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ウクライナ ザポリージャ原発の本当の恐ろしさ

私の書いた記事がオルタナ誌やヤフーで公開されるようになり、この記事を読まれた方々からコメントや質問をいただくようになりました。これらのコメントや質問は大変役に立つ、ありがたい物ですが、中には私の記事がよく理解されていないのではないかと思われるものもあり、これも私の表現力の拙さであると反省しています。

そのような記事のひとつ「ブレーキが2つでも暴走、原発は根本的に「危険」と断言する理由」として紹介された記事について、つぎのようなコメントをいただきました。

「記事では冷却水をブレーキといっているが、冷却水の働きで中性子を減速して核反応を起こりやすくしているのだからブレーキではなくアクセルである。冷却水がなくなれば核反応は起こりにくくなり、核反応は止まってブレーキとして働く」

お前はそんなことも知らないのかと言わんばかりのコメントでしたが、いえいえそんなことは知っています。確かに、水は中性子を減速して核反応を起こさせるのでアクセルです。しかし、このアクセルを使って実際に原子力発電所をコントロールしているかといえば、そうではありません。

核燃料は冷却水の中に完全に浸かっていて、その冷却水が中性子を減速する働きをしていますが、その量を増減させて核反応をコントロールしているわけではありません。いわば、アクセルを踏みっぱなしの状態なのです。

で、そのままでは原子炉は暴走してしまいますから、制御棒で中性子の量をコントロールし、発生した熱を冷却水で運び去っているわけです。コメントのように冷却水は核反応を抑えるブレーキとして働いているわけではありませんが、発電所というシステムが暴走しないように実質的にブレーキとして働いているということをこの記事の中では指摘しているわけです。

火力発電所なら、燃やす燃料の量によって、出力をコントロールすることができるわけですが、原子力発電所の場合は、燃料と減速材が余剰に充填されていて、その量を調整することをしていません。

だから、その出力は減速材で調整し、さらに発生した熱で原子炉が過熱しないように冷却水で冷却しているのです。つまり、アクセルをいっぱいに踏みながら、同時にブレーキを踏んで速度をコントロールする仕組みになっているわけです。

原子力発電所の放射能漏れや核廃棄物の処分の問題についてはいろいろと議論されていますが、原子力発電所の運転特性について解説したものはあまりみかけません。

この記事では核反応そのものではなく、核反応で発生したエネルギーを発電に結びつける原子力発電所の制御について、常に暴走の危険があり、誰かが常にブレーキを踏んでいなければならないという特殊な制御を行っているという危険性を指摘しているのです。

数日前から、欧州最大といわれるウクライナのザポリージャ原発に砲撃やミサイル攻撃か行われていると報道されています。これが火力や水力発電所なら、運転員はさっさと退去して発電所は放棄してしまえばいいこと。発電所は勝手に止まってくれるでしょう。

しかし、原子力発電所はそうではありません。常に誰がブレーキをかけていなければならないのです。特に冷却水を喪失すれば核反応自体は停止に向かいますが、核燃料内の放射性崩壊によって熱が発生し続けます。その結果、炉内が熱で溶解し、また水素爆発を起こして、放射性物質を広範囲にまき散らしてしまうでしょう。

そうなれば、おそらく半径数10km、下手すれば100㎞以内にはロシア軍も、ウクライナ軍も、住民もだれも立ち入ることができなくなる可能性があるのです。

原子力発電所の最大の問題点はこのような大災害につながる危険性をはらみながら、常に誰かがブレーキを踏み続けなければ暴走してしまうという運転方法を取っているということです。

その結果、ザポリージャ発電所は、そこが戦場になってしまったにも拘らず、運転員は避難することができません。命をかけて操業を維持しなければ、大災害に結び付いてしまうのです。これがザポリージャ発電所の置かれた状況なのです。

2022年8月18日

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西部バスが再生可能ディーゼル燃料を導入 EVとは違うもうひとつの道

