イーレックスの水素発電は理解不能 水の分解エネルギーの出どころが不明

16日の日経新聞によると、新電力大手のイーレックスは、来年3月に山梨県富士吉田市において日本で初の水素専焼発電所を稼働させる。イーレックスはバイオマスのような再生可能エネルギーを中心に発電し、その電力を供給する会社で、2015年に東証一部上場となっている。
水素発電自体は脱炭素社会を見据えて、大いに期待したいところである。しかしながら、このプロジェクトがどうも理解不能なのだ。
問題は水素の出どころである。一般には水素は石油のような化石燃料を原料とするか、水を電気分解して作る。今回の水素はハイドロゲン・テクノロジー社(以下HT社)が持つ技術を用いて水から作るという。HT社のHPによると、水と岩石由来の触媒のみにより低温低圧で水素を取り出すというが、そんなことが可能なのか
この岩石由来の触媒というのが「超マフィック岩」と呼ばれるもので、その反応機構はまだ未解明ながら、確かにこの鉱物と水との反応で水素が発生することが知られている。ただし、水は非常にエネルギーレベルの低い物質であるから、これから水素を取り出すには多量のエネルギーを必要とする。だから電気分解では電気エネルギーが、石油を使う方法では熱エネルギーが大量に消費される。
「超マフィック岩」を使ってもこの関係は変わらないはずである。つまり、水から水素を取り出すには多量のエネルギーを必要とする。そのエネルギーをどうやって投入するのかがこのプロジェクトでは何の説明もないのである。
もしエネルギーの投入が不要だとすると、超マフィック岩自体がエネルギー源となっているのか。その場合は超マフィック岩を継続的に投入し、水素を得た後、使い済みの超マフィック岩が大量に廃棄されることになる。
実は水と反応して水素を出す物質は珍しくない。よく、水で走る自動車などというものが紹介されることがあるが、その多くは水と反応して水素を出す物質(マグネシウムなど)を使ったもので、マグネシウムなどを使い終われば、もう自動車は走らない。まさかこれと同じようなものではないだろうねと疑ってしまう。
水を分解するためのエネルギー源がはっきりしないという点で、このプロジェクトは理解不能である。

イーレックスの水素発電は理解不能 水の分解エネルギーの出どころが不明」への8件のフィードバック

  1. 河合利彦

    色々再生エネルギーなど調べていたら、こちらのサイトに行きつきました。
    私もこのニュース見て疑問に思いました。ここの社長の名前で特許を検索できましたが、これではアルミも使っている様でした。実験システムでは不明ですが、似たような物ではないかと思います。

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    1. takarabe 投稿作成者

      河合様 コメントありがとうございます。
      水素を供給する会社のHPを見ても、どういう原理で水素が発生するのかまったく記載されていません。
      緊急時用電源用の水素発生や、化学工場で簡易的に水素が欲しいときに使える技術かもしれませんが、発電用となるとクエスチョンです。

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      1. 佐野 寛

        水に触媒があれば水素を発生する、というのは、エネルギー恒存則ねの挑戦、の内容ですね。あっさり、切って捨てることがなぜできないのでしょう?声が大きいだけに、世論を惑わすものと思います。
        水素エネルギー協会が取り上げて、きちんと否定して欲しいです。

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        1. takarabe 投稿作成者

          佐野寛様 記事を読んでいただいてありがとうございます。
          そうですよね。普通ならちょっと騒がれて、いつの間にか消えてしまうという例が多いと思いますが、今回は一部上場企業が絡んでいるというのが、不可解です。この3月に設備が完成するということですが、どんな具合になるのでしょうか。

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  2. 宍戸元良

    この技術は、既に実用段階に入っています。イーレックスの水素専焼発電は、4/6より連続運転、
    稼動中です。この水素生成システムは、制御装置に僅かな電力を使いますが、実質グリーン水素です。
    この技術は、日本の経済、世界の環境の救世主になると考えています。
    科学技術というものの進歩は、無限です。物理的な壁、例えば液体は圧縮できない。これは、どんな
    技術をもってしても不可能です。それ以外は壁はたくさん立ちはだかるであろうが、乗り越えられない
    壁はありません。常識は、塗り替えられるものです。大事なことは、何を理想とするか、とそれを達成
    するための執念ですね。

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    1. takarabe 投稿作成者

      宍戸元良さま コメントありがとうございます。
      確かに、この技術がそのとおり実用化するのであれば、世界の環境への救世主になるだけでなく、人類は無限のエネルギーを手に入れることができるでしょう。しかしながら、同社のホームページを見る限り、触媒の働きによって水を分解して水素を取り出し、その水素をエンジンで燃やして発電するとあります。水素を燃やせば元の水に戻ります。触媒は反応を促進させるが、それ自体変化しない物質のことです。ということは水から水素ができ、その水素が水に戻る。一方触媒は変化しない。ということは全く物質の変化なしにエネルギーを取り出せるということであり、これは永久機関そのものです。永久機関は不可能と言われていますので、これはおかしいということになります。(液体が圧縮できないと同じく、永久機関も不可能です)
      しかし、この機関が動いているというのであれば、ひとつ考えられるのは変化しないはずの触媒が変化しているということです。それなら、納得がいきます。ただし、触媒が変化するのであれば触媒を何らかの形で補充しなければならない、つまり、水で発電しているのではなく、触媒(と称するもの)で発電しているということになります。その触媒が高価なものであれば、やがて採算が取れなくなり、この機関は停止することになるでしょう。環境への救世主になるかどうかは、もう少し様子を見るべきだと思っています。

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      1. とおりすがり

        超マフィック岩(橄欖岩などでしょう)の中の2価の鉄が,酸化されて3価の鉄になるときに水を還元する反応でしょうね.
        その意味で,超マフィック岩は触媒ではなく燃料です.(水素発生反応により変化する)
        海底でのメタン生成菌の食料である水素はこれで生み出されていると考えられています.
        http://www.geochem.jp/information/info/090918.html

        なので,エネルギー保存則は破ってはいません.水+橄欖岩よりもH2+分解生成物(多分蛇紋岩みたいなもの)の方が自由エネルギーが少ないので,エネルギーを与えなくても平衡論的には自発的に進みます.

        ただ,これが常温・常圧で進行するかどうかは,活性化エネルギーに依存するので,私にはわかりません.ひょっとしたら,反応を進めるために加熱しているのかもしれません.

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        1. takarabe 投稿作成者

          とおりすがりさん コメントありがとうございます。
          情報提供ありがとうございます。超マフィック岩からの水素生成は実験的に確認されているのですね。おっしゃるとおり、これはイーレックスが主張するような触媒ではなくて、燃料ですね。燃料なら使えばなくなる。やがて超マフィック岩の効果はなくなるわけですし、そうすればもう水を入れただけでは水素は出てこなくなります。そのときはどうするつもりなんでしょう。

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