大阪の公園で行われたCO2と水から石油を作るという実験が話題になっています。これは仙台市に本社があるサステナブルエネルギー開発(株)という会社が開発し、ドリーム燃料装置と名付けられたもので、大阪市などの支援を受けて鶴見公園で行われました。
主催者側の説明によると、このプロセスは水とCO2を混合して、特殊な光触媒を使い、少量の紫外線を照射することによってラジカル水というものを作る。このラジカル水に種油と称する石油(軽油など)を混合すると、人工石油ができるといいます。
人工石油は種油と混ざったエマルジョン状態で産出されますが、これを油分と水に分離すると油分が元の種油よりも増えていることから、同社は増えたぶんだけ人工石油ができたと主張しているわけです。

鶴見公園の実験では、生成した人工石油を使ってエンジン発電機で発電を行い、その電力で電気自動車を動かすというデモンストレーションを行っています。この実験はマスコミでも報道され、これを見た人からは、「素晴らしい発明」、「地球温暖化防止に貢献する技術だ」、「すぐに実用化してほしい」などの意見が見られました。
この実験については、私のブログ記事とも関連するところがあり、さまざまな方からコメントや意見、問い合わせをいただきました。ここで、大阪で行われた実験について、私の考えを述べたいと思います。
まず、結論から言わせてもらえば、このような方法でCO2と水から石油を作ることはできません。それは科学の大前提から外れてしまうからです。
私たち人類は石油を燃やしてエネルギーを得ています。そのときCO2と水(水蒸気)が出てきます。決してCO2を出したいと思って石油を燃やしているわけではありません。私たちが欲しいのはエネルギーであり、CO2と水は副産物に過ぎません。
この副産物のCO2と水を使って人工石油ができるとすれば、それを燃やしてエネルギーを得ることができるはずです。そして人工石油を燃やせば再びCO2と水が出てきます。それなら、出てきたCO2と水を使って、また人工石油を作ることができるということになるはずです。
これを繰り返せば、私たち人類は無限のエネルギーを手に入れることができることになります。これが本当なら本当に素晴らしいことです。
しかしながら、科学の世界にはエネルギーは増えも減りもしないという大前提があります。これをエネルギー保存則とか熱力学第一法則といいます。つまりエネルギーは勝手に増えたり減ったりはしない、つまり無から有は生じないのです。もし、人工石油でどんどんエネルギーが取り出せるとすれば、そのエネルギーはどこから来るか説明がつきません。
このようにエネルギーがどんどん増えていくシステムを永久機関といい、永久機関は不可能というのが、科学の掟なのです。人工石油のシステムを発明したと称する人たちは、実は自分たちが永久機関を作ろうとしていることに気づいていないのではないでしょうか。
今回の大阪の実験内容については、いろいろな疑問点がありますが、ここでは省略させていただきます。しかし、このような、水から石油を作るという話は昔から出ては消え、消えてはまた出てきますが、いずれも成功したことはありません。
ちなみに、このような科学的にあり得ない話を大阪市のような公共団体が支援をするというのは、いかがなものでしょうか。じつは、大阪市だけでなく、他の自治体でもときどき「こりゃあありえない」と思われる事業を大々的に支援して、結局成果が上がらず、いつの間にかうやむやにされているというような例がいくつもあります。支援するまえに、専門家にちょっと相談すればわかる話だと思います。
※大阪市はHPへの問い合わせで実証の内容には関わっておらず、資金面での支援も行っておりません。と回答している。
ちなみに太平洋戦争中に、水からガソリンを作るという話が持ち上がり、山本五十六海軍大将もだまされたという話があったそうです。今回の大阪の実験を契機に教えていただきました。
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20170814-OYT8T50132/
【追記】
この装置は光エネルギーが使われているので、永久機関ではないというコメントをいただきました。本文中にはあまりエネルギーの面から説明しなかったので、誤解を生んだかもしれません。以下に説明しますが、結論から先に言えば、この装置で使われる光エネルギーは非常に僅かなので、石油を5%も10%も生み出すには全然足りないということです。
ドリーム装置内にはUV(40w)とブラックライト(40w)の2本のランプが設置されており、30分間照射してラジカル水を作るとされています。この光エネルギーは40whになり、換算すると0.144MJです。
一方、投入した灯油10リットルに対して5から10%の灯油が増えたということですから、5%増えたとすると、増えた分の灯油のエネルギーは23MJ(46.5MJ/ℓで計算)になります。
つまり、0.144MJの光エネルギーで23MJの石油ができたことになります。光エネルギーを使ったとしても、その100倍以上ものエネルギーを産み出したと言う計算になるわけで、そんなことはありえないということです。
では、ドリーム燃料製造装置の発明者はウソをついているのかということですが、そうではないと思います。ただ、実験には誤差がありますから、もっと精密な実験を行うべきです。さらに完全に独立した機関が全く同じ実験をやって同じ結果がでるかどうかの検証が必要だと思います。
なお、ドリーム燃料はポルシェやENEOSなど世界中で研究されている合成燃料(e-fuel)とは全く別のものです。(2023年8月24日追記)
【追記2】
最近、発明者の大学名誉教授へのインタビューがユーチューブで公開されていましたが、この中で、驚いたことにドリーム燃料製造装置は永久機関だと、発明者がはっきり言っていました。ここまで言い切られると何とも言えません。とても信じられませんが、信じたい人はどうぞ。
参考記事:
ドリーム燃料は永久機関だと発明者が明言 そもそも永久機関とは
どんなに科学が進んでも絶対できない3つのこと 永久機関、超光速移動、タイムマシン、エントロピー (2023年11月12日追記)
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