西部バスが再生可能ディーゼル燃料を導入し、7月14日より営業運行を開始すると発表した。CO2の排出量を約9割削減できるという。今回は、この燃料について解説したい。

西武バスが導入するのはフィンランドのネステ社が開発したNeste MY Renewable Diesel®と呼ばれるバイオ燃料である。伊藤忠商事がネステ社と日本向け輸入契約を締結、伊藤忠エネクスが国内の輸送および給油を担当する。

原料は植物油である。植物は成長過程で空気中からCO2を吸収しているから、この燃料を使っても、発生したCO2は植物が吸収したCO2の範囲内である。よって空気中のCO2濃度を増やさない。ネステ社によれば、石油から作られたディーゼル軽油と比較してCO2の発生量を75%から95%抑えることができるという。

植物油を使ったディーゼル燃料は従来から製造、販売されてきた。その製法は植物油にメタノールを反応させるもので、FAME(脂肪酸メチルエステル)とよばれる。これは第一世代のバイオディーゼルだ。

これに対してネステ社の燃料は水素を使って植物油を分解したものでHVO(水素処理植物油)と呼ばれる。これは第二世代である。

FAMEにしてもHVOにしても従来のディーゼル軽油の代替として使われるわけであるが、一般に代替品というのはもともとの製品に比べて品質が劣るという印象があるだろう。しかしHVOに限ってはそうではない。むしろHVOは本家を凌駕する品質を誇っているのだ。

下の表に、HVO、FAME、一般軽油の品質を比較してまとめてみた。〇は良好、◎優れている、△はやや劣る、×は劣るということを意味している。


現在、使われている一般軽油はもちろんJIS規格には合格しているのだが、硫黄分や芳香族分がやや多く、これが黒煙やPMの原因となる。石油系軽油の欠点のひとつである。

FAMEについては、酸化安定性が低いのが最大の弱点。貯蔵中に変質してしまうのだ。さらに原料として天然ガスから作られたメタノールを使っているので、必ずしも完全な再生可能な燃料とは言えないし、酸素を含むので燃費が悪いという欠点もある。

これに対してHVOはこの表に掲げたすべての品質項目が良好であるうえ、特にディーゼル燃料として重要なセタン価が現行の軽油よりかなり高い。また、硫黄分や芳香族分が少ないから、排ガスの改善も期待される。

試乗会に出席した記者によると、軽油特有のツンとした匂いが軽減され、排ガスも軽油と比べて不快な匂いが少ないと言うが、これは硫黄分や芳香族分が少ないから当然のことであろう。

政府は、2035年までに新規販売される乗用車については全て電動にする方針を打ち出しているが、バスやトラックについては、まだそこまで踏み込んでいない。これは大型車については電動化が難しいからだろう。ではどうするか。バスやトラックの脱炭素化については、EVではなく、HVOのようなクリーンなバイオ燃料が今後の有力な候補になるかもしれない。

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朝日新聞デジタル SDGs Action にバイオ燃料に関する記事が掲載されました 

朝日新聞のウェブ版である朝日デジタルのSDGs Actionコーナーに記事「脱炭素化に向けて注目のバイオ燃料 原料や問題点、作り方などを解説」が掲載されました。主に自動車用バイオ燃料の基本的な解説をしました。

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脱炭素化に向けて注目のバイオ燃料 原料や問題点、作り方などを解説:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル (asahi.com)

「イタリアで実用化「CO2バッテリー」の可能性は」がオルタナに掲載されました

「イタリアで実用化「CO2バッテリー」の可能性は」と題する記事がオルタナに掲載されました。再生可能電力のシェアが増えるにしたがって、不安定な電力を貯蔵して平準化する技術の開発が進められています。そのひとつがイタリアのスタートアップ企業で進められているCO2バッテリー。この記事ではCO2バッテリーについて紹介しています。

