災害時に役に立つのはやはり石油 エネルギー供給の「最後の砦」

能登半島地震

今年1月1日、16時10分頃、非常に大きな地震が能登半島を襲った。最大震度は7。被害状況はまだ確認されていない部分があるが、この記事を書いている1月25日時点のまとめでは死者223名、負傷者1,284名、住宅の全壊、半壊合わせて16,000棟以上に及ぶ激甚災害であった。

このような災害が起こったとき、まず家屋の倒壊や津波、地崩れ、火災などの直接的な被害のほか、被災者の避難や損害の復旧、生活の再建が必要となる。

ここで重要となるのがライフラインの早期復旧である。災害が発生すると普段あるのが当たり前と思っていた水道や電気、ガス、石油が災害によって使えなくなる。これによって災害復旧作業にも大きな障害となる。避難した被災者にも不便を強いることになり、最悪の場合、災害関連死の要因ともなる。

ライフラインの状況

そのライフラインの復旧状況であるが、断水は最大75,300戸。このうち1月24日時点で45,380戸がまだ復旧していない。電力については最大40,500戸が停電し、24日現在、約4,700戸が復旧していない状態と報告されている。

一方、ガソリンや軽油、灯油を供給するガソリンスタンド(SS)については、震災直後に営業停止となったところが65軒。営業可能なのは207軒。状況確認中が259軒となっていた。しかし、24日時点では13軒が営業停止中と報告されており、それ以外のほとんどのSSは復旧して営業中と思われる。

また、石油製品を貯蔵しておく油槽所についても、地震直後に一部で配管に損傷があったため出荷停止となったものの、近隣油槽所からの応援配送により大きな影響はなかったと報告されている。そして24日の現時点では順調にローリー出荷中という。

石油は防災の最後の砦

ライフラインのうち、もちろん水も電気も重要であるが、石油は災害時には特に重要な役割を果たす。消防、救急、警察それに自衛隊用車両の燃料として欠かせないし、病院などの自家発電用にも使用される。一般家庭や避難所に芯式の石油ストーブがあれば、停電していても暖房ができるし、煮炊きもできる。

自宅が倒壊あるいは余震で崩壊する恐れがあるため、自家用車内で生活する人もいるが、車内暖房のためにもガソリンが必要である。

このように石油は災害時に電気や都市ガスの不通を補う重要な役割を担うことができるし、石油は備蓄ができるという利点もある。

第6次エネルギー基本計画でも
「石油は、エネルギー密度が高く、最終需要者への供給体制及び備蓄制度が整備されており、可搬性、貯蔵の容易性や災害直後から被災地への燃料供給に対応できるという機動性に利点がある」とされており、石油は災害時にはエネルギー供給の「最後の砦」となると、その役割が強調されている。

意外に強靭 石油の供給体制

既に述べたように、今回の能登半島地震ではSSの被害は比較的少なく、またその復旧は電気や水道に比べてかなり早く、比較的早期に石油製品の提供を開始している。これは、実はSS側で従来の災害を教訓として、様々な取り組みを行ってきたからである。

SSはもちろん、ガソリンのような大量の危険物を取り扱う施設であるから、付近住民から不安視されることもある。実際、SSの建設計画が持ち上がると近隣住民の間で反対運動が起こることも珍しくなかった。

その認識を変えたのが、1995年に発生した阪神淡路大震災である。このとき、神戸市内で大規模な火災が発生し、付近一面が焼け野原になった地域もあった。にもかかわらず、SSで火災が発生したという例はなく、むしろSSだけが火災からまぬがれポツンと残っていたという例がいくつも見られたのである。

阪神淡路大震災に伴う火災ではガソリンスタンドだけが焼け残った

これはSSが法令によって決められた厳格な安全設計で建設されているからで、特に火災が発生したとき、付近の建物への延焼を防ぐために高さ2m以上の防火壁で周囲を囲うことが決められている。この防火壁のお陰で逆にSS内部が火災から守られたのである。

これを契機として、SSは危険な設備ではなく、逆に災害に強い施設であると見直されることになり、逆に災害時の防災拠点として整備が進められてきたという経緯がある。

具体的には全国のSSの中から約2,000か所が中核SSとして整備されている。中核SSは災害時には緊急車両への優先給油を行うため、自家発電設備や大型タンクが整備された。

また、中核SSほどではないが、自家発電設備を備え、災害時に地域住民の石油製品の供給拠点となる役割を持つ住民拠点SSが14,500か所整備されている。これは全国の総SSの内の半数以上に相当する。

中核SSや住民拠点SSは、自家発電装置や緊急設備の定期的な稼働確認が義務付けられており、また、災害時に対応する研修や訓練を行っている。今回、能登半島地震でもSSがいち早く復旧したのは、このような日ごろの備えが生きたのではないだろうか。

今後どうなる

このように、災害発生時にはSSが防災拠点のひとつとなって大きな働きをすることが期待されている。しかし、近年、ガソリンや灯油の消費量が減ってきており、このためSSの数も減少し始めている。

さらに、地球温暖化対策として、今後EVが普及が予想されており、SSの数は今後も減り続けることになる。そうなると将来的には災害時に石油の供給ができなくなる可能性もある。

気候変動対策としてEVの普及は必要であるが、緊急車両までEV化してしまうと災害時に活動できなくなる恐れがある。今後EV社会が実現した場合、災害対策をどうするのか、課題として捉えておく必要があるだろう。

