは本当に無料だったのだろうか。レジ袋無料とはいっても結局その代金は店側で負担していた。顧客にとって無料でも、店側にとっては無料ではない。
レジ袋を無料で配布すれば、その分、店の収益が減ることになる。店の収益が減った分、結局は従業員やアルバイトへの賃金が減らされ、あるいは商品の価格に何らかの形で上乗せされることになる。あるいはレジ袋購入負担が必要経費扱いとなって国に支払う税金が減ることになる。レジ袋が無料とはいっても、結局、まわりまわって国民が何らかの形で負担しているのだ。

相変わらず、ネット上では、レジ袋の原料となるナフサは石油精製時にどうしても出てくる余り物であるかのような論調がまかり通っている。どっかの大学の先生が言うように、ナフサが余れば捨ててしまうようなものであるなら、原料はタダだから無料でもいいじゃないかということになりそうだが、これは事実を見ていない。実際はナフサは捨てるどころか、わざわざお金を出して外国から買っているのだ。

日本は高度成長期にエチレンプラントを次々に建設していった。その結果、一時期深刻なエチレンの過剰生産能力を抱えることになった。そのエチレンの用途のひとつがレジ袋だったわけである。建設したエチレンプラントの稼働率を上げるためにエチレンが大増産され、その原料のナフサが足りなくなって、輸入までするようになり現在は輸入の方が国産品よりもずっと多くなっているというのが実態なのだ。
つまり、余っているのはエチレンでありナフサではない。それをナフサが余っているからエチレンが増産されていると多くの人が勘違いしている。

レジ袋自体は無料ではない。たとえ無料で配布されたとしても、それが回りまわって結局、国民の負担になっていることを忘れてはいけない。物は大事に使おう。タダだからと言って無駄に使えば、それは環境にとっても、経済にとっても、資源にとってもいいことは何もない。