記事はここ

食料生産に欠かせない肥料の価格が高騰 原因はウクライナ戦争だけではない

最近、肥料の価格が上昇している。この価格上昇の原因について、多くのマスコミはウクライナ戦争の影響だと報じているが、本当に戦争の影響なのだろうか。

肥料には様々な種類があるが、一般に窒素、リン、カリウムという三つの元素を含むものが用いられる。この三元素は植物の成長にとって必要であるが、不足がちなため外部から補ってやることによって成長が促進され、農作物の収穫量を増大させることができる。その肥料の価格が最近、急上昇していることから食料生産に影響を与えるのではないかと懸念されている。

肥料価格が上昇している原因について、日本のマスコミの多くは今年2月に勃発したウクライナ戦争の影響と報じている。(例えば、時事通信社6月2日、NHK6月1日、共同通信社5月31日など)しかし、肥料価格の高騰は本当にウクライナ戦争が原因なのだろうか。

肥料の国際価格の推移

上の図は肥料の国際的な価格推移を示したものである。リン、カリウム、窒素それぞれについての代表的な供給形態であるリン酸アンモニウム、塩化カリウム、尿素について示している。

この図からは、肥料価格が全般的に上昇しているのが分かる。しかしながら戦争が始まったのは今年2月24日である。確かに塩化カリウムについては、開戦時に大幅な価格の上昇を記録しているが、それ以外は実は戦争が始まった時期よりかなり以前から価格の上昇が始まっていたのだ。

リン酸アンモニウムの原料はリン鉱石とアンモニアであるが、リン鉱石を最も採掘しているのは中国で、続いてアメリカである。ロシアも産出するが、その量は中国の10分の1程度に過ぎない。価格については確かにウクライナ戦争の影響はあるが、価格の上昇はそれ以前から始まっていたのである。

ちなみに、日本が輸入するリン酸アンモニウムは9割近くが中国産で、1割がアメリカ産。ロシアからの輸入はほとんどない。

塩化カリウムについては、その原料はカリウム鉱山から産出する。生産国はカナダ、ロシア、ベラルーシ、ドイツなどである。その価格は明らかに今回の戦争が原因で上昇している。これは今回の戦争で戦場となった黒海が塩化カリウムの積み出し港であることが大きい。

日本の塩化カリウム輸入については、63%がカナダからであるが、ロシアとベラルーシからも合計で25%ほどを輸入しているから、影響は少なくないであろう。

最後に、尿素であるが、この尿素の需要量が三元素の中で最も大きい。その原料はアンモニアである。カリウムやリンが鉱物資源であるのに対して、アンモニアの原料は窒素と水素である。窒素は空気中からいくらでも取り出すことができるし、水素は天然ガスや石炭などから取り出すことができるから、世界中どこでも生産することができる。

実際、我が国でも宇部興産、三井化学、昭和電工、日産化学などで生産されており、我が国で使用されるアンモニアの77%が国産である。

世界的にはアンモニアの主な生産国は中国、ロシア、アメリカ、インドである。尿素の価格もウクライナ戦争の影響を受けてはいるが、その前、特に2021年後半から上昇が始まっている。実はこの価格高騰の理由ははっきりしている。それは中国である。

世界最大のアンモニア生産国である中国は石炭を使って水素を作り、その水素と空気中の窒素からアンモニアを作っている。中国はその石炭をオーストラリアから輸入していのだが、オーストラリアと中国との関係悪化によって、石炭の輸入が止まった。

その結果、中国国内でアンモニアを原料とする尿素が不足。このため、2021年10月から尿素の輸出を制限している。これが、尿素価格高騰の理由のひとつである。

そのほか、リン酸アンモニウムと尿素については、原油価格高騰の影響も大きいと思われる。下の図で示すように原油(WTI)価格は2020年4月を底にして、それ以降、上昇を続けている。これによって石炭や天然ガスの価格も上昇し、これを原料とするアンモニア価格が上昇。アンモニアを原料とする尿素やリン酸アンモニウムの価格も上昇しているのだろう。

原油(WTI)価格の推移

結局、ロシアが世界第2位の生産国となっているカリウムについては、確かにウクライナ戦争の影響が強くみられるが、窒素とリンについては、むしろ原油価格の影響が大きい。

最近、日本国内ではいろいろな物の値段が上がっている。その理由としてウクライナ戦争の影響と報じられることが多いが、実際は原油価格上昇の影響がジワジワと現れてきているというのが実際なのではないだろうか。

沈没した知床観光船KAZUⅠはプラスチック製? FRPについて

今年4月23日、北海道知床沖で遊覧船KAZUⅠが沈没するという事故が起こった。この記事を書いている時点で、乗員14名が遺体で見つかり、12名がいまだに行方不明である。
事故原因については、これから本格的な調査が始まるだろうが、強風波浪の中を出港したことに非難が集まっている。波やしぶきが船に打ち付け、開口部から海水が入り込み、その重みで沈没したのだろうか。あるいは、船底に3か所の穴が開いているということから、航行中に何かが衝突して穴や亀裂が生じたのか。あるいは過去の衝突事故の修理に不備があったのか。
実は、事故を起こした観光船KAZUⅠはプラスチック製だ。プラスチック製といっても、プラスチックをガラス繊維で強化したFRPと呼ばれる物。この記事ではFRPとはどんなものかを簡単に紹介したい。

FRPは繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)の略である。繊維とプラスチックを混ぜ合わせて固めた物。繊維としてはガラス繊維が使われることが多いが、炭素繊維や各種の合成繊維が使われることもある。ガラス繊維はその名のとおり、ガラスを繊維状に引き延ばしたものだ。
一方のプラスチックの方だが、これはエポキシ樹脂やフェノール樹脂が使われる。プラスチックと言ってもポリエチレンや塩ビのような、熱すると溶ける、冷えると固まるという熱可塑性樹脂ではない。通常は粘度の高い液体の樹脂だが、硬化剤という薬剤を加えると、分子同士が結合し合って、網目状のさらに大きな分子となって固化する。

エポキシ樹脂の化学構造

成型するときは、あらかじめ作っておいた型にシート状のガラス繊維を張り付けておき、これにプラスチックと硬化剤を混ぜ合わせたものを浸み込ませていく。時間が経つと固まるので型を外して出来上がりだ。
プラスチック自体は軽くて加工が容易であるが、脆くて衝撃に弱いという欠点がある。FRPなら繊維がプラスチックの脆さを改良して強靭な材料とすることができる。
例えば、プラモデルはポリスチレンというプラスチック製だ。これを金づちでたたけば、壊れてばらばらになってしまうだろう。もしこのプラモデルをFRPで作ったらどうなるか。金づちでたたけば壊れるが、柔軟性のあるガラス繊維がプラスチックの飛散を食い止めるからへこみはするが、ばらばらになることはない。ただし、亀裂は入るだろう。
もしプラモデルを金属のブリキで作ったらどうなるか。金づちでたたくと、へこんでしまうが、もちろんばらばらになることはない。余程激しくたたかない限り亀裂も入らない。
このようにFRPはプラスチックだけの場合に比べて、衝撃には強い。ただし金属に比べれば脆くて、亀裂が入りやすい。

FRP船の船体に、浮遊物や岩礁など何か堅いものが衝突すれば、その部分はへこむだけでなく亀裂が入ることがあり、そこから海水が侵入することはありうる。また、KAZUⅠは今回の事故を起こす前に2回も衝突事故を起こしている。このときFRP製の船体はばらばらにはならないだろうが、へこんだり、亀裂が入ったりしているだろう。寒冷地では亀裂に水が入り込み、その水が凍結、融解を繰り返して亀裂を大きくしてしまう可能性も指摘されている。
これから、この事故の原因が究明されていくだろうが、このような事故が繰り返されないように、万全の対策を取ってほしい。

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