ホルムズ海峡封鎖 なぜ日本は6月に詰まなかったのか

今年2月、アメリカとイスラエルが突如イランの首都を爆撃したことから始まった中東での紛争。イランは対抗として3月にホルムズ海峡を封鎖。この封鎖はまだ続いている状態にある。

日本は国内で精製される原油の93%と輸入ナフサの約半分がホルムズ海峡を通過するから、ここが封鎖されると日本にとって正に存亡の危機である。あるマスコミは6月に日本は詰むとまで報道した。

しかし、実際に6月に日本は詰むことはなかった。これはどうしてだろうか。経済産業省や石油連盟の統計を見ると、ホルムズ海峡封鎖という事態に対して、日本がどのように対応したのかが解ってくる。

■ナフサ不足で6月に日本は詰む?

まずナフサである。ナフサには原油のような戦略的な備蓄もないことから、日本にある輸入ナフサの流通在庫を使い果たせば、すぐにナフサ不足の影響がでてくる可能性があった。

ナフサは日本に輸入されたあと、国内に12か所あるエチレンセンターに送られて、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品となり、これを原料としてプラスチックや合成ゴム、合成繊維、塗料、溶剤など様々な石油化学製品が作られる。

ナフサが何かは知らなくても、ナフサから作られるプラスチックや合成繊維、塗料などを知らない人はいないだろう。これらのナフサから作られた製品はもちろんわれわれの生活になくてはならないものであるが、さらに日本の主要産業である自動車や機械類、電気製品、建築その他の工業製品の材料や部品としても、これらのナフサから作られた製品が多く使われている。

したがってナフサが不足して工業生産用部品の供給が止まれば、日本の製造業の多くが停止してしまうことになる。それは流通在庫を使い果たす6月ころになると一部のマスコミが予想し、6月に日本は詰むと報道したわけである。

ナフサは原油を蒸留して作られる。原油を蒸留すると原油のだいたい10%くらいの割合でナフサが取り出せる。しかし、日本の石油化学産業は規模が大きいので、国内で生産されたナフサだけでは足りず、不足分はナフサ自体を輸入している。というか、むしろ輸入品の方が国内で生産されるナフサより多く、国内で使用されるナフサの約6割が輸入品である(2025年実績)。

図1はホルムズ閉鎖前(2月)のナフサ輸入先の割合を示したものである。

図1 ホルムズ海峡封鎖前の日本のナフサ輸入先

このうち、上位3か国、カタール、クウェートおよびアラブ首長国連邦(UAE)がホルムズ海峡経由で輸入されている。だから海峡が封鎖されると、この3か国からの輸入ができないことになる。

さらに4番目のナフサ輸入先である韓国だが、この国も日本と同様に中東から原油を輸入してナフサを生産している。このため、ホルムズ海峡が封鎖されると韓国でもナフサが生産できなくなり、ナフサの輸出余力もなくなってしまう。

これら上位4か国を合わせると、わが国はナフサ輸入先のうち、4分の3を失うことになる。では日本はこの危機にどう対応したのだろうか。

■日本はナフサ輸入減にどのように対応したか

図2は経済産業省が公開している貿易統計をグラフにしたもの。ナフサの輸入国の推移を示している。これから分かるように、ホルムズ海峡封鎖の影響が現れる4月は、日本の主なナフサ輸入先であった中東と韓国からの輸入が大幅に減っていることがわかる。

しかし、日本が輸入するナフサの総量を見てみると、これはそれほど大きくは減ってない。それどころか5月になると総輸入量は増え始め、むしろ海峡封鎖前を超えるくらいの輸入量となっている。

図2 わが国のナフサ輸入先の推移

これは、確かにこれまでの主要輸入先であった中東、韓国からの輸入量は減ったが、それ以外の国々からの輸入が増えたからである。4月以降の輸入先で多いのは、アメリカ、アルジェリア、欧州、その他アジア諸国である。このうち、欧州についてはイタリア、スペイン、ノルウェー、ポルトガルなど、その他アジア諸国についてはインド、マレーシア、タイ、シンガポールなどが含まれる。