2024年1月28日

羽田空港衝突事故 燃えたJAL機の機体の半分以上が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製

1月2日。17時47分頃、新千歳空港を飛び立ち、羽田空港に着陸しようとした日本航空516便(以下「JAL機」)が、滑走路に待機中だった海上保安庁の航空機(以下「海保機」)と衝突する事故が起こった。

この事故により、海保機は乗員6名のうち5名が死亡、1名が重傷を負ったが、JAL機の方は14名が軽傷を負ったものの衝突18分後には乗員乗客379名全員が機内から脱出している。乗員が脱出したあと、JAL機は火炎に包まれ、8時間後にようやく消し止められた。

日本航空516便衝突炎上事故の残骸(JA13XJ)By Makochan12.9 – Own work, CC BY-SA 4.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=143460716

ここで気になったのが、乗員乗客が脱出したあとJAL機が8時間も燃え続け、胴体部分が跡形もなく燃え尽きたことである。これからこの事故についての調査が行われるだろうが、この飛行機の主要部分が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で作られていたということが、この航空機火災事故にどのような影響を与えたのかが一つの焦点になるといわれている。

航空機火災事故では何が燃えるのか。まず考えられるのが燃料である。JAL機の燃料は当然ジェット燃料であるが、ジェット燃料というのは実はガソリンスタンドで売っている灯油と同じものと考えていい。ジェット燃料特有の規格に合格しなければならないが、特に変な作り方をしなければ普通の灯油でもジェット燃料として使える。

灯油はご存じのとおり、常温ではマッチで火を近づけても火は着かない。これはジェット燃料も同じことでガソリンよりも安全な燃料なのだが、一旦火がついてしまえば、燃焼熱で燃料自体が温まるから燃え広がって行くことになる。

今回の事故では、海保機との衝突で燃料が漏れだし、ジェットエンジン内の炎などが着火源となって燃えだしたことが考えられる。

しかし、今回の事故では燃えたのは燃料だけではない。JAL機の機体であるエアバスA350という機種は機体の半分以上がジュラルミンのような金属ではなく、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でできているのだ。CFPRが使われていたことが、火災にどのような影響を与えたのだろうか。

航空機の材料はもちろん軽いことが望ましいが、一方で400人もの乗客を乗せ、時速1000㎞で、高度1万mを飛行するから、機体には大きな負荷がかかる。その負荷に耐えられる強度のある材料でなければならない。

従来はジュラルミンやアルミニウム・リチウムなどのアルミ合金が使われてきたのだが、軽くて強度の高い炭素繊維が発明されると、それを使った炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が機体材料として使われるようになってきた。

最初は機体のごく一部で使われてきたのだが、新しい機体ほどCFRPの使用範囲が広がっている。エアバスA350で使われている材料の内訳は以下のとおりである。

CFRP    53%(使用箇所=胴体、尾翼、主翼部分)
 
アルミ、アルミ・リチウム合金 19%(使用箇所=リブ、フロアビーム、ギアベイ)

チタン    14%(使用箇所=着陸装置、パイロン、アタッチメント)

スチール    6%

その他        8%

A350では、従来、航空機に使われていたアルミ合金は全体の2割ほどしかない。かわりにCFRPが53%と、全体の半分以上に達している。使われている部分も胴体、主翼、尾翼だから、外部から見える範囲のほとんどはCFRP製と言っていいだろう。これほど多量のCFRPを多用した機体は、A350が最初であり、そして今回が初めての火災事故となる。

ではCFRPとはどんなものなのか。CFRPは炭素繊維とプラスチックの複合材料だ。プラスチックだけでは強度が足りないので中に繊維を入れて補強する。その補強材として炭素繊維を使ったものがCFRPである。似たようなものに漁船やバスタブなどに使われるFRPがあるが、これは補強材としてガラス繊維を使ったものだ。

炭素繊維は石油から作られるアクリル樹脂を加熱加工して作られるもので、90%以上が炭素原子からなる。この炭素繊維にプラスチックを混ぜて固める。組み合わせるプラスチックとしては、熱を加えると固まるエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂がよく使われてきたが、逆に熱を加えると液体になる熱可塑性プラスチックも用いられることがある。

A350に採用されているのは帝人(株)が提供するテナックスTPCLといわれるCFRPだ。これは東洋レーヨン(当時)が開発した炭素繊維テナックスにPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)という熱可塑性プラスチックを組み合わせたもの。このテナックスTPCLは強度は鉄の10倍だが、重さは4分の1しかない。軽くて丈夫なので航空機の材料としては絶好の材料である。

PEEKの化学構造

では、このCFRPで火災がおこるとどうなるのか。炭素繊維自体は不燃性といわれる(500~600℃まで高温になると自然発火する)。PEEKは耐熱性、耐薬品性、耐腐食性が高い優れた材料であり、また、難燃性であるから燃えにくい。しかし、やはりプラスチックであるから高温になれば燃える。

今回の事故でも胴体部分は完全に燃え落ちている。炭素繊維自体は不燃性であるから、燃えたのはPEEKの部分だろう。プラスチック部分が燃えれば、形を保っていることができないので崩れ落ちることになる。炭素繊維は燃え残ったとしても外観が黒色なので燃え殻にしか見えないのかもしれない。

今後、事故の調査が進むにつれて、CFRPの火災に対する評価が行われることになるだろう。プラスチックだから燃えるという特性があるが、ジュラルミンでも高温の炎にあぶられれば熱で溶解し、機体自体が崩れる。

2007年8月20日、沖縄県の那覇空港に着陸後、火災が発生した機体。ボーイング737-800。機体はアルミ合金製。

今回の事故では、機体は海保機と衝突しても客室が破壊されることもなく、約1000m地上を走っている。さらにジェット燃料火災の炎にあぶられながらもCFRP製の胴体は強度を保ち、乗員乗客379名全員が脱出する18分間、燃え広がらずに耐え続けた。

しかし、そのあと機体自体が燃えはじめ、数時間燃え続けてほぼ完全に燃え尽きた。
これをどう評価するか。今後の調査で明らかにされるだろう。

2024年1月7日

ひやっしーの危ういビジネス このままではグリーンウォッシュ

一般社団法人・炭素回収技術研究機構(CRRA)の代表理事を務める村木風海〈かずみ〉氏がよくマスコミに登場するようになった。CRRAは地球温暖化の原因となるCO2回収装置「ひやっしー」を開発しており、家庭やオフィス向けに提供するサブスクリプション(定額制)サービスを国内の団体が始めたという。

12月22日付の朝日デジタルによると「X(旧ツイッター)などでは「スゴイ!天才」「衝撃と歓喜!」「世界中に広まるといいね」といった称賛がある一方、「逆にCO2の発生量を追加で増やすだけ」「環境問題にまったく寄与しない」といった批判も上がっている」という。

筆者もこのビジネスには大きな疑問がある。

問題は回収したCO2をどうするのか

ということだ。空気中のCO2を回収するだけなら、それほど難しくはない。アルカリ溶液に吸収させればいい。

実際、ひやっしーは、空気をコンプレッサーで加圧してアルカリ溶液の中に吹込んでブクブクさせている。これだけでCO2を回収することができる。簡単だ。

なぜ、こんな簡単なことを今まで誰もやらなかったのかというと、それは回収したCO2をどうするかの目途が立たなかったからだ。

空気からCO2を回収してもそのまま空気中に放出したり、アルカリ溶液ごと廃棄物処理業者に渡したりしたらなんにもならない。

CRRAでは、回収したCO2からガソリンを作る研究を行っているという。しかし、その技術が完成したわけではない。

確かに、CO2からガソリンを作ることは可能だ。すでに日本を含めて世界各地の研究機関で研究が行われている。ただ、これはかなり難しい

CRRAではCO2を使って微細藻類を培養し、これから採れるグルコースを発酵させてバイオエタノールを作って燃料にするというが、こんな方法は1970年代から提案されて研究が進められているが、いまだに実用化していない難しい技術だ。

ひやっしーがやっているようなアルカリ溶液にブクブクさせるだけといった簡単なものではない。桁違いの技術力と化学工場並みのプラントが必要となるわけだが、このような難しい技術をCRRAが持っているとは思えないし、2年や3年で開発できる技術でもない。

一番の問題は村木氏が提案している方法はすべて、新しいことはなにもない。世界中ですでに研究開発がはじまっているが、非常に難しくまだ完成した技術ではないということだ。CRRAがそれに取り組むのは結構だが、他の研究に比べて特に優れた成果を上げているとも思えない。

いまのところ、ひやっしーで回収されたCO2は、そのままCRRAのラボに保管されているということであるが、いずれは満杯になる。そのときはどうするつもりなのか。

まず、回収したCO2をどう処理するかの

目途を立てた上でビジネスを始めるべき

だろう。

まだその目途もたっていないのに、とりあえずひやっしーをサブスクで販売しておいてから、集めたCO2の有効利用の目途が立たない場合はどうするのか。そのときはビジネスは止めますというのなら、集めた金は全額返金すべきであろう。

少なくとも回収したアルカリ溶液をこっそり捨ててしまうなんてことだけはやってほしくない。

ひやっしーを購入した人や企業や組織は、これが地球温暖化緩和の役に立つと思っているはずである。にも拘らず、集めたCO2をただ貯めておくだけなら、それは典型的なグリーンウォッシュということだ。
(グリーンウォッシュ:実際には効果がないのに環境にいいことをやってるふりをして広告効果をあげたり、投資を呼び込んだりすること)

村木氏は「科学の尺度だけでは計れないビジネスの話をやっている」とインタビューでは答えているが、ビジネスとしてやるのなら、まず、持続可能な技術を確立してからやるべきだろう。

2023年12月29日

ブログの記事がオルタナとYahooニュースに紹介されました

ブログの記事「EV(電気自動車)はエコじゃない? ネット知識は間違いだらけ」がオルタナ誌とYahooニュースで紹介されました。

オルタナ)

ヤフー)https://news.yahoo.co.jp/articles/8b5e6cc9b0cb7b1a85d7d224630ac520730948dc

水素は危険なのか? 爆発して町半分吹っ飛んだという話は本当か

再生可能エネルギーを使用して作られるグリーン水素や、生成時に発生したCO2を地中に閉じ込めたブルー水素などを使って脱炭素を進めようという話が進められている。

ところがユーチューブを見ていると、水素は大変危険なので普及しないと話をしている人を見かけた。そのユーチューバーによると、ヨーロッパでは水素ステーションが爆発して町半分くらい吹っ飛んだという。だから水素は大変危険なので使ってはいけないというのだ。

このユーチューバーの解説はとても歯切れがよくて、面白いので好きなのだけれど、水素が爆発して町半分が吹っ飛んだって話は聞いたことがない。ということで調べてみた。

Wikipedia(英語版)の「hydrogen safety(水素の安全)」の項には水素爆発に関する重大事故事例が23件、リストアップされている。1937年に起こった、あの有名なヒンデンブルク号の火災爆発事故から始まり、2011年の福島第一原発の水素爆発事故も含まれる。そして最新の事例として2023年7月に起こった燃料電池バスが水素チャージ中に爆発した事故までが記録されている。しかし、ヨーロッパで水素ステーションが爆発して町半分が吹っ飛んだという事故は載っていない。

