「ゴミだと思った二酸化炭素が、実は可能性の塊!“趣味で地球を救う”現役東大生が考えた地球温暖化の解決策がすごい」
FNNプライムオンラインにこのような記事が掲載された。
現在東大生でもある(現在は、東大を退学)村木風海氏が代表理事を務める炭素回収技術研究機構「CRRA(シーラ)」が空気中のCO2を回収してガソリンを作る研究を行っているという話題である。CRRAはすでに空気中からCO2を回収する装置、ひやっしーを開発販売しているが、次のステップとして、このひやっしーで回収されたCO2を使ってガソリンを作る研究を行っているという。
これが成功すれば、空気中のCO2を減らして地球温暖化の解決策となる。画期的なアイデアだということで、最近、この話題をあちこちで見かけるようになった。しかしながら、CO2を空気中から回収して、ガソリンやその他の燃料として使おうという話は随分前からあり、世界中で開発が進められているし、実際にCO2を原料として作られた燃料が製造されている。
実は、今から40年ほど前、CO2による地球温暖化が問題になり始めたころからCO2を回収して燃料にしようという話は色々出ていた。ひやっしーのように、空気中からCO2を回収することまでは経済性を抜きにすれば技術的にはそれほど難しくない。
難しいのは、回収したCO2から燃料を作ることだ。そもそも、我々人類が化石燃料を使うのは、もちろんエネルギーを得たいからだが、その副産物としてCO2が出てくる。そのCO2を回収して燃料にするときには、今度は逆に発生したのと同じ量のエネルギーを消費してしまうというのがエネルギーの法則である。実際にはエネルギーのロスがあるから、発生したエネルギー以上のエネルギーが必要となる。
つまり、CO2から燃料を作ることは可能だが、そのために必要なエネルギーは、製造されたガソリンの持つエネルギーよりも必ず大きくなってしまう。だから、CO2からガソリンを作ろうとすれば、エネルギー的には必ず赤字となる。
その消費するエネルギーを火力発電から得るなら、かえってCO2が増えてしまうので本末転倒。ということで非化石燃料、例えば水力とか、太陽光とか、風力などの再生可能エネルギーから持ってくる必要がある。
世界中の科学者や技術者が様々な方法で、この課題に挑戦しており、海外ではすでに製品が製造されて出荷される段階にまで達している。つまり、CO2からガソリンを作るというアイデア自体は珍しくもなく、今は実証段階に入っている。
CRRAは回収したCO2をスピルリナという植物を使って光合成やアルコール発酵工程プロセスを経てエタノール等に変えてガソリンにするという。スピルリナを育てるのは簡単だが、それをどうやって、より少ないエネルギーでガソリンに変えるのかという話はぜんぜん聞こえてこない。
多分、FNNオンラインの記事を書いた記者は、そういういきさつを知らずに、「地球温暖化の原因となるCO2からガソリンを作ることができるなんて初めて聞いた。これは素晴らしい、これで地球温暖化問題は解決!」と素直に考えたのかもしれない。
しかし既に述べたように、CO2からガソリンなどを作るアイデア自体は昔からあるし、日本を含め、世界中の大学や企業で開発が進められているテーマである。一部ではもう実証段階まで進んでいる。
(EVの代わりにポルシェが薦めるe-fuel 実はとんでもないところで作られていた 参照)
下の図はCO2から自動車燃料を作る海外の開発プロジェクトを示している。
日本においても経済産業省が進めているグリーンイノベーションの一環として、ENEOSや出光興産、大阪ガス、古河電工などが参加して開発が大々的に進められている事業である。
その中でCRRAが特に優れた成果を出しているとも思えない。空気中のCO2の回収という簡単なところはできているが、もっと難しいガソリン合成のところはアイデア段階にすぎない。
申し訳ないが、もっと成果を出している研究者は日本にもたくさんいる。マスコミはそういう地道な研究を進めて実際に成果を出している事例を紹介しないで、なぜこのような、それほど成果が上がっているとは思えない人だけを取り上げて騒ぐのか。タレント化して(実際、芸能事務所に所属しているようだが)一時的に騒がれても、あとで忘れられてしまうのでは本人のためにもよくないだろうと思う。
(2023年7月2日 一部加筆)
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