つまり、3月にホルムズ海峡が封鎖されたあと、日本は様々な国々からナフサをかき集めたのであり。そしてその効果は4月には早々と現れて、5月以降も続いてきたというわけである。これによって6月に日本は詰むという説は回避されたことになる。

では今後どうなるのだろうか。興味深いのは7月である。7月になるとナフサの輸入先として再び中東が増え、その代わりアメリカと欧州からの輸入がゼロとなっている。

7月に中東からのナフサ輸入が復活したのはもともとホルムズ海峡の外にあるオマーンからの輸入が増えたこともあるが、クウェートやUAEのような、日本が従来からナフサを輸入してきた国々からの輸入量も増えてきている。これは海峡封鎖が完全なものではなく、かなり緩んできているからだと考えられる。

7月6日付のダウ・ジョーンズの記事によると、日本へ向かうナフサタンカーの予約が海運契約書に現れ始めているという。また、クウェート石油公社は大型船がホルムズ海峡を通ることは危険と考え、小型タンカーでホルムズ海峡を通り、海峡を抜けたあと大型タンカーにナフサを積み替える作業を行っているといわれる。

ホルムズ海峡封鎖とはいいながら、実際には一部のタンカーは封鎖を破って航行しているわけで、これが常態化すればナフサの輸入は従来の形に少しずつ戻って行く可能性がある。

■原油輸入減に対して日本はどのように対応したのか

以上はナフサ輸入についての状況である。ではナフサと同様にホルムズ海峡経由で輸入されてきた原油についてはどうなのだろうか。その対応はナフサの場合とは少し異なっている。

次の図は今年1月から7月にかけてのわが国の原油の輸入状況を示したものである。

図3 わが国の原油輸入量と処理量の推移

海峡封鎖前の1、2月、わが国の原油輸入はその95%を中東に頼っていた。その中東からの輸入が海峡封鎖によって止まってしまったわけだから、当然、輸入量は大幅に減少する。ホルムズ海峡が閉鎖されたのが3月であり、実際にその影響が及ぶ4月にはわが国の原油輸入量は封鎖前の約3分の1まで低下している。

しかし、5月以降はナフサの場合と同様に原油の輸入量も増え始め、7月には海峡封鎖前の水準まで戻っている。これは、中東からの輸入が再び増え始めたこととアメリカからの輸入量が急激に増えたことの二つの要因がある。

7月に輸入された原油の輸入先は、中東産としてはUAE、サウジアラビアおよびオマーンの3か国である。オマーンはそもそもホルムズ海峡の外側に位置する国であるから、海峡封鎖の影響を受けない。

UAEはホルムズ海峡の外側まで続くパイプラインを持っているので、これを使って輸出したものであろう。サウジアラビアも同様にパイプラインを持っているが、これは紅海側まで続いているもので、紅海からバブ・エル・マンデブ海峡を通って日本まで輸送することができる。

ただし、これらのパイプライン輸送については量的な限界があり、サウジアラビアからの輸入量は海峡封鎖前の約半分、UAEについては15%減となっている。また、このようなパイプラインを持たないクウェートやカタールについては、7月の原油輸入量は相変わらずゼロのままである。

このような中東からの原油輸入量の減少を埋めたのが、アメリカである。アメリカからの輸入は海峡封鎖前から行われていたのだが、海峡封鎖以降に急激に増加しており、7月には封鎖前に比べて10倍近くまで増加したのである。

では、わが国の国内で精製される原油の量はどうかというと、原油輸入量が4月に大幅に減少したにも拘わらず、ほとんど変わっていない。

これは備蓄原油の放出によって対処したからである。備蓄原油を使うことによって国内精製量はほとんど変わっていないので、ガソリンや灯油、軽油などの燃料製品は従来どおり安定的に国内に供給されることになり、その結果、目立った混乱は起こらなかった。