飛行船ヒンデンブルク号の火災事故

Wikiのリストにはもっと小さな事故も含まれているのに、こんな大きな事故が記載漏れになっているとも思えない。Wiki以外にもネットでいろいろ検索したが、それらしい記事はまったくヒットしなかった。ということで、町の半分が吹っ飛んだという話はガセネタだろう。そのユーチューバーは何か別の事故を勘違いしたんじゃないだろうか。

しかし、Wikiのリストには、それに多少近いような、当たらずといえども近からず(遠からずではなく)という記事を見つけたので紹介したい。

2018年2月12日 アメリカ カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のダイヤモンドバレー

圧縮水素タンク24本を積んだトラックが水素ステーションに向かう途中、道路上で火災が発生した。火災は午後1時20分頃ころ発生し、午後4時前に消火されたが、この間、爆発の危険があるとして、ダイヤモンドバレーの半径1マイル(800m)の地域の住民が避難することになった。

この事故はかなり広い範囲の住民が避難することになったが、実際に爆発が起こったわけではない。水素ステーションの事故でもないし、場所もヨーロッパではなくてアメリカだ。

2019年6月10日 ノルウェー サンドヴィカ

ノルウェーのUno-X社の水素ステーションで爆発事故がおこった。この事故を受けて、Uno-X社のほかの水素ステーションも一時閉鎖された。Wikiの記事ではこの事故の被害状況が記載されていなかったので、他のサイトの情報によると以下のとおりである。

  • 爆発音が数マイル離れたところでも聞こえ、近くの道路が閉鎖され、交通が混乱した
  • 路上にいた車両のエアバックが衝撃によって作動し、2名が緊急治療室で検査を受けた
  • 犬が4階から飛び降り、オフィスビルの窓ガラスが破損した

この事故はヨーロッパであり、水素ステーションの爆発事故であったが、町半分が吹っ飛んだということもなく、負傷者もいないようだ(4階から飛び降りた犬は無事だったのだろうか)

2020年4月7日 アメリカノースカロライナ州ロングビュー

OneH2社の水素燃料プラントで爆発が発生した。爆発は数マイル離れたところでも感じられ、約60軒の家屋に被害が出た。爆発による負傷者はいなかった。
この事故は60軒もの家屋に被害が及んだことからかなり規模の大きな事故であったが、爆発したのは水素プラントであり、水素ステーションではない。負傷者もおらず、町半分が吹っ飛んだという話ではない。

確かに水素に関する事故はいくつか起っている。だが、水素だから特に危険というほどでもない。水素だけで火災爆発が起こることはなく、水素という①燃える物が空気中の②酸素と混じり合い、何らかの③着火源があるという3つの条件が重なったときだけ火災や爆発が起こる。

水素はニトログリセリンのように衝撃や圧力だけで爆発するというものではなく、ガソリンと同じように3つの条件が必要だ。むしろ、ガソリンは容器から漏洩すると床に溜まって、濃度の濃い蒸気を作って空気と混ざりあうから爆発しやすくなる。京都アニメーションで犯人が事務所にガソリンを撒いて放火した事件がこれだ。

これに対して水素は非常に軽い気体だから、容器から漏れれば、どんどん上に登って行き、拡散してすぐに薄まってしまうから、着火しにくい。容器から漏洩した場合の危険性は、水素の方がガソリンより、むしろ安全かもしれないのだ。

水素は絶対安全とはいわないが、それなりの注意を払えば、ガソリンやLPGなどと危険度は同じか、むしろ小さいくらいだ。むやみに恐れる必要はない。

2023年10月20日

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米研究所でレーザー核融合の「点火」に成功? これで核融合発電の実用化が実現とはならない理由

【この記事は、オルタナ誌、Yahooニュースで紹介されました】

米ローレンス・リバモア国立研究所は8月6日、核融合の実験で、投入量を上回るエネルギーを得ることに再び成功したと発表した。昨年12月5日の同実験で、2.05メガジュールのレーザーエネルギーを燃料カプセルに投入した結果、3.15メガジュールの出力を得て、エネルギーの「純増」に成功したと発表していた。今回の実験の結果は12月のときよりエネルギー収量が大きかったという。

この実験結果を受けて、ついに核融合の点火に成功したとする報道もあり、これで核融合発電が現実味を帯びてきたとか、実用化がもう目前であるかのように報道する向きもある。

そうだろうか。もう核融合発電の実用化は目前なのだろうか。実際に核融合が「点火」したというのは正しいのだろうか。ここではそんなことはない。核融合発電が点火したとか、実用化間近なんて話は嘘っぱちだという話をしたい。

今回の核融合実験の意味

今回の核融合実験の成果について、焚火で考えてみよう。
寒いので焚火をしようと考えた。薪を集めてライターで火をつけたが、なかなか火が着かない。ようやく着火したと思っても、その火の大きさはライターの火よりも小さいし、ライターを消すと薪の火も消えてしまう。これなら焚火をするより、ライターの炎で温まった方がいいくらいだ。というのが今までの成果だった。

今回の成果は、薪に火が着き、さらにその炎がライターの炎よりも大きくなったということである。焚火の場合は、ライターの炎より大きな炎ができたことには意味がある。その炎が新たな着火源となって他の薪を燃やすことになるからだ。ライターで薪に火が着くのなら、その火より大きな炎ができれば、それが着火源となって次々に燃え広がって行くことになる。これが焚火に点火したということである。

同じような現象に核分裂がある。原子炉では核燃料に含まれるウラン235という原子が焚火の燃料にあたる。ウラン235に中性子が当たると、分裂して熱が発生するとともに新たな中性子を2~3個放出する。この中性子は消滅してしまう場合もあるし、他のウラン235にあたる場合もある。後者の場合は中性子が当たったウラン235も核分裂を起こして、再び2~3個の中性子を放出することになる。

このようにして核分裂するウラン235の数が増えて、消滅する中性子と同じ数になった状態を臨界という。この臨界を越えれば燃料は放っておいても核分裂を継続することになる。これは焚火が放っておいても薪がなくなるまで燃え続けるのと同じである。原子炉の場合の点火といっていいだろう。

では、今回のローレンス・リバモアの結果は、この焚火の点火、あるいは原子炉の臨界にあたるのだろうか。残念ながらそうではない。核融合によって得られたエネルギーが他の燃料の核融合の原因となって、核融合が継続するかというとそうではないからである。

あくまでも核融合によって放出されたエネルギーが核融合を起こさせるために使ったレーザーのエネルギーを上回ったという計算上の結果である。電卓をたたいて計算したらそうなったというだけに過ぎないし、それ以上の意味はない。

焚火の例で言えば、ライターよりも大きな炎ができたが、ライターを消してしまえば焚火も消えてしまうという関係なのだ。核融合のエネルギーがその核融合を起こすレーザー光のエネルギーが大きくなったといって、核融合が自動的に継続するわけではない。いったい何を騒いでいるのだろうか。

核融合発電の実用化は近づいたのか

今回の成果は、とりあえず核融合を狙って、きちんと起こすことができたという意味ではそれなりに評価できるだろう。その時の必要エネルギーが発生したエネルギーを上回っていたかどうかは単に計算上の問題に過ぎない。仕入れ価格より、売値の方が上回ったという会計上の意味はあるだろうが、物理的な意味はない。

ちなみに、今回のレーザー出力を実現するために、実はその200倍の電力が投入されている。つまり、同じレーザーを駆動するための電力を200分の1にするか、核融合によって発生するエネルギーを200倍にするかしてようやく、エネルギー的にはブレークイーブンになる。ここまで達するにはまだまだ先が長い。さらにエネルギー的に黒字になったからといって核融合発電が実現するわけでもない。

核融合発電を行うためには、継続的に核融合を起こす必要があるが、今回の実験で核融合が起こった時間はなんと10億分の1秒単位に過ぎない。もちろん10億分の1秒でも、これを繰り返せばいいわけであるが、同研究所の設備の能力では一日に数回しかレーザー照射ができないという。そして1回の核融合で生み出されるエネルギーは3.15メガジュール、ガソリンに換算して0.1リットル分に過ぎないのだ。

一方、これだけの核融合エネルギーを生み出すために使われた設備は、巨大な192本の高出力レーザー装置で、そのサイズはフットボール場3面分もある。この巨大な設備をつくるためには膨大な費用がかかっただろうが、それで生み出されるエネルギーがガソリン0.1リットル分というわけだ。

この設備をそのままスケールアップして核融合発電に持っていくとしたら、膨大な設置面積と、膨大な費用がかかるだろうし、核融合で得られたエネルギー(高速中性子線のエネルギー)を電力に変える設備も別に必要となる。

あくまでも、今回の成果はフットボール場3面分もある巨大な実験室で、ごく短時間(10億分の1秒単位)、ごく少量(直径数ミリ程度)の燃料で核融合が起こったということであり、あくまでも巨大な実験室の成果に過ぎない。その設備をそのままスケールアップして核融合発電所が実現するという話ではない。

核融合発電は可能なのか

核融合が実験室で成功したからといって、核融合反応を商業発電に持っていくためには、越えなければならない多くの問題がある。

まず、核融合に使う燃料としてトリチウムが使われる。トリチウムは地球上にはほとんど存在しないから、どうやって手に入れるのか。アイデアはいろいろあるが目途がついているわけではない。また、トリチウムは、それ自体が放射性物質であり、取り扱いが難しい物質である。

核融合で発生するエネルギーの多くは高速中性子の形で放出される。高速中性子はすこぶる危険であり、人体に対してももちろんだが、様々な材料を簡単に劣化させるという性質がある。ローレンス・リバモア研究所で用いられるような、巨大で高価な設備も数年で劣化して使用できなくなる。

また、発電所とするためには、この高速中性子からエネルギーを電力として安全に取り出さなければならないが、その技術はまだ確立していない。
これらの未解決の問題はそう簡単には解決できないだろう。

これらが技術的に解決できたとしても、さらに厄介な問題が待ち構えている。それは経済性という問題である。核融合を発電に利用するためには、巨大な設備が必要となり、設備自体が精密機械であるから非常に高価なものとなる。その高価な設備が2~3年で取替えとなると、固定費負担は膨大なものとなる。さらに、燃料となるトリチウムの製造コストがどうなるのか見当もつかない。

一方で、太陽光や風力の発電コストは飛躍的に低下しつつある。太陽光の発電コストは、2030年には1kWhあたり10円程度まで下がっていき、さらにもっと下がるといわれている。

核融合発電は30年後に実現すると、ずっと前からいわれ続けてきたがまだ実現していない。例え物理的に実現しても、そのコストが太陽光発電のコストまで下げられなければ、何十年かかっても実用化はしないということになる。

2013年8月24日

次に経済発展するのはアフリカ諸国? 各国の人口の多い国ベストテンのグラフから

国連の世界人口予測

昨年11月に発表された国連の人口予測(World Population Prospects 2022)の中で興味あるグラフを見つけた。世界の国別人口の多い国ベストテンである。世界の国の中で人口の多い国、1990年、2020年の上位10か国の実績と2050年の予想を図示したものである。

世界でもっとも人口の多い国は昨年まで中国であった。しかし、その人口は減りつつあり、2022年時点で14億2,600万人だったが、2050年には13億人台まで減少すると見込まれている。一方、インドは同じ時期に14億1,600万人から16億6,800万人まで増加すると予想されている。実際に今年、中国はインドに抜かれて第2位になっている。

3位はアメリカで、1990年から2050年まで一貫して、その順位は変わらない。4位のインドネシアは人口は増加しているもののナイジェリアに抜かれて2050年には6位に下がる。

ウクライナで悲惨な戦争を行っているロシアは少しずつ人口が減少しており、1990年に6位だったが、2022年には9位に、2050年には14位まで後退する。わが日本はというと、すっかり忘れていたが1990年代には実は第7位で、世界の人口ベストテンに入っていた。しかし、2022年には11位とベストテンから転落しており、2050年にはこのグラフでは完全に無視され、いったいどこまで落ちたのか分からないほどである。

大陸別でみると1990年にベストテンに入っていたのはアジアが6か国で最も多く、その他は中南米、北米、ロシア、アフリカがそれぞれ1か国ずつであった。それが2022年になるとアジアが5か国に減り(日本が脱落したため)、代わりにメキシコがベストテンに入っている。

そして2050年の予測であるが、アジアは5か国で変わらず、ロシアとメキシコがベストテンから転落。一方、躍進が著しいのはアフリカ勢で3か国に増える。これは、2022年にすでにベストテン入りしていたナイジェリアのほかにコンゴ民主共和国とエチオピアがベストテン入りするからだ。そのほかは北米1(アメリカ)、中南米1(ブラジル)である。

特にコンゴ民主共和国は2022年時点で1億人以下(9,700万人)だった人口が2050年には2億1,500万人と2.2倍になる。ナイジェリアとエチオピアもそれぞれ1.7倍になると予想されている。中国、ロシア、メキシコが人口減になるのと対照的だ。

人口が増えた分だけその国のGDPが増える

この国連の報告書では、これから2050年にかけて人口が増加するのは、インド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピアなど貧しい人が多い国ばかりだ。貧しい人々の住む国の人口が増え、豊かな人たちが減って行く。そういう未来となるのだろうか。

しかし、人口が増えることは経済にとっては悪いことではない。一人当たりのGDP、つまり一人当たりの稼ぎが変わらないとすれば、人口が増えれば単純に考えて、その分だけ国のGDPが増えることになる。

例えば、コンゴ民主共和国は人口が2.2倍になるのだからGDPも今の少なくとも2.2倍になるはずである。1国の国力、経済力としてみた場合、人口が増えればそれだけ、国力や世界での影響力が増えていくことになるだろう。

逆に日本のように人口が減っていくと、一人当たりのGDPが変わらないとすれば、人口減に伴ってGDPは減少していく。日本は今のところ世界第3位の経済大国であるが、やがてすぐに、その地位を他国に奪われることになるだろう。中国も人口減少に伴ってその経済力の伸びは鈍化していくか、日本のようにマイナス成長に転じるかもしれない。

人口ボーナスでもアフリカ勢は有利

人口ボーナスという考え方もある。人口ボーナスとは生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(14歳以下の年少人口と65歳以上の老年人口の合計)の比率が小さくなることにより、経済が活性化することである。つまり、働き手が多くなり、働かない子供や老人の比率が少なくなることによって、生活に余裕ができて、個人消費が活発になり、経済が潤うことになる。

女性ひとりが生涯に産む子供の数を特殊出生率というが、この数字は世界的に低下してきており、これはアフリカも例外ではない。アフリカでは、最近生まれた子供が生産年齢に達するころには、出生率が低下し、育てなければならない子供が少なくなる。一方、人口膨張期以前に生まれた人たちは老人となるが、それほど比率は高くない。その結果、アフリカ諸国は人口ボーナスという点でも有利になるだろう。

人口が増えれば市場も大きくなる

人口が増えれば、当然、消費も大きくなり、市場としての規模も大きくなる。中国が経済的に発展した理由のひとつが、その市場規模であり、外国資本がその市場を狙って大挙して進出してきた。それと同じで、今後、人口が増えてくるアフリカ諸国にも海外資本が入り込み、また安い労働力を使って様々な工業製品を作り出す。そんな好循環-日本も韓国も、台湾も、そして中国も辿った道-がアフリカで生み出されるかもしれない。

先日、岸田首相がアフリカを歴訪してきた。日本はアフリカとはあまり密接な関係を築いてこなかったが、今後はアフリカとは良い関係を作っておく必要があるだろう。

日本の新しいバイオ燃料政策により、米国産バイオエタノールの対日輸入が増加?

先月末の3月31日。米国通商代表部のホームページに「日本の新しいバイオ燃料政策により、米国製エタノールの輸入が増加」という記事が掲載された。

これによると、日本がバイオ燃料政策を変更したことによって、米国の対日バイオエタノール輸出が年間8000万ガロン(約30万キロリットル)以上増加し、毎年1億5,000万ドルから2億ドル(195億円から260億円)の輸出額になる可能性があるという。

この日本の政策変更は通商代表部、米国農務省および在日米国大使館の働きによって実現したもので、日本政府が二国間貿易関係を強化するための新たな一歩を踏み出したと述べている。

また、米国再生可能燃料協会(RFA)や米国穀物協会などの民間団体もこれを歓迎する声明を発表している。

しかし、これに対して日本側の報道はほとんど見当たらない。一体、日本側はどんな政策変更をしたのか。今回の通商代表部の記事は何の話をしているのか。まったく理解できない人も多いのではないだろうか。これについては少し説明が必要である。

意外に知らない人が多いと思われるが、実は日本はかなりの量のバイオエタノールを海外から輸入して、ガソリンに混ぜて使っている。これはエネルギー供給構造高度化法という法律に基づく告示の形で決められていることであるが、日本の石油会社は原油換算で年間50万キロリットルのバイオエタノールをガソリンに混合して販売することが義務付けられているのである。

実際には、日本の石油会社はバイオエタノールを一旦ETBEというものに転換して、このETBEをガソリンに混合している。このETBEは通常のガソリンとほとんど同じ性質を持っているから、多く消費者はそれと気づかずに使っているであろう。

燃料用バイオエタノールは国内では作られていないので、この年間50万キロリットル原油相当のバイオエタノールは全て輸入である。主な輸入先はブラジルと米国だ。ただし、輸入には条件があってバイオエタノールを使ったときのCO2排出量がガソリンに比べて55%以上削減されていなければならない。このような条件を判断基準という。

バイオエタノールが燃えた時に出てくるCO2は明らかにカーボンニュートラルだから、排出量はゼロと考えることができる。しかし、バイオエタノールを製造する際に、電力や熱源として天然ガスが使われるし、輸送するときにも石油が使われる。また、肥料の製造時には大量の化石燃料が使われる。

つまり、バイオエタノールはカーボンニュートラルといわれるが、これらの間接的なCO2排出量を勘定に入れると、完全にはCO2排出量はゼロではない。この間接的なCO2排出量をLCGHGという。

このような製造や輸送も含めたCO2排出量をガソリンと比較すると、CO2削減量はブラジル産の場合62%、米国産の場合は51%削減と計算されていた。この削減率を判断基準である55%削減と比較すると、ブラジル産はOKだが、米国産はNGということになる。

では米国産バイオエタノールはまったく輸入できないかというと、そうではない。ブラジル産と米国産をどちらも輸入して、それぞれのCO2排出量の加重平均で55%以上削減となればいいと決められている。米国産だけを輸入することはできないが、ブラジル産との抱き合わせで輸入すればいいのだ。

さて、これらの決まりは2022年度で終了するので、年間50万キロリットルのバイオエタノール輸入の義務はなくなってしまう。そのため、経済産業省は年度末の3月31日に告示の改訂を行って、年間50万キロリットルのバイオエタノール導入義務を2027年まで延長することとした。

このときの改訂に伴ってCO2排出量つまりLCGHGについても新たなデータをもとに計算が行われた。その結果、ブラジル産はガソリンに比べてCO2排出量が68%削減、米国産は58%削減となった。ここで、米国産バイオエタノールも晴れて判断基準の55%削減をクリアすることになったわけである。(我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第10回)

ということは、今まで行われてきたブラジル産バイオエタノールとの抱き合わせ輸入が不要となり、米国産だけの輸入が可能となったということだ。

米国ではバイオエタノールがガソリンに10%混合(E10)して売られている

米国通商代表部は、日本のバイオエタノール輸入量の総量は変わらないものの、ブラジル産を押しのけて米国産を買ってくれると期待して米国産の輸入が増えると読んでいるわけだ。

いろいろと分かりにくい話だが、要は、米国産バイオエタノールのCO2排出量LCGHGを計算しなおしてみたら、判断基準に合格したので、大手を振って米国産バイオエタノールが輸入できるようになったということである。

もちろん、LCGHGは単に数字上クリアしたというだけでなく、バイオエタノール製造時の熱源の電化、輸送時の燃費の向上、肥料製造時のCO2削減など脱炭素化に向けた米国内の動きがあったわけである。もちろんバイオエタノール輸出を増やしたい米国政府の圧力もあったであろうし、今後も輸入量を増やすように圧力をかけてくるだろう。

かつて、日本の首相はトランジスタ(ラジオ)のセールスマンと言われた。そのころ日本は外貨が不足しており、できるだけ輸入を増やして外貨を稼ぎたいと、官民挙げて活動していたものである。同様に米国も輸出に力を入れ、輸出が増えれば、それが各省庁の手柄となる。

近年、わが国は輸出を増やそうという努力が余り見えない。ここ数年、日本は貿易赤字がかさんでいるのだから、日本の優秀な脱炭素技術を中心に輸出の売り込みをかけたらどうだろうか。それが国の活性化につながり、世界の脱炭素化にも貢献することになるだろう。

Jアラートは正しかった? 北朝鮮のミサイルが本当に北海道に着弾した可能性も

13日午前7時26分。防衛相は北朝鮮から弾道ミサイルが発射されたと発表。その30分後の午前7時55分、政府はJアラートやエムネットを通じて、ミサイルが北海道周辺に落下するとみられるとして、避難を呼びかけた。そして8時16分、当該ミサイルは北海道周辺に落下する恐れはなくなったと発表した。

このアラートを受けて、札幌市内では通勤客などが一時避難し、JRや地下鉄、路面電車が全線で運転を見合わせ。JRの28本の列車が運休や部分運休となったほか、最大40分の遅れが出た。このほか、道内のすべての高速道路がおよそ1時間に渡って通行止めとなっている。

Jアラートは以前にも、ミサイルにほとんど関係のない地域で発令されるなどのミスがあった。今回も結果的に日本領内への落下が起きなかったため、お粗末なアラームシステムとか、もっと確実な情報を出すべきとか、信用を失って「おおかみ少年」になってはいけないなどの批判が相次いでいる。

ミサイル探知システム

実は、今回のミサイルであるが、Jアラート発令前にレーダーから消失している。政府は消失前のミサイルの軌道から、わが国の北海道周辺に落下する恐れがあると判断してアラートを発令したもの。

北朝鮮がミサイルを発射すると、まず米国の偵察衛星が発射時に発生する赤外線を感知。その通報を受けて、自衛隊のイージス艦のレーダーで追跡し、軌道を計算してわが国の領土内に着弾すると判断されれば、警報を発令する。ここまでは自衛隊のミサイル探知システムに何らかのミスや不備があったという話ではないようだ。

その後、実際にはミサイルはレーダーから消えていしまったわけではあるが、このままミサイルが飛び続けているとすれば、北海道周辺に着弾する可能性が高いため、アラートが発令された。しかし、実際にはミサイルがわが国領土内に落下してくることはなかった。だから、騒ぎ過ぎだとか、オオカミ少年だとか非難されているわけである。

しかし、ここで疑問がある。なぜ、ミサイルがレーダーから消えたのか。もしレーダーから消えていなかったらどうなっていたのか。

レーダーから消えたのは自爆したから

弾道ミサイルのロケットモーターが作動している時間は、実はほんの数分しかないということはご存知だろうか。ロケットモーターはほんの数分だけ作動し、燃料が燃え尽きると、あとは慣性力だけでミサイルは飛んでいく。つまり大砲の弾と同じである。大砲の炸薬が一瞬で燃え尽きるのに対して、弾道ミサイルは燃料が数分間燃え続けるという違いしかない。

この数分間でミサイルは軌道が修正されて、目標に向かって飛んでいくことになるが、それを過ぎれば軌道を修正することはできない。まさに大砲の弾と同じ状態になる。だから、燃料が燃え尽きたあと、ミサイルがどこに落下するかはこの時点で決まってしまう。

自衛隊がこの軌道を計算し、それが北海道周辺に落下すると予想したとすれば、これはほぼ正しく北海道周辺に落下することになるだろう。

最近、北朝鮮はミサイルを非常に高い高度まで打ち上げるロフテッド軌道を採用している。そうしなければ飛行距離が長すぎて日本を通り越して、実際にアメリカまで飛んで行ってしまうからだ。

ロフテッド軌道で打ち上げる場合、高度は6000㎞に達する。ちなみに旅客機の高度は10㎞である。そして、この高度まで打ち上げた後、ミサイルは日本海に落下することになるが、日本海の幅は800㎞程度しかない。

だから北朝鮮のミサイルはほぼ真上に打ち上げて、あとはそのまま落ちてくるという感じになる。ここで、もし打ち上げ角度がわずかにでも狂えば、ミサイルは簡単に日本海を飛び越えてしまう。あるいは自国の領土内に落下する可能性もある。

もし、軌道が狂ってしまったらどうするのか。おそらく北のミサイルにも自爆装置が組み込まれているだろうから、このときには、地上から指令電波を送って自爆させることになる。先日、日本でもH3ロケットが打ち上げに失敗したが、このときも自爆させている。

今回の北朝鮮のミサイルも軌道が狂ったので自爆させたのではないだろうか。レーダーから突然消えたのは自爆したためと考えれば納得がいく。もちろん、自衛隊のレーダーが単にミサイルを見失っただけなのかもしれないのだが。

レーダーから消えてなかったらどうなるのか

ではもし、ミサイルがレーダーから消えなかったら、つまり軌道が外れたにも拘わらず北朝鮮が自爆させなかったらどうなるのか。それまでの軌道計算が正しければ、ほぼ間違いなくミサイルは北海道周辺に落下することになる。ミサイルがレーダーから消えたとしても、自爆したわけではなく単にレーダーが見失っただけかもしれない。だからやはりアラートを出して警戒しておくべきだろう。

ただし、実験用のミサイルなら、日本に着弾しても山林や畑のような人口密度の低い地域に落下する可能性が高い。だからそれほど恐れる必要はないのだが、しかし、ミサイルに核爆弾が積まれている場合は、甚大な被害が発生することになる。

自衛隊のレーダーは軌道を確定することはできるが、ミサイルに何が積まれているのかまでは分からない。核爆弾でなくても通常の爆薬や毒ガスが積まれている可能性がないとは言い切れないのだ。

このまま北朝鮮のミサイルがわが国の領土に落下するのならば、自衛隊の迎撃ミサイルSM3で撃墜していたかもしれない。しかし、公海上で外国のミサイルを撃ち落とすことは、国際法上の問題を引き起こすかもしれない。あるいは迎撃ミサイルを打っても外れていたかもしれないが、これはこれで問題である。

北朝鮮は今回のミサイル打ち上げについて、成功したと大々的に報道している。しかし、3段ロケットのうち1段目と2段目は順調に作動したが、3段目については言及がないという。3段目が軌道から逸れてしまったのではないだろうか。