一般社団法人・炭素回収技術研究機構(CRRA)の代表理事を務める村木風海〈かずみ〉氏がよくマスコミに登場するようになった。CRRAは地球温暖化の原因となるCO2回収装置「ひやっしー」を開発しており、家庭やオフィス向けに提供するサブスクリプション(定額制)サービスを国内の団体が始めたという。
12月22日付の朝日デジタルによると「X(旧ツイッター)などでは「スゴイ!天才」「衝撃と歓喜!」「世界中に広まるといいね」といった称賛がある一方、「逆にCO2の発生量を追加で増やすだけ」「環境問題にまったく寄与しない」といった批判も上がっている」という。
筆者もこのビジネスには大きな疑問がある。
問題は回収したCO2をどうするのか
ということだ。空気中のCO2を回収するだけなら、それほど難しくはない。アルカリ溶液に吸収させればいい。
実際、ひやっしーは、空気をコンプレッサーで加圧してアルカリ溶液の中に吹込んでブクブクさせている。これだけでCO2を回収することができる。簡単だ。
なぜ、こんな簡単なことを今まで誰もやらなかったのかというと、それは回収したCO2をどうするかの目途が立たなかったからだ。
空気からCO2を回収してもそのまま空気中に放出したり、アルカリ溶液ごと廃棄物処理業者に渡したりしたらなんにもならない。
CRRAでは、回収したCO2からガソリンを作る研究を行っているという。しかし、その技術が完成したわけではない。
確かに、CO2からガソリンを作ることは可能だ。すでに日本を含めて世界各地の研究機関で研究が行われている。ただ、これはかなり難しい。
CRRAではCO2を使って微細藻類を培養し、これから採れるグルコースを発酵させてバイオエタノールを作って燃料にするというが、こんな方法は1970年代から提案されて研究が進められているが、いまだに実用化していない難しい技術だ。
ひやっしーがやっているようなアルカリ溶液にブクブクさせるだけといった簡単なものではない。桁違いの技術力と化学工場並みのプラントが必要となるわけだが、このような難しい技術をCRRAが持っているとは思えないし、2年や3年で開発できる技術でもない。
一番の問題は村木氏が提案している方法はすべて、新しいことはなにもない。世界中ですでに研究開発がはじまっているが、非常に難しくまだ完成した技術ではないということだ。CRRAがそれに取り組むのは結構だが、他の研究に比べて特に優れた成果を上げているとも思えない。
いまのところ、ひやっしーで回収されたCO2は、そのままCRRAのラボに保管されているということであるが、いずれは満杯になる。そのときはどうするつもりなのか。
まず、回収したCO2をどう処理するかの
目途を立てた上でビジネスを始めるべき
だろう。
まだその目途もたっていないのに、とりあえずひやっしーをサブスクで販売しておいてから、集めたCO2の有効利用の目途が立たない場合はどうするのか。そのときはビジネスは止めますというのなら、集めた金は全額返金すべきであろう。
少なくとも回収したアルカリ溶液をこっそり捨ててしまうなんてことだけはやってほしくない。

ひやっしーを購入した人や企業や組織は、これが地球温暖化緩和の役に立つと思っているはずである。にも拘らず、集めたCO2をただ貯めておくだけなら、それは典型的なグリーンウォッシュということだ。
(グリーンウォッシュ:実際には効果がないのに環境にいいことをやってるふりをして広告効果をあげたり、投資を呼び込んだりすること)
村木氏は「科学の尺度だけでは計れないビジネスの話をやっている」とインタビューでは答えているが、ビジネスとしてやるのなら、まず、持続可能な技術を確立してからやるべきだろう。
2023年12月29日