ではわが国の原油備蓄量はどうなったかというと、1月時点で248日分あった備蓄量が原油の放出によって、5月時点で204日まで減少した。しかしその後、原油輸入量が増えてきたため備蓄の放出は行われなくなり、7月時点では5月とほぼ同じ200日程度を維持している。

 ■価格の問題

海峡封鎖の影響によって、わが国に入ってくるナフサや原油の量は減少したが、4月を底に回復している。これは中東からの輸入が復活してきたこともあるが、世界各国からナフサや原油を求めたことにも大きい。つまり中東のナフサや原油が手に入らなくてもお金さえ出せば中東以外の国々から調達が可能だったということである。

しかしながら、これによってわが国が輸入するナフサや原油の価格は大幅に上昇することになった。図4でみるように、輸入価格は海峡封鎖前はナフサも原油もほぼ同じで、1キロリットルあたり6万円台(CIF単価)であった。しかし海峡封鎖後は高騰し、約2倍の12万円ていどまで跳ね上がっている。

これは原油やナフサそのものの単価が上昇したことだけでなく、遠隔地から運ぶための輸送コストの増加や保険料金が上昇したことも含まれる。

図4 原油とナフサの輸入価格の推移

■今後どうなる

ナフサについては輸入先の多様化によって海峡封鎖の影響を回避。原油についても中東からの輸入不足分を、現在はアメリカからの輸入で補っている形となっている。また、ホルムズ海峡封鎖は現在、かなり緩んでおり、一部のタンカーの通行も行われているし、パイプラインを使ってホルムズ海峡を通らずに輸送するルートもある。

しかしながら、緩んでいると言ってもイランは海峡封鎖の旗を降ろしているわけではない。パイプラインについてもポンプステーションが爆撃されて、輸送が停止するという事態も起こっている。

また紅海からの出口であるバブ・エル・マンデブ海峡についても親イラン勢力であるフーシ派が海峡沿岸に進出しており、この海峡の封鎖も懸念されている。つまり、必ずしも安心できる状態ではないということだ。だから今後も中東以外の国からの輸入を準備しておく必要があるだろう。

一方、原油の場合、ナフサと違って中東からの減少をほぼアメリカ1国で補完した形になっているわけであるが、アメリカからの輸入はこのまま継続していけるのだろうか。

アメリカは世界最大の原油産出国であり、米国エネルギー情報局(EIA)によると米国の原油生産量は今後も増加していく見込みである。したがって量的な不足によってアメリカからの輸出が止まる可能性は小さいだあろう。

また、アメリカ産原油を日本で処理するのは困難だという一部のマスコミ報道を目にする。しかし、アメリカから輸入している原油の大半はWTIミッドランドとよばれる軽質のスィート原油に分類される種類であり、この原油の性状を見る限り日本で処理する上で大きな問題はないであろう。むしろ硫黄分が少ない分だけ脱硫装置の負荷を下げることができる。

問題は輸送距離である。アメリカの原油積出港はメキシコ湾に面したヒューストン付近である。原油船のような大型船はパナマ海峡を通ることができないから、アメリカ産原油はアフリカの喜望峰回りで日本まで運ばれており、大変な遠回りとなっている。

一方、同じアメリカ産でもアラスカ原油なら輸送距離も短いし、ホルムズ海峡やマラッカ海峡のようなチョークポイントもない。7月にはアラスカ産原油も少量ながら日本に輸入されているから、今後はアラスカか原油の輸入増加が期待される。

中東からのナフサや原油の輸入は少しずつ持ち直している状況にあるが、まだ不安定な状況であるし、また紛争が再燃しないとも限らない。今後、原油やナフサは中東に頼らず輸入先の多極化を進めるべきであろう。

また、将来的には国内エネルギー資源である太陽光や風力、地熱などにシフトして、石油への依存度を下げていくべきであろう。これが今回のホルムズ海峡封鎖という事態によって日本に課された宿題である。

2026年9月22